元俳優、タヌキVtuberに転生する   作:桜 寧音

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若手女子会

 今日はドロッセルさんと唄上さんが若手女子を誘ってのご飯となった。化学調味料を使っていない健康的なメニューしかない洋食店で、個室を予約してくれていたらしい。

 わたしと夏希ちゃん、それに後輩の但馬さんとチェリーさんと一緒に6人でご飯ということで話題としてはやはりデビューしてどう、という話が多い。

 配信をやっていく中で大変なこと、気を付けた方が良いこと。これからやりたいことや、事務所でスタッフが進めている公式番組などの概要まで。スタッフさんから聞くより前に聞いちゃって良いのかなとも思うけど、社外秘であるだけだから社内の、しかも関わりそうな人には話して良いとのこと。

 そして女子だけで集まると、どうしても話題が恋バナに行く。こういう話題が好きな人もこの場に多かったというのもある。

 

「それでエリサ様?リリさんとはあの夜から進展はあったのですか?」

「それ、ウチも気になります!カプ厨としては若い男女がお酒が入った状態で一緒に帰ったなんて……。きゃー!」

「オーちゃんも心さんも落ち着いて。気になるのは同意だけど」

「ふふ、ですよね〜。で、どうなのですか?霜月さん」

「包み隠さず話しちゃった方が楽なんじゃない?エリー」

 

 唄上さんと但馬さんがそういうの大好きだとは思ってたけど、ドロッセルさんも止めてくれないし、チェリーさんも割と乗り気だし、夏希ちゃんは同期だからこそ見捨ててくる。

 味方がいない……!

 こういう話題得意じゃないし、あの日にやっちゃったことがことだからこそ、気恥ずかしくて体温が上がってる気がする……。

 

「リリくん、本当に酔い潰れていましたから。布団に寝かせたらそのまま寝続けていましたよ?朝も起きてすぐ帰っちゃいましたし……」

「えー?一緒の布団にも入らなかったんですか?霜月先輩の意気地なしー」

「あらあら、意識がないからこそやりたい放題ですのに。相手も満更ではないのであったら、既成事実を作ってしまうというのも──」

「そこの後輩2人!付き合ってもない男女がそんなことできるわけないでしょう⁉︎高校生がいる場で破廉恥なのはダメって言ったでしょ!」

「別にあたし、気にしないよ?そういう話題、高校でも割と出るし。付き合いたての高校生でってなったら、メジャーな話題だよ?」

「え、最近の高校生ってそんなに進んでるの……?」

「時代は変わりましたねえ」

 

 後輩2人が煽ってきたから注意すると、意外にも夏希ちゃんが平気だと言う。しかも学校で女子同士の話では割とよくある話なのだとか。

 わたしはそんなことを同級生と話したことがない。唄上さんもそうらしい。

 いや、わたしの場合はそもそも学校で話せる友達がいなかったや。唄上さんもお嬢様学校に通っていたようでそんな話を同級生でしたことがないらしい。

 ドロッセルさんも頷いているのでこういう話題はしている方が多数派っぽい。え、男子に聞かれたら嫌な話題じゃないの?みんなそんなにオープンにしていることなの……?

 これじゃあわたしとリリくんの方がエッチな話題を嫌がっていて逆に思春期みたい。良い大人なのに。

 

「いやでも、同衾は流石に付き合ってからでしょう……?」

「まあ、それはそうですね。リリさんも結構そういうところはしっかりとされている方なので嫌われたらおしまいでしょう?」

「寝込みを襲うのは、リリさんの過去的にもアウトだと思いますよ?」

「え……?」

 

 倫理観の擦り合わせをしようとしたらドロッセルさんの後の唄上さんの言葉にわたしは思わず唄上さんの方を見る。

 リリくんの過去って、事務所の女優が不倫をしたって話?社長は知っているとは聞いてるけど、どうして唄上さんが……?

 

「あ、あの、唄上さん?どうしてリリくんの過去を知っているんですか……?」

「ネムリア先生が楽曲を提供してほしくて、とある作曲家の方に依頼をしました。3Dお披露目の際の歌ですね。その人は快く楽曲を提供してくださいましたよ。まあ、リリさんなのですが」

「あれ?でもあの曲、作曲家の名前はリリさんではなかったような〜?」

「別名義ですね。あの曲は別の場所でBGMとして使われているので既にそちらで登録がされているわけで、今更絹田狸々という新しい名前で登録できなかったわけです。それに楽曲提供がリリさんばかりというのも外聞が悪いですから。それであの曲を提供された時点でネムリア先生がリリさんの前の姿に気付いてしまって。それで過去を知って、わたくしも演奏をする過程で知ってしまった、というわけです。元々の曲も知っていましたから」

 

 ネムリア先生経由。

 確か先生は東京に仕事で来る度にインスピレーションを求めて色々な場所を訪れてから帰るらしい。水族館や動物園、美術館に観劇などをしてから帰るって聞いてた。

 そうか、観劇。そこで住吉くんが出ている劇を観て、ってこと?

 それで楽曲を提供してもらう時に俳優を辞めてしまった時のことを話したのかな。

 

「リリ先輩って以前作曲家として働いてたってことですか?」

「そうですね。それで職場を辞めた理由が恋愛絡みだそうで。ですので同意を求めないそういう行為はリリさんは忌避感が強そうだなと」

「リリちゃんは多分真面目に恋愛したい人だから、無理矢理は嫌いだと思う」

「ですので、正攻法が一番良いと思いますわ。あの日、告白とかしませんでしたの?」

 

 但馬さんの質問に答えつつ、ど直球のストレートを放り込んで来る唄上さん。

 す、鋭い……。もしかして唄上さん、全部知ってる?まさかね。住吉くんが他の人に話すとは思えないし。

 同期の陽菜ちゃんにさえ教えてないんだから、先輩でも唄上さんには教えていないはず。となるとエスパー?添えともわたしの顔に何か書いてある?

 どっちにしろ答える気は無い。ここから更にイジリが増すのは耐えられない。

 住吉くんが辞めた理由を知っていただけでモヤモヤがあるのに、そんな風に聞かれたら余計にたじろいでしまう。いくら仲の良いエクリプスのメンバーとはいえ、もう告白してある意味保留のようになっていることは言いたくない。

 だから、誤魔化す。ノーコメントと言ったらバレることはこの数カ月で学んだ。

 

「本当に、ただ寝させただけですよ。その後泥酔と無茶振りしてごめんなさいって謝られて終わりです。皆さんが期待するようなことはありませんでしたよ」

「えー。つまらない」

「人にはそれぞれの距離感がありますから〜。まあ、それが一足飛びになるのが私は好みなんですが〜。些細なキッカケで急接近、特に破廉恥ですと尚良しです」

「あたしは特等席で見させてもらおーっと」

「夏希さんはオフコラボとかでお2人と一緒なことが多いですからね。始まる前の控室での様子とか流してくれるとわたくしが大変喜びます」

「まっかせて、オーちゃん先輩!あ、でもあたしも1つ気になってることあって。オーちゃん先輩とゴートン先輩って本当にただの同期?あの打ち上げ配信の時に手繋いでなかった?」

 

 その言葉にドロッセルさんを除いて全員の首がぐるんと音を鳴らすくらい勢いよく、視線を唄上さんに向けた。向けられた本人はボンっ!と沸騰したくらいに顔を真っ赤にしつつ、グラスの水をとても丁寧な所作で飲んで一息ついた後にゆっくりと間を置いて、こう言った。

 

「…………ただの同期ですよ?ゴートンさんはもちろん、同期の皆様とはエクリプスで初めて会いましたから。手は、多分見間違いでしょう」

「え〜?本当?配信見直したら握ってたように見えたけどなあ……?」

「トラッキング技術の問題でしょう。物が上手く掴めていなかったり、まだまだ荒い技術ですから」

 

 怪しい。誤魔化している雰囲気を感じる。

 けど決定的な証拠もないし。どうにか話題をこっちに持っていけないかって夏希ちゃんを応援するけど攻め手がないっぽい。

 後輩2人も確認できるほどゴートン先輩に会っていない。わたしも大型コラボ以外で1度コラボをさせてもらったけど、その時も別に唄上さんの話題を出したことはないし。

 ダメ、かな。

 そう思ってると、ドロッセルさんが笑みを零していた。というより、お腹を抱えて大きな声で笑い出した。

 

「あはははは!オーちゃん、嘘はダメだよ。ゴートン君はね、オーちゃんの元婚約者候補だったの。だから昔馴染みというか、幼馴染?幼少期から顔を合わせているのは事実だね」

「こ、婚約者⁉︎」

「も、元ですし、候補ですわ⁉︎ドロッセル様、どうして言ってしまうのです‼︎」

「後輩のことを根掘り葉掘り聞くのに、自分のことを言い当てられたら誤魔化すのは感心しないなーって」

「く、詳しく!今度のコミケでその本で参加しますから!」

「もう応募って締め切られていませんでしたか〜?私も気になるので、聞きたいです」

 

 元婚約者候補って。どんな次元というか、時代の違う話なんだろうと思ってしまう。

 後輩2人はメモをしようとしたのかスマホを用意している。これ、根掘り葉掘りどころか、唄上さんの骨までしゃぶるつもりじゃ?

 元婚約者というのは、唄上さんがお嬢様だと聞いているのでまだわかる。けど候補ってことは似たような人が何人かいたということ。

 え、もしかして唄上さんってお嬢様の中でも更に有数のお偉いところのお嬢様なのでは……?

 

「見ての通りオーちゃんって凄いところのお嬢様だから。元財閥で現ホビー会社会長の孫娘で次女だっけ?だから婚約者候補が10人くらいいて、その1人がゴートン君だったって聞いたよ?」

「待ってくださいまし、ドロッセル様⁉︎社長にも伝えていないのにどうしてそのようなことを知っているのです⁉︎」

「え、だって私との部屋飲みで泥酔したオーちゃんから聞いたことだし」

「部屋、飲み?…………もしかして、あの時のっ⁉︎」

「まあ、情報公開はこれくらいにしておくよ。これ以上は私たちだけの秘密」

「ええ〜〜〜⁉︎こんなところでおしまい⁉︎もったいぶらないでください、先輩方!」

「あ〜……。う〜〜〜〜〜〜?あぁ〜〜〜〜〜……」

 

 凄い。お嬢様が呻き声を上げながら頭を抱えている。

 よっぽど知られたくなかった秘密なんだろう。というか、婚約者候補ってことはゴートン先輩も結構良いところの嫡男だったってことでは?

 聞きたいような、聞きたくないような。但馬さんとチェリーさんは聞きたがってるみたいだけど、わたしはこれ以上は良いかな。

 お酒って怖いなあ。リリくんも唄上さんも狂わせるなんて。

 わたしもお酒は飲むけど、そんな酔った感じはしないんだよね。次の日にちょっと気怠くなるくらいで。

 完全に自分の世界に入り込んでしまった唄上さんは復帰するのを待って、結局リリくんの話に戻ってしまった。

 

「それにしても恋愛関係で職場を辞めるって、リリ先輩がモテすぎて、ってこと?イケメンさんだし、さもありなん?」

「声もあのアバターとは裏腹に低くて綺麗な声ですからね〜。それで作曲もできるクリエイター気質とか、割とモテる要素満載では?背もそれなりに高いですし」

「リリさんってかなり気遣いできますし、コラボの時などは凄く丁寧に準備をしてくれますよ?この前の野球の初心者講座のPDFを見たと思いますけど、あんなの作ってくれなんて私頼んでいませんからね?それであの量の資料を作られたらビックリですよ」

「あたしたちにもとっても優しいし。……あれ?リリちゃんってもしかしてかなりの優良物件?」

「総合評価ですとかなりの良物件ですよ。若い割には落ち着いていらっしゃいます。ホント、あの落ち着きがコウスケ君にもあれば……。コウスケ君の方が歳上だなんて信じられますか?そう考えると、本当に良い男性かと。そういう男性に巡り会える機会は少ないですよ?」

 

 皆がリリくんを褒めるけど、それは本当にそう。

 まだ付き合いが短いから欠点のようなものも見えていない。お酒に弱いことは愛嬌だし、他は、特には思い付かないや。

 初恋だからか、他の男性ライバーよりも魅力的に見える。

 わたしたちの同期になってくれて、あの時カラオケに連れ出してわたしを呼び戻してくれたのはリリくんだ。それは他の誰でもない、彼の優しさ。

 そんな彼だからこそ、好きになった。この気持ちに嘘はない。イケメンとかイケボとかそういうのは、後の話で。

 わたしはあの日、誰も気付いてくれなかったわたしを見付けてくれたリリくんに、救われて、好きになった。

 かといって、もう告白もしちゃったからあとはリリくんが女性を好きになるような余裕が産まれるのを待つだけ。

 きっと今のリリくんは恋愛というものを毛嫌いしているんだと思う。身体的接触もダメなのか、好意を自分に向けられるのがダメなのか。それとも恋愛全般がダメなのか。

 告白してからそれなりに日数が経っているけど、わたしへの態度が変わったようには思えない。わたしの恋心に前から気付いていたから態度が変わらないだけかもしれないけど。

 

「そういえばリリ先輩っておいくつですか?コウスケ先輩もまだお若いですよね?」

「リリちゃん、20歳だって。今年21かな?」

「えー!歳下⁉︎あんなに落ち着いてるから25くらいかと思ってたのに!」

「あらー、ということは水瀬さん以外この場にいる誰よりも若いってことですか?」

「そうなりますね。というより、ウチの男性って皆若いですよ?ポラリスさんの次はKP7さんで、それでも全員20代ですから。宗方さんは17歳ですが」

「え、ええ?あのお侍さん、高校生なんですか?」

「……一番ビックリです〜。いやでも、ネムリアさんに懐くような姿は確かに幼いような?」

「ね、同い年なんて思わなかった!すっごい剣技も見せてくれたからどこであんなの覚えたんだろう?」

「親御さんが有段者だったとかですかね?習い事のレベルを超えていますけど」

 

 宗方さんって、そんな歳下だったんだ……。エクリプスの歳下2人って榛名ちゃんと宗方さんって結構不思議かも。Vtuberをやってると年齢がわからなくなる。設定で年齢を若くしているのもあるし、他の数年やってる人たちも誕生日は迎えつつずっと高校生を演じていたりするから話していてもお若いと感じる人が多いとか。

 他箱の、それこそレインボードロップスの方やスターティンクルの方とコラボをさせてもらったけど、年齢が掴みにくい。それはエクリプスの人たちも同じというだけ。

 宗方さんはもちろん、祐悟くんも多分そんなに若く見られていない。FORの3人で一番歳上だと思われてるの、絶対に祐悟くんだろうし。

 

「それについていったリリさんも結構規格外ですけどね。彼ってああいう剣道みたいなものを習っていたんですか?」

「剣道はやったことないけど、チャンバラはやったことあるって言ってたよ?男の子ってそういうものなのかな?」

「どうでしょうね……。それにあれはチャンバラのレベルではないと思いますが」

 

 ドロッセルさんが宗方さんの3D配信で見せた殺陣について褒めているけど、あれは昔俳優だった時に相当練習したらしい。剣を使うのは劇ではかなりの花形のようで、モブでも結構武器を使うようで様々な武器の使い方を習うって言ってた。

 剣とか銃がメインで、戦争ものを演じるなら目立つ武器を持てると次に繋がりやすいのだとか。わたしは劇に詳しくないから全部祐悟くんの受け売りだけど。

 

「そんなハイスペックなリリさんを少しお借りするのは心苦しいですが。エクリプスで『ウルプロ』に一番詳しいのは確実にリリさんなので……。あとはガチャ運みたいなものもリリさんがいるだけでだいぶ変わりますから」

「あれ?でもカードゲーム大会はオーちゃん先輩がぶっちぎりで運が良かったって言ってたような……?」

「オーちゃんはカード特化なので。しかも本物のカードだと財力に物を言わすタイプなので、今回の趣旨とは別なんですよね……。というわけで、エリサさん。ごめんなさいね?」

「な、何でそこでわたしを名指し……?」

「オフではないとはいえリリさんを借りるので。あ、でも大丈夫ですよね。今度半年記念でオフコラボするんですもんね?」

 

 もう誰も彼もがわたしと祐悟くんのことで弄ってくる……。本人が居ないからってわたしならいくら弄ってもいいと思ってるんでしょ?

 酷い人たちだ。

 もう数日でFORがデビューして半年になるので3人でオフコラボをする。スタジオを借りてオフだからこその企画をする。榛名ちゃんがやりたいって言ったことをわたしと祐悟くんでできそうかなって整えて、マネージャーさんに相談して場所なども確保してもらってOKを貰った。

 半年記念ということで色々と準備をしていたけど、一番の驚きはある許可が降りたこと。まさか降りるとは思っておらず、まさか降りた理由が祐悟くんの配信を相手様が見てくれていたから。それと祐悟くんの作曲した歌というかBGMを知っていたらしい。

 それで人柄についても大丈夫だろうと太鼓判を押されたらしい。それに男性というのも珍しいポイントだったようだ。

 本当に、何が繋がってるかわからないものだと思う。それでやりたいことができるのならと、祐悟くんは簡単に自分の過去を明け渡す。そこはちょっと心配なところだ。

 過去があるからこそ、今の自分があるのもわかる。それでも過去に囚われ過ぎるなって言ってくれたのは祐悟くんなのに、その祐悟くんが一番過去に囚われている。

 あの不倫事件がなければ、戦隊モノの一員になれていたというのも聞いた。戦隊モノに出演すると一気に知名度が上がって次の有名作品などに選ばれやすくなるような、俳優の登竜門らしい。俳優としては一度は出演したいものらしくて、そこで成功していれば俳優としてかなり名前が売れていたのかもしれない。

 高校生で上京して、それで5年近く下積みをして、結果が他人のやらかしなら、悔やんでも仕方がないのかもしれない。後悔する理由が沢山あるから、夢が潰された理由の恋愛を嫌う。これは合理的だからこそ、辛い。

 今のVtuber生活はどうなのかなと思いながら女子会は終了。唄上先輩は回復しないまま終了となった。

 今が楽しいかは、結局聞けないまま。

 

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