霜月エリサは、正確には
親バレというのは配信者あるあるの1つだ。昔から配信者の配信中に家族が部屋に入ってきて家族のことがバレたり、配信活動のことが親にバレたりなど、ある意味親しみやすさが増して人気になることもあれば、個人情報が漏れて炎上したりという、ハイリスクハイリターンすぎる出来事だ。
そのため隠す人は徹底して隠すし、むしろ家族構成などをおっ広げにする人もいる。そこは配信者としてのスタンス次第だろう。今回真紀の場合は配信を休むことになった割には話題に少ししかなっていないので今のところマイナスだ。
彼女は新幹線で帰って、そこから地元へ電車の鈍行へ乗り継いで地元に帰る。主要駅からそこそこ離れている田舎で、彼女にとっては苦い思い出ばかりの街だ。あまり同級生に会わないようにとコソコソしながら迎えに来ているはずの親の車を探す。
地元民のはずなのに不審者のような動きで駐車場へ移動し、父親が立っている車を見付けた。すぐに後部座席に乗り込んで、久しぶりの両親にただいまを告げる。
すぐに本題に入るかと思ったが、まずはご飯を食べに行こうと地元で結構有名なカフェへ行った。最近のカフェは飲食が充実していて、食事は問題なくできる。真紀の誕生日などに連れてきてもらった良い思い出の残る場所だ。
そこで懐かしのデミグラスソースのオムライスを食べて、食事を楽しんでから家に帰り、改めて話し合いが始まった。父親はあまり話すつもりがないようで、母親の方が切り出してきた。
「あなた、Webデザイナーに転職したって言ってたじゃない。リモートワークが多めだけど出社もしないといけないから東京に残るって。まあ、あなたにとってはここに良い覚えがないでしょうから無理に帰ってこいとは言わないけど……」
「嘘をついてごめんなさい……。えっと、ところでなんでバレたの?Vtuberとか興味あった……というか、存在知ってたの?」
Vtuberは割と最近のコンテンツだ。配信者の中でもかなり特殊で、ようやく地上波に進出してきたといえども、関東住みなら東京や主要都市でキャンペーンで看板があったりディスプレイに出ていたりするだろうが、福島でも田舎の両親がどこで知ったのか疑問だった。
ネットが発達したとはいえ、近くにアニメショップなどもないのでそもそも取っ掛かりがなく、サブカルに疎そうな両親が知る要素はどこだろうと思っていた。
「Vtuberはほら、真紀の前職がゲームデザイナーだったから真紀のゲームやってたのよ。そこで案件?だかで配信をしてたでしょう?だからそういう人たちがいるのは知ってたわ」
「ああ、そっか。そういう……。エクリプスの先輩たちも案件受けてたから、そこからなんだ」
「でもあなたを知ったのはこっち」
母親のスマホから見せられたのは前職とは全く関係のない歌動画。投稿したら様々な要因があったものの、バズって話題になった最近の歌ってみた動画だった。
これがどう繋がるのだろうかと思っていたが、ここで父親が口を挟む。
「お前、家族3人でこの『スターロード・イルミネーション』が歌われたクリスマスライブに一緒に行っただろう?俺と母さん、普通にあの事務所のファンだからな?」
「……ああっ⁉︎」
彼女がまだ高校生の時、高校生活もとんでもないことになってしまった娘のためにどうにかチケットを3枚当てた両親と一緒にクリスマスライブに行った。真紀は知っている曲は少なかったが、キラキラしたアイドルが歌って踊る姿に心が癒されたのを覚えている。
どうにもこの曲が印象に残っていたのは実際に生で見ていたからだった。家のTVの脇には当時のBDが置いてあり、それ以外のライブBDやCDも大量に置いてあった。
両親の出会いは宮下紗沙のライブで知り合ったファン同士というもの。今や事務所の社長になっているのだから、彼女の事務所のライブも追っかけていた。
水瀬が知っていたのは純粋に動画サイトで話題になっている曲だからという理由だが、真紀はとんでもない学生生活を救われたから印象に残っていたのだと思い出した。今まで忘れていたのはその後の学生生活も割と最悪で、良い思い出が塗り潰されていたからだった。
要するに両親は珍しく許諾が取れた歌ってみたを興味本位で再生したら良く知る娘の歌声が聞こえてきたのだ。すぐに他の配信を見て確信して、二人で話し合って呼び出すことに決めた。
「いくつか配信を見たけど、楽しそうに配信をしてるみたいでひとまずは安心したよ。食べていくには困っていないか?」
「お給料、結構良くて。生活する分には全然苦労はないよ。自由な時間も結構あるから、残業いっぱいだった頃と比べたら精神的にも肉体的にも、かなり楽」
「楽って言ってもなあ……。毎回毎回深夜から朝までやってるじゃないか。一回生配信を最後まで見ようと思って後悔したぞ。完全に昼夜逆転してるじゃないか」
「うっ。ゲーム会社の頃、納期を守るためにデスマーチとか続けてたら夜に寝れなくなったんだもん……。通院して不眠症って診断されたけど、もう治って今はちゃんと6時間以上寝られるんだからね⁉︎」
「不眠症になってるなんて……。前の会社は辞めて良かったと思うよ。評判とか諸々、不味いことになってるから」
真紀が前勤めていたゲーム会社はゲーム事業から徐々に撤退。技術屋もデザイナーもどんどん辞めていきノウハウが消えて、昔のデータがスパゲッティコード状態になり、どうやって過去の状態に戻せるかわからなくなりゲームが破綻。
クリエイターがいなくなって新しく創ることができなくなったので、赤字を吐き出し続けるだけのゲームからは撤退した。ゲーム会社がそんな状態でどうやって経営をしていくのかわからないが、今表になっているゲーム関連の事業はなくなっている。
裏では何か企画が進行しているのかもしれないが、情報が出ていないために実在するのかもわからない。ソシャゲからは完全撤退しているので、仕事があるのかという状態だ。
「途中から酷くなったの?最初の内はずっと楽しいって言ってたじゃない」
「ああ、最初はね。でも途中で、魔女が入社してきたの。それから右肩下がりの現場知らずのオーダーばかりになって総崩れって感じ」
「……あの子が、入社してきたのか?大学を卒業して?」
「そう。直接関わることは少なかったけど、悪い噂が社内で飛び交って。酷い状態だったよ」
家族には魔女の隠語で伝わる。真紀を幼少期から虐めていた地元では大きな会社の社長令嬢。地元での権力は相当なもので、次はすわ議員か、なんて噂も流れていた人物の娘だ。
彼女のやりたい放題に誰も逆らえず、むしろ大人がぺこぺこする始末。そんな増長し切った彼女は、1つのゲーム会社をものの見事に潰してしまった。
「あの子の実家の建築会社、倒産したぞ?」
「……は?え?倒産、したの?」
「なんだか建物の安全基準を守らない建築を100件以上担当してたとかで……。欠陥建築をやってボロ儲けしてたとかで半年前に倒産したぞ。経営陣は逮捕」
「……なんか、一族揃ってロクデナシだったってこと?」
「そういうことだな」
別に胸がスカッとしたとかそういうことはない。あれだけ偉そうにしていたのにズルしてお金を稼いで、最後はその欺瞞がバレておしまいだなんて。
真紀は虐めてきた一族が困ることよりも、数多くの人々が欠陥建築によって困ることの方を心配した。住居にしても職場にしても、何かあったら崩れるかもしれない場所で生活を続けることは困難だろう。
ざまあみろ、よりもやってることがヤバすぎてドン引きしていた。困惑の感情の方が大きかったとも言える。
どうでもいい一族のことは置いておいて、どうしてVtuberになったのだとか、生活の感じを確認された。一人娘が転職して、しかもそれが芸能界にも似た業種だ。心配になるのも仕方がないことだ。
生活が安定していることを知った両親は安心した後、母親が唐突にある事柄を突き刺す。
「ところで真紀、あなたリリちゃんが好きなの?」
「ぶっ!……お母さん、Vtuberには恋愛営業っていうのがあってぇ……」
「カップルのフリをするってやつ?それにしてはあなた、誕生日配信辺りからリリちゃんに随分と甘えてるように見えるんだけど……。それに同期3人で2人が恋愛の真似事してたらもう1人が仲間外れになっちゃわない?芸能事務所がチームとして売りに出しているのにそんな露骨なことするかしら?」
「う、うぅ……」
母親からの一々ごもっともな指摘に真紀は何も言い返すことができなくなっていた。
誕生日配信のちょっと前に救われて、好きになって。本人的にはそれを表に出すつもりは毛頭なく、隠しきれているつもりだった。エクリプスのライバーが配信上で弄るのはそういう売り方もあるよというだけで本気ではないと思っていた。
裏での弄りは確信を持ってやってくるので手に負えないのだが。
「真紀が恋愛かあ。そんな余裕、地元にいる時はなかったのに。でも東京に行ったら流石に好きな人の1人くらいはできたのかな?親としてそこまで首を突っ込むつもりはないけど……」
「……」
「あれ?真紀?」
「もしかしてリリちゃんが初恋?あなた、よっぽど恋愛音痴だったのねえ」
「親から恋愛音痴なんて言われたくないんだけど⁉︎専門学校は覚えることたくさんで、2年間しかなかったし、就職してからは仕事が忙しかっただけだから!」
「ってことはリリ君が初恋かあ。同じ事務所の子というのは、どうなんだろうね?配信を見ている感じとても感じの良い子だとは思うけど」
「真紀、写真とかないの?お母さん真紀が面食いかどうか知りた〜い」
「面食いって死語じゃないかな……?」
真紀はプライバシーとか、Vtuberの身バレ防止のために絶対に他人に漏らさないことを条件にFORで撮った3人の集合写真を見せた。それを覗き込んで、母親は爆笑。
「娘が面食いだったわ‼︎えー、ヤダー!すっごいイケメンくんじゃない!俳優さんみたい!背も高い……いえ、これあなたたち2人がちっちゃいのね?水瀬ちゃんも可愛いー!この子現役女子高生だっけ?若いだけじゃなく本当に可愛いわ〜。撫でくり回したい」
「お母さん、案外皆の配信見てる……?」
「いやー、今の男の子は若く見えるなあ。リリ君は20後半くらいかい?あれだけ落ち着いた話し方ができるんだからきっと人生経験豊富なんだろう?最初の炎上も軽くいなしてたし」
「……?リリくん、歳下だよ?今年21って言ってたかな?」
「「……え?」」
母親が鋭いことを言い、父親が頓珍漢なことを言ったので真紀が修正する。どこから歳上という話が出てきたのかわからないと首を傾げていると両親も首を傾げていた。
そして母親が机を叩きながら真紀の方へ身を乗り出してきた。
「リリちゃん歳下なの⁉︎え、歳下の可愛さにやられちゃった感じ⁉︎なにそれ、ウチの娘可愛いが過ぎるんだが⁉︎ちょっとどこに惚れたのよ!やっぱり顔?それとも性格?なんかふとした拍子に可愛いって思っちゃった⁉︎」
「お母さんノリノリすぎて怖いんだけど⁉︎」
「やっぱりあれかしら、初めの頃ちょっと暗くなってたところを助けてもらっちゃった⁉︎あれから随分と明るくなったものね!歳下の包容力に撃ち抜かれたの⁉︎そうなのね⁉︎」
「最近わたしのこと知った割には詳しすぎない⁉︎」
「切り抜きとか見たし、あなたの名前で調べるとサジェストにリリちゃん出てくるわよ?そこでファンの考察ブログとか見て2人のカップリングについて真剣に議論している場所とかもあるわ。それを見て実は付き合ってるんじゃないかなって」
「え、え?ファンにもそう思われるくらいに露骨だった……?」
「何かの大会の後の飲み会?がすっごい良くて、あの距離感はもしやってなったそうよ?」
「あっ、ああ……っ⁉︎だってあれは、リリくん酔ってたから!あんなの妄言もいいところなのにぃ!」
母親の考察のトドメに出されたFPS大会後の事務所総出での飲み会を言われて、真紀は顔を真っ赤にして机に伏せた。
リリ側も結構とんでもないことを言っていたし、その発言に慌てていたのも事実。そしてその次の日に真紀から告白した、割とターニングポイントな配信だった。
それを親に知られて弄られるなんて、どんな罰ゲームだ。
「で、リリちゃん側はどうなの?アプローチはちゃんとしてる?こんなイケメンくんだと引く手数多よ?他のライバーさんはリリちゃんのこと狙ってないの?」
「そんな人は、いないはず……」
「リリちゃんは歳上OKなのかしら?いやー、楽しみ!進展あったらぜひ教えてね!」
「絶対教えない!」
「えー、ケチ!」
それから真紀は3日ほど、実家でゆっくりと過ごす。
その間母親からずっとリリのことで弄られ続けて、まさか家族全員でFPS大会お疲れ様会を見ることになるとは思わなかった。
ちなみに社長たちと飲んでいたリリは久しぶりに岩槻社長と飲めたことが嬉しくて、帰れないほどではないものの酔っ払ってしまった。その姿を神奈社長に写真を撮られてライバー全員がいるチャットにアップされた。
たまたま通知の瞬間を母親に見られて、酔っているリリの姿が真紀の母親に見られてしまう。
「こういうところを見たら年相応なのかしら?こんな子がタヌキの姿で配信してるなんてねえ」
「まあ、色々あったみたいだから。お酒で誰かに溢せるのは大事なことじゃない?」
「それもそうね。画面の奥ではこんな感じで酔ってたのかしら。Vtuberって不思議ね」
「中の人を知ってその反応もどうかと思うけど」
「声優さんとあまり変わらないでしょ?中の人の姿を見てもキャラクターはキャラクターで、リリちゃんはリリちゃんじゃない」
「そういう割り切りができる人は多くないんだよ。だからわたしたちは姿をできるだけ隠すんだから」
Vtuberの中の人が身バレしたら夢を壊されたとかで炎上することが多い。だからライブやスタジオでの収録の際には関係者各位はかなり慎重に取り掛かる。
中の人の姿を知ってなお肯定的な天海家は中々に特殊な家系だった。