元俳優、タヌキVtuberに転生する   作:桜 寧音

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今流行りのゲームを『ぽけけり』で遊んでみよう!【案件配信】

 オリンピックがどんどん進んでいく。早い種目だともう決勝戦まで行われたり、まだまだ始まったばかりの種目や、始まってすらいない種目もある。

 野球では日本代表がしっかりと勝利。点差も開いての完勝というやつだった。応援実況配信をして日本の選手は解説をしながら応援をしていたわけだが、推しの選手である萩風さんが出ていないことが悔やまれたものの勝ったためにこれからも出場の機会はありそうだ。

 オリンピックの野球は一発限りのトーナメント形式ではなく、ブロック予選式。ブロックごとに上位2チームが勝ち上がり、そこからは一発限りのトーナメントに移行していく。初戦を白星スタートにできたのは幸先が良い。

 初戦はなんと、V事甲でドロッセル先輩が育成している、オーフェリア先輩の基となった篠原さんが先発投手として登板した。本来ならDHという投手の代わりに野手が打てる制度があるのだが、それを使用せずに篠原さんはそのまま打者として打席に立った。

 このことにSNSでは「JAPANはcrazyだぜ」と言われていたがその篠原さんが4打数2安打2打点と大活躍。DH制度を使わなかったのに打ちまくって勝ったことで日本の野球のレベルが高いと世界に知らしめていた。

 前々から国際大会で優勝したりしているのだが、昨今国の野球の上手さの指標がメジャーリーガーを選出した人数になっているため、相対的に見たら日本人の比率が少ない。たとえ海を渡ってもメジャーでは活躍できず、マイナーでずっと戦っている人もいるくらいだ。

 一部トップ層がおかしかったり、それこそシーズン記録保持者やサイ・ヤング賞受賞者、野球殿堂入りをしたような日本人がいようと、世界的に見たらトップではなくあくまで上位くらいの印象らしい。

 結構世界大会で勝ち上がってるからその印象を知った時驚いた。連日ニュースで大リーガーの活躍を報道していても、あくまで個人の活躍であって国そのものはそうでもない評価なのだろう。

 

 今回相手はかなり強いキューバで、ブロック予選の中では事実上の決勝戦と言われていたのに快勝だったのだ。日本人はこの結果に活躍した選手のことを褒め称えて「世界に〇〇がバレちまった!」と発信していた。

 良いなあ。俺も萩風さんの名前を入れてそう発信したい。

 世界大会ともなると面白い采配が見られることでも有名だ。投手に球数制限がかかるので先発投手による完投はまず無理。となると二番手投手がロングリリーフをするのだが、普段だったら球団のエースだったりする人が中継ぎとして出てきたりする。

 初戦で一番話題になった起用法は「3番ファースト宮下智紀」だろう。トレンドに「ファースト宮下」が入り込んでいた。本来投手の人をクリーンナップ起用、しかも野手や打者として出る時は外野かDHの人だ。

 ファーストなんて今まで守ったことがないはずなのに、しっかりと守っていて驚いた。鋭い打球も難なく捌いていて、この人は何ならできないのだろうと思ってしまった。

 5打数3安打1本塁打3打点とメジャーリーグで活躍している選手なだけに大暴れ。これを見た後のSNSは大なり小なり出場していた選手の名前が飛び交っていたが、とりわけ宮下さんともう一人の同年代メジャーリーガー羽村さんの話題が多かった。羽村さんもホームランを打っていたために、今メジャーリーグで脚光を浴びている選手は違うなとコメント数が凄いことになったらしい。

 『宮下にファーストのサブポジとか実装したら野球ゲーム壊れる』『コンマイ、見てるか?次のアップデートよろしく』『今メジャーで3冠王を競ってる羽村ってやっぱおかしいよ……。前半戦終了時点で28本って60本ペースなんじゃが?』などなど。

 2戦目は宮下さんが先発投手を務めて、なんと球数制限までパーフェクトピッチング。宮下羽村バッテリーはヤバいと国際大会のたびに言われていたが、次元が違うという言葉がしっくりくるほどの結果を残していた。

 今日は試合がないので応援配信はなし。明日のブロック予選最終試合の結果で勝ち上がりが決まるが、今の勝ち星と得失点差から日本は確実に1位通過。明日の観戦は穏やかに見られそうだ。

 朝配信で雑談配信をした後、俺は事務所のスタジオへ移動していた。今日は案件配信があるのでスタジオに行かないといけない。ついでに事務所へ提出物を置いていって案件について直前の打ち合わせをして案件に備える。

 今日は男だけの配信だ。

 

「ぽけけりユニット結成記念!セブンスターズ案件配信〜!」

 

「「「わ〜」」」

 

「え、微妙にテンション低くね?ユニット結成記念なんだからもっと盛り上がろうぜ!」

 

『ポラリスだけテンション高いのな』

『残りの3人ってテンション爆上げ、ってタイプでもないし』

『ユニット名は安直だと思うでやんす』

『その語尾は流行らせない。絶対にだ』

『わかりやすい括りではあるな。同期以外でユニット名付くのってエクリプスだと案外珍しい?』

 

 ポラリス先輩の司会進行で案件が始まる。適当にパチパチと拍手をしたが、ポラリス先輩的には不満らしい。体育会系のノリをここで求めるのも違うだろう。俺も体力作りとか諸々を考慮すると文化系よりは体育会系だけど、そこまでハイテンションにはなれないなあ。

 メンバーはポラリス先輩にケイン先輩、KP7先輩に俺。

 ユニット名は全員の頭文字を取るという、安直なもの。「ポ」ラリス、「ケ」イン、「K(ケー)P7(ピーセブン)、「リ」リからとって「ぽけけり」だ。ひらがなの理由はそっちの方が幼女感が出ていいとポラリス先輩とケイン先輩が譲らなかった。

 女児受けを狙う男性が2人もいたことにびっくりだ。KP7先輩が先輩相手とか関係なくゴミを見るような目をしていたのが印象的だった。俺はノーコメントで受け入れただけ。多数決とか面倒だし、ユニット名で揉めるのも馬鹿らしいと思ってそのままにした。

 この4人で活動する時にこの名前を使うだろうけど、今のところ歌ってみたの投稿なども予定はなく、集まったら名前を使ってみるか、くらいの軽いノリではある。

 

「んじゃあ自己紹介からいくか。『ぽけけり』のぽ担当!皆の頼れるボディーガードのお兄さん、ポラリス・コットンガードだぞ!『ぽけけり』で集まったら基本まとめ役をやるんでよろしく!」

 

「よ、年長者」

 

「面倒なのは全部任せたぞ、先輩。好んで引き受けてくれるなら助かる」

 

「キヌ雑!ケピナも面倒から解放されてラッキーみたいな声で返答すんな!」

 

『まあ、ポラリスでいいんじゃない?(適当)』

『頼れるかどうかは時と場合による』

『ボケ3ツッコミ1とみた』

 

 なんか男性陣って大抵女性陣の面倒を見ているというか、まとめ役をやらされているから男性だけで集まると途端に奔放になる気がする。まとめなくてもダラダラとした雰囲気で話が進むので無理して流れを作らなくていいというのは楽なのだ。

 その中でも最低限の流れを作ってくれるポラリス先輩はありがたい。こういう案件配信でずっと雑談をしているわけにもいかないのでストッパーは必要だ。タイムキーパーとも言う。やらなくて良いのならやらずにお任せする。

 

「続いてワタシですね。『ぽけけり』のけ担当、あらゆる未解決事件を解決してきた名探偵とはワタシのこと!将来は探偵事務所を開こうという所存です。音無ケイン、風邪から復帰したぞー!」

 

「体調管理しっかりしろー」

 

「なぜコラボで風邪を引いたからと私も怒られなくてはならないんだ。このマヌケ先輩が」

 

「この前の模型部コラボで弄られたのでその分も働いてくださーい」

 

「全員棘があるネ⁉︎身体よわよわもやしっこなんだから無理を言わないでください!」

 

『復帰おめ』

『体調管理はそれはそう。自業自得だろ』

『マヌケw先輩wケピナって結構毒吐くよなw』

『もやしっこ自称すんな』

 

 夏風邪を結構拗らせたらしいケイン先輩は復帰後初配信がこの案件配信だ。この案件もパスかと思われたが、3日前くらいに立ち直って安静にしてから復帰。

 シーズンごとに体調を悪くしているのでもやしっこを自称するのも仕方がないのかもしれない。大学の長期休みを結構無駄にしているのだとか。あまり運動とかしないらしいし、見るからに痩せて肌が白いから見るたびに心配になる。

 イソラ先輩は彼を見るたびに食えと口に肉巻きおにぎりなどを突っ込むらしい。同期だからこそだけど容赦がない。食え、食わないと殺すとまで言って栄養が付くものを食べさせているようで、エネルギーチャージやエナジードリンクなどを食しているとイソラ先輩はブチギレるらしい。

 心の声がわかるからこそ、自分を大事にしていないケイン先輩に怒るのだろう。手のかかるクソガキと裏では言っているのを知っている、というか聞いた。配信ではそんなことを言わないが、SNSなどでしょっちゅうちゃんとした生活をしろと怒っている。

 ドロッセル先輩もコウスケ先輩の扱いに手を焼いているからか、2人は結構意気投合しているらしい。手のかかる同期相談室という配信をやっていたのを見た。手のかかる方向性が違いそうだけど困っているのは本当だろう。

 前の模型部配信の準備中に同期が全員変人で大変だと言っていた。あの人もかなり変人だけど口に出さなかった。今思えばそう思ったこともバレてるのか。

 

「不肖ながら『ぽけけり』のK担当のKP7だ。『け』じゃなくKなのでよろしく」

 

「オイッ⁉︎そうしたらEはどこから来た!そうしたら『ぽけK(けい)り』で語呂が悪い!」

 

「足並みは揃えましょうよケピナ君!ケピナって呼ばれることが多いんですから、『け』も受け入れましょう?」

 

「ひらがなの理由を懇切丁寧に説明しようか?先輩方」

 

「「すみませんでした」」

 

 降参するのはやっ。そんなに女児受けを狙ったことは隠したいのか。

 女児受けはせずとも、素の状態で女性人気はあるだろうに。比率は聞いたことがないが女性リスナーは割と多いのがエクリプスの印象だ。男性しかいないグループみたいに女性率が9割とかみたいに偏ってはいないものの、公式の見解から女性リスナーが4割近いことは知っている。

 動画サイトのアナリティクス機能で調べた結果、結構男子向けの配信ばかりやっている俺ですら女性の割合は3割ほどいる。女性人気が高いと聞くポラリス先輩ならそれ以上の女性率を誇っているはずだ。

 ケイン先輩は前出掛けた時に女性率が低いと嘆いていた。エクリプスの男性陣では女性率が高いのはゴートン先輩とKP7先輩のツートップらしい。ゴートン先輩は包容力があるし、KP7先輩はクール系正統派イケメンだ。

 そりゃあ、女性人気にも火が着く。

 

「最後に『ぽけけり』のり担当、絹田狸々です。僕は『こおせき』で鉱物の『鉱石』が良いんじゃないかって提案したんですけど、『お』と『う』が無理矢理過ぎてケイン先輩が可哀想ということで却下されました。よろしくお願いします」

 

「名前の変更は却下!なんて恐ろしいことを提案するのですか、リリ君!それではワタシは『うとなしケイン』になってしまう!」

 

「烏兎なし、はエクリプスにピッタリでリリの教養の高さに驚いたが。気になるリスナーは鳥と兎で烏兎を検索してくれ」

 

「いや、そんな意味を知らずに偶然一致しただけですよ?」

 

『リリのネーミングセンスもどっこいどっこい。これは作詞の才能がないと自虐するわけだわ』

『うとなしケインwww改名するVtuberもたまにいるけど漢字どうするねん』

『教養?なんのこと?』

『烏兎とは。太陽と月のこと。これがない、つまり『烏兎無』は日蝕や月蝕を指す。eclipseはそのまま日蝕、月蝕のこと。要するに『烏兎無ケイン』は『エクリプスのケイン』、事務所の代表ということになる。……このもやしっこが?』

『教養ニキ解説ありがと!最後に自我出てる‼︎』

『ほえー。もう改名しちまえよ、ケイン』

『作詞の才能がないとかナマ言ってすんませんでしたっ!』

『これに行き着いたリリとKP7ってもしかしてVtuberの中ではかなりの教養人……?』

『まるでVtuberに教養がないみたいな言い方するじゃん?』

 

 俺は語感で全員の頭の言葉を選んで良い感じにならないかなと思っただけで、烏兎無は偶然だ。コットンガードの「こ」、音無の「お」、KP7の「せ」、絹田の「き」でたまたま鉱石に近くなったから提案したらKP7先輩が驚愕していきなりリリって天才か?なんて言い出したからこっちが驚いた。

 烏兎なんてすぐに変換されることといい、烏兎無になることでエクリプスに繋がることといい、その頭の回転の方が天才のそれだと思うのだけど。

 

「自己紹介が済んだところで案件の紹介をしていくか。今回の案件は主にボードゲームを開発することを生業としているセブンスターズ様の依頼になります。企業の紹介と一緒に、最近発売されたボードゲームを4人でプレイしていく感じだな。じゃあ、スライドお願いします」

 

『ほうほう。ボードゲーム』

『ボードゲームは敷居が高いのよなあ』

『わかるわかる。対面で人と会わないといけないからそもそもぼっちの俺たちには、ね』

『は?ぼっちちゃうし。友達なんて、100人いるし!』

『連絡アプリの連絡先の数じゃないだろうな?それなら俺も公式アカウントを登録しまくってるから友達100人いるわ』

 

 今回は企業様が用意してくれたプレゼン用の資料を元にポラリス先輩がセブンスターズという会社について紹介をしていく。

 神奈川に本拠地を置く会社で、主な業務はボードゲーム開発ではあるが、作成したボードゲームの大会を開いたり、オンラインゲーム化なども手掛けているらしい。多種多様なことに手を広げているようで、たまに百貨店などでテストプレイによる実演販売もしているのだとか。

 ボードゲームで賞も受賞しているらしく、界隈ではかなり有名なゲーム会社のようだ。

 面白いなと思ったのが、様々なゲーム大会の審判として派遣を行なっている業務。自分たちの会社が開発したゲームではなく、他社の開発したゲームの審判やイベントスタッフなどとして派遣されることが多いらしい。この業界、どこも人手不足なようだ。

 ケイン先輩がぶっ込んで儲かるんですかと聞いたが、値段こそ言わないものの貴重な収入源だと今日のゲームマスターを行なってくれるセブンスターズの本多さんから苦笑い付きで回答があった。TCGの大きな大会などでも呼ばれるようで、そういう場所で新たな発想を得たり、対面ゲームで必要なことを学ぶらしい。

 新入社員は結構この派遣をさせられるようで、類似経験から今後の業務に活かしてほしいと学びの場として行かされるようだ。

 ボードゲーム業界の事情も聞きつつ、今回のゲームの説明をしてもらう。今回やるゲームは「crazy criminal confusion」。「狂った犯人の混乱」が直訳で、セブンスターズさん的にはCCCの略称で売り出したい商品のようだ。

 必要なプレイヤー数は3~7。人数調整がしやすいゲームで、プレイヤーが8以上だと収集がつかないようで7までとなったようだ。ここにゲームマスターを1人足してゲームは成立するらしい。今回は本多さんをゲームマスターにして俺たち4人がプレイヤーの5人体制で試遊する。

 

「簡単な話が犯人探しのボードゲームです。今画面に表示されている赤色の犯人カード。これを持っているプレイヤーを見つけるゲームです。商品のセット内容には予備カードも込みで犯人カードは2枚入っていますが、ゲームをプレイする時には必ずこのカードを1枚だけ使うようにしてください」

 

「つまりワタシ向けのゲームということですね!ワタシのおかげできた案件では?皆さん、そういうことですよね⁉︎」

 

「え、マジで言ってる?」

 

「いつもの迷いっぷりを思い出せ」

 

「宇宙人狼の実績からそれは可能性が低いかと……」

 

「名探偵が信頼されてないのですけれど⁉︎」

 

「ああ、いえ。音無さんがいたのでエクリプスの皆さんに案件を提出させて頂きましたよ?」

 

「ほらぁ!皆ワタシに謝って‼︎」

 

 ええ、うそぉ。誰も信じていなかったのに名探偵だからというのが理由だったなんて。全員否定したのに本多さんが肯定してしまったからか、ケイン先輩の鼻が高々だ。

 その直後、ケイン先輩は地獄に叩き落とされたのだが。

 

「宇宙人狼は何回か拝見させて頂きましたが、どうやったらああも自陣営を負けに導くことができるのか社員の中でも疑問で……。一応社員で検証をしましたが、著しく運がないことと、視野が狭いのではないかと。この名探偵なら自分たちのゲームでおそらく自爆してくれるだろうと選ばせて頂きました」

 

「自爆前提⁉︎全く褒められてなかった!」

 

「んなところだろうと思ったぜ」

 

「良かった。まともな企業だった」

 

『まあ、実績がね』

『3Dお披露目ではそれなりに名探偵に見えたのに』

『あれはセットの力も大きい』

 

 全員容赦がないな。俺はノーコメントで。

 説明を聞くと、どんどん手札を使っていって犯人を探すゲームらしい。犯人を探し当てるか、手札が最後の1枚になるまで犯人カードを所持していたら犯人の勝ちらしい。犯人に逃げ切られる前に相手を見付けろという、それだけならシンプルなゲームだ。

 ターンプレイヤーは手札のカードを使うか、手札のカードを1枚捨てて誰かに「あなたは犯人ですか」と聞くことができるらしい。それで犯人を見付けられたら勝ちなので、犯人じゃない人はできるだけ協力して犯人を割り出さないといけないらしい。

 最初に全員が一巡するまでは犯人を聞くことはできないようで、二巡目になったら犯人探しが解禁される。犯人を言い当てられたとしても、手持ちのカード次第ではその詰問を躱わすことができるらしい。

 あと犯人カードは絶対に手札から捨てることができないらしい。ババ抜きのジョーカーみたいだ。最初に手札に犯人カードがあった人がずっと犯人とは限らず、カードの効果で手札交換などもできるようだ。だから犯人が混乱すると。

 そして最終ターンでは犯人指名もできないようだ。順番が最後の人が犯人カードを持っていたら指名連打で勝ててしまうため、全員の手札が1枚になった時点で全員がカードを開示。そこで勝敗を決めるらしい。

 ババ抜きの特殊効果あり版、みたいな認識で良いかもしれない。

 

「では山札の内訳を説明しますね。まず犯人カードが絶対に1枚。そして『crazy』カードがプレイヤー人数マイナス1枚入れます。なので今回だと4-1なので3枚入れます」

 

「『crazy』カード?ってなんです?」

 

「こちらも画面に見せて説明しましょう。今見せているものは『crazy』カードのブランクカードなので説明は何もありませんが、右上にcrazyと赤字で書いてありますね?これはかなり強力なカードで普通のカードよりも特別な効果があります。それを使うも捨てるもあなた次第。投入するカードはゲームマスターが選べます。セット商品の中には10枚あるので、ここから好きに選ぶ形です」

 

「はあー。そういうところでゲームマスターも楽しめるようになってるのか。よくできてるなあ」

 

 ゲームマスターってあくまでゲームの進行を補助する人だと思ってたけど、やろうと思えばゲームの支配もできるのか。そういう遊び心を取り入れているのは、全員が楽しめるようにという配慮から産まれたのだろう。

 TRPGとかではゲームマスターが介入できることが少ないこともあるらしい。人狼などをボードゲームでやると本当にただ進行をするだけの人だ。そういう役割が好きな人もいるんだろうけど、今回のゲームは作った人と見守る人も楽しめるようにと設計されているようだ。

 

「そして最後は通常カードを1人に対して4枚ずつ。今回だと16枚ですね。ゲームマスターが通常カードの山札から16枚抜いて、残りのカードも合わせてシャッフル。山札から選ぶ方法はゲームマスターに任せます。このカードを使った試合が見たいと思ったらそのカードを多めに入れたり、それこそ山札をシャッフルしてランダムで選んでもよし。ゲームマスターが介入できる数少ないポイントなのでここを楽しんでください。今回はランダムでいきます」

 

『犯人カード以外は割とゲームマスターで整えられるわけか』

『カードの効果次第で塩試合にも神試合にもなりそうだな』

『普通にプレイするなら全ランダムが無難か』

 

 本多さんが慣れた手つきで試合デッキを構築し、シャッフルする。その手際の良さに感嘆の声が漏れてしまった。カードゲームをやっているからこそシャッフルの美しさに感動してしまった。

 デッキができたら席順を決める。最初ということでデビュー順に座ってポラリス先輩、ケイン先輩、KP7先輩、俺の順番だ。席に着いたらカードを1枚ずつデッキから引いていく。5枚一気に引くのもアリなようで、引き方はプレイヤーに任せるらしい。

 おや、いきなり犯人カードが来た。しかも『crazy』カードもある。なになに?『「窮鼠猫を噛む」。このカードが最後の1枚の場合、犯人カードを持っていたプレイヤーを強制敗北にする。このカードは他のカードの効果を一切受けつけない』?これ犯人カードと一緒に持ってても意味ないなあ。

 しかも今回の場合、俺は手番の一番最後だ。これの効果が使える時には試合が終わっている。今回は申し訳ないけど捨て一択な気がする。

 あえてこのカードを他の人に渡して負け確定演出をするのも楽しいかもしれない。

 他のカードの効果も読んでいく。通常カードは効果があったり、効果のないカードもあった。カードを渡す効果のカードとかは最後の1枚にはできないと注意書きがあるので、効果のないカードを持ち続けるのも案外大事かもしれない。

 このゲーム、結構戦略性があるぞ?

 今回はポラリス先輩の手札が配信画面に公開されるらしい。ここからは配信画面を見られないのでコメントも見られない。

 

「では皆さん、カードの効果は読み終わりましたかね?ポラリスさんからターンを始めてください」

 

「おっし。じゃあまず『横流し』のカードを使うぜ。右隣の人にカードを1枚渡す。ほれ、キヌ」

 

「これって全員同時に渡した方が良いんですかね?」

 

「そうですね。全員渡すカードを決めてからカードを受け取ってください」

 

 俺が確認を本多さんに取ってから、ケイン先輩の前にカードを置く。全員渡す人の前にカードを置いてから自分の前にあるカードを受け取った。『横流し』で『横流し』のカードが来たんだけど。

 

「次はワタシの番ですね。じゃあ今ケピナ君から貰ったカード、『紛失』を使いましょう。全員手札を1枚トラッシュです。これってワタシも?」

 

「全員なので音無さんもですね」

 

 捨てる系のカードもあるのか。これ、最後の1枚の調整が難しいかもしれない。俺は貰ったばかりの『横流し』を捨てる。とはいえ、捨てるカードは裏返しでいいようで、誰が何を捨てたかまではわからないようだ。

 これで『crazy』カードを捨てる選択肢もあったけど、まあいいや。配信者として撮れ高を意識するあまり、逆転カードが使われたら面白そうだなと思ってしまう。

 

「じゃあ私の番だな。『交渉』。対象のプレイヤーと手札を1枚交換する。相手は拒否もできる。対象はリリだ」

 

「僕ですか?うーん……。受けます」

 

 『窮鼠猫を噛む』を渡す。俺に来たのはまた『横流し』のカード。『crazy』カードを受け取ったKP7先輩はカードの効果をしっかりと読んでいた。

 俺の手番だけど、何を使うか。また『横流し』でカードの調整をするのはアリだな。

 

「じゃあ僕も『横流し』で。どうぞ、KP7先輩」

 

「1ターン目ってこんな感じだよな」

 

 運ゲーで犯人を言い当てられても困るからこその制限だろう。『市民』という効果のないカードをKP7先輩に渡す。これで全員手札が3枚になった。

 ハンデスがかなりきついな。ゲームのターンが短くなるから犯人カードを持つ俺としては逃げやすくなったのかもしれないけど、誰も犯人カードを見てないから疑いも始まるはず。

 ここからは犯人探しができる。俺としては防御カードがないから、ここで指名されたら負けだ。

 

「俺の2ターン目だな。指名で犯人探しもできるが、ぶっちゃけ情報が全然ないんだよなあ。ってことで『監視カメラへの工作』。出すだけなら効果はなしだ。犯人カードを持ってる場合、指名されても犯人カードを持っていない扱いにできるが、まあ意味のないカードだ。ほらほら、信用してくれていいぜ」

 

「監視カメラに工作ができる一般人とは」

 

「犯人以外だったらそれこそ犯罪では?」

 

「その辺りは突っ込まないでください」

 

 KP7先輩と俺の疑問に本多さんが名称にはツッコミを入れないでくれと懇願してくる。確かに言ったところで、という話だ。

 とはいえ、このプレイは上手い。俺が犯人カードを握っているからこそ白確定を宣言できたということだ。犯人カードを持っているならこんなところで無駄撃ちは絶対にしたくない。

 まあ、複数持っているからあえて空撃ちをするというプレイングもある。俺が犯人カードを持っているからこそ白陣営に協力しようと訴えているのはわかるのだが、捻くれ者はそれなりにいるものだからなあ。

 ちょうど、次の番の人とか。

 

「ふふふ。ミスをしましたね?ポラリス君。今日のワタシは勝ちに来ているのでね。そのプレイングで裏を掻こうとしたのでしょうけど、甘いと言わざるを得ない!手札を1枚捨てて、ポラリス君!あなたが犯人ですね⁉︎」

 

「いや、違うぜ?」

 

「ダニぃ⁉︎本当に邪魔だったから捨てた⁉︎」

 

「さすが名探偵」

 

「いや、KP7先輩。あれきっと演技ですよ。犯人カードを持ってるからあえて指名をして自分から目を逸す作戦です」

 

「頭脳派プレイはお手のもの、ということか。確かに人狼側の時は強いからな」

 

「なんか深読みされてる⁉︎」

 

「最初に深読みしたのはお前だぜ」

 

 というわけでケイン先輩の自爆特攻は不発。俺もケイン先輩へ誘導をしてみるが、この人ゲームで演技とかできないからなあ。多分誰も騙されてくれない。

 ケイン先輩は不発だったのが悔しいのか、テーブルを叩いてまで悔しがった。

 

「貴重な『crazy』カードを切ってまで指名したのに!」

 

「あれ?それは言っていいんでしたっけ?」

 

「本当は手札の内訳が若干透けるのでダメなんですが……。大会ではないのでその辺りは緩くいきましょう」

 

 どんな効果だったか知らないけど、危険なカードが使われなかったのならラッキーだろう。ここで勝ったら綺麗だったのだろうが、負けたのでカッコ悪いだけ。

 次のKP7先輩の番で、このマッチ初めての恐怖のカードが使われた。

 

「では『crazy』カードを使ってやろう。『マスターハンド』。効果は『ゲームマスターが手札の多いプレイヤーから順に、任意のカードをプレイヤーごとに1枚ずつカードを捨てさせる』。さあ、本多さん!面白いカードを全員から捨てさせてください!」

 

「つっよ⁉︎」

 

「待って、後生です!このカードだけは許して本多さん!」

 

「このカードを敢えて入れた本多さんならきっと真意を読み取ってくれるはず……!」

 

「ポラリスさんと音無さんは何を言っても、もう残り1枚なのでどうにもならないですねー」

 

「「ああっ」」

 

 俺たちの命乞いフェイズが始まってすぐ終わった。これは白陣営を勝たせるか、犯人を勝たせるかがかなりかかってくるカードのはずなのに、状況がそれを許さない。おそらくゲームマスターでも犯人カードだけは捨てられないので、俺には確実に犯人カードが残る。捨てられるのはどっちでも良いからこれで勝敗は決まった。

 手札交換系のカードもない。つまり俺の次にKP7先輩の手札を見て俺が渡した『窮鼠猫を噛む』を見れば勝ち筋を見付けてくれるはず!俺が負けるという勝ち筋を!

 本多さんが敢えて『crazy』カードを捨てるというプレイをしなければ俺が勝てる手はないんだ。

 俺の手札を見て、本多さんはカードを指定する。それを捨て場に置いて、KP7先輩の手札を見る。それで深く頷いた本多さんは多分あの極悪カードを残してくれたはずだ。

 全員分の処理を終わらせて、俺の番で犯人を指名する。というかしないと犯人側がどういう理屈でも勝ってしまう。ケイン先輩を疑ってみたが、当然のように犯人ではなかった。KP7先輩が勝ち確になるために『マスターハンド』の切り方が上手かったと言うべきだろう。

 これでゲームが終わりなために、全員が手札を自分の前に置いてプレイは終わりだ。

 

「あ〜〜〜。犯人に勝ち逃げされた」

 

「ケピナ君の手札調整のせいですよ。戦犯はケピナ君ですね」

 

「その言葉、覚えておこう」

 

「やっぱりどのゲームでもハンデスが最強ですね。予定が狂います」

 

「ではプレイが終了したので、全員カードを開示してください」

 

 一斉にカードをめくる。俺が犯人のカードを持っていたことにポラリス先輩とケイン先輩はなるほどねという表情を見せて、KP7先輩だけはその犯人カードを凝視する。

 俺が『窮鼠猫を噛む』を意図的に渡したのだから、渡した真意がわかったのだろう。あんなの持ってるだけで最終局面で捲れるのだから、渡す意味がほぼない。

 初回のプレイだからルールが把握できなかったと思うか、意図して渡したか。後者だと気付いたのだろう。

 

「キヌの1人勝ちかよー」

 

「いいえ?KP7さんのカードが効力を発揮しています。『窮鼠猫を噛む』ですね。KP7さん、効果を読んでくれますか?」

 

「『crazy』カードだ。効果は『このカードが最後の1枚の場合、犯人カードを持っていたプレイヤーを強制敗北にする。このカードは他のカードの効果を一切受けつけない』。つまりリリは豚箱入りだ!」

 

「禁断の『crazy』カード2枚持ち⁉︎」

 

「逆転⁉︎うおおおおお、ケピナナイスぅ!」

 

「そんなんインチキや!チートやチート!こんなん犯人狂ってまうで!」

 

「関西弁のリリも珍しいな。さて、戦犯とか言った人がいたようだが?なあ、ケイン先輩?」

 

「勝利の女神の言い間違いでした、すみません!」

 

「私は男だ。男神と言え」

 

 本多さんありがとう。あと、KP7先輩も黙っててくれてありがとう。

 ネタバラシは配信が終わったら裏ですれば良いだろう。

 初戦でゲームの所感を見せるという意味ではかなり良いチュートリアルだったんじゃないだろうか。最後の場面でもカード次第では逆転の要素があると知らしめたのは大きいだろう。

 あと1マッチが短い。10数分で終わるのでサクッと楽しみたい時にちょうど良いだろう。

 もう1回戦った後、人数はそのままにデッキの枚数と『crazy』カードの枚数を増やした『はちゃめちゃモード』なるルールで戦ったところ、『crazy』カードが猛威を奮って本当にはちゃめちゃになった。

 ゲームで遊ぶのはそこまで。最後にまたお知らせをして案件配信は終わる。

 

「セブンスターズさんの方でネット通販を受け付けているので、今日のプレイを見て気になった人は注文してみてください。セット商品の中にブランクカードもあるので、好きな効果を組み込んで遊ぶこともできるそうです」

 

「なんと、ブランクカード単品の発売もあるようです。ルールは同じで、ブランクカードだらけのオリジナルバトルも楽しめそうですね。これ、拡張性がかなり高いのでは?」

 

「そしてそして。都内と神奈川県限定だがセブンスターズさんが経営するボードゲームカフェがあるそうだ。そこに集まった人と一期一会の出会いを楽しみつつ、ボードゲームを嗜むのは如何か?場所と料金設定は次のスライドに。店頭販売もあるようだ」

 

 ポラリス先輩、ケイン先輩、KP7先輩の順に告知をしていく。友達がいない、都合が合わないということがあってもこのボードゲームカフェに行けばボードゲームが楽しめてしまうということ。

 そういう楽しみもあるんだなとは思ったものの、将棋クラブとか雀荘とか昔からあるからそういうものの派生系なのだろう。お酒も飲めるようで、写真を見るにバーのような雰囲気だ。高級感が溢れる店内でボードゲームを楽しむって、大人の趣味って感じ。

 最後の告知は俺から。

 

「最後に、この後セブンスターズさんがSNSで今回の振り返りの投稿をするそうです。それに返信をした人の中から抽選で10名様に、本日遊んだ『crazy criminal confusion』の商品セットと、僕たちが考案した効果カードを封入した特別おまけセットの同梱版をプレゼント!観賞用のサイン入りカードと、プレイ用のカードが分けられていて、全員分のカードがセットになっているようです。プレイ用のカードは後日ネット通販とカフェでの販売があるそうですが、サインカードは今回限定らしいのでお見逃しなく!」

 

『おお、プレゼント企画』

『10名は多いのか少ないのか』

『サインカード⁉︎』

『観賞用とプレイ用カード分けてくれるのわかってるぅ』

『あ、プレイ用カードは後日販売もあるのね』

『でもサイン入りカード欲しいぃぃぃ!』

 

 これが大本命だろう。カードの効果はこれから考えるので販売も配送もそこまで早くはないだろうが、サイン入りカードとかやったことなくて驚く。Vtuberもサインなんて書くんだなあ。割と大手はやっているようで驚いた。

 もう芸能人と大差ないんだなと。

 後日、俺たちの立ち絵も小さく着いた効果カードは売り上げも好調で、その効果が本人たちらしさが出ていると話題になった。俺は控えめの効果にしたのだが、ケイン先輩の『crazy』カードが酷い効果で、出禁扱いを受けるほど。

 拡張性はあるものの、ノーマルなセットが一番バランスがいいという結論になったらしい。さすが本職と称賛の声が多かったらしい。

 事務所にも1つ置いてあるので暇な時に誰かしらが遊んでいるらしい。スタッフさんたちが遊んでいるところにライバーが割り込むこともあるとか。

 

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