元俳優、タヌキVtuberに転生する   作:桜 寧音

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FORハーフアニバーサリー!オフコラボでお好み焼きともんじゃを食すぞ!・1

 スタジオを借りて、スタッフさんにたくさん準備をしてもらって。今日のFORハーフアニバーサリーの配信準備が整った。たくさんの準備もしつつ、配信でも問題ないかという確認もして、最終確認もした。

 手もしっかり洗って水瀬さんの枠で配信を始める。FORで何かをやるとしたら水瀬さんか霜月さんの枠が多い。俺の枠でやるのも良いんだけど、スパチャを分配する分、実は固定にしておいた方が経理の方が計算しやすいようで俺は基本やらないことにしている。

 計算がしやすいのならそれで良い。こういうので新規さんが興味を持って彼女たちのチャンネル登録数が増えたらそれで良い。そんな軽いノリで配信枠を決めている。

 同期でチャンネル数の差が出過ぎるのは問題という話もあるらしいけど、登録者数の平均化なんてどうあっても無理だし。コウスケ先輩の登録者をいきなり40万人増やせるわけもなく。

 コウスケ先輩も30万人というかなり多い登録者数なのに、ドロッセル先輩なんてもうすぐ70万人に行きそうだし……。それと比べたらFORの数なんて誤差だ。

 というわけで、配信が始まる。

 

「はい、始まりました〜!FORデビュー半年記念配信〜!パフパフパフ〜!」

「わー」

「おめでと〜」

「ゆるくない?2人とも」

 

 水瀬さんが開始の挨拶をして、俺と霜月さんが緩く相槌を打つ。半年記念ではあるものの、かっちりしたものでもないので緩く始める。

 タイトル的にきっちり真面目に挨拶するのもどうかと思って緩くいった。配信タイトルを見たリスナーたちもこの内容ならと頷いているように見える。

 

『半年おめでとう!』

『もう半年かあ。早いなあ』

『うーん、緩い』

『オフコラボだからこそ緩いんじゃね?』

『飯配信楽しみ』

 

 コメントも言っている通り、今日のタイトルは『FORハーフアニバーサリー!オフコラボでお好み焼きともんじゃを食すぞ!』だ。つまりご飯会。

 概要欄にも書いているけど、出来合いのものを焼いたり注文したりするのではなく、作るところから始める。食材も用意して、ほぼ切って混ぜるだけとはいえ作るは作る。

 そのため何時ぞや鍋でお邪魔したスタジオで料理配信をする。食材なども一通り集めて、あまり料理をしたことのない水瀬さんのためにレシピは用意している。

 

「というわけでね。エリーとリリちゃんがレシピを用意してくれたのでこの通りに作りたいと思います。調理実習しかやったことないから、料理って久しぶり〜」

「まあ、高校生だからそんな頻度だよね。でもこれから文化祭とかで作る機会が増えるだろうから基本的なことは覚えておこうね」

「はーい、ママ!みんな高校生の手作り弁当とか夢見てるかもしれないけど、本当に料理好きな人でもないと料理なんてできないから!そもそも家庭で料理をする機会なんてないし!」

 

『まあ、女子に夢見過ぎるなってこったな』

『確かに高校の時の女子、調理実習の時何にもできなかったわ……』

『でも創作のJKは料理が上手であってほしい』

『それもわかるー』

 

 水瀬さんが力説しているけど、これは水瀬さんの家庭事情も大きいだろうな。キッチンなんて使ったこともないって言っていて、料理はほとんど出来合いの物が冷蔵庫に入っているか、お金だけ置いてあって買いに行ってたらしい。

 家事周りは本当に家庭環境が大きい。作るしかなかった人は作って上手くなるし、経験がない人は上達しないだろう。俺は節約のためにそこそこ作っていたし、霜月さんは家事がストレス発散になったようで作れる日は作っていたらしい。

 そのため残り2人はそこそこ作れる。そもそもお好み焼きともんじゃ焼きなので生地の分量とか間違えなければそこまで失敗しないだろう。

 

「あ、自己紹介してない!薬学大好き系女子高生狐の水瀬夏希です!続いて今日の料理番長、エリー!」

「はーい。本日の料理総括を務めます、霜月エリサです。と言っても、夏希の監督者かなって感じです。リリくんは指示さえしちゃえば大丈夫そうなので、夏希が怪我しないように見るのがメインかなって。続いて、今日の遊撃隊長どうぞ〜」

「遊撃隊長……?それは初耳ですが、絹田狸々です。基礎的なことはできるので大丈夫だと思います。美味しいお好み焼き目指して頑張るぞー!」

 

『料理見習いと先生と補助って感じかな?』

『薬学と料理はちゃうか』

『ちゃうちゃう。似てるだけや。日本史と世界史くらい違う』

『その例え合ってんのか?』

『おーー!』

『料理って、気合いですか?』

『リリテンションたっか』

 

 自己紹介で予期しない役割を受け取ったものの、今言ったように俺としては補助がメインになる。簡単な料理なためにそう難しいことはない。

 量は、ちょっと想定外だったけども。俺たち3人分を作っておしまいのはずだったのに、なんでかどっちも10人分作ることになった。

 その理由は、今から霜月さんが説明する。

 

「今日はお好み焼きともんじゃ焼きをあたしたちの分で3人分ずつを作ろうと思ったのですが……。なぜか10人前ずつ作ることになりました。スタッフさんのお夕飯だそうです。買い出しなどを手伝っていただいたので、作るのは良いんですが……。3人に作らせる量じゃないんですよね」

「そんなわけで大変だからこんな16時に始めてるってわけ!さあ、じゃんじゃんやっていくよー!」

「野菜などの下準備は進めています。もう切れる状態にしています。まずは夏希にキャベツの荒切りを、リリくんは長芋をおろしてもらおっかな」

「はーい!」

「やりましょうか」

 

 女子2人は包丁とまな板へ。包丁もあまり使ったことがないということであちらは微笑ましい図になるかもしれない。怪我だけはしないで欲しいけど。

 俺は個人でひたすら力作業だ。

 

「じゃあとにかく摩り下ろしていきますけど、ただ音を聞かせるだけでは暇なので事前にエクリプスのメール募集欄って言うんですか?あそこに僕たちへの質問を募集したので、その中で僕が答えられそうなことは話していきたいと思います。女子2人組はどうやらキャベツを抑え付けるのに苦労しているようなので」

 

 包丁の持ち方は大丈夫だったようだが、猫の手とかが無理らしい。キャベツは霜月さんが最初から半玉に切ってくれているけど、それでも大きいから持つのが大変なんだろう。

 霜月さんがお手本を見せて、こうやるんだよと手取り足取り教えている。それを見てコメント欄では2人の仲の良さにほっこりしているようだ。

 百合とか、そういうコメントは見ないようにする。女子同士がすぐに仲良しだとそういうコメントを残すのはどうかと思うんだが。

 おろし金を用意して、大きな器目掛けてとにかく摩り下ろすだけだ。皮も剥いてあるので単純作業をしつつ、スタッフさんが用意してくれた質問に回答していく。

 

「最初の質問は『リリちゃん、お2人の第一印象ってどうでしたか?』ですね。これ系の質問はかなり多かったようで。どこかの雑談で話してなかったかなとも思いますが、良い機会なので答えましょう。水瀬さんはまあ、皆さん感じているでしょうが最初からあんな感じの天真爛漫な感じで、一番歳下ということもあって可愛らしいなと思いましたよ。初っ端からお兄さん呼びでしたから。何でもかんでもとにかくやりたいって感じで、同期でどうしていこうかとか、彼女がとにかく言い出しっぺなところがありますね。どうしても僕や霜月さんでは保守的と言うか堅実な案ばかりが出てしまうので、水瀬さんの突拍子もない意見には助かってます。突拍子もなさすぎて打率3割くらいですけど」

「リリちゃんそんなこと思ってたの⁉︎ならもっと可愛いって言ってよ!それだけで女の子は嬉しいんだからね!」

「こら!包丁を握ってる時にそっぽを向かない!」

「嫌だよ。炎上するから。こういう機会以外で言わないよ」

 

 こっちにグルンと首を向けていたけど、霜月さんが注意する。包丁持ってる時は本当に危ないし。話すなら包丁を置いて会話に参加してほしい。

 俺も2人の作業台を見るけど、キャベツの荒切りは全然進んでいないっぽい。何でもかんでも上手くいく配信というのも面白くないだろう。

 苦労してこそ美味しいという考えの元、水瀬さんには苦労をさせるらしい。

 

『半年くらいじゃ雰囲気なんて変わらんか』

『そうかあ?エリーは結構変わった気がするけど』

『初めから兄扱いなのかwww』

『可愛いって誰かを褒めるリリ、初めてじゃね?』

『同期は特別ってことだろ』

『打率3割ならプロ野球なら一流だぞ!』

『エリーの説教がガチだ。いや、素人が別のことを気にしだすのは危ないのはそうなんだけど』

『リリの炎上回避もガチだな』

 

 いや、本当に量が多い。もんじゃ焼きの分がないからあっちよりは楽だけど、10人分の長芋なんてどれだけやらないといけないんだか。作る時間と食べる時間を鑑みてかなり早い時間から始めているけど、これ大丈夫か?ちゃんと時間までに終わるだろうか、心配だ。

 軽く右手をプラプラさせて手首の違和感をなくす。単純作業だからこそこうやって作業をしている手を労わらないと大変そうだ。

 

「次は霜月さんですか。霜月さんは本当に丁寧な人で、でもこういうことをしたいって芯があって、あとは僕との関係もかなり考えてくれましたね。先輩たちは全員男女混合デビューでしたけど、だからこそ男女ではなく同期として一線を作った方が良いと。その頃男女関係で荒れていたのは知っていましたし、先輩方も被害を受けていましたからね。そういうコンプラとかを気にしてくれたので同期としてはとてもやりやすかったですよ。水瀬さんが元気系の人なら霜月さんは大人しい系の可愛い人、というのが第一印象でした。2人とも立ち絵を見ての通り綺麗系というより可愛い系の人ですよ。声も2人とも可愛い系ですからね。デビューについては社長の一存なんですが、とんでもないところに放り込まれたなというのが本音です。2人とも跳ねそうだなってところにネタ枠の僕ですからね。2人の足を引っ張らないようにって最初は気が気じゃなかったですよ。それでも2人とも僕との3人組でやっていくためにどうしようかって真剣に考えてくれて。この2人が同期で良かったなってデビュー前から思っていましたよ」

「だってさ、エリー。ベタ褒めだよ」

「……ありがと」

「いえいえ」

 

 今日くらいは何を言っても「てえてえ」で済ませてくれるだろう。むしろFORのためにある配信なのにここでFORについて語らなかったら詐欺だし、ここで同期のことを本気で話して炎上したらそれは確実にアンチの仕業だろう。

 彼女たちのガチ恋によるユニコーン?そういう人たちは俺以外にもコラボをした男性ライバーにも噛み付く危ない人だから無視でいい。

 ガチ恋は否定しないけど、他者を傷付けてまで自分の気持ちを優先するのは恋じゃなく、執着やエゴだ。それを天海さんの純粋で綺麗なものと一緒にしないでほしい。

 結構ストレートに言ってしまったからか、霜月さんが照れている。でも水瀬さんへの監視は辞めていない。水瀬さんも危なっかしい手つきながらも半玉は終わったようだ。

 もんじゃ焼き分もあるので20人分のキャベツの荒切りはかなり手間だぞ。昔働いていた飲食店での下準備はほとんど機械化されていたので洗ったものをそのまま機械に突っ込めば良かっただけなので全部手で切る大変さは俺にはわからない。

 最終手段ではフードプロセッサーを使うことも考えているとか。これは水瀬さんには伝えていないので、彼女はやるしかないと頑張ってくれるだろう。

 

『2人のこと可愛いと思ってたんだ。意外かも?』

『確かに。リリってそういうの枯れてるのかと思った』

『ただ炎上しないように言わないようにしていただけだろ』

『ってことはこれまでの配信でも『僕の同期は可愛いなあ』とか思いながら配信してたかもしれないってこと⁉︎』

『誰かFAよろ!』

『フルアーマー?なんの?』

『ファンアート!コメント欄でボケるな!』

 

「次の質問が『『polar night/Luna』の作成経緯について教えてください。あと泣かせたエリーに謝って!』とのことで。これを選んだスタッフさんには後で説教です。普通に作成秘話を教えてくださいってあったでしょう」

 

 2通目の質問は余計な言葉が付けられていた。あの誕生日配信の時のことなら謝ってるけど根に持つリスナーが多い。茶化しているだけだろうけど。

 誕生日に合わせて作ったというのは本当だけど、確かに細かい話はしていないか。これも良い機会なんだろう。

 

「『polar night/Luna』ですが、デビューしてすぐに霜月さんの誕生日があるのは知っていたんですよね。それにうるう年で今回のタイミングはちょうどうるう年でちょうどの日にお祝いもできると。水瀬さんと話して何を送ろうかと考えていて、僕が作曲していることを知っていた社長が『曲贈れば?』とこともなげに言ってきてですね。僕はいきなり曲を贈るのは重すぎないかと言ったんですが社長もスタッフもノリノリで。本当に企画を進行させていって作れそうって段階にもなっていたので、そうなったらやってやるってなって作ったのがあの曲です。水瀬さんにイラストと歌を任せることは最初から決まっていました」

 

 これが表向きの話。というか半分以上本当だ。デビュー前に準備を始めていたのは事実で、それこそフル尺の曲を用意していた。だけど霜月さんの、エクリプスライバー通称の『カラオケ事変』があって贈る歌を変更。

 それで超特急で完成させるために水瀬さんやJJニックさんに頭を下げて一番だけの曲を作った。スタッフさんにもかなり無理をさせた一曲だ。

 結構可愛い系の歌を用意していたんだけど、今贈るのはこれじゃないと今の所お蔵入り。いつか出すこともあるだろう。

 ただその場合は水瀬さんとしての曲か、霜月さんの曲として出すかは迷いどころなのだとか。その辺りはマネージャーさんに任せる。

 

「経緯としてはそんな感じですね。で、曲だけ、というより曲はサプライズにしたかったので別のプレゼントも用意した形です。デッキはまあ、直前にとても良い反応を頂いたのでそれをあげようかと思って」

「デッキありがとう。あれ使ってたまに事務所で先輩たちと戦ってるよ。夏希のプレゼントも使ってるからね」

「知ってる〜。この前泊まった時に見たから」

 

『あの『世界樹の守護者(フレスト・オーダー)』デッキか。めちゃくちゃ強んだよなあ』

『後でエリーが画像で見せてくれたけど、マジモンのゴリゴリ本気デッキでリリの本気を見た。あれ握って公式大会出ても勝てるんだよなあ。プレミと手札次第ではあるけど』

『ざっと調べたけど、あれレアリティとか換算したら7万くらいする馬鹿高いデッキってマジ?』

『大マジ。復刻されていないカードがずっと値上がりし続けてるから。強いカードなんて1枚1000円超えてるのがザラなんだけど、『ルトゥナ・ノア』とかのエースカードとか確か3000円くらいが相場のはず。7万は割と良い線行ってるはずだぞ』

 

「えっ⁉︎」

「ん?エリー、どうかした?」

 

 あ、まずい。デッキの本当の値段がバレてる。

 俺が作成に使用した金額は4万くらいだけど、それはサプライと呼ばれるカードのスリーブやデッキケースなども含めての値段。コレクションとして持っていたカードを使ったので相場よりは安く済ませているけど、あのデッキを1から作り出したら7万くらいするだろう。

 あの周年ボックス以降復刻が来ていないので、最近また値上がりしたとか。俺たちエクリプス大会も結構効果があったようで、その流れで霜月さんのデッキを再現しようとしてカードショップを巡ったリスナーさんも多いらしい。

 ちょうど最近、あのデッキが使われたアニメの最終回が動画サイトで放映されたようでその効果もあってカードショップから在庫が減って値段が上がったらしい。

 カードの値段は結構変動するので当時使ったお金と今では値段が変わっていることが多い。7万は、当時の値段だったか今の値段だったか。あの時も結局、『世界樹の守護者(フレスト・オーダー)』が復刻されたからこそデッキを組もうとする人が増えて在庫が減って値上がりしていた時期だ。

 今だといくらするんだろうなあ、あのデッキ。趣味はお金がかかって仕方がない。

 

「リリくん⁉︎あのデッキ1万くらいって言ってなかった⁉︎安くてごめんなさいって言ってたよね!」

「そ、そうでしたっけ?」

「へー。7万もするの?すっごいプレゼントだね」

「そこは誤魔化さなくて良いのに!曲だけでも嬉しかったのにそんな高額なプレゼント貰ってたなんて気付かずに使ってたよ!道理でオーフェリア先輩が『良いデッキを使っていらっしゃいますね。大事にした方が良いですよ』ってわざわざ言ってきたんだ‼︎」

 

 いや、オーフェリア先輩は単純にそのままの意味で言ってると思う。強いって意味で。

 あとはカプ厨的な意味で言ってるだけだ、絶対。

 

「あ、ちょうど長芋の摩り下ろし終わりましたよ!僕はこのままもんじゃ焼きのタレ作りをしよっと」

「リリくん⁉︎後で詳しく聞くからね!」

 

 いや、答えることはもうないから、プレゼントはお好きに使ってくださいとしか言いようがない。

 ちなみにこの次の日、某カードショップのオンライン通販であのデッキを再現するならいくらかかるかという動画が出て、その金額では87520円らしい。

 値上がりしたなと純粋に思った。デッキ構築に必須のマジックカードと持っていなかったカードが軒並み2000円とかだったのが、今だと3000円に値上がりしていたのでどんどん高級になっていく。

 その動画のリンクが貼られて、霜月さんがSNSで『リリくん、これについてちゃんと話そう』とコメントしたことでプチバズりもしたり。

 

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