シロコとシロッコ   作:メイショウミテイ

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モチベがあっても書く時間がなかったり、時間があっても他が忙し過ぎたりモチベがなかったりで、色々時間がかかってしまいました。

その隙にVガンダムを全話見てしまったり、またΖガンダムを見始めてしまったり、色々モチベが復活してきたのでなんとか書き上げました。

感想下さった方々には感謝を。


アビドス編 6

 決死の覚悟で先生を庇ったシロコ。いくらキヴォトスの人間が打たれ強く、そして頑丈だとしても銃弾を雨霰と浴びせ掛けられれば只では済まない。

 

 キヴォトスの人間であっても無敵ではないのだからそれは当然であり、この時のシロコにも同じ事が言える訳だ。

 

 

「シロコ先輩!」

 

 

 アヤネの悲痛な叫びが響く。目の前で起こった光景を彼女はしっかりと認識していた。ヘルメット団の別働隊が接近していた事に彼女は全く気付けなかった。実際のところヘルメット団の作戦でも何でもない、全くの偶然であった為仕方がないといえばそうなのだが、その結果としてシロコは大怪我を負ってしまった。

 

 

「くっ……、うぅッ……!」

 

 

 そんなシロコは複数人からの銃撃を正面から受け切った。受け止めはしたが、彼女が着ていた衣服はボロボロになっている他、身体には目も当てられない程の無数の生傷で彩られていた。それでも何とか無防備な先生の目の前で仁王立ちを続けている。しかし、先生でも分かる程にシロコは限界だった。

 

 

「ま……、まだぁッ!」

 

 

 シロコは全身から発せられる痛みを何とか無視して手に持った銃火器を構えて、発砲。最早リコイル制御ができるような体でもないのに、それでも何とか1人は持っていけた事を確認するシロコだが、しかしそこまでだった。

 力が全身から抜けていく体を何とか愛銃を支えにして……、立っている事は出来ずに立膝で荒く呼吸を繰り返している。

 

 先生はそんな苦しそうに呼吸を続けるシロコに駆け寄ろうとして、咄嗟に隠れた物陰から飛び出した。今の先生には眼前に写るボロボロのシロコしか目に入っておらず、まだ無力化されていない敵ヘルメット団には全く意識が向いていなかった。

 

 

「先生ッ! ……これで、なんとか!」

 

 

 物陰から飛び出していった先生の姿を見てしまったアヤネは、なんとかハンドガンを抜き放ち援護射撃をする。アヤネ自身は前線で戦う人間ではないが、何があっても良いように訓練はやっているし銃の整備だって真面目に行なっている。その甲斐あってか、正常に動作した彼女のハンドガンは、彼女自身の正確な狙いもあって上手く牽制することが出来ていた。

 

 運良くシロコが破れかぶれで一人を無力化し、さらにアヤネの決死の援護射撃を受け、ヘルメット団の方も一旦物影へと身を隠していた。その為すぐに反撃を受けずに済んでいた。例え銃撃されていたとしても、先生がシッテムの箱を持っている状況であれば命に関わる状況にはならないだろうが。*1実際、シロコが目の前で立ち塞がった事でシッテムの箱は自己判断で所持者の保護機能を全開にしていた。シロコの稼いだ一瞬のおかげで、先生は傷一つ受ける事無く迫っていた危機を切り抜ける事が出来たのだ。

 

 

「せ、先生……来ちゃダメ……」

 

 “そんなこと言ってる場合じゃない! 早く手当てしないと! ”

 

「そうですよシロコ先輩! 待っててください、今すぐ応急処置を……!」

 

 

 焦る先生にはやはりヘルメット団の姿は見えていない様子。アヤネもドローンの操作はそっちのけで、常備している救急キットを準備している。シロコからしてみれば、無防備を晒してこちらに駆け寄って来た先生は命知らずとしか言えない暴挙だった。アヤネもアヤネで、先生の身を守る方が最重要だと判断しなければならないところだ。確かに先生には自分を守る手段がありそれを知っているからこそアヤネも救護に入ったのだが、そんな事を知らないシロコからすれば命を無駄にする為に動いているとしか思えなかった。

 

 最早頭を少し動かす事すら出来ない程に限界なシロコだが、零れ落ちてしまいそうな意識を何とか繋ぎ止めつつ目を開き続けていると、見上げていた上空に見覚えのある浮遊物を見付けた。戦場を上空より俯瞰していたシロッコのドローンそのものである。

 

 

『無事、とはとても言えない状態だな、シロコ』

 

「(全然無事じゃない……全身痛い)」

 

『当然だ。キヴォトスの人間とは言え、あの攻撃を一身に受けて無事で済む方がおかしいだろう』

 

「(うーん……それはそうだけど……)」

 

 

 戦場で行われるには少しばかり空気感が緩い会話だが、状況は全く改善されていないのである。今もヘルメット団の脅威は取り除けていないし、先生も自分を抱えて遠くへ歩みを進めているが、こんな速度ではすぐに追い付かれる。何とかしてヘルメット団を無力化しないと安全は確保できないだろう。

 

 しかし先生に戦闘能力は皆無だし、アヤネだって表立って戦えるような装備はしていない。それでもアヤネは何があっても良いようにいつも装備していたハンドガンを抜き、敵を近づけさせないように抑え込んでいる。完璧と言えなくても、その行いには一定の効果が認められ、そのおかげで先生がシロコを背中に担いで戦場を離脱する時間を作ったのだ。そんな、先生にされるがままに担がれているシロコ自身は、全くもって動ける状況ではない。正直言って涙が出る程にピンチという感じだ。

 

 だが。そんな危機的な状況を打開する術をシロッコは持っていた。確信は無いが、彼女との親和性は相当に高いハズだし、そうでなくても彼女自身の力を増幅させるように意識すれば上手くいくだろうと思っていた。

 

 

『……少し危険かもしれないが、この危機を脱する手段があるかも知れない。と言ったら、キミはそれを信じるか?』

 

「(……その手段を信じることは出来なくても、シロッコは信じてる)」

 

『──中々良い返答だ。ならば、強く自分を持て。そして、私を信じて、受け入れるんだ』

 

「(受け入れる……って言うのは、どういう……?)」

 

 

 彼女の返事を待たずにシロッコは行動を起こす。その証拠に、シロコの頭上を旋回していた彼のドローンは、まるで充電が切れたかの様に浮遊力を失って真っ逆さまに落下を始めていた。シロッコの意識がある限り永久的に活動できると言っていた、あのドローンが落ちている。

 

 シロコは嫌な予感がした。シロッコの身に何か起こったのでは無いか、もしやドローンを狙撃されたのではないか。嫌な考えが止まらなくなるシロコだが、それは杞憂で終わる事になる。

 

 

『シロコ、聞こえていたら返事してくれ』

 

「(……え、シロッコ? 今どこに……!?)」

 

『キミの肉体に乗り移った。私の力を使えばキミの力を増幅させる事ができるハズだ』

 

「(ん……???)」*2

 

 

 しかし、何となく身体に違和感があり、少し動かしてみればどういう訳か不思議な程に軽く感じた。先ほどまでは大怪我のせいで体が少しも動かせなかったのに、今では絶好調の状態よりも調子が良く感じていた*3

 

 流石に実感できる体の軽さに、シロコも彼の言う事を信じる気になったらしい。ここまで体が軽ければ先生を安全な場所まで連れて行ってから、蜻蛉返りで追っ手を撃破する事も容易いはず。

 

 

先生。もう大丈夫だから、降ろして欲しい

 

 “ダメだよ! あんな怪我しておいて下ろせる訳が……”

 

 

 普段運動をしていない事もあるのだろう。シロコ程の小柄な女子高生をおぶって走っていたから、先生は汗を滝のように流していた。この様子ではシロコよりも先に倒れかねない程だった。

 

 そんな状態の先生であっても、シロコに何か異常が起こった事は分かったらしい。さっきまで意識を保っている事もやっとだったのに、いつの間にか呼吸は一定のリズムになっているし、受け答えも力強いものになっていた。

 

 彼女を行かせるつもりはなかったが、それでも彼女に感じる違和感を確かめたいと思った先生は、何とかといった感じで彼女を背中から下ろす。

 

 

 “どういう事……!? あんなに傷だらけだったのにほとんど治ってる!? ”

 

ん、そういうこと。先生はあそこの岩陰で隠れてて、私が片付けてアヤネも助けるから

 

 “そんな! 傷は治ったのかも知れないけど……! 

 

 

 シロコは先生の返答を聞くつもりがなかったのか、言いたいことだけ言ってさっさと走って行ってしまった。先生も彼女を一人にするわけにはいかないと考え何とか追いかけようとしたが、彼女の走る速度がまさしく普通ではなかった為に諦めるしかなかった。彼女と出会ってから長い時間は経っていないが、それでもあそこまで走るのが早いとかそういった事には気付かなかったなと、先生は走り去っていく生徒を見つめながらも、少しでも彼女に追いつく為に歩き始めた。

 

 

 

 

 シロコ自身も異常なほどに走るのが早くなっていた事に驚いているが、要因は明らかだった。

 

 

「(これもシロッコのおかげ?)」

 

『そう考えるのが妥当だろうな。キミと私の親和性が良いのは想定通りだが、どのような影響が現出するのかは未知数だった。まぁ、身体性能の向上ぐらいはするだろうと私も思ってはいたが』

 

「(そっか、ありがとうシロッコ。貴方のおかげだね)」

 

『礼には及ばんよ、これから長い付き合いになるかも知れないのだ』

 

「(……ん、それはどういう──)」

 

『追っ手が見えたぞ』

 

 

 シロッコの声が頭に響くと同時に、ゆっくりのんびり歩いてこちらにやって来るヘルメット団の一団が見えた。アヤネの姿は近くには見えない。ホシノ達に合流したのか、まさか……! 

 

 

『冷静になるのだ、シロコ。アヤネの気配を感じて見るんだ』

 

「(感じるっていっても……、いや、分かる!)」

 

 

 シロコにはアヤネの気配が手に取るように分かった。先程まで陣取っていた場所で息を潜めて敵が去るのを待っていた。敵を抑え込んだはいいが後退するタイミングを失ってしまった事で、済し崩し的に潜伏するしかなかったのだろう。

 

 結構距離が離れているし、銃が届くような距離でもない。それでも今のシロコならばこの程度の距離は障害にはならない。一気に接近して──

 

 

『そう逸るものでもあるまい。あの様子ならばこちらで騒ぎを起こして敵を引きつけてやれば、彼女を救う事に繋がるだろう。それに、今の自分がどの程度の力を持っていて、何が出来るのかを知っておくには良い機会だ。その為には、焦りという感情は邪魔にしかならない』

 

 

 そう、今のシロコは一人ではなく、冷静に物事が俯瞰できるシロッコがサポートしているのだ。確かにと、シロコ自身も静かに同意、気持ちを抑えて身を屈める。アヤネも1対5の状況で自分から居場所を晒す様な暴挙はしない。確かに焦る必要はないけれど、シロコだってこの力に対して深い知識がある訳ではない、具体的に何が出来るのかなんて見当もつかなかった。

 そんな彼女の様子をシロッコが分かっていない筈はない。

 

 

『私が保証しよう。今のキミの状態ならば、あの程度の人数、苦戦する事なく無力化できる。勿論アヤネを救い出すことも、だ』

 

「(……そうなの?)」

 

『あぁ、断言する。戦闘に入れば、より簡単に自分の能力が実感できるだろうが……。物は試しだ、この距離を銃で狙ってみると良い』

 

 

 シロッコ自身この身体に入り込んで数十分といった具合だし、何ができるのか正確に把握出来ている訳でもない。それでも生前の感覚に従って、シロコに狙いを付けさせてみた。言われた通りにシロコは心を落ち着けながらスコープを覗いてみる。身体を共にしているシロッコにもその感覚はしっかりと共有されており、スコープ越しに敵の心音や情念が手に取るように感じられた。

 シロコにはその感覚がまだ上手く理解できていないが、それでもいつもとは“何か”違う事があるとは分かっているらしかった。いつもとは違った見え方が出来ている彼女自身驚いている様子だ。

 

 

『それが“敵を感じる”という事だ。キミがセリカを感じる事が出来たように、敵意や気配を感じれば遠くの敵や壁越しの敵なども簡単に捕捉できる』

 

「(感じる……)」

 

『目に見えるモノだけが全てではない、感じ方を変えてみる事だ。そうすれば、ある程度の事態ならば難なく切り抜けられる』

 

 

 ニュータイプとして力を自覚しつつあるシロコは、従来の感じ方ではいずれ限界が訪れる事をシロッコは予期している。それは自分にもあった変革の時であり、それを乗り越える事で彼女はまた一歩、高みへと至る事が出来るとシロッコは考えている。そこに導き、シロコを真に覚醒させる事が、シロッコがこの世界で成そうとしている一つの目標に成りつつあった。

 

 宇宙に出た人類は新たなセンスを身に付ける。

 

 その片鱗を手にしているシロコは、それを徐々に自分の中で理解しつつあった。

 

 

 物は試しと、シロッコは言っていた。どの道敵は無力化しなければならない、それならばと。

 

 スコープを覗いたまま、シロコは自身の内に眠っている力を引き出そうと意識して……トリガーを弾いた。

 

 

『……フム』

 

あー……

 

 

 打ち出された銃弾は途中までは彼女の狙い通りにまっすぐ飛んでいき、やはりある地点から推進力を減らしていき、そしてターゲットに届く事なく落着してしまう。不思議な事ではなく、それは物理的に考えてみれば当然の結果であった。長距離を撃ち抜けるだけの強力な弾丸を使っている訳でも、それに適した銃火器を使っている訳でもないのだ。届かなくて当然なのに、シロッコはそれを笑う事なく如何にも興味深いといった表情でシロコを見ている……ように見える。*4

 

 銃声に気付き、撃ち込まれていると分かったヘルメット団は発砲元であるシロコの姿を認めると、射程距離外であるのに銃を乱射しながら接近してくる。改めて数えてみれば……5人、といったところか。取り敢えず、アヤネの近くから敵を引き離す事には成功したが、問題はここからだ。力に放り回される事なく、制御し切れるのだろうかと、シロコは少し不安になっていた。

 

 

『さぁ、ここからはキミの出番だ。当然私もサポートするが、それでも実際に戦うのはキミ自身だ』

 

ん、分かってる

 

『一番近くで、キミの戦いを見させて貰おう』

 

 

 それでも、シロコとヘルメット団では素の状態で明確な力の差があるのだ。それに加えてシロッコが宿ったシロコの肉体は、キヴォトス全体で見ても向かう所敵無しな程の強度と敏捷性を持っていた。彼が先程言っていたように、何が起こったとしても今のシロコが遅れを取ることは万に一つもない。多少シロコが心配そうにしていても、それは変わらない事実だ。

 

 

ふぅ……、よし

 

 

 その一言の後に、彼女は一気に全速で敵の一団へと肉薄していき、瞬きの内に二人を仕留めてしまった。

 

 

「……へ?」

 

「うっ、嘘だろ!?」

 

どこ見てるの──ふッ! 

 

 

 倒れた二人に最も近かった黄色のヘルメットを被った団員は、味方が戦闘不能になっている事に気づいた時にはシロコによって腹部を思い切り蹴り飛ばされており、砂丘の中へ顔面を突っ込んだまま失神していた。向上した身体能力から繰り出された強化キックは、頑丈なキヴォトス人をも一撃で昏倒させてしまった。

 

 

「う、撃て撃て!」

 

「痛っ! おい! 私に当てるなバカ!」

 

「んな事言っても、アイツ早すぎるんだよ!」

 

 

 銃撃を浴びせられても、シロコはそれを完璧に把握しており見るまでもなく回避している。ヘルメット団も必死に狙いを付けようと銃を構えて追い掛けているが、一向に当たる気配がない。それどころか味方同士で勝手に同士討ちを始めてしまう始末。狙いを絞らせないように走り回っているだけで勝手に敵がダウンしてしまいそうな状況に、シロコは自分の力の異常ぶりを再認識するのだった。

 

 そして銃撃を続けていた二人がリロードをするというタイミングを見計らって、愛銃を構え直してしっかりと意識を刈り取っていくシロコ。

 

 アビドスのみんなであれば、誰かのリロードタイミングには他の誰かがカバーをする物だが、奴らヘルメット団にはそれをするだけの協調性はなかったらしい。

 

 

このままホシノ先輩達の所へ! 

 

 

 一難を退けたが、まだ本来の仕事が残っている事を忘れていないシロコは、その機動力を活かしまだドンパチやり合っている他のアビドス勢を援護しに向かった。

 

 

 

 

 

「あ、あれは、本当にシロコ先輩なの……?」

 

 

 隠れていたアヤネは銃撃の音に気付き遮蔽物に身を隠しながら戦闘の様子を伺っていたが、いつものシロコの力より、いや、キヴォトスの人間以上の力を発揮して敵を一瞬の内に殲滅し、目にも止まらぬスピードで走り去っていく彼女の様子を見て、一抹の不安を覚えた。

 

 自分の知っていた砂狼シロコという存在にヒビが入った様な感覚を、アヤネは感じていたのだ。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 ホシノは適度に戦いながらも射線を細かく切りつつ、それは見事なヘイト管理を行なっていた。それこそ、自分に一番戦車の視線を向けさせる為、わざと動きを緩慢に装って攻撃を誘発させたり、ショットガンで無駄弾を撃ち放ってみたり、視線を上手い事釘付けにしていた。それでいて、先生の指示には従って、他の二人にもヘイトを押し付けつつ戦闘を継続していたが。

 

 

「先生からの連絡が、止まった」

 

「どうしますか、先輩?」

 

「まさか、先生とアヤネちゃんの身に何かあったんじゃ!?」

 

 

 セリカの言う通り、何かがあったと考えるのが妥当だろう。バッテリー切れか故障、敵の別働隊の襲撃、単に移動しているだけ。色々考えられるが、こう言う事態においては、常に最悪を想定して行動するのがホシノだ。

 

 ここでホシノは、これからの行動を二択にして絞った。

 

 

 対面している戦車を放って先生達の様子を見にいくか、先生達を信じて従来の作戦通りに戦車を相手にするか。

 

 

 ホシノ自身、先生の事は正味どうでもいいと思っているが、アヤネは別だった。アヤネはこんな状況のアビドスに入学してくれて、アビドスの事を考えて行動してくれる希望の光だ。彼女を失うことはなんとしても避けなければならない。そこまで分かっているならば、悩んでいる時間は無い。

 

 セリカは無事に救出できているし、今は全員で生きて帰ることが最優先と判断したホシノは、指示を待っている二人の後輩たちに。

 

 

「アヤネちゃん達と合流し──」

 

 

 撤退する、そう宣言しようとしていた彼女は、耳に何かが近付いてくる音を捉えた。咄嗟にシーッと、口元に人差し指を当てる。ヘルメット団の増援が接近しているかもしれないと考えるのは当然だった。ここで見つかってしまっては、全員揃って撤退する事はさらに難しくなる。余計な敵の参戦は避けたいが、どうか。

 

 サッサッサッサッ、流れる砂を蹴って進んでくる誰か、誰か? 

 

 そこでホシノは思った、足音は一つだけしかしない事に。

 

 

ここで、墜とすよ

 

 

 いつもとは纏っている雰囲気がどこか違うように感じられるが、アビドスの後輩である砂狼シロコが戦場に参戦した。ホッとしたホシノだったが、シロコの様子がおかしいのは雰囲気だけではなかった事に素早く気づく。

 

 

遅いよ

 

 

 戦車の砲塔が旋回して彼女に狙いを定めようとするが、その速度を遥かに上回って走る彼女。元々シロコは素早く動ける人間ではあったが、それでもあの速度は異常としか思えない。ホシノは自分をも超えているかもしれないと戦慄した。

 

 シロコが持っているアサルトライフルでは当然だが、戦車の装甲を破る事は不可能だ。しかし彼女の撃ち放つ銃弾は装甲に対して明確なダメージを与えているように見える。弾かれている時の甲高い音ではなく、装甲を突き破っている重苦しい音がそれを証明している。側面装甲を狙って攻撃しているとはいえ、側面であっても戦車の装甲を対人用の兵器で貫徹することはまず出来ない。それこそ、対戦車ライフルというカテゴリがある以上、それかそれに準ずる大口径のライフルでも無い限りは。

 

 眼前で繰り広げられている正にファンタジーな光景に、流石のホシノも開いた口が塞がらなくなってしまいそうだった。隣に控えているノノミとセリカは正にその状態であり、信じられないモノを見ているといった具合で口を開きながら、乾燥する眼球にも気づかず目を見開いていた。自分たちに知っている砂狼シロコが、こんな人間離れした挙動で戦車を翻弄して、剰え有効打まで与えているとは。

 

 

「ノノミちゃん、セリカちゃん、私達も行くよ」

 

「はっ、はい! シロコちゃんを援護しましょう!」

 

「そうね! 先輩だけにいいカッコはさせられないわ!」

 

 

 一足先に正気に戻ったホシノの号令で、控えていた3人が散開しつつ攻撃を開始。シロコに引けを取らない機動力で戦車の運転手ハッチへと飛び乗ってショットガンをお見舞いすると、ハッチが原型を留めない具合に変形していく。それを見ていたシロコは同じように戦車に飛び乗ってキューポラをこじ開け、用意しておいた手榴弾を2つ、車内へと転がした。

 

 それを見届けたホシノは、シロコが飛び降りたのを確認してからキューポラにも同じようにショットガンで攻撃を加えていき、同じように変形するまで連射。そうして彼女も飛び退った数秒後に、戦車内部から大きな炸裂音が二度響き、それを最後に戦車の活動は最後になった。

 

 

 

 

 

 こうして、当初の目的通りにセリカを救出して戦車も無力化し、敵の追撃を受ける事なく学校へと帰ることが出来たアビドス一行。

 

 全員がちゃんと無事な姿を確認した事で、満足そうに笑ったのはホシノとノノミ。シロコは周囲の警戒をしながらもふんすと、やってやったぜといった満面の笑みを浮かべていた。セリカは同級生のアヤネに説教にも似たお小言を言われながらも、心配をかけたのは事実だしとあまり強く出れない様子。

 

 そんなアビドスの和気藹々とした光景を先生は少し遠くから見つめて、同じように微笑で彼女達を見つめていた。

 

 

 ただ一つ、シロコの様子を気がかりに思いながらも。

 

 

 そしてそれは、先生だけではなくホシノも同じであった。

 

 

 

 

 

 

 また、シロッコが乗り移っていたドローンは帰還の際にシロコによって回収されたが、結局その後回収されたドローンが動くことは二度と無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
あくまでバッテリー状況が十全であればの話。

*2
宇宙猫ならぬ宇宙狼シロコ

*3
流石に受けているダメージがなくなった訳ではないので普通に言い過ぎだが、単純にシロッコのニュータイプ的なスーパーパワーがシロッコのキヴォトス人という、常人離れした肉体をサポートしている事でその力は通常の三倍くらい(当社比)凄い事になっている。簡単に言えば、『倍』じゃなくて『乗』って感じのパワーアップイベント。

*4
あくまでイメージとして




次回は本当に未定です。



ストーリー通りに進めるつもりですが、ストーリーで一話くらいで終わる話を引き延ばしまくった結果がこれなので本当にどうなるか分かりません。

もっとさっくり書きたいんだけど、丁寧に描写したい気持ちもあってなかなか難しいところです。



今回は、そんなところで。
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