東京は結構花火大会が開催されている。地方に行くと小規模な花火大会をやっているか、県庁所在地での大きな花火大会があるかという感じだが、東京だとそこかしこで花火大会やら夏祭りやら盆祭りやらやっている。都外からも遊びに来る人は多そうで人がごった返すようだ。
今は特にオリンピックもあって観光客が多い。外国人も多そうだ。
今日は完全オフ日にした。FORで配信をしていたのは夜型の真紀さんだけで、その真紀さんも今日の夜は配信をしない。陽菜ちゃんも夏休みの宿題をするから今日は休むと伝えていた。配信の休みが被ることなんてよくあることだからファンは深読みして欲しくないんだけど、今日ばっかりはそれが深読みではなく事実なので何も言えない。
レンタル着物屋に行って浴衣を借りる。買っても次いつ使うかわからないために買わずにレンタルにした。濃い緑色の浴衣だ。浴衣もかなりの色があるようで、紫や赤などもあったけど浴衣としては無難な色にしておいた。目立つつもりはないので一般人も着るような色にしておく。
浴衣に肩掛けバッグくらいの簡単な出立ちで電車に乗って会場に向かう。先日3人でキャッチボールをした河川敷が会場で、規模的には中くらいだ。隅田川の花火大会のように良い席がチケット制になっていたり、転売が横行されているような大規模な大会ではなく自治体が開くようなそれなりの規模の大会らしい。
集合場所のコンビニに早めに着いてしまうと、やることもなかったのでお店を冷やかすことにする。ペットボトルで飲み物でも買おうかと考えて何かあったように飲む用ではない水を買ってお店の外で待つ。会場からちょっと離れたコンビニなのに浴衣を着た人が何人も前を通り過ぎていく。
カップルのように腕を組んだ男女がいれば、その一歩前なのか付き合いたてなのか少しオロオロしながら歩く男女。友達と来ているようで同性での何人かグループに、男女混合の集団まで。家族で来ていたりとバリエーション豊かな人たちが俺の前を通過していく。
ただ出店を楽しむ人、花火を楽しみにしすぎて早めに来た人。表情だけじゃ何もわからないが、人間観察は結構楽しい。俺も電車が混んだり何かあったら嫌だからと早めに来すぎたようだ。もう物を買ってしまったのでコンビニで涼んでいるわけにもいかずにコンビニの前で立っていたら知らない女性、いや女子2人に話しかけられた。
「お兄さん、もしかして1人だったりします?ウチらと一緒に花火行きません?」
「大学の友達がドタキャンしちゃって私たち2人しかいないんですよ〜。ちょっと寂しいからお兄さんが一緒だと嬉しかったり?」
……あ、これナンパか。まだそんな文化残ってたんだ。マッチングアプリとかが流行ってこういうのはなくなったものかと思ってた。一期一会の出会いを楽しむとかそういうのだろうか。
大学生女子となると、下手したら同い年か歳上の可能性もあるのか。丁寧に返した方がいいのかもしれない。
浴衣を着て1人で立ってるような人に見えたのか?待ち合わせしてそうだとわかりそうなものだけど。
「すみません。待ち合わせをしているのでお2人とは行けないです」
「えー、でもお兄さんずっと待ってません?待ち合わせに間に合わない人なんて置いてウチらと遊びましょうよ〜」
「この見た目で丁寧なのとか、すっごくいい……!お兄さん、連絡先交換しましょ!」
あー、めんどくさいパターンだ。こういうガツガツいく人が良いって人もいるんだろうけど、俺はなんか違うなあ。
別に大成もしてないのに既婚者に手を出した女を思い出すからかもしれない。
断ったので義理は果たしただろうと撤退して集合場所を変えようと思ったら、見覚えのある2人組がこちらに近付いてきた。助けてくれとアイコンタクトを試みると、2人はすぐにこちらに向かってきてくれた。彼女たちも浴衣を着ているために走れないが早足で来てくれた。
「お兄ちゃんお待たせ!待った?」
「待ってないよ、陽菜ちゃん。真紀さんもありがとう」
「ううん、こっちこそごめんね。……そっちの人たちは?」
「知らない人。絡まれただけ。行こうか」
陽菜ちゃんが腕を絡ませてきたのを良いことに真紀さんの手を取って離脱する。流石に追いかけてくる根性はなかったようだ。ああいう人たちは他に良い人がいたらすぐにそっちにいくんだろうし、気にするだけ無駄だ。
それなりに離れた後、陽菜ちゃんの方から腕を離す。
「ユーゴ君、ナンパされたの?やるー!」
「本当に勘弁してほしいんだけど……。浴衣を着てる時点でわかりそうなものなのに」
「だ、だよね。男女どっちでも浴衣なんて着てたら誰かと待ち合わせしてそうなのに……」
「これはあれだね!あたし考案の秘密作戦を決行する時が来た!ユーゴ君と真紀ちゃん偽装カップルね!で、あたしはユーゴ君の妹!コブ付きデート大作戦!」
「──ほう?元俳優にエチュードをやらせると?乗った。行こうか、真紀さん」
「え、本当にやるの⁉︎友達で遊びに来たじゃダメ⁉︎」
そういうのを求められているのなら仕方がない。恋人と妹と完璧な花火大会にしようじゃないか。
ピンク色の浴衣を着た陽菜ちゃんが先を歩き、空色の浴衣を着た真紀さんの手を引いて歩く。まあ、完璧なとは思ってみたものの、結局は陽菜ちゃんが行きたい場所に行くだけだけど。
「真紀さん、下駄大丈夫ですか?慣れてないと歩くの大変でしょう?」
「歩きにくいからゆっくり歩いてくれるの、凄く助かってるよ。……陽菜ちゃんはスイスイ行くなあ。緒が切れないと良いけど」
「運動神経が良いんでしょうね。それと下駄の緒は漫画みたいに簡単に切れませんよ。レンタルした物ならその辺りのメンテナンスをしっかりしているでしょうから。もし壊れたら帰りが大変ですし、お店にクレームが来ますからね」
「それもそっか。この稼ぎ時にそんなミスをしないよね。あ、でも靴擦れみたいに緒が締めすぎて足を痛めるっていうのも漫画とかだとあるあるなんでしょ?あれは?」
「そっちは残念ながら、履き慣れていないことが原因なのでよくありますね。特に高校生くらいだとはしゃぎ倒して楽しい気持ちが優って痛みに気付かないとか」
「思いっきり今の陽菜ちゃんだね。そんなところにリアリティがあるなんて。……もしそうなったらお願いしてもいい?流石に抱き上げるのは無理かなぁ」
「ですよね。了解です」
出店が見え始めたのでどこを回ろうかと遠くを見ながら吟味している陽菜ちゃん。お祭りというか縁日というか、とにかくそういうのが初めてということで何もかもに興味津々だ。俺もご無沙汰ではあるけど、行ったことはある。
こういうのってどうしても家庭環境が大きいからな。真紀さんも魔女の関係で付き添いを強制的にさせられた経験しかなかったために良い思い出がないらしい。よくそれで来てくれたなと思う。
真紀さんが卑屈な理由の根っこに、必ず彼女を虐めていた魔女がいる。これは人生の根幹である学生時代にずっと付き纏われたせいでどうしたって拭えないことだ。もっと時間が経つとか、どうでもいいと思えるような素晴らしい思い出で塗り替えられたら魔女のことも忘れられるかもしれないけど、俺がやったカウンセリングもどきではそこまでの効果は望めないだろう。
俺は普段の靴で来ているために歩くのは問題ないが、真紀さんが結構苦戦している。陽菜ちゃんに追い付いた時にはピョンピョンと跳ねながら行きたいお店を決めたようだ。
「ユーゴ君、真紀ちゃん!くじ引きやりたい!1等あたしの持ってないゲーム機なんだけど!」
「1000円までね。他にも巡るんだから最初にそこまで散財しないように」
「はーい、お兄ちゃん」
夢を壊したくないのでどうせ1等のくじは入ってないよ、とは言わない。本当に当てられたら大赤字も良いところ。1回300円でそこまで良い商品はないだろう。
ラインナップを見てみると男の子が好きそうな景品たち。ゲーム機にゲームソフト、ポケクリのカードにぬいぐるみなどなど。ポケクリのカードはそこまで詳しくないけど、あれ1枚だけ当たったとしてもトントンくらいじゃないだろうか。そこまで有名なカードじゃなかったはず。
ウィザーズ&モンスターズのカードもあるけど、これもカードショップで買ったら100円とか200円くらいのものばかり。良い商売してるなあ。
むしろパックの詰め合わせの方が当たりな気がする。ボックスもないし、ゲーム機とゲームソフト以外は当たっても客側の損失が大きそうだ。ゲーム機があるからこそ出店の体裁は整っているんだろう。
真紀さんも俺と同じことを思ったのか苦い顔をしている。お祭りってそういうものだとわかっていても、ぼったくりだ。
「おじさん、3回!」
「はいよ、嬢ちゃん。ここから引いてくれ」
箱の中に入っている折り畳まれた紙を引く陽菜ちゃん。ワクワクとしながら開けるが、ハズレ2つと7等が1つ。そんなものだろう。ハズレは駄菓子で、7等はエアガン。片手で持てるくらい小さなもので、1回分の値段ピッタリくらいじゃないだろうか。
これも社会勉強ということで。
エアガンってBB弾が捨てられるから都内だと全然遊べない気がする。部屋の中でやったら床とか傷付くし、貰って一番困る物かもしれない。こういう祭りの後にはBB弾が散乱していて町内会とかからクレームが来るとか。
次に陽菜ちゃんが興味を持ったのは金魚掬いと亀掬いだが、たとえ取れたとしても飼えないということで断念。学校もあるから1人暮らしだとペットのお世話も難しいだろう。そこは分別が付いていて偉い。
その代わりと言ってはなんだが、水風船釣りはした。これなら処理も簡単だし、釣り針で引っ掛けて取るというのがやったことないことだったのか陽菜ちゃんが興味津々。なぜか対決になって、普通に俺が買った。俺だって初めてだったけど、なんというか2人が下手すぎた。
俺が取った分は全部お店に返して、陽菜ちゃんは2つを持ち帰り。真紀さんは0個だった。
「なんであんなにするっと釣り針を通せるの……?割っちゃったらって思うと怖くない?」
「割れてもあのビニールプールの水が増えるだけですし。それに先端が丸まっていたので思いっきり刺さない限り壊さずに取れますよ」
「度胸あるよねえ、ユーゴ君」
失敗を恐れていないかどうか、だろうか。俳優だった頃、チャンスはほとんどなかった。事務所も頑張ってくれたが色々な仕事は自分で取ってくることもあった。劇場とかのバイトで次に繋がったりとか、有名な人に名前を覚えてもらったりしてコネを作ったりとか、やれることはやっていった。
それで失敗したとしても次に活かそうと思ってとにかく行動してたから、別に自分の名前に傷が付くわけでもないお遊びで失敗してもいいかとある意味楽観視しているから上手くいっただけだと思う。
「あ、唐揚げ!焼きそばにイカ焼きもある!そろそろ何か食べようかなー」
「少しずつシェアする?」
「それ賛成!だったら1本とかじゃなくて分けられそうなやつ食べた方が良いよね」
花火が始まる前に腹拵えをする。焼きそばの大きいサイズと唐揚げ6個、それにとんぺい焼きが珍しくてとんぺい焼きを買う。とんぺい焼きは粉物の場合と粉を使わない形式があるようで、屋台のおっちゃんにうちは粉使ってないやつだけど大丈夫かと聞かれた。
大阪発祥の料理で詳しくなかったので特に気にせず購入。鉄板で溶いた卵と豚肉を焼いて、卵で豚肉を包んだ後に特製ソースとマヨネーズをかけた物だった。
屋台の食べ物あるあるだけど、見事に茶色しかない。屋台でできる料理となったらこんなものだろう。ケバブとかお好み焼きとか、そんなのばっかだ。そこにおにぎり屋という異色の屋台があり、若い女性が握っているということもあって男性が列を成していた。
別に女性が作っていたって美味しいかどうかは別の話だと思うんだが。美味しいから並んでいるのか、店員さんが全員若い女性だから並んでいるのか、謎だ。
会場にあった仮設のベンチに腰をかけてご飯を食べ合う。真紀さんと陽菜ちゃんはアーンをするという仲の良さを見せつける。可愛い2人がやっているから周りから注目され、そうなるとその隣にいるあの男はなんだとまた見られる。まあ、身バレしなければ何でもいいけど。
味は、まあ屋台のものだからこんなものだろうと思った。作っている人が料理のプロでもないから値段とクオリティは相応だ。こういうのって雰囲気で楽しむものだし。とんぺい焼きはソースが市販のものとは違う感じがして美味しかった。鉄板料理ってかなり美味しく感じるのはやっぱり鉄板の魔力なんだろうか。
メインの食事が終わったこともあり、じゃあデザートとなって。何を食べるか陽菜ちゃんが悩み出す。
わたがし、りんご飴などのフルーツ飴、かき氷にベビーカステラ。そして名称がかなり議論される大判焼きなど。
「あたし大判焼きだなー。粉物のお店で売ってるの、大判焼きだよ?」
「俺も大判焼きだった。真紀さんは?」
「わたし、今川焼き……。全国的には大判焼きだろうし、地元でも大判焼きって呼んでる人いたけど、ウチの地域の屋台だと今川焼きだった」
「やっぱり地域差出ますね」
関西だと回転焼きだったかな。北海道はおやきだった気がする。この呼び方のショートショートの3分くらいの劇があって、それを練習でやったことがある。テンポの良いギャグ調の劇なので複数の脚本をたくさんやるショートショートの舞台としてはかなり重宝されている。
話が脱線したが、暑いこともあってかき氷に。シロップは実はどれも同じ味とは聞くけど、舌がそこまで肥えてないからか、それとも匂いが重視されているからか味は違うように感じる。メロンとイチゴが同じ味なんて、正直信じられない。
かき氷を食べながら花火を見るための場所取りをする。キャッチボールをやったグラウンドにはたくさんの椅子が並べられていて、先着順で座っていくためにほぼ全部埋まってしまう。
3人で座れないと意味がないのでそちら側は避けて、屋台がほとんどなく中心からは離れたベンチに座った。出店が多く、花火の発射地点に近い方が楽しめるだろうから皆がそちらに行くが、俺たちは花火が見られたら十分なのでむしろ端で良かった。
「あと5分くらい?席確保できて良かったね!」
「結構歩いたから疲れちゃった……。普段が引きこもりだから、人の多さと熱気にやられたかも」
「履き慣れない下駄もあるので、疲れるのも仕方がないと思いますよ。むしろ元気な陽菜ちゃんがおかしい」
「お祭り楽しいじゃん!疲れてる暇なんてないよ!来年もどこか行こうね!」
俺は普段靴だし、俳優だった頃の生活習慣である運動をそれなりにしてるからそこまで疲れていないけど、真紀さんは結構まいっていた。配信者はデスクワークみたいなものだし、前職もデスクワークだった真紀さんからすれば遊び続けるのも疲れるだろう。
陽菜ちゃんは完全に若さ。で、明日悲鳴を上げる。
……うーん、今か?花火が始まったらうるさくなるだろうし、ちゃんと伝えるなら始まる前がいいかもしれない。
うん、今だろう。
「真紀さん、ちょっといいですか?」
「なに?祐悟くん」
「──好きです。付き合ってくれますか?」
「…………………………………………え?」
「へ、えええええっ⁉︎ユーゴ君マジのマジ⁉︎そういう感情あったの⁉︎え、いつから⁉︎ふおおおおおっ!良いもの見たー!真紀ちゃん、返事返事!」
言った相手の真紀さんよりも隣の陽菜ちゃんの方がリアクション大きいんだけど。陽菜ちゃん、真紀さんの両肩を揺らさないで。確かに魂が抜けたみたいに唖然としながら顔を真っ赤にしてるけど。
返事がなさそうなので、陽菜ちゃんの疑問に答えることにする。
「好きだって気付いたのは最近だけど、割と最初から好きだったっぽい。努力してる人が好みなんだけど、真紀さんってずっとFORのために頑張ってたでしょ?恋愛にはトラウマがあったけど、他の女性とかと比べてみて、好きだなと思える人は真紀さんしかいなくて。だからこの感情が好きとか恋とかってものなのかなと」
「もしかしてベタ惚れ⁉︎オーちゃん先輩が言ってたトラウマ乗り越えて告白してくれるなんて、真紀ちゃん大勝利では⁉︎」
「後で唄上先輩とネムリア先輩には問い質さないと。どうせ情報源はそこか社長だろうし」
「あ、まっずーい!社長って結構そういうところしっかりしてるよね!ネムリア先生も!」
「じゃあ唄上先輩じゃないか」
俳優だった頃のことを知っているのはその辺りだけだ。ネムリア先輩と社長はその辺り結構口が堅そうだから違うとは思ったけど。
真紀さんが再起動をしたようで、しどろもどろになりながらも口を開いてくれた。
「えっと、えっと……。祐悟くん、流されてない……?わたしが先に好きって言っちゃったから、思い込んでるとかは……」
「え⁉︎真紀ちゃんいつの間に告白してたの⁉︎」
「ないです。というか好きな人でもなかったら元気付けるための歌を作って色々と根回しをして1ヶ月足らずで完成させる俺って怖くないですか?」
「確かに!あの熱量やばかったもん!普通あんな速度で同期のためとはいえ無茶しないよね?そっか、最初から変だったんだ!」
「変は酷くない?こっちだって恋愛については色々とバグってたんだから」
「じゃあみんな似たもの同士ってことで」
確かに先に告白されたけど、それで流されてということは絶対にない。他の人に告白されたとしてもこんなに悩んだり、むしろ告白しようと考えたりしなかっただろう。本当にそういう想いがなければあの朝に断って終わりだったはずだ。
なのに俺はずっと真紀さんのことを考え続けて。彼女が好意を持ってくれた理由もわかってしまって。
この先どうなりたいかを考え抜いた結果、どうしようもなく好きだと理解して。
シチュエーションとかバカみたいに考えたけど、結局今日しか考えられなかった。
陽菜ちゃんが一緒にいるけど、むしろ伝えない方がおかしいと思って一緒にいる場所で告白した。どうせ後で伝えるつもりなら現場にいても差はないだろう。
「でもユーゴ君、普通2人っきりで告白しない?それに、ほら」
陽菜ちゃんにムードを考えろと言われて、そしてスマホで時間を確認した陽菜ちゃんが上を見上げる。
ドン!という大きな音に惹かれて俺と真紀さんも空を見る。すっかり暗くなった空に満天の火花が咲き誇る。一発で終わることなく、段差違いだったり時間差を置いていくつもの花火が空を彩る。
「花火が上がってから告白する方がロマンティックじゃない?」
「告白しても花火で声が聞こえなかったら台無しじゃない?」
「お約束のやつだー。読者が一番ヤキモキさせられるやつー」
「それで、真紀さん。返事が聞きたいなと」
「……返事というか、さっきの告白がわたしに対する返事だったような……。うん、ありがとう。すっごく嬉しい。わたしも、気持ちは変わってないよ。祐悟くんが好きです。彼女に、してくれる?」
「はい。こちらこそお願いします」
気持ちが変わっていたらどうしようとも思ったけど、変わってなくて良かった。
初めての告白でかなり悩んだし緊張した。正直初配信より緊張したかもしれない。世の中のカップルはこんな凄いことをこなしているのかと思うと尊敬の念すら湧いてくる。
花火が打ち上がるまでベンチでゆっくりとして、最後に3人で写真を撮って2人をレンタル着物屋まで連れていって浴衣を返却。陽菜ちゃんを家まで送っていった後、私服に着替えた真紀さんと電車で帰る。とはいえ真紀さんの家も結構近いので何駅もないんだけど。
最初のエチュードとは別で、恋人繋ぎと言われるような手の繋ぎ方をしながら電車に乗っていた。周りから結構見られているからか、真紀さんは顔を真っ赤にしながら周りの目線を気にしている。
俺の彼女は可愛いなあ。
そんな真紀さんの姿を見ていたらあっという間に真紀さんの最寄駅に着いてしまった。名残惜しいが俺もレンタル浴衣を返さないといけないし、ここでお別れだ。
「じゃ、じゃあね、祐悟くん。えっと、電話とか今度してもいい?」
「いつでも良いですよ。というか、そんな可愛いこと言われると抱きしめたくなるんですが」
「ひ、人がいる場所じゃちょっと……」
それはそうだ。予想以上に舞い上がっているらしい。
手を振りながら真紀さんと別れて、家に帰る前にレンタル着物屋に寄って浴衣を返却。家に着いてお風呂に入った後パソコンを開いたら真紀さんが配信をやっていた。曰く、嬉しいことがあったからちゃんと寝られるように、夢じゃなかったと思えるように配信をして疲れてから寝ようと思ったとのこと。
ニヤニヤが止まらないまま、彼女の配信をずっと見続けた後、眠りに就く。今日は良い夢が見られそうだ。
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花火大会の次の日。お昼から収録があったために事務所にやってきた真紀は先に来ていた唄上に挨拶をする。
「あら、霜月様。なんだか機嫌が良さそうですね?」
「え、そうですか?良いことはありましたけど……。唄上先輩、そんなにわかりやすいですか?」
「(ピーン!)もしや、リリ様と進展があったり……?」
「──ッ⁉︎⁉︎⁉︎」
「え、本当ですの?……号外号外!これは皆さんに拡散しなければ!」
「唄上先輩⁉︎そのスマホを一旦置いて!」
唄上の手によって女性ライバーのみのチャットで暴露され、その日はずっと真紀は祝福されつつ揶揄われ続けた。スタッフと男性ライバーにはバレず、2人の関係を知っているのは女性ライバーと社長だけだった。
その日から祐悟と真紀が一緒の場面で女性ライバーがにこやかな顔で接するようになり、事情を知らない男性ライバーはなんだこいつらと訝しむだけだった。