すばらしきせかい【黒バス宝石パロ】 作:mizuhara_0-0
世の中には美しいものも可愛らしいものもたくさんあるのだと、知識では知っている。
だが、心が動くかはまた別の話だ。
かつて美しかった建物の中で、今吉は硝子を踏みしめた。大きな花瓶が粉々に割れ、陶器の欠片と踏みしめられた花弁が散らばっている。罅の入っていない窓はなく、鍵がかけられる扉も無くなっていた。かつて飾り棚だったものは折られ、ささくれ立った木屑が壁に突き刺さっている。
この屋敷の主は、かなりの数寄者だったらしい。
自分がそういった綺麗なものを壊す側の人間だと知っていたので、今吉は綺麗なものを特別好みはしなかったし、そういったものを集めようとする人間にも関心がなかった。
「今吉、終わったぞ」
チームメイトが声をかけてくる。有り難い。
「おん。この後はどうなっとる?」
剣に付いた血しぶきを軽く振るう。ポケットに忍ばせた布で軽く拭うと、鞘に仕舞った。
「依頼人の探し物が見つからない。隠し部屋があるかもしれない、お前そういうの得意だろう」
任せた、と言外に告げる相方に、苦笑して頷く。
「屋敷の見取り図覚えとるか? 二階の寝室と奥さんの服仕舞う部屋の間な。そこに何かあるで」
「根拠は」
「柱が一階と二階でずれとった」
「了解、探索に移る」
「待ち。わいも行く」
言って、諏佐を追いかける。彼は大柄で優しい男だが、何分ささいな異変は「大体同じ」と見過ごす気がある。自分に頼られたのだから自分が向かうのが筋だろうと、彼を追いかけた。
***
「……これは」
「酷いな」
埃まみれの部屋の中、数人の侍従が死んでいた。使用人の数などいちいち覚えてもいないが、この部屋の存在を知っていた・気付いていたことから古参の者たちなのだろう。部屋に生者の気配はない。
「埃が酷いっちゅーことは、相当ほかされとったんかな」
「……今吉、あそこを見ろ」
諏佐の言葉に意識を壁に移す。豪奢な細工の大刀が、壁に飾られていた。
鞘には銀の龍が繊細に絡み、入り口から入った光を鈍く反射させる。柄は藍色の布が巻かれ、柄頭には瑠璃の柄飾りが繊細な糸細工で固定されていた。
特筆すべきはその大きさだ。大の大人ひとりが担いで振り回すサイズのそれは、とても実戦用には見えない。勿論今吉達の知り合いに欲しがるものはいないだろう。好事家達に売るのがせいぜいだ。
「は、さっすがお貴族さまやな。こんなもんを隠し部屋に仕舞いこんで。家宝にでもする気やったんやろか」
壁に歩み寄り、刀に手を掛ける。そっと両手で持ち上げた、その瞬間――
「へぇ。なかなか面白そうなことになってるじゃねーの」
低い声が、響いた。
「誰だ」
諏佐が剣を構える。今吉を庇うように間に入るのを見て、男は「かはっ」と笑った。
「そんな構えんなよ。俺はどっちかってーと、あんたらの味方だ」
「そんな言葉を信用せい、と言うんか」
目を細めるが、彼は全く気にしない。
「信じてもらわねーといけねーんだよ。だって俺、人間じゃねーもん」