シロコとシロッコ   作:メイショウミテイ

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長い事お待たせしてしまい申し訳ございません。

自分の試験勉強やら生活環境の変化やらコロコロウイルスやらでまとまった時間を取る事が難しく、しばらく作品の事を考える事すら難しい状況でした。

今回はなんとか時間を捻出して仕上げましたが、区切りがそこまで良くない感じになってしまい、ちょっと納得はいっていませんがこれ以上お待たせする訳にもいかないと思い、妥協した形で投稿しようと考えました。

次回のプロットは今話と一緒のタイミングで作っては置きましたが、しばらくは投稿できないかと思われます。

お待ちいただく皆様には誠に申し訳ないですが、一応この先の展開を少しだけ、それこそシロコに行動に関するアンケートがありますので、良ければそちらの方協力していただければと思います。

特に物語に大きく変化はないアンケートですが、シロコとシロッコにとっては関係のある内容だと思います。
では、よろしくお願いします。




アビドス編 5

 ヘルメット団に拉致されたセリカは、既に廃線になった鉄道の車両保管庫──保管庫とは名ばかりの、棄てられた車両の墓場とも言える──に廃棄されたコンテナの中に詰められていた。

 

 バイト終わりで一人になったタイミングを狙われ、何らかの勢力が何らかの方法でセリカを無力化して、攫った。

 

 

 誰が? それはヘルメット団の仕業だと考えられる。寧ろ、現在出揃っている情報ではそのようにしか判断できない。

 

 では何の為に? セリカの身柄を人質としてアビドス高等学校の校舎を手に入れる為ではないかと、ホシノや対策委員会のみんなは予想の段階だがそう話していた。砂漠に覆われつつあるあの学校にそこまでの価値があるとは思えないが……。決してアビドスの事を貶すとかそういった意味ではなく、単純にアジトにするにしてももう少し良い場所があるように思える。

 

 

 今回の誘拐事件に関しては色々と引っかかる点があると先生は考えた。

 

 誘拐に至った理由も深く突き詰めれば少々説明に困る。あくまで想像だが、そういった理由があってアビドスのセリカを誘拐したとしても、残された四人の対策委員会は学校を明け渡して引き下がる所か、きっと彼女を取り戻しに来るだろう。

 先生が元居た世界のように、銃弾一発が致命傷に成り得た場合はきっとその限りではないだろうが。

 

 よくよく考えてみればこの世界において人質を使う手段は成立し難い、と言うよりも限りなく不可能な手法だ。人質とは、人間の命と引き換えにして目的を達成させる、と言うのが一般的だ。つまりは人質の生命、生殺与奪の権利を確りと握っておかなければならない、灯を消し去る覚悟云々は別として常にそれを手折る事準備が必要になる。そうでなければ、脅しの意味が無い。

 

 その点、キヴォトスの人間の命を奪う事はそれなりに手間の掛かる事だ。何せ銃弾程度の攻撃は痛いで済んでしまうし、戦車の砲撃が直撃したとしても何とか命は助かるだろう。それこそ一撃で、なおかつ瞬間的に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()でも無ければ。

 だが、確かに戦車ほどの戦力があれば、辛うじてだが人質の効力は担保されるだろうと先生は結論付けた。

 

 

 

 だから、ヘルメット団が今回セリカを攫った一連の事件は、一応筋の通った作戦だと考えられる。

 

 

『先生! バッテリーの残量が50%を切りました! これ以上のバッテリー消費は先生も危ないですよ!』

 

「は、早く先輩たちと合流しないと──きゃあっ!! 近くに!?」

 

 

 一つは脳に直接響くように声が響き。また一つは同じ空間から声が掛かり、さらにもう一つ限りなく近い場所で爆発音。どうやら戦車*1の至近弾であったらしく、それに因る衝撃が車内の先生とアヤネを襲う。さしもの先生もヘルメット団が戦車を保有しているとは思っていなかったようだ。

 

 正規の方法で免許を取った事もあり、アヤネの運転は戦車からの砲撃を上手い事捌き切っている。しかしこの状況は余り良い状況とは言えないのは先生もアヤネもとうに分かっている。

 

 

“小鳥遊さん達の場所は私の端末でモニター出来ているから、こちらが迎えに行くのも一つの手だね……”

 

 

 ヘルメット団の装備の状況から察するに、通信を追跡・逆探知されてホシノ達の居場所がバレるとは考え難いが、それでも万が一という事で作戦中は無線を封鎖している状況。たった今、ヘルメット団が所有しているとは想像していなかった戦車に追い回されている事もあり、高度な情報戦装備を保有している可能性も一層捨てられなくなった。迂闊な通信で潜入組を危険に晒すことは何よりも避けなければならない。

 

 しかしながら、現状は戦車に捕捉されている危険な状況であり、何とかしてこの追跡を躱してから合流したいのが先生の本音だった。しかし、砂漠を走れるように調整されていない車両で、砲撃を飛ばしながら追跡してくる戦車から逃げ果せるというのは簡単に出来る事ではない。ホシノ達と合流したところで戦車を何とかする方策がある訳でもなし、先生は次に選択すべき一手をなかなか判断できずに居た。

 

 

“うわわっ!”

 

「ごめんなさい先生! 私がもう少しうまく運転できれば……」

 

 

 言っているそばから、先生たちが乗っている車両が大きくスリップしてしまう。アヤネも必死にステアリングを握り締めコントロールを手放すまいと踏ん張っているが、やはり砂地に対応した装備でなければスペック通りの性能で活動する事は難しいようだった。

 

 とは言え、思っていた以上に彼我の距離が離れている事に先生は気付く。砂地に対応できていないとは言え車は車、発揮できる速度には大きな違いがあり追跡してくる戦車との距離は徐々にだが離れつつあった。砲撃される危険性は変わらないものの距離が離れた分、狙いは付け難くなったはずだ。

 

 

「戦車との距離が離れた今なら……!」

 

“このまま小鳥遊さん達を迎えに行こう!”

 

「先生! しっかり掴まってて下さい! ギアをもう一つ上げます!」

 

 

 距離の離れた今こそが好機であると、アヤネはギアをもう一段階引き上げつつアクセルペダルを深く踏み込んで車を加速させていく。後方からは戦車の砲撃音が絶えず聞こえてくるが、離れていく先生たちを捉える事は終ぞ叶わなかった。着弾時に地面を伝わってくる衝撃も距離が離れるにつれて段々と分からなくなっていく。時々砂に車両を取られながらも順調に距離を離し続けるアヤネの車は、そのままの足でホシノ達が潜入した車両保管庫へと急ぐのだった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 セリカを無事に救出したホシノ達。傍らに無造作に置かれていた彼女の銃も、攫われた時と状態は変わらず、セリカも「やり返してやる!」と息巻いている様子だ。

 

 さぁここから脱出だ、と気を引き締める救出組だったが、自分たちが進んできた道を引き返すだけであり、道中にはヘルメット団が一人も居ない状態であった。何か異常や物音があれば付近の団員が様子を確認しにやって来るだろうが、外を警戒していた奴らは全員先生とアヤネが乗り回していた車両に気を取られており、やはり脱出には大きな手間は掛からなかった。

 

 

「何というか、拍子抜けね……」

 

「外で先生とアヤネちゃんが気を引いてくれたおかげですね☆」

 

 

 セリカ自身不意打ちのような形で無力化され、連れ去られた訳だ。そういった事もありセリカは、多少なりともヘルメット団に対しての認識を改めていた。確かに正面から戦えば自分たちの技量の前にヘルメット団は手も足も出ないが、局所的な場面、限られた場面においては油断は出来ない。ヘルメット団も()()()頭を使って襲撃してくる、この保管庫の中にも伏兵が潜んでいるかも……。そういった事を常に考えて進んでいた。

 また、自分の失態でここまで仲間たちに助けに来てもらった以上、帰り道こそみんなの足を引っ張るまいと張り切って警戒に当たっていたが、その労力は無駄となった。無事に逃げ果せている以上、全部が無駄であるわけではないが些か拍子抜けであった。

 

 

「まぁまぁ、とにかく脱出は出来たんだし、早いとこ先生たちと合流して帰ろ~」

 

「ん、帰るまでが遠足」

 

「私が攫われたのは遠足扱いなの!?」

 

 

 シロコの冗談に、セリカの鋭いツッコミが光る。いつものノリで会話をするアビドス救出組。こういった日常的な一幕からもセリカが無事に戻って来た事を感じられて、ホシノはようやく一息置けたように感じた。シロコは多少冗談混じりの意味で言ったセリフではあるが、実際のところ正しくもあった。

 これで予定されていた工程がようやっと半分達成したといった所であり、ここから全員欠ける事無く帰還する事が最終目的なのだ。だがしかし、ここまで順調に進んでいる事もまた結果であり、少しばかりの小休止を挟んで帰るのでも悪くはないだろう。

 

 

「みんなー、かるーく武装のチェックしたら出発するよー」

 

 

 ホシノの指示を受けて、アビドス各位は素早く慣れた手つきで武装をチェックしていく。

 

 シロコはスリングに繋がった愛銃を手に取って、全体を隈なく観察してから砂を払ったり、チャンバーチェックを行って正しく次弾が装填されているか、持ってきた手榴弾や予備マガジンなどの各種装備品の残数を確認した。

 

 

「シロコ、異常なし。強いて言う事があるなら、手榴弾は残数2」

 

「私も異常なしよ。ヘルメット団が銃に細工していてもおかしくは無いと思っていたけど……」

 

「あんまり交戦していなかったので、まだまだいけますよ~☆」

 

「おじさんは夜遅いからもう眠たいよ~」

 

 

 セリカ、ノノミも順次チェックを済ませ報告をし、最後にホシノはいつものように気の抜けた様子で報告……と言っていいのか怪しい所だが、左手で保持していた盾を背中に掛け直し*2両手でショットガンを構え直していた。

 ぐるりと見回して全員の準備が整っている事を確認したホシノは一言。

 

 

「じゃ、帰ろうか。みんなでね」

 

 

 いつもの、余り覇気を感じられない顔で、そう言い放った。しかし、そこにはアビドスを守って来た委員長としての威厳が、確かにあった。

 

 

 

 

 

 盾を正面に構えずスリングを使って背中で保持しているホシノが一人で斥候を務め、他の三人は少し離れた後方から付いてくる方針を取った。四人の中で最も防御力に優れているのは間違いなくホシノであり、その要因として大きいのが背中に背負っている盾である。

 

 盾には敵の攻撃を防ぐ・耐える・かばう等の防御に使用される事が想定されているが、咄嗟の遭遇戦の際にも使用できる事から一定の攻撃力も備えている。*3

 今回ホシノは盾を背後の守り、すなわち背後からの伏撃(アンブッシュ)に限定して使う事で、前方の索敵に意識を多く割くことが可能になり迅速な情報収集が可能になる。万一、敵を見逃して背後を取られたとしても、その時こそ盾と自分の背後に控えている三人の後輩たちが黙ってはいないハズだ。仮に盾を搔い潜られたとしても、その時には自然と敵との距離も近くなっているハズで、ショットガンの有効射程圏内である可能性が高い。キヴォトス人であれば、多少の銃弾程度ではびくともしない肉体を持っている訳で、瞬間的に趙火力を叩き込まれる位の事がなければ、どうあっても戦闘続行が不可能になる程の被害を受ける事がないのだ。

 

 そんなホシノを先頭に、車両保管庫から外に続いている線路に沿って進んでいく一行。建物の残骸や放置された車両を遮蔽物に利用しながら、戦車の砲撃音が聞こえる方向へと足を進めていく。自分たちの方向へと寄せ付けないように戦車の(ヘイト)を先生とアヤネが取っている以上、必ずその方向に向かえば合流は果たせる。戦車への対応はその次でも大丈夫だと判断していたホシノは、迷うことなく先導を続ける。

 

 

 線路から少し離れた小高い砂丘の上に到達すると、豆のように小さいが戦車の姿を確認する事が出来た。一定間隔で豆粒のように小さな戦車が大きな衝撃をまき散らす榴弾を放っているが、アヤネの運転する車には届いていないどころか、距離を離されている。

 しかし戦車の方も、どういう訳かエンジンあたりから文字通り火を噴きながら、本来戦車では叩き出す事の出来ない速度で先生たちの車両を猛追している。どうやらヘルメット団には戦車を改造して運用するだけの力があるとは全く驚きだ。

 

 確かに距離は離れているものの、その差はじわりじわりと埋められつつあり、このままの調子ではいつかは追い込まれてしまうだろう。更に逃げていく方向にも問題があった。

 

 

「ありゃ、まずいね。先生たち、車両保管庫の方に向かってるみたい」

 

「行き違いになってしまったみたいですね」

 

 

 先生たちは戦車を引き離している間に、セリカを救出した一行をピックアップしてそのまま逃げるつもりであったが、タイミングが悪かったようだ。あと少し出発を後らせていればと、ホシノの心中には後悔が浮かんでいた。普段であればのんびりのんびり緩慢とした動き出しであったはずなのに、今回は迅速に動いている()()()であった……。

 

 そこまで来て、思い至った。

 

 自分が、知らずのうちに焦ってしまっていた事に。

 

 後輩を危険な目に合わせたヘルメット団への怒り、セリカなら大丈夫だと油断していた自分の情けなさ、無事に救出できたという安堵、そしてここからも無事に守り抜かなければならないという使命感。全てが合わさって、ホシノは自分でも分からないうちに焦った行動を取ってしまっていたのだ。

 

 

 

 ──だが、今日までアビドスを守って来たわけ小鳥遊ホシノという人間は、その程度の失敗や重圧に押し潰されるような弱くはない。

 

 

「先輩、どうする?」

 

「……先生たちの後を追う戦車を止めるよ。距離が離れているとは言え、キヴォトスの外から来た先生があそこに居る」

 

 

 シロコの問いに対して一瞬の沈黙(思考)の後、戦車を排除する選択を取ったホシノ。やはりただの人間である先生の身を思えば、戦車と言う余りに強大な脅威は排除する必要があると判断したのだろう。

 

 

「そうと決まれば早く行きましょ! 今なら戦車の側面を突けるわ!」

 

「焦っちゃめっ! ですよセリカちゃん!」

 

 

 逸る気持ちを抑える事無く一足先に砂丘から滑り下っていくセリカに、それを追いかけるべく走り出すノノミ。

 

 

「私達も行こう、ホシノ先輩」

 

「よ~し、最後のもうひと頑張り、がんばろー!」

 

 

 残った二人も落ち着いた様子ではありつつ、最速最短一直線にドンパチ撃ち鳴らしている戦車を始末する為に走り始めた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 順調だった。

 

 順調だったと思っていた。

 

 追い掛けてくる戦車との速度は明らかなモノであり、問題なく引き離せていた。あの瞬間までは、確かに思った通りに上手く逃げれていた。

 

 

 突如として後方の戦車から大きな爆発が起こったと思えば、これまでとは比べ物にならない程のスピードで猛追を開始し始め、一気に射程圏内にまで追いつかれてしまった。再び先生はシッテムの箱のバリア機能を駆使しつつ何とか逃げ続けているが、いつかは限界が訪れる事は目に見えている。また、ホシノ達が向かった車両保管庫に到着するには、もう少し時間を必要とする。

 

 

 ジリ貧の状況を打開する為の手段を先生は()()()()持っている。右手を背広の内ポケットに手を突っ込んだ先生は、その手で薄く硬い感触を確認する。

 

 こちらの世界にやって来た時には既に持っていたモノ。一度も使ったなんてないのに、どういう訳かコレの使い方は知っている。ただの人間が持つには過ぎた力、それを行使できると聞けば誰もが羨むかもしれない。

 生徒の助けになる事を目指しているが外の世界からやって来た事もあり非力な先生にとって、この力がどれだけ有難い力なのかは語るには及ばないだろう。この力があれば簡単に生徒を助け、自らの理想を叶えることが出来る。

 

 しかし、だからこそ先生は恐れていた。ただの人間に過ぎない自分が使える強大な力、警戒しないはずがないだろう。使う事で何かデメリットが生じる事は想像に難くない。こんな見た目であるから使ったら何処かから謎の支払請求が届くぐらいならいくらでも見逃すが、文字通り身を削るような力の可能性もある。

 

 きっと、自分はいつかこれを使わなければならない事態がやって来ると確信している。しかし、それは今ではないのだろうとも。

 

 

『先生! これ以上は……!』

 

「くぅぅ……、捌き切れない!」

 

 

 車内からはアヤネの切羽詰まった様子の呟きが、脳内にはアロナの危機を知らせる声が。

 

 この状況を切り抜ける方策が思い浮かばない以上、先生の取る手段はやはり。

 

 

“……、よし”

 

 

 覚悟を持って、突っ込んだ右手で物を掴み、引き抜く──

 

 

 

 

 事は、戦車の側面装甲を強襲したセリカの登場で差し止められた。銃撃は側面装甲に弾かれてしまったが、意識外からの攻撃に戦車の動きは止められた様子。

 

 

「アヤネちゃん! ……と、ついでに先生! 無事よね!」

 

「こっちですよ~! え~い☆」

 

「セリカちゃん……! 無事だったんですね!」

 

“小鳥遊さん達、既に脱出していたのにわざわざ助けに来てくれたのか……!”

 

 

 その後ろからはノノミが履帯に狙いを定めて、存分にミニガンを撃ち放っていた。ノノミの持っているミニガンであっても戦車の側面装甲さえ貫通させる事は出来ないが、履帯であれば話は別である。同じ部分に攻撃を集中させれば、戦車の履帯は切断できる。

 

 更に上空からシロコの指示した通りにドローンのミサイルが連続着弾し、砂煙を撒き散らしながら戦車に対して少なくないダメージを与える。堪らず戦車も主砲を旋回させて反撃しようとするが、舞い上がった砂煙が彼女たちの姿を覆い隠してしまい、あらぬ方向に砲撃が飛んでいく。

 

 その砂煙の中を、すいすいと戦車の方に抜けていく小さな影が一つ。

 

 

「ほいっと、覚悟しなよ~」

 

 

 動きの止まった戦車に飛び乗ったホシノは、使い込まれたショットガンで前照灯や機銃に対して攻撃を加えていく。確実にダメージが入っている事を確認したが、戦車もやられるだけではない。エンジンを再始動させて急発進させると、今度はホシノがバランスを崩して戦車の上から振り落とされてしまう。受け身を取った事と下が砂地であった事でほぼ無傷だったが、ホシノはもう少しやれたかなと少し勿体ないような表情。

 

 

“みんな!”

 

「ん、先生。アヤネも無事そうで良かった」

 

「うへ~、遅くなってごめんねー」

 

 

 セリカも合わせてようやく全員集合したアビドス対策委員会と先生たちだったが、喫緊の問題はまだ解決していない。

 

 

“みんな、油断はしないように! あの戦車とはここで決着を付けるよ!”

 

「ん、了解」

 

“黒見さん、行けるね?”

 

「あったり前でしょ! ぶっ飛ばしてやるわ!」

 

 

 やる気に満ち溢れた様子のセリカを見た先生は、全員に無線封鎖を解除するように前置きをしてから作戦を手短に伝える。

 

 

“砂狼さん、ドローンのミサイルは残りどれくらい?”

 

「ごめん……、さっきので弾切れ」

 

“それなら手榴弾は?”

 

「2個あるよ」

 

 

 ミサイルは無くなったが手榴弾ならばあるとシロコは答えると、先生は顎に手を当てて少し考える素振りを見せながら再びシロコに問いかける。

 

 

“砂狼さん、今回君には重要で危険な役回りを任せたいんだけど、自信はある?”

 

「ん、任せて欲しい」

 

“……よし、それなら作戦を話すね”

 

 

 その返事を聞いて先生は満足そうに頷いてから、全員に向けて作戦を話し始めた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「こっちよデカブツ!」

 

 

 セリカは威勢よく啖呵を切って、雨霰のように銃撃を浴びせ掛けるがやはり装甲にダメージは見られず、セリカに狙いを付けるべく主砲が旋回していく。すかさずセリカも砂に覆われた大地の上を機敏に走り回って、簡単に狙いを付けさせないように動く。

 

 

「今度はこっちですよ~!」

 

 

 そんな戦車を、砂丘の上から撃ち下ろしているのはノノミである。直前まで戦闘を行っていたセリカは、ノノミと入れ替わるように遮蔽物へと身を隠して息を整える。先ほどとは違い、特に狙いを付けずばら撒くように銃弾のシャワーを振りまくと、戦車はそちらの方向へと回頭していく。その光景を認めたノノミは打ち合わせ通りに砂丘を滑り降りて射線を切るように行動する。

 

 

「セリカちゃんもノノミちゃんもやるねぇ。そしたら、おじさんもちょっとは頑張りますかね~っと」

 

 

 ノノミを狙って戦車が前進していくが、そうはさせまいと今度はホシノが遮蔽物から飛び出して一気に距離を詰めていく。彼女は盾を携行していない為に、走る速度が先程とは明らかに違って素早い。その俊敏な脚捌きで戦車の懐へと潜り込んでいき、やはり狙いを付けずに雑に攻撃を加えていく。不規則な軌道で回避を行いながら攻撃を加えていくホシノに対し、戦車は狙いをなかなか絞れないらしく砲塔が右に左に行ったり来たりしている。

 

 

「援護する!」

 

「こっちも行きますよ!」

 

 

 それだけでは終わらず、一度後退したセリカとノノミも再び戦線へと戻って三方同時に攻撃を仕掛けていく。同時攻撃を受けてはいるものの決定的な被害は受けていない戦車は、その狙いをミニガンと言う取り回しの悪い火器を扱うノノミに絞って攻撃を開始したようだ。

 

 

『十六夜さんは大きく戦線から下がって!』

 

「了解です!」

 

「あたしと委員長でもう少し気を引けばいいのよね!?」

 

『そのままの感じでよろしく!』

 

「おじさんは辛いよ~……」

 

 

 インカムで指示を飛ばす先生と、上空にドローンを飛ばして視界を取っているアヤネは後方支援に徹している。先生の持っているタブレットでも戦況は逐次確認できるのだが、先生以外がシッテムの箱を使う事は出来ない事と、先生以外には画面が真っ暗に見えてしまう事もあり、アヤネ自身も戦況を確認する為には持参したドローンを使うしかないのだった。

 

 正面切って戦う事は出来ないが、それでも二人には二人にしか出来ない戦いがある。今自分に出来る事を全力で、そういう意味で二人の心はぴったりと合わさっていた。

 

 

 


 

 

 

 

 

 さて、一人待機しているシロコは、ただ只管に時を待っていた。先生の立てた作戦の肝はシロコであり、彼女の働き次第で結果が決まると言っても過言では無い。

 

 先生とアヤネが待機している位置と、最前線で戦う三人と戦車の位置を逐一アヤネのドローンから齎される情報で確認しつつ、先生からの指示を待っている。目視でも位置関係を常に監視しつつ、先生たちにも気を配っている。

 

 

 

 妙な縁が原因でシロッコと行動を共にしている内に、ニュータイプとして徐々に覚醒しつつあったシロコ。そんな彼女だからこそ気づくことが出来た、先生に近づいてくる、明確な悪意に。

 

 

「……嫌な感じ」

 

 

 作戦の決行指示は出ていないが、直感を信じてシロコは動き出す。

 

 目的の戦車の方にではなく、先生たちの下へである。

 

 

 事実、シロコの直感は正しかった。

 

 

 

「いやー、貯め込んだ金殆どなくなっちまったなぁ……」

 

「でも、久々に銃のクリーニング出来て良かったじゃん。お前の銃結構塗装剥げてたし」

 

「まぁな。……しっかし、ブラックマーケットにもしばらくいけなくなっちまったなぁ」

 

「また金貯めれば良いだけだろ、何を深刻そうに言ってんだよ」

 

「アタシはまだまだ金残ってるし、明日もブラックマーケット!」

 

「お前はこれ以上何を買うんだよ……」

 

 

 先生たちが指示出しをしている場所の近くに、楽しそうに歩きながら会話している集団が居た。

 

 彼女たちはヘルメット団の別動隊──と言っても、実のところは単にセリカ誘拐作戦をさぼっていただけの連中──が、なんと先生の待機している場所へと接近しつつあったのだ。作戦の内容は聞かされていたが、ヘルメット団という組織においては参加するしないの選択権は基本的に自由である。しかし、作戦に参加しないと給金の分け前がもらえないので、基本的には全員参加なのだが。

 

 彼女たちはそういった事を織り込み済みで作戦をさぼった一団だった訳だ。

 

 とは言え、そんなサボり組の彼女たちもれっきとしたヘルメット団の一員であり、手柄を立てる機会があればそれをモノにしようと動くのは当然の話である。

 

 

 

 

 

「先生ッ!」

 

 

 シロコが先生たちの下に辿り着いた時には、ヘルメット団の一人にライフルの銃口を向けられている状態だった。戦闘指示はお手の物だが、実際の戦場に立った事の少なかった先生は、銃口を向けられた際に何もできずなかった。アロナも戦闘支援に多くのリソースを割いていた為に、背後から接近してくる敵集団に気付かなかった。アヤネも前線の動きを逐一ドローンで確認していた際に、咄嗟に先生を守る選択が取れなかった。

 

 

 その瞬間、動ける人間はシロコのみ。

 

 

 思うよりも先に身体は動いていた。

 

 

「うあああッ!!」

 

 

 シロコは──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……そして、その様子を傍観者が、やはり上空から興味深そうに眺めていた。

 

 

「……そうか」

 

 

 彼がこの世界に呼び寄せられた事は、少しずつ物語を本来とは違った方向へと動かしていく。

 

 彼自身は傍観者を気取ろうとしても、もはや世界はそれを許すことはしないだろう。

 

 

 パプテマス・シロッコは、その瞬間から、この世界を構成する一つの要素として組み込まれる事になるのだ。

 

 

 

 

 

*1
『Flak41』の改良型、とブルアカのストーリーに記載があるが、これはあくまで対空機関砲の一種である。セリカはこれを見て戦車であると発言した事もあり、無限軌道にFlak41対空機関砲を搭載した自走砲、ないしは戦車であると判断できる。ただFlak41にも8.8㎝口径のものや5.0㎝のものがあったりする都合上、ここでは8.8㎝口径のFlak41搭載型改造戦車という設定で進める事とする。

*2
初代ガンダムの姿を想像してみると分かりやすいだろう。

*3
アニメでも鈍器として敵にぶつけているシーンがあった。まぁあれはスリングを使って振り回して当てているような感じはあったけど。そもそもの話、アニメではホシノがショットガンを片手で撃っちゃっているシーンもあったりで、そんならショットガンとシールドを同時に運用する事だって出来ちゃうじゃんってなる。普通にキヴォトス人の運動能力でちょこまか走り回りながら、盾で致命傷を避けつつ距離詰められて、射程に入ったらトリガーって、所見での対応って無理じゃないのって思う訳ですよ私は。




なるべく早く、次話を投稿できるように努力します。


では、皆様も体調にはくれぐれも気を付けますよう。
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