FORハーフアニバーサリーも終わって、俺としては今月の大きなイベントは終わった。まさか投稿した歌ってみたが珍しいって意味じゃなく、本家本元の宣伝のせいでバズるとは思わなかった……。
歌ってみたは有名な曲をカバーするとチャンネル登録者数よりも圧倒的に再生数が伸びたりする。10万人くらいの人がミリオン再生を達成したりと、歌ってみたは正直かなり当たり外れがある。外れると1万いくかどうか、みたいなこともザラだ。
そういう意味では投稿して1週間経っていないのに60万回再生はかなり多いだろう。宮下喜沙さんもとい3S効果というのをありありと感じていた。
有名になって、炎上しなかったことは救いだ。まあ、俺のことやVtuberを知らないであろう人から男が歌うなとか、タヌキが歌うのはキモい、みたいなコメントもいくつかあったようだがもう削除されている。
許可を貰っているんだから男が女性のアイドルソングを歌っても良いだろうに。逆だっていくらでもあるんだから。
ハーフアニバーサリーのことは一旦置いておいて、今日はある意味コラボだ。これをコラボと言って良いのかわからないけど、ある人の配信に出演することは間違いないし。
そのとある先輩が配信を始める。
「皆さん、こんにちは〜。平日のお昼なのにたくさん人がいますね、さすが大型企画!初見の方もいると思うので改めて、エクリプス所属の聖女ドロッセル・アン・パルスです。今回はVtuber事務所対抗『ウルプロ』甲子園でエクリプス学院の監督をやっていきます。よろしくお願いしまーす」
『きちゃ!』
『きたぜきたぜきたぜ!』
『エクリプスで優勝するぞ!』
『初見です。わこつー』
『開会式配信でファンになりました。メンバーシップも入りました!』
『何でこんな真っ昼間に3万人も集まってんねん……』
そう、今日はドロッセル先輩の『ウルプロ』配信だ。Vtuber事務所でそれぞれ監督を1人ずつ選出して、その人が事務所のチームを作る。『ウルプロ』の栄光ナインで3年間育成をして最後に勝負をする。
今日はその、最初のガチャだ。新入生は最初に6人の選手が入学してくる。その6人の選手を見てみて、選手の能力で始めるかどうかを決める。できたら強い転生選手が出て、プラスで他の5選手の能力が強ければ良いと始めやすい。
今回のルールではリセットは2回まで。つまり合計3回新入生を見ることができるのでどこが良いか判断をしながらリセットするかどうかを考える。俺は目的の選手が出るまでリセットをしまくるので回数制限で栄光をプレイすることはほぼない。
そんな俺がコラボして良い結果になるかどうかはわからない。
ドロッセル先輩が今回のルールを話して、ガチャをする前の学校名などを決め終わった後、俺のことを呼ぶ。
「エクリプスではガチャを引く時に呼ぶ福の神様がいるので、その方を呼びますね。リリ君〜」
「はーい。皆さん初めまして、エクリプスでドロッセル先輩の後輩、絹田狸々です。よろしくお願いします」
『リリだー!』
『ですよねえ』
『タヌキ?』
『こーれ勝ちです』
『オブサーバーみたいな人?』
配信画面に俺の立ち絵が載る。変なコメントが増えているんだろうけど、コメントの流れが速くて読めない。
俺が何か操作したりするわけではなく、ルール通りのことをちょっと伝えて終わりだ。俺が何でもかんでも言ってしまったらドロッセル先輩が監督の意味がない。
新入生ガチャが終わったら速やかに帰る。あくまでガチャの招き猫的な存在でそれ以上の口出しはしない。
「今回エクリプスで初心者の私のために『ウルプロ』の助言をしてくれる人たちが何人か居て、その内の1人がリリ君です。地域を茨城にしてくれたのもリリ君たちですね」
「はい。茨城にした理由ですけど、まず学校数が普通なので初心者的にも勝ちやすいのが1つ。あとは新入生ガチャをしたら初年度は確実に1人転生選手がいるんですが、茨城で出る選手が悪い特殊能力を持っている人が少ないので育てやすいこともあります」
「初心者なんでね、やりやすさを優先してくれたわけです。東京と千葉がヤバイのは知ってるんだけど、そこで勝てなくて弱いチームになるよりは甲子園に行きたいってことで相談して茨城にしました!メロンパワーで頑張るぞー!」
『そこは納豆だろ』
『スタミナラーメンでは?』
『アンコウ鍋では?』
『うどんだろ』
『うどんは流石に香川では?』
『埼玉が誇るソウルフードだぞ!』
『何でこんなにうどんで意見別れるんだよ?』
俺とコウスケ先輩、あと宗馬先輩とポラリス先輩で意見を出しまくって、初心者ということもあって茨城を選んだ。やったことがある人なら東京か千葉、愛知や兵庫に岩手を選ぶんだが、初心者なら茨城くらいがやりやすい。
学校数が少ないので相手校のレベルが低いことと、対戦数が少ないので上振れは少ないものの甲子園に出やすいのが良いポイントだ。甲子園や全国大会に出ると経験値が美味しいので、地方大会の数は少なくても全国大会に出た方が強くなれる。
特に最後の3年夏は勝つと特殊能力を得やすい合宿があるので、ぜひ勝ちたいところだ。
「茨城にしたのは転生選手も強いからだっけ?この辺もコウスケ君に聞いたんだけど、注目選手は画面の左端に載せておきますね」
「狙い目は捕手の
「転生選手のステータスを見させてもらったけど、強い人だと星300超えてるんだよね。最初から星300もあるのは本当に強いらしいから、出れば良いなあって感じ」
ショートの大田原さんも星が300近い選手で、投手の白石さんも東武ライオンズの先発柱として活躍しているため、能力も綺麗に纏まっている。そして今回のアップデートで追加されたメジャーリーガーの荒川アンダーソンさんもセンターとしてかなり強く設定されている。
それに転生OBであるレジェンド選手も投手や野手も強い。もちろんバランスを取るために二軍の選手などは悪い特殊能力が多かったりもする。これはただ単に運だ。
諸々設定を終えたので、とうとうドロッセル先輩が最初のガチャを回す。
「はいっ!……どうかな?」
「緑色と黄色が半々になっている黒川さんがおそらく転生選手ですね。裏で回す分には悪くない選手ですが……。悪くはない、くらいですね」
『朝日の外野手ね。半一軍みたいな現状だから能力は控え目』
『他の選手次第では始めても良い選手ではある』
『ピッチャーは、うん。普通に星68ですね』
『弱い(確信)』
1人ずつ見ていくが、可もなく不可もなく、という感じだった。配信ではなく遊ぶだけなら問題ないだろうけど、大会で勝ちを目指すならリセット一択だった。
リセットをして学校名などを入力している間は雑談で今回のオブサーバーになっている人にどういうアドバイスをもらったかを話し、入力が終わった。
これで2回目だ。
「正直この辺りで決めたいですよね。じゃあ、はい!」
「お、大田原さんのショートはまさしく転生っぽいですね」
『大田原は流石に当たりか?』
『ピッチャー2、キャッチャー1、内野2、外野1か。バランスはかなり良い』
『篠原でピッチャー且つ内野のサブポジ持ち?まさかな……』
『投手2人目だから多分同姓の別人じゃね?』
『神田が良かったけど、大田原で内野守備固められるのも大きいし、なくはない』
『大上振れ狙いでリセットもありか?』
『大田原リセットはない』
『これリセットって言ってるやつ、他の学校のスパイだろ』
まず最初の投手。星は98で特殊能力はなく、スライダーが1、フォークが3、球速128km/hのコントロールとスタミナがどっちもF。この投手を先発にしても、きちんと育成すれば星450くらいのエースになるだろう。
そして次の投手。篠原という名前で内野のサブポジションを持っている投手。これで左投げ左打ちでサブポジがファーストだったらいよいよだぞ。
ドロッセル先輩が、カーソルを移動させる。
「さあ、篠原君!え、星389って凄く高くない……?注目選手の一覧にいませんよね?」
「──────────スゥ────────────」
「リリ君⁉︎か、解説して!この方どこのどなた⁉︎」
『はい、1割』
『東京なんだよなあ、そいつ』
『他の奴は東京とか千葉の激戦区で戦うし、そもそも引ける保証もないんだぞ!』
『これ逆に大田原別人説出てきたか?』
東東京出身のはずの篠原さん。二刀流としてプロでも活躍していて、投手としてはもちろん、野手としてもかなり活躍されている方だ。
栄光を進めるにあたって、二刀流というのは打力が保証されているので勝ちやすいし、サブポジがあるので継投がしやすい。
球速144km/h、カットボール1、縦カーブ3、フォーク2。コントロールEスタミナC、特殊能力に『ノビ◯』、『回復◎』、『球持ち』、『対ピンチ◯』、『フォームチェンジ』、『荒れ球』、『クイック×』が投手の能力。
野手としてはミートFパワーD、走力D肩C守備Eの『広角打法』、『チャンス◯』、『三振』を持っていて、クイックと三振は悪い特殊能力ではあるものの、総じて強い。
ドロッセル先輩もいる『ウルプロ』対策委員会サーバールームにメッセージとして、サブポジションをつけると1年目から世界大会という超強化イベントに送り出すことができますよと送る。すぐにポラリス先輩が反応して『篠原選手引いたの⁉︎外野かサードがオススメですよ!1年生とかのポジションで決めていい!』とコメントを送っていた。
「えー、現在東京ビックル所属の篠原さんです。今度のオリンピックにも出場される凄い投手です。簡単な話が、最強投手の一角です」
「強い投手が欲しいって話だったもんね。じゃあ次、キャッチャーを見ますよ。星108は強いのかな?」
「初年度は80を超えてたら当たりですよ」
『お、悪くない』
『守備がEで他オールFは全然強い。特殊能力で『粘り打ち』があるのもアリ』
『流石にモブ』
『あれ?平均高くない……?』
キャッチャーと、次のセカンドも一般生徒。セカンドも走力がGで目立つもののミートと守備がEで他がオールFと中々強い。それに内野守備に欲しい『守備職人』を持ってるのが偉すぎた。これがあるとギリギリのボールを捕球しやすくなる。
ファインプレイが出やすくもなるので、これは将来性がある選手だ。
そして疑惑のある大田原というショート。これがあの人だったらいよいよだぞ。
ドロッセル先輩が大田原さんにカーソルを合わせる。そこに現れたのは。
「あっ⁉︎リリ君、この方では⁉︎注目選手の大田原さん!星277は相当強いのでは!」
「──────────スゥ────────────」
『つっよ』
『オリンピックには選ばれてないけど、横浜のクリーンナップ任されているショートストッパーだからな。そりゃ強い』
『リリ二度目の息吸いいただきました!』
『転生2人?もう終わりだぁ……』
『リリはもっと凄い引きしてたやろ』
『あれは試行回数がおかしいだけだから』
『これはリセット』
『通報したわ。リセットするわけねえだろ』
ミートEパワーD、走力D肩D守備Cに特殊能力が『広角打法』『初球◯』『走塁◯』『パワーバランス◯』『ムード◯』『逆境』と特殊能力もモリモリ。
正直このステータスで普通に使えるからなあ。
最後の外野手も見ていくとそこには星138という数字が。
え、つっよ。
「わー、すっごい強いのでは?『三振』はついてるけど『ヒットメーカー』が付いてるし、最初から走力Dは良いかも。外野って足が必要って話でしたもんね。とても幸先の良いスタートでは?」
「あの、大当たりです。というかこれ、星総数ヤバイのでは……?」
『野良も強いのはおかしいってぇ!』
『こんな当たり、俺も引きてえよ……』
『リリ効果なのか?これは呼びますわ』
『えー、星総数1078です』
『4桁⁉︎』
『これ、他の監督勝てるんですか……?』
『新入生で宮下とか市原とか羽村を引いて育成頑張ればいける』
『その最初の条件が激ムズなんだけど』
『転生の中でも強い選手が2人来たから、そんな数字にもなる』
選手のステータスを確認して、選手にライバーを当てはめていく。ライバーの見た目は俺たちアドバイザー組が作成してある。コウスケ先輩が1期生を、ポラリス先輩が2期生を、俺が3期生分のキャラメイクをしてある。
ドロッセル先輩が忙しかったことと、キャラメイクを初心者がやるとそれだけで配信の枠を1つ失ってしまうのでそれは勿体無いということで5分くらいで1キャラを作れるモードでそれぞれ作った。
そのデータを渡しているのでオリジナル選手から選択して当てはめるだけ。
「まずエースピッチャーはオーちゃんにしようと思ってたので、篠原さんはオーちゃんにします。キャラはこれで、名前と音声を選択と」
「音声も随分増えましたね。でもVtuberの名前までは入ってませんから……。似た呼び方を選ぶしかないですね」
「キャッチャーはゴートンさんで。で、もう1人のピッチャーはコウスケ君で、ショートは霜月さんにしてセカンドはリリ君、外野は水瀬さんにします」
「……え?3期前半組から当てていくんですか?こういうのは先輩順ではなく?」
「初年度を同期で固めると残り3人じゃないですか。となると2期後半組か3期前半組しかいないので、なら今回大きく貢献してくれたFORの皆さんにしようかと。関係性オタクなオーちゃんが移ったのかもしれません」
『ほおん?』
『1期生でバッテリーか。ええやん』
『FORでセンターラインを作るのもええね』
『この能力で勝ち上がれば、二年目以降にめちゃ強転生とか天才が来なければレギュラーから降りないだろうし』
キャラメイクも終わって、とうとう栄光ナインが始まる。最初のオープニングを見てマネージャーや先輩の能力を見る前に、今大会のルールであるアイテムを使用してもらう。
「この『器材抽選券』を使って良いんだよね?」
「はい。これを使うとその器材を使った練習ができるようになって、選択カードにサブデッキとして1~5の数字が書かれたカードが追加されます。それを使った練習の方が経験値が高いので使うのはそっちが良いんですが、1~5のカードを3サイクル、つまり15回使うと壊れてしまうので使う場所は要検討ですね。合宿で使うのと、どうしても止まりたいマスがあったら使うべきです」
「引いていくよー。『トスマシン』、『チューブ』、『仮設シャワー』、『ベンチプレス』に『むにむにボール』か。これってどうなの?リリ君」
「打撃、回復、投手用の器材がバランス良く来たので当たりですね。欲を言えば走塁系の器材が欲しかったですが……。十分な上振れなので大丈夫ですよ」
『最初から器材を導入できて、グラウンドレベル高い状態で3年縛りやれるの良いよなあ』
『レベル2器材2つは当たりでは?トスも『ヒットメーカー』チャンスあるし』
『投手系2つと回復のシャワーが地味にヤバイ。オーちゃん強化しやすいし、体力調整もしやすい。しかも回復系はカードの数字が全部1だから特訓マスとかめちゃくちゃ踏みやすい』
『俺も同じルールで、回しますか』
『テンション上げられる『お褒めの喝』も2つあるの良いよなあ。1年の間はエースがずっと好調なのは勝ちやすいし』
続いて見ていくのがマネージャーの能力。マネージャーごとに固有の能力を持っていて、何でもない双六の白マスを踏むと一定確率でマネージャーの固有能力が発揮されるのだが、一番の当たりの練習効率アップではなく、体力回復とアイテム探しだった。
3年縛りだと体力の調整が難しく、あとアイテムも中々手に入らないために悪くはない能力だ。練習効率アップがぶっ壊れなだけで、下振れというわけではない。
先輩方の能力も見ていく。栄光ナインで大事だとされている性格があって、この性格によって伸びやすいステータスが変わっていくし、試合中に使える特殊戦術が変わってくる。内気とお調子者が欲しいところだ。
ちなみに1年生は俺が内気、コウスケ先輩がお調子者。唄上先輩と水瀬さんが熱血漢、ゴートン先輩がしたたか、霜月さんがごく普通だった。
先輩たちの中にも各学年に内気が1人ずついたので性格ガチャも悪くなかった。ステータスも良く、弱いチームではない。
「じゃあ、始める時の諸々の確認は終わったので僕はこの辺りでおいとましますね。ドロッセル先輩、育成頑張ってください」
「リリ君ありがとー!また新入生ガチャの時には呼ぶので」
「わかりました。ではでは」
俺がボイスチャットから離れて、ドロッセル先輩がコメント欄と相談しながら栄光ナインを進めていく。指示厨とか、てんで間違った情報を言ってくるリスナーもいるからコメント欄を鵜呑みにするのもまずいんだけど、そこは歴戦の先輩。
攻略本と俺たちが作った育成のススメを見ながら育成をしていく。
今日の配信は夏の地区大会前までだったが、唄上先輩がしっかりと外野のサブポジを手に入れて星が441になっていた。地区大会と合宿、それに約2ヶ月分の経験値があれば余裕で星は450に乗り、世界大会に送り出せるだろう。
この世界大会がとんでもなくて、最上級特殊能力の金特と呼ばれる効果が凄いのはもちろん、その特殊能力はこれ以上下がることがなくなるわけで、これが育成中だとかなりありがたい。特殊能力は試合で付いたり能力が下がったりもするのだが、金特だと下がらない。
それからしばらくはV事甲の他の状況を見守っていたけど、他の人も二刀流で今年早速活躍しているゴールデンルーキーの市原君を引いた人がいたり、野手転生ながらも性格が天才の人を引いたりと配信者はやらかすことが大好きらしい。
ドロッセル先輩が戦力的には一強かと思われたけど、他の人たちもかなり追い上げている。これ、多分大怪獣バトルになるな。いくら配布アイテムがあるからとはいえ、どれだけ強くなるんだか。
エース投手は星500超えが当たり前、野手も星400ばかりとかになるんじゃないだろうか。それくらい誰もが上振れていてどこが最強かなんて一概には決められない膠着状態になっていた。
ドロッセル先輩が栄光ナインをほぼ初心者なことがどれだけ響いてくるか。