BAWSの逆襲 作:スカウトマニア
依頼者 ルビコン解放戦線
報酬 300,000c
作戦領域 ベリウス中部 - 解放戦線防衛拠点「壁」
僚機 ユエユー(リトル・ツィイー)、ジャガーノート、リトルジャガー、
軽MT、四脚重MT
敵戦力 軽MT、四脚重MT、AC(独立傭兵)スティールヘイズ(V.Ⅳラスティ)、
汎用兵器
作戦目標 ルビコン解放戦線拠点に迫るヴェスパー部隊の撃退
ベイラムによるアーキバスの物資集積所襲撃が、おおむね成功を収めた後、ベイラム上層部の狙い通りにアーキバスの壁越えは遅延し、その間にベイラム上層部による杜撰な壁越えが実行された。
“壁”に配備されている重装機動砲台ジャガーノートの性能と配備されている砲台の数を知る三局としては、社是である圧倒的な物量に拘るあまり、粗の目立つベイラム上層部主導の作戦では無理と考えていた。
三局メンバーの予想通りベイラムの壁越えは失敗して、次は部隊編成をなんとか整え終えたアーキバスの番となる。
「ベイラム主導の壁越えは今回も失敗したそうですね。投入されたレッドガンの二人は撃墜こそされたものの、生還できたようです。我々としてはそのまま戦場の塵となってもらって、一向に構わないところですが」
リンドウの辛辣な物言いはルビコニアンなら誰も咎めないだろう。少なくとも同じ休憩室に居るサクラは、リンドウの発言に完全に同意のようで、うんうんと頷いている。
ガレージに併設されたパイロット用の休憩室で、テスト結果の確認をしていたところである。
ガレージの中にはテストを終えたTOUSEIが鎮座している。先ほどまで、リンドウをパイロットに多岐に渡るテストを行っていたところだ。
コンセプトモデルとして開発したTOUSEIは実際に動かしてみたところ、まだまだ改善の余地があるのが動かす度に発見される為、実働データは常に収集し続けている。
「レッドガンもヴェスパーもさっさと数を減らして欲しいところだね。そして今度はアーキバスの壁越えか。直前の物資焼き討ちでゴタゴタしたとはいえ、壁側はベイラム戦での消耗があるから楽観視は出来ないね」
リンドウは水色の髪をかき上げながら、手元のタブレットを操作して一つのデータを呼び出した。
「壁にはリトル・ツィイーが居ますね。彼女はまだ幼いくらいですが、才能はかなりのものですよ。以前のひどいアセンでもオールマインドのアリーナでは割と上の方でしたから」
ツィイーはオールマインドが独自に主催しているアリーナのランキングでは、下から数えた方が早いのだが、あのアセンにしては上の方という意味だ。
アリーナのランキングはオールマインドが独自に集めた情報をもとにデータが組まれており、所属を問わない面子が名前を連ねているものの、時に実際の実力とランキングが不一致しているように感じられることもある。
「長らくウチが近接武器を作っていなかったとはいえ、BASHOでアレだからねえ。いやー、いくらなんでも無茶だよ。無理とまでは言わないけれどさ~。
彼女が前に出過ぎないよう支援向けに調整したのかもしれないけど、せっかくの才能と戦力が無駄になっていたからなあ」
ツィイーの機体ユエユーはBASHO一式に左肩にタキガワのパルスバックラー『SI-29: SU-TT/C』、両手に脚の止まる軽量グレネードIRIDIUMと頭を抱えるアセンだった。ジェネレータがJOSOではなくYABAなことがせめてもの救いだろう。
ツィイーの機体状況を知った三局のメンバーが越権行為と分かった上で、実質的指導者のミドル・フラットウェルを始めとした上層部に掛け合い、ツィイーを中途半端な位置に立たせるのではなく前線に置くか、後方に置くか、はっきりさせろと迫ったことがある。
「私達が余計な口出しをした結果、ユエユーもそれなりに見られるようになりましたし、あの子の才能を考えればそこらのACには負けません」
「そうだねえ。ところでユエユーとは月魚を意味する中国語だが、これはアカマンボウの事なんだよ。しかしツィイーのエンブレムに描かれている魚は鮭じゃないか?」
「私に言われても」
知らんがな、とリンドウは困ったように眉を八の字に曲げるしかなかった。あるいは密航者の両親に連れられてルビコンに来た彼女のルーツに関係しているのかもしれないが、サクラ達には知る由の無い事である。
*
ヴェスパー部隊のトップ、どころかルビコン最強のAC乗りフロイトと想定外の遭遇戦を演じた621であったが、事前に物資集積所を壊滅させていたこと、レッドと共に生還したこともあり、無事に依頼達成として加算込みの報酬の獲得に成功している。
ミシガンはまだ遊び気分を残していたフロイト相手とは言え、対等に渡り合った621の実力を高く評価し、G13のコールサインをそのまま預ける提案をしてきた。621、レイヴンに続く三つ目の名前が手に入ったわけだ。
レッドもまた自分の技量不足を嘆きつつも、621に生命を救われたことへの感謝を述べて、レッドガンへの正式な所属を勧めてくるほど。
かつてない強敵を相手にして、心身を消耗した621はバイタル低下を読み取ったウォルターから休息を命じられ、専用ガレージに用意されたなにもない私室のベッドの上で、文字通り寝転がって休息を取っていた。
パーツショップのラインナップを確かめるでもなく、機体のデカールやエンブレムを考えるでもなく、ベッドの上でじっとしているだけ。
少なくともウォルターの言った休息は、こういう意味ではないだろう。飽きるという感覚もない621を動かすのは、ウォルターからの指示が最も効果的だった。
『621、仕事だ。ルビコン解放戦線からお前を名指しして、依頼が来ている』
ウォルターの声を認識するのと同時に、621はベッドの上から身を起こして、自分の機能を最大限に発揮できる場所──ACの下へと向かった。
機体のコックピットに座り、神経を通して機体と繋がれた621が確認した依頼内容は、壁越えを狙うベイラムを退けたものの、立て続けに侵攻してくるアーキバスに対抗する為、レイヴンの戦力を求めるものだった。
依頼者は誠実な人柄の滲む青年で、これまで621が三局やルビコン解放戦線の依頼を達成してきたことへの感謝と賞賛を惜しまず、それがおべっかでないと分かるのは依頼者の人徳であったろう。
621が独立傭兵という立場上、星外企業の依頼を受ける事に理解を示しながら、それでもどうかルビコンの人々の為にも共に戦ってほしい、そう語る青年の人柄は星外企業の人々からすれば嘲笑の種だったかもしれない。
ウォルターがこれまでの621の行動と直前のフロイトとの遭遇戦を鑑みた結果、今回のアーキバス主導の壁越え参加打診を見送っていたこともあり、どこか甘いとこのあるウォルターは、いつもの通りに621の選択を尊重する。
名前も記憶も人権もはく奪され、“それ”と呼ばれる存在になり果てた621を、それでも人間だと主張するかのように。
ミッションはアーキバスの壁越え阻止。ヴェスパーの上位隊長格を含む大部隊が壁越えを狙って、複数の方角から迫ってきている。
ミシガンの元、行った物資集積所破壊の影響は確かにあり、アーキバス側の補給に遅滞が生じているらしい。一度、壁越えを阻止すればしばらくは戦力の再編に勤しみ、時間稼ぎが出来る見込みだという。
高さがキロメートル単位に達する巨大な壁の威容やそこに敷かれた防御陣地の厚さ、殺意みなぎる火力の高さにも、621の感情が揺れる予兆はない。しいて言えば自分がアーキバス側に居たなら、どう攻め込むか。そんなifをシミュレートするくらいだろうか。
以前、輸送ヘリを護衛した時よりも好意的に歓迎された621が配備されたのは、起伏に富んだ雪原と崖の広がる一角だった。
全高四十メートル超の重装機動砲台ジャガーノートや随伴機が配備され、並大抵の相手なら返り討ちに出来る戦力が揃っているが、それでもヴェスパー隊長格が動くとなれば、戦場には痛いほどの緊張が満ちている。
621の居る区画は雪に覆われた風景が広がっており、固定砲台の類は存在しない。その分をもう一機のジャガーノートや機動戦力でカバーしているわけだ。
ジャガーノートはその巨体と大火力の関係上、通常のMTとの連携は取りがたい。必然的に単独運用が多くなるのだが、ACならば追従も可能という事で、621はジャガーノートと小型のジャガーノートもどき、ルビコン解放戦線のACと行動を共にすることとなった。
機体の右肩の拡散バズーカSENNAを四連ミサイルに戻したのは、ジャガーノートの火力があるのと、味方との連携を考えて少しでも機体を軽くしようと試みたからだ。
待機時間中、曇った空の下、雪原を渡る風の音がやけに響く中、不意に近くに立っていたACユエユーから通信が繋げられる。
パイロットはリンドウとサクラが話題にしていた、ルビコン解放戦線の若き女戦士リトル・ツィイー。同志達からは妹分として可愛がられ、本人が納得しているかは不明だが、ちょっとしたアイドル扱いを受けている。
『ねえ、あんた、レイヴンだっけ? 私はツィイー。リトル・ツィイーなんて呼ばれてる。あのヴェスパーのトップと戦って聞いているよ。それにストライダーの護衛をして、わけのわかんない兵器を倒したって話も。
あんたみたいに強い傭兵が味方になってくれるなら、アーキバスの連中を叩きのめすのもきっと簡単だね。あんたみたいに私達の味方を、ああ、いや、依頼を優先して受けてくれる傭兵が他にも居てさ、六銭文って言うんだけど、知ってる?』
ツィイーなりに緊張をほぐそうとしているのか、それとも本当に621と親交を深めようとしているのか、621が返事をするのを待たずにツィイーのおしゃべりは続いてゆく。
彼女を咎められる立場のジャガーノートの乗員や壁からの制止の声は掛からず、むしろツィイーの好きにさせてやっているようだ。まるで621に対するウォルターのように甘い。
621の注意は止まないツィイーの言葉よりも彼女の機体に向けられていた。腕部のみが従来のBASHOで、頭部、コア、脚部はBASHO Kaiで統一されている。
まずBASHO Kaiの腕部パーツが開発された後、第二世代ACまでの繋ぎと既にルビコン中に普及しているBASHOの性能底上げを目的にして、開発されたものだ。
この為、BASHO Kaiは1.5世代ACとも言われている。
近接戦闘をこなせるものは腕のみ従来のBASHO、そうでないものはBASHO Kaiにパーツを置き換える例が多い。
外見上の変化は乏しく、BASHOに見られたリベットがほとんど消えたこと、頭部が半分に切った円柱、あるいはかまぼこのような形状に変わっている点くらいのもの。
新生ユエユーは右腕にファーロンの連装型ハンドミサイル『HML-G2/P19MLT-040』、右肩のウェポンハンガーにはBAWSのナパームランチャー『MA-T-222 KYORAI』。
左腕にはレーザーブレード『IZEN』、左肩にはクラブ『SHICOU』とかつてのアセンの面影はまるでない。BASHO腕部の特性を理解したラインナップと言ってもいいぐらいだ。これでツィイーの技量が伴っていれば、舐めてかかれない程度の脅威にはなるだろう。
『リトル・ツィイー、こちらはレイヴンのオペレーターだ。少しいいか?』
だんまりを決め込む、というかそうするしかないレイヴンの代わりに、ウォルターがツィイーに答えた。
『あ、ごめん。私だけ一方的に喋りかけてしまって。戦闘の前なのに集中を邪魔しちゃったか』
『いや、そうではない。レイヴンは事情によって口頭でのコミュニケーションに障害を抱えている。そちらが望むような応答は難しい。返答はテキストメッセージか、代わりに俺で答えられることなら答えよう』
ウォルターとしては先日のレッドガンとの共同ミッションでもそうだったが、年若い少女という珍しい存在との接触が、少しでも621に良い方向で刺激となればという思いがあった。保護者かな?
ツィイーにとってはウォルターのような年上の男性というのは、解放戦線に身を置いていれば珍しくない相手だ。お喋りを咎めるわけでもなく、こちらとコミュニケーションを図ろうとしてくれている姿勢は、好意が持てる。
『もちろん、迷惑じゃなければ大歓迎さ。あんた達みたいに話の通じる独立傭兵も珍しいね。こうして話に応じてくれているのもそうだけど、ブリーフィングとかでも決まったことだけ教えろ、とか、自分の流儀でやるから他は勝手にしろ、とかそういうタイプが多いのに』
独立傭兵は実績を上げて次の仕事につなげてなんぼの仕事だ。我流を通して少しでも自分の実力をアピールしたいと考える者は、独立傭兵に珍しくない。
そんな中できっちりとブリーフィングの内容を確認し、不当な扱いや評価さえされなければ、依頼主に文句を言うでもない621とウォルターは珍しい例外のようだった。
ツィイーとの交流はほとんどウォルターが代弁を務めたが、稀に621がテキストメッセージでポツポツと答えることもあり、少しずつ621の自我が形になってきた証拠と言えた。
『それでさ、アーシルがミールワームの踊り食……』
『待て、広域レーダーに反応があった。アーキバスの別動隊だろう。正面からも大部隊が接近している。まもなく戦闘が始まるぞ。備えろ、621、ツィイー』
『連絡ありがとう、ウォルターさん。来たか、企業の走狗ども。「壁」が落ちることはないって、私達が諦めることはないって、教えてやる』
曇天の中、降り注ぐ淡い太陽の光にアーキバス所属の黒い武装ヘリの五機編成部隊、更にレーザーキャノンやクラスターミサイルで武装したクアッドドローンがまず先行部隊として姿を見せる。
防衛戦の場合、敵がこちらの構築した陣地に足を踏み入れるのを待って、効果的な砲火を浴びせるのがセオリーであるが、ことACを始めとした機動兵器を擁する場合は、こちらから積極的に接近して、防衛対象の遠方で撃破するという選択肢が出てくる。
そして士気旺盛あるいは血気盛んな解放戦線の面々は、ジャガーノートの存在もあって積極的に打って出るパターンだった。
ジャガーノートを先頭にして、その左右を全高二十メートルほどのアルマジロのような曲線を描く機動砲台が追従する。
ネイビーブルーのそれは、BAWSの開発した機動砲台リトルジャガーである。
ジャガーノートは陸上戦艦とでも言うべき防御性能と大火力を有し、企業勢力に辛酸を舐めさせてきたが、同時にあまりの大きさと重さが原因で運用に問題を抱えてきた。
現地で組み立てるにせよ、そのまま輸送するにせよ、あまりに手間がかかる為、戦闘能力に反して配備数が少ないのはその為だ。
また多数のブースタを抱える背面や上部装甲が比較的薄く、腕の立つパイロットが乗ったACならば回り込むのも、そう難しくないなど決して無敵の兵器ではない。
そんなジャガーノートの欠点を補うべく開発されたのが、リトルジャガーだ。ジャガーノートの半分以下の大きさと四割ほどの重量に対して、追従可能な速度を維持しつつ、左右、背後、上部と均一化された高い防御性能を持つ。
機体上部に旋回砲塔式二連グレネードキャノン、機体側面にガトリングガン×2、機体後部に八連ミサイル×2と火力も申し分なく、機体前面の下部には分厚いブレードまで装備されている。
ジャガーノートから得られたデータを参考にして、より堅実かつ汎用性を両立させたなかなかの兵器と言えた。
真っ先に射程に入った武装ヘリやクアッドドローンに対し、ユエユーや他のMT、四脚重MTから射線が伸びて、次々と撃墜してゆく。アーキバス側もこれらが戦果を挙げるとは考えていないだろう。
その後方で輸送ヘリが次々と抱えていたMTを投下してゆく。更に雪原を疾走するMTも確認されており、総数は見る間に三桁近くになる。
ブースタを吹かして突撃してゆくジャガーノートとリトルジャガーに続き、ユエユーも率先して突っ込んでゆくのに合わせ、621も機体を加速させて捕捉する先からMTに銃弾を浴びせて行く。
四連ミサイルと垂直プラズマミサイルの異なる軌道を描くミサイルは、MTには到底回避の仕様もなく、かろうじて撃破を免れた機体も酷い場合にはジャガーノートに轢かれてスクラップだ。
621が積極的に前へ出るまでもなく、友軍をフォローするような場面にも遭遇せず、バーストライフルとミサイルをチマチマ撃つだけで、敵の数が減る状態だ。
地の利を含め、解放戦線側が有利とはいえアーキバスが気の毒になる一方的な戦況だが、流石にそれで終わるのならルビコンから企業勢力はとっくにたたき出されている。
新たに広域レーダーが捉えた反応を見て、ウォルターが621へ警戒を促してくる。
『ここまでは順調だが、次の敵が来るぞ。ACだが、露払いの独立傭兵だろう。お前の敵ではない。蹴散らしてやれ、621』
熱した鉄板にバターか氷を押し付けるように数を減らしてゆくMT部隊に焦ったのか、戦闘領域に複数のACが突入してくる。
アーキバス、シュナイダー系のパーツが目立つが、ベイラムや大豊、BAWS製品も含むアセンのACが次々と姿を見せる。アリーナランキング圏外の有象無象にせよ、ACを相手にMTでは心もとない。
解放戦線のMT部隊が後方に下がる中、代わりにジャガーノートをはじめ、621もまた前に出る。
軽率にジャンプしてグレネードを撃ち込もうとした敵ACが、ジャガーノートの三連グレネードキャノンの餌食になり、空中で大爆発を起こすとそれを皮切りにユエユーとLOADER 4が一気に突っ込む。
横のつながりもろくにない捨て石の独立傭兵達だったが、一応は味方のACが派手に散った姿を見せられて、わずかに動きを鈍くする。それを見逃す621ではなかった。
『企業に与するのなら容赦はしてやらないぞ!』
ツィイーは目についたシュナイダー系パーツになぜか天槍の頭を付けたACへ、ハンドミサイルの洗礼を浴びせ、すぐさま持ち替えたナパームランチャーで周囲を炎に変える。
『壁にあんなバケモンが居るとか、聞いてない!』
バケモン、おそらくジャガーノートのことだろうが、事前の情報収集やブリーフィングを怠っていた三流傭兵のようだ。
慌てふためきながらベイラムのハンドガン『COQUILLETT』を連射するが、炎に視界を遮られたせいもあって、ユエユーにほんの数発が命中するだけに留まる。
チャージを終えたIZENが長大な刃を形成し、容赦なく軽量さと引き換えに耐久性を代償とした敵機の胴を薙ぎ払う。
その傍らではアサルトライフル二挺持ちのACがLOADER 4を撃ち落そうと、躍起になって乱射しているが足が止まってしまっていて、せっかくのACの機動力を殺してしまっている。
左から回り込むと見せかけて、アサルトブーストからの強襲で蹴りを見舞い、隙だらけになったところをパルスブレードで切り払えば、新品らしいVP-40Sのコアに大きな傷が出来る。
敵機が仰向けに倒れ込み、621が追撃を加えようとしたところで、パイロットが機体から脱出する姿がモニターに映る。
621に依頼でもないのに脱出に成功した人間を殺す趣味はない。コア以外はほとんど無事だから、後で解放戦線が回収して再利用するだろう、とぼんやりそんなことを思い浮かべて、次の敵へと意識を切り替える。
戦場となった場所はところどころ崖になっていて、落下の危険性はあるものの開けた雪原だ。
縦横無尽に疾走しては大火力をまき散らすジャガーノートとリトルジャガーを相手に、独立傭兵達は手をこまねいており、その隙を突いてツィイーと621は着実に敵の数を減らしてゆく。
『こいつで、三機目! ……すごいな、レイヴンはもう九機も撃墜しているのか。ひとまずACはこれで打ち止めかな?』
雪原にアーキバス側の残骸ばかりが転がる中、捨て石にされた独立傭兵達で動く者はもういない。BASHO腕部の性能を活かし、近接武器の高威力を発揮したユエユーとツィイーは見事な戦果を挙げているが、その三倍の敵機を撃墜した621はなお凄まじい。
弾薬の補充の為にジャガーノートとリトルジャガーが、一旦、「壁」へ引き返すのを見送ってから、621とツィイーはこの場に留まって警戒を続ける。
『まだ油断はできないけど、今回も壁越えは阻止できたかな。これでしばらくベイラムとアーキバスが大人しくなればいいけど』
緊張の糸を緩めようとするツィイーを、ウォルターの言葉が留めた。
『俺の経験上だが、おおむね、希望的観測というものは裏切られるものだ。気を付けろ、ヴェスパーのお出ましだ』
ユエユーとLOADER 4だけが残る戦闘領域に、高速で接近してくる機影が一つ。
621とツィイーが見守る中、雪を散らしながら着地したのは、シュナイダー社の『NACHTREIHER』をフルフレームで採用した高機動軽量ACスティールヘイズ。V.Ⅳラスティの機体である。
BAWSのバーストハンドガンにバーストライフル、VCPLのレーザースライサーにプラズマミサイルと、アーキバス本社の製品を一切使用していない大胆な機体構成だ。
ユエユーとLOADER 4を前に舞い降りた鉄の霞から、621へと通信が繋げられる。
『君が独立傭兵レイヴンか。……あのハンドラー・ウォルターの子飼いらしいな。フロイトが機嫌よく君の名前を口にしていたよ。これもなにかの縁だ。ひとつ、手合わせと行こうじゃないか』
機体越しにも感じられる圧を前に、621はいつもと変わらぬバイタルで迎え撃つ。自ら選んだミッションをこなす。突き詰めればそれに変わりはないのだから。
***
BAWS製AC『BASHO Kai』
BAWS第三技術開発局が第二世代ACまでの繋ぎとして、BASHOの耐EN防御をはじめ各種性能向上を目指して開発した機体。
外見上の変化は乏しく、頭部と腕部以外は少量のパーツ交換で換装可能の為、既にBASHOを所有していたとしても、機体更新にかかる費用は交換するパーツ分だけで済むリーズナブルな製品。
リベットが減ったこと、頭部がかまぼこ型に変わったのを嘆き、BASHOのままで運用するオールドファンも一定数存在する。
順序だてると
・BASHO Kaiの腕部パーツ開発
↓
・BASHO Kaiの頭部、コア、脚部パーツ開発
↓
・第二世代AC&TOUSEI開発
となる。この為、BASHO Kaiは1.5世代ACとも言われる。
また近接戦闘を得手とするAC乗りはあえて腕部のみBASHOで運用するケースが多い。KAKEI要る? と言ってはいけない。
『BASHO Kai』頭部
価格 66,000
AP 1300
耐弾防御 190
耐EN防御 177
耐爆防御 190
姿勢安定性能 382
システム復元性能 86
スキャン距離 355
スキャン持続時間 13.4
スキャン待機時間 9.2
重量 4100
EN負荷 108
『BASHO Kai』コア
価格 135,000
AP 3700
耐弾防御 430
耐EN防御 410
耐爆防御 455
姿勢安定性能 470
ブースタ効率補正 113
ジェネレータ出力補正 92
ジェネレータ供給補正 100
重量 16400
EN負荷 314
『BASHO Kai』脚部
価格 162000
AP 4260
耐弾防御 360
耐EN防御 344
耐爆防御 393
姿勢安定性能 831
積載上限 63700
水平跳躍性能 136
垂直跳躍性能 27
重量 20920
EN負荷 315
BAWS製機動砲台『リトルジャガー』
重装機動砲台ジャガーノートの巨体と重量による輸送、運用の問題点解消と追従・連携可能な兵器開発をコンセプトに開発された機動砲台。
ジャガーノートの全高が四十メートル以上を誇ったのに対し、約半分の二十メートルに抑えられている(それでもACより巨大だが)。
箱、あるいは壁のように見えるジャガーノートに対し、アルマジロを思わせる曲線の目立つ外見をしている。装甲の強度はジャガーノートの正面装甲に劣るものの、全方向に対し均一の防御性能を誇る。
AP 30234(ジャガーノートはAP63985)
姿勢安定性 1250
耐弾防御 999
耐EN防御 277
耐爆防御 355
衝撃耐性 45%
衝撃限界 999
焼夷耐性 10%
ACS異常限界 999
武装
正面下部 大型ブレード
上面 二連グレネードキャノン
左右前部 ガトリングガン×2
左右後部 八連ミサイル×2
今のところ、ラスティとしてはノー戦友、イエス好敵手といった感じ。