すばらしきせかい【黒バス宝石パロ】   作:mizuhara_0-0

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赤司編・2

 

「俺の名前は赤司。赤司征十郎といいます」

赤色の少年は、千尋の出した茶を啜って満足げに頷いた。

赤司は、降旗が祖父から譲り受けた王錫の化身なのだという。

それについては黛が説明してくれた。

「この世には、あんま知られてないけど、『宝珠』と『宝玉』という二種類の貴石がある」

どこから説明したものか、とのんびり話し始めた黛に、降旗は目を丸くした。

「違うんですか?」

「最近はごっちゃになってる。けど、昔は明確に区別してたらしい。簡単に言うと、『宝珠』は意志を持つ宝玉だ」

『宝珠』は退魔の力を持ち、自ら主を選ぶ。その特殊性のため、街や国の象徴として用いられた。魔獣が跋扈していた時代、強力な『宝珠』は一国を守ることも出来たという。

「国全体を守れるような『宝珠』は『王印』とも呼ばれたらしい。『王印』は国を守る代わりに、王を選定する義務があったんだと」

だが、現在『王印』は、殆どが失われ砕かれた。

「暗黒の10年、って歴史で習っただろ」

黛の言葉に、降旗は頷いた。

「失われた10年。その間に、世界に魔獣が現れた、と」

世界史には何度か、空白の期間がある。近年の研究成果から、その期間には共通して『魔獣』という生物が跋扈していることが判った。失われた10年、というのはその空白の期間のうち、最も新しい時期を示す。

暗黒の10年の間に、魔獣は宝珠と共に世界のどこからともなく湧き出て姿を消した。突如出現した魔獣に怯えた人類は、突然いなくなった魔獣に戸惑うしかなかった。その10年の後、文明は急激に変化し新しい時代を築いた。そのため、魔獣に脅かされることのない現在を戦後と呼び分けることもある。

「その時にな、王印を含む宝珠も姿を消したらしいんだよ」

「全部、ですか?」

「そう言われてる。魔獣がいなくなったから宝珠が必要なくなったのか、宝珠が失われてそのバランスを取るために魔獣が消されたとか、その辺の考察は考古学者の仕事だけど」

だが。

「赤司君……は、宝珠なんですよね」

「そうだよ」

「現存する宝珠もいるってだけだろ。宝珠には宝珠にしかわからないルールが存在するらしいし。宝珠の本体を王印、精神を王獣なんて言い分ける地域もあるし。俺も全部を知っているわけじゃない」

だからところどころ適当でも気にするな、と黛は手をひらひら振った。赤司はにこにこと笑っている。

途方もない話だ。降旗は、その話を聞くことしかできない。

「で、ぐだぐだ歴史なんざ語ってみたが、要するにコイツは付喪神みたいなもんだ」

要約した黛の言葉に、赤司は少し顔を歪めた。

「そんなものと一緒にしないで欲しいな。俺たちは俺たちの作り手によって生み出されたんだ。人の情念などには影響されない」

「お前は少し黙ってろ」

黛は、赤司のことは気にするなと宣言した。赤司は少し不満げではあったが、「そのうちわかる」という一言でおとなしくなった。

「んで、こいつもその一種だってことだろ。宝珠の鑑定は楽だぞ。自分で名乗ってくれるからな」

「なんだ。降旗君は俺のことを知りたいのか?」

赤司は正座をしたまま胸を張った。

「俺は赤司征十郎。生まれは帝光、作り手は虹村。銘は『朝陽』。最初の主は真田王。最後の主は山野義仁――君のおじい様の親友にあたる」

「帝光国時代……」

黛の話に出てきた、最古の『宝珠』の時代である。千年くらい前だったか。

「よかったな。値段が付けられないほど価値があるやつだぞ、コレ。鑑定も完了だな。これくらいなら金はとらないから、持って帰ってくれ」

黛はどうでもよさそうに言った。視線はレジ脇の本棚に向かい、既にラノベを読む準備をしている。

すると、赤司が「心外です」と眉を上げた。

「俺の主は黛さんなんだから、俺は黛さんの元にいないと」

「はぁ?」

黛は初めて聞いた、と目を見開いた。

「知らないんですか? 宝珠は自分の主を自分で決める。宝珠が目覚めて人型を取れるのは、自分の主に命じられた時か自分の主が目覚めた時だけです」

降旗は、まぁ確かに自我があるなら自分の持ち主は自分で決めたいよね、と納得したが、黛は違ったようだ。

「いや、初めて聞いた」

黛は首を傾げた。一人、知り合いに『宝珠』がいるが、そんな話をしていただろうか。

「少なくとも僕ら――帝光の季石の都に生まれた七人はそうでした。多少の例外はありますが」

赤司はけろっとしている。

「法律上の持ち主は降旗君なんですよね? 俺はそれでもかまいませんが、実際に持っててもらうのは黛さんでないと」

言い放つ宝珠に、慌てるのは人間側だ。

「黛さん……」

「言っただろ、値段を付けられないほどの価値だって。『宝珠』が自分の主を決める話は初めて聞いたけど、気に喰わない持ち手は不幸にするって話だ。ちなみにさっき値段が付けられないと言ったのは、買い手がいないということと、ばか高くなるという二重の意味がある」

降旗は既に半泣きになっている。

「ど、どうしましょう……」

黛はため息を吐いた。

「こうなったら仕方ない。考古学ゼミの教授にメールして、帝光時代の宝珠について聞いてみる。そっち関係に強い知人にも当たってみよう。降旗はご両親やおばあさんに、『鑑定に時間がかかる。暫く骨董屋に預けることにした』とでも言っておけ」

黛はレジの下の戸棚をがさがさと漁り、一枚の複写紙を取り出した。鑑定依頼書だ。

「これが正式な書類な」

「ああああありがとうございます!」

受け取る降旗に、黛は苦笑した。

「他に売りたいものはあるか」

「あります!ええっと、ちょっと待ってて下さい」

赤司はその降旗の慌て振りを見て、目を細めた。

降旗は、畳の上にコロコロを引っ張り上げ、蓋を開けると陶器やらブローチやらの正しく骨董の品を並べた。

黛はそれらに迷うことなく、値段を電卓に叩き込んだ。

そして、降旗の帰り際に言った。

「『宝珠』について知りたいなら、明日また来るといい。今日くらいの時間に来てくれれば、詳しいヤツを引き留めておこう」

 

***

 

小さな、それと知らなければ判らないだろう看板には、平仮名で「かげや」と書かれている。普通の民家にしか見えない古びた扉に手をかけ、そっと押すと、重い扉は音もなく開く。カラン、と涼やかなドアベルが客人を告げるその向こうで。

「助けてくれ!」

普段は影が薄いという青年が、赤い人影に押し倒されていた。

 

「な、なにしてるんですか!?」

降旗は慌てて座敷に上がり込む。先日は骨董品を運んでいたが、今回は斜め掛け鞄一つの軽装だ。降旗が近寄ると、赤司はあっさりと黛を解放した。とはいえ、未だ体は黛の上にまたがったまま、上体を起こし座り込んだというのが正しいのだが。

「やぁ。初めまして、になるのかな」

赤司は降旗の方へ振り向くと、猫の様に笑った。昨日とはかなり印象が違う。よく見ると左右の虹彩が違う色に染まっている。オッドアイなら降旗は忘れない自信があるので、わずかな間に瞳の色が変化したのだろうか。

「昨日も会いました……えっと、赤司征十郎くん、だよね?」

首を傾げると、否定の声が飛んだ。

「違う、らしいぞ」

服装を正した黛は、赤司からなるべく距離を置くように上体を起こした。赤司はすわり心地が悪くなったのか、少し不機嫌そうな表情になると黛の上から降りてそこらの座布団の上に正座した。

黛は、受付のレジの位置まで移動し、我関せずと主張するように近くのラノベを一冊手にした。

「違う、って?」

降旗が目を見張ると、赤司はどこか威圧するような笑みを浮かべた。

「僕は赤司征十郎。生まれは帝光、作り手は虹村。銘は『鮮烈』。最初の主は真田王。最後の主は降旗薫」

「じいさ、祖父の宝珠だったんですか?」

降旗の言葉に、赤司は目を丸くした。

「薫の孫? 君が?」

そしてそのまま、降旗をじっと見つめる。降旗は身を竦めた。

じいちゃん何やったの。てか宝珠の主だったとか初めて聞いたよ。そういえば宝珠ってバカ高いんじゃなかったっけ、どうやって手に入れたんだろう、まさか不正なんちゃらとか違法なんとかじゃないよね。じいちゃん俺と同じでのほほんとしてるから運が良かったんだなぁって勝手に納得してたけど、もしかして腹黒かったの。ごめん俺は普通の弱虫です。だから赤司が云々とかあんまり関わりたくなかったとかああああごめんなさいいいいい睨まないでえええええええええ捨てないからああああ。

 

色々考えているうちに涙目になってきた降旗に、赤司は「なるほど」と頷いた。

「この目、この顔、この表情。確かに薫の面影があるな」

「えっ」

「何だ、違うのか」

「ち、違わないです、けど……」

「どうして敬語を使うんだ。砕けた口調で構わない」

「えっ、あ、ご、ごめんなさ、あ、えと、ごめんっ」

「怯えるな。それはそうと、そろそろ君の名前を教えてもらいたいんだが」

「あ、えと、降旗光樹ですっ」

「光樹……」

赤司は目を細めた。そのまま、降旗に近寄る。

「えっと、あの、近……」

「光樹」

「ハイっ」

赤司は蕩けるように笑った。

「僕の主になれ」

 

「だが断る」

降旗はびっくりして言葉も出なかった。断ったのは黛だ。

「どうしてだ千尋。僕はただ、この涙に潤む大きな瞳をわが物にしたいと思っただけだぞ。もしかしてお前も『僕』の主になりたいのか? だがお前はさっき迫っても表情を引き攣らせるだけだったからな、つまらないから嫌だ」

赤司は楽しそうに言った。黛はパタン、とライトノベルを閉じた。

「つまらなくて大いに結構。お前が降旗家の容姿が好きなことはわかったよこの面食い。そうじゃなくて、俺が訊きたいのは、赤司の主は二人いるってことでいいのかってことだ」

「当たり前だろう?」

赤司は、黛の方が変なことを言った、とでも言うように首を傾げた。

「二つの人格に二人の主。何もおかしなことはないじゃないか」

「いや、普通は一つの宝珠に一人の主だろう」

え? え? と戸惑う降旗に気付いた赤司征十郎が、ああ、と慈愛に満ちた笑みを浮かべた。

「僕はね、光樹。近年の精神医学で言うところの多重人格なんだ。赤司征十郎は二人いて、それぞれが主を決めるんだよ」

 

その時、降旗の隣で風が動いた。

「赤司君、相変わらずのぶっ飛び具合ですね。ちなみに人間の常識に照らし合わせると、千尋君の方が正しいと思いますよ」

水色の人影だった。

縹色の和装に身を包んだ少年は、まるで最初からそこにいたかの様に、座布団の上に座っていた。片手にはなぜか、近くのコンビニでよく見かける紙パックのバニララテがある。

「僕は人ではないから、人間の基準を気にする必要はないな」

赤司は楽しそうに言った。

「久しぶり、テツヤ」

水色の少年は静かな声で、お久しぶりです赤司君、と呟いた。

 

 

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