間に話を挟みまくってしまって、いつになったらこの作品を締められるのか見通しがつきませんが、なんとか走り続けたいと思っています。
感想とか評価とかお気に入りとか読んで下さっている方々には、感謝の言葉も無いです。
「ねぇねえシロコちゃん、ちょっとお話し良いかな?」
「ん、先輩。どうしたの?」
大きなあくびをしながら彼女にしては珍しく眠たそうな様子で委員会室に入って来たシロコに、ホシノは朝の挨拶もそこそこに早速話を切り出していく。
小鳥遊ホシノの疑問、砂狼シロコが昨日の夜中に何をしていたのか。彼女の頭の中はそれに埋め尽くされており、それを本人に聞かなければ解消できない程に大きく膨らんでいた。どうか彼女ではないように、そういったささやかな願いも込めてホシノは口を優しく、いつも通りの雰囲気を心掛けて口を開く。
「昨日の夜、何処か外に出たりしてた?」
「……どうしてそんな事聞くの?」
「いいからいいから〜、大した理由じゃないしさ〜」
「うーん……?」
どこか妙な雰囲気から投げかけられた質問に戸惑うシロコだったが、隠すような理由も無かったので正直に答えていく。
「昨日の夜は何処にも行ってないよ。10時位には寝てたし」
「──うへぇ〜、健康的だねぇ。おじさんも見習わなきゃね〜」
「???」
なんだかおかしい。いつもダラダラノロノロとした雰囲気なのに、あの質問の瞬間だけ、とてつもない
その後どういった意図の質問なのかとシロコが問い掛けてみてもホシノはのらりくらりと明言を避け続け、そのまま隣の部屋でお昼寝と称して寝込み始めてしまった。
たまらずシロッコの知恵を借りようと思って呼びかけてみても、彼からの返答は無かった。シロコの呼びかけが聞こえていないのか、それとも何か異常があって応答出来ないのか。自分の事であっても、シロッコとの出会いや経緯は少々特殊なものなので解決に糸口すら見つけることが出来ない。しかし、シロコ自身確実に分かっている事として、彼の思念やら存在やらはいつも通りしっかりと近くに感じられているのだ。もしかしたら今はタイミングが悪かっただけかもしれないと深く考える事はしなかった。
その日学校に対策委員会が集合した理由としては、全員で物資輸送の高額アルバイトに参加するためであった。今月の利子を払う為には危険な橋だって恐れる事なく走り抜けなければならない。それが、たとえどのように崩れ掛けて見えても、金の為には進まなければならない。
「も〜〜〜!! どうしていっつもこうなるのよ!!」
「まぁまぁセリカちゃん、赤信号だってみんなで渡れば怖くないって言うしさー」
「怖いとか怖くないとかそういう事じゃないでしょ!」
「セリカ危ない!」
「わわっ!?」
シロコが咄嗟の判断でセリカの頭を下げさせると、その少し上をロケット弾が通り抜けて行って……後方で大爆発を起こす。
案の定輸送任務の途中でそこら辺のチンピラ集団の襲撃を受けた輸送部隊一行。いつの間にか仕事内容に追加で護衛任務も追加されていたらしい。
「邪魔しないでください!」
ノノミがミニガンを横一列に掃射すると、避けきれなかった敵集団の数人が被弾してあえなく撃沈。しかし、まだまだ敵戦力は数が多く残っていた。
「シロコちゃん、着いて来て!」
「了解!」
敵中に突貫していくシロコとホシノに対して、ノノミとセリカは護衛対象の直庵に終始していた。
その後、ノノミとセリカが護衛対象を守っている間に、敵の勢力の大多数をシロコとホシノの二人が目にも止まらない速度で殲滅していき、無事に依頼完了させて報酬を受け取る事が出来た。予想外……と言いつつもなんだかんだでこういう状況になると思っていたので、結構臨機応変に対応出来た対策委員会に大きな被害は見受けられない。
その日は報酬の額を確認して解散となった。
仕事が思ったよりも早く終わった事で家に帰って来た時間も早かった。シロコはいつもよりも早い時間にご飯を食べてお風呂に入って、そしてベッドに入った。今日はどういう訳か寝不足だった感じがして朝は調子がそこまで上がっていなかったので、そういう事も考慮して早めに寝ることにしたようだった。いつもと同じ時間に寝て、同じ時間に起きて、そしていつも通りのルーティーンを済ませて学校に向かうだけなのに不思議な事だ。
その日は、結局シロッコの声を聴く事なく眠りに着いたシロコだった。
「さて」
今日も今日とて、彼は活動を開始する。
シロコが早めに寝付いてくれたおかげで、いつもよりも早めに行動できるようになったのは良いことだ。
「何やら身体の調子が悪いような気がしないでもないが、この程度ならば問題ない」
研究室への道筋は頭に入っている、時間を無駄にする事なく駆け抜けて行く。今日に限っては無法者集団に構う時間すら惜しい、戦闘を可能な限り避けて迅速に移動していく。
「フフフ……」
パソコンを立ち上げて早速作業を開始していく。彼が戦後世界を見据えて設計していたMSの完成予想図。理想としてはこれを開発したいのだが、技術的に一番進んでいるとされているミレニアムでさえあの程度の技術体系である以上、高機動な20m超のMSを組み上げるというのは少々難しいと言わざるを得ない。
それは、この世界に沿った形で設計図を書き換えるに当たって真っ先に直面した問題であった。この世界では人間の戦闘力が元いた世界に比べて数倍程高いのは、もはや語るまでもない事実だ。その上世界の成り立ちからして違う以上、その分野の知見が広がらなかったのも頷ける話だ。
端的に言えば、宇宙に出ることの無かったこの世界では、作業用機械より発展したMSという分野にたどり着く事はなかったのだ。そういった分野に関してのノウハウがほぼ一切存在しないのだ。
その上、最も重要な要素として『ミノフスキー粒子』*1がこの世界には、当然のように存在しないという話だ。そして、それを応用して開発されたビーム兵器や、動力源となる原子炉*2も開発がほぼ不可能であるという状況。
この世界においても、おそらくは木星に動力源に使用されるヘリウム3*3が存在していると仮定しても、木星まで到達する手段がない。木星へ到達するには核融合炉を搭載した宇宙戦艦が必要で、核融合炉を動かすには木星で獲得出来るヘリウム3が必要という、堂々巡りになってしまうのだ。
つまりは、核融合炉を動力として採用することは、現時点では不可能であると言わざるを得ない。
ならばと、彼は次の手としてバッテリー駆動での構想へ移行する。
これはまだ現実的であり、バッテリーの性能がそのまま稼働時間に直結する、というのは当たり前の話だ。幸にして、その分野の技術体系は発展していると思える。それこそ彼が憑依していたドローンのバッテリーも相当に良い性能をしている事からも分かる話だ。
そこら辺に転がっているカイザーのロボット兵(損壊)も動力源はバッテリーの様で、これを解析して利用すれば支援機器の開発程度であれば直ぐにでも出来そうだ。それ以上の事になると現時点では不明だが、手始めに支援機をチューンした機体の開発を第一目標にしたい。彼は考えを纏めてからも早かった。
生きている電力を利用してジャンクを解体して素材を回収、損壊したロボットから取り出したバッテリーを元の世界の技術も応用しながら改修し、組み替えた設計図に沿って機体を組み上げる。
──恐ろしい程素早く組み上がって行く機体は、そのまま小さくなった嘗ての愛機の様な形をしていた。
全長2m超の、人間の体を基準に考えれば巨大な機体が姿を現す。二対の縦長の四角錐を並べた様な形状のパーツに、飛行機の機首に見えるパーツが飛び出ている。彼の設計図に記されていた機体がそっくりそのまま小さくなったと言えば分かりやすそうだが、その性能面に関しては全くの未知数である。技術体系の全く異なる世界で設計し、これまた技術体系の全く異なる世界で開発された珍し過ぎる経緯を持った機体。
「とてもこの程度で完成品とは言い難い……がしかし、形には出来たか」
この世界においての彼の開発品第一号がなんとか完成の日の目を見た。だが、今現在は素体が完成したに過ぎない為、ここに武装を積み込みメインスラスターと姿勢制御バーニアに加えて推進剤も用意しなければならない。特に推進剤の方はすぐに解決が出来そうにない問題だ。この世界にロケット推進システムは存在しているらしいが、それでは少々物足りない動きになってしまうだろう。なにぶん大気圏内での運用が前提になってしまう以上、どうしても重力の影響を受ける。つまりは宇宙空間程機体の自由が効かないという事、被弾もそれなりに多くなってしまうだろう。
最悪の場合は奥の手が残っている以上、まず彼が手を付けたのは武装面の拡充だった。
一先ずは調達の簡単な所から進めるなら機関砲……と行きたい所だったが、縮尺を人間サイズまで縮めているので用意する武器もそれなりの機関銃を多少改造して積み替えれば問題無いだろう。
問題は二対の四角錐に搭載する予定のメガ粒子を用いたエネルギー砲である。バッテリーユニットを搭載している以上、エネルギーをモリモリ食ってしまうような火器は搭載出来ない。いやそもそもだ、メガ粒子砲をこの世界では用意できないので、何か代わりになる武装を用意しなければならない。無いものばかりだなこの世界は、そう言っても仕方のない事ではあるのだが。
しかし電力技術の優れているこの世界の技術と、宇宙世紀でも研究されていた荷電粒子*4技術を上手く結合させられれば代わりのものは開発出来る。ミレニアムの技術は度々企業のコンペティションで見かける機会もある他、学校自体が外貨を求めて売りに出しているモノなども見受けられるのでそこそこ簡単に手に入る。特許の問題もあるが、彼は本来この世界には存在していない人間であり、彼女に責任の咎が行くことも限りなく可能性は少ない。何せ彼女がそこまで複雑な技術を網羅してこのようなモノを建造出来るとは、誰も思わないだろうし。
武装の当ても付いて満足したシロッコは、次なる機体の開発へと乗り出していく。
彼の時間は、まだ始まったばかりらしい。
目が覚める。
異常なまでの身体の不調が、目覚めたばかりのシロコに襲い掛かる。
「……これは、おかしい……」
頭はスッキリしている反面、身体の重さが尋常ではなかった。昨日もほんのり不調気味であった為、仕事が早く終わったからという特殊な状況でもあったが、ともかくしっかりと睡眠時間を長めに取っていた筈なのだ。それなのに疲れが取れる所か逆に悪化していたというのは理解が出来なかった。何か熱でも出ているのかと思って、鉛のように思い身体を半ば引き摺って体温を測ってみたのだが、平熱も平熱。
熱が由来の身体の怠さなら感覚で分かるが、そうでなければますます原因が不明なのだ。確かに昨日も激しい戦闘も繰り広げたばかりだが、その前から調子は良くなかった。
対策委員会のメンバーが所属しているチャットには体調不良で休む連絡を入れる事にしたシロコは、枕元に充電されていたスマートフォンを手繰り寄せる。光った画面になんとか文字を打ち込んでいって送信、そこで力尽きたのか彼女はスマートフォンを落としてしまった。
その画面には続々と対策委員会からの心配の連絡が入っていたのだが、当然気付く事は無くそのまま意識を手放してしまった。
次に彼女が目を覚したのは、それから正午を跨ごうかというような時刻であった。
自宅のチャイムが鳴らされている事に気付いたシロコは、依然として重いままの身体をどうにかこうにか動かして玄関の扉を開けるとそこには。
「やーやーシロコちゃん。元気そうじゃ、なさそうだねぇ」
「お見舞いです! ヨーグルトとかプリンとか、色々買って来ちゃいました〜⭐︎」
「顔色は思ってたよりも悪くなさそうね」
「ご飯はもう食べられましたか? もし食べてなければ、消化にいい物作りますので遠慮なく言ってくださいね」
彼女の大事な仲間である対策委員会のみんなが、わざわざお見舞いの品を引っ提げてやって来たらしい。嬉しい事に心配して様子を見に来てくれたらしいのだが、シロコは自分が風邪なのか分かってはいないがとにかく、病気を移してしまったら悪いと考えた。
「み、みんな……。来てくれたのは、ありがたいけど。移しちゃ悪いから……」
「その時はシロコちゃんが私達の看病してね〜」
「委員長は案外風邪とか病気とかしなさそうよね」
「確かに……」
「シロコちゃん、台所お借りしますね⭐︎」
断りの言葉で追い返そうとしたのだが、そんな事お構いなしに口々にお邪魔しますと言い残してから彼女の家の中へと入っていく面々。キッチンにはノノミとアヤネが入って食事の準備を始めていたし、セリカは買って来たスポーツドリンクやらヨーグルトやらを冷蔵庫に詰め込み始め、ホシノは対策委員会の委員長として威厳のある姿を遺憾無く発揮しソファに寝転がった。
「ちょっと先輩! なんで寝転がってるの!」
「いやぁ、シロコちゃん
「いいからこっちに来て手伝って!」
「うへぇ〜、おじさん使いが荒いんだから〜」
リビングに戻って来たシロコは、ずるずると引きずられていくホシノの姿を横目になんとかソファまで辿り着く。すると、タイミング良くノノミがやって来てヨーグルトとスプーンを寄越してくる。確かに今日は朝から調子が良く無かった事で朝から何も食べていなかったと思い出すシロコ、急に食欲が湧いて来たのかちびちびとスプーンでつまみ出した。
その様子を満足そうに確認するとノノミはキッチンへと戻っていき、代わりにセリカがスポーツドリンクの入ったコップと同じく水筒を持ってやって来た。いつでも飲めるようにベッドのある部屋に持って行ってとの事。ヨーグルトを空っぽにしたシロコは続いて差し出されるコップを言われるがまま受け取り、そして飲み始める。
少し離れたキッチンで調理を続けながらもその様子を見ていたアヤネは、なんだか餌付けされているみたいだと感じた。ここまで元気のないシロコを見るのはそうそうない事だが、こういう光景もいつしか思い出にへと変わっていくのだろうか、なんて深い事を考えてしまう程には尊さを感じさせる光景だった。
その後、アヤネとノノミが作ったお粥を味わったシロコは幾分かマシな状態になって寝室へと向かっていった。軽く部屋の掃除をしてから帰っていった対策委員会の面々に感謝しながら眠りにつく事だろう。
これで明日はきっと、体調も良くなってくれるはず。そう思いながら。
その日の夜。
彼も明らな異常を感じ取る。
「これは……」
身体の異常な重さ。これはきっと。
「フム……、致し方あるまい」
ベッドから起こしかけた身体を、再び元のように横たわらせた。幸にして、彼の力が必要になるまでもうしばらくの猶予がある。
「焦っていたつもりはないが……、まぁいい」
彼もまた、暫しの休息へと入るのだった。
翌日の朝。
昨日とは見違えるように元気になったシロコは、久しぶりに朝から外をランニングしていた。当然調子が良くなった事もあるのだが、彼女のルンルン気分は止まる所を知らない。
『上機嫌だな、シロコ』
「うん。久しぶりにシロッコとも話せたから」
『そうだな。確かにここ二、三日は私も
「シロッコも体調不良だったの?」
『キミとのパスが繋がっていなかったと言う方が正しいかもしれない。キミの状態はモニタリング出来ていたが、干渉する手段が私には無かった』
「うーん、つまり?」
『君が体調不良になると、どう言う訳か私と感応出来なくなるのかもしれないな』
「じゃあ、これからは体調に気を付けないと」
『そうだ、それが良いだろう。私も、キミの事を見守るだけと言うのは、心苦しいものだ』
久しぶり、と言いながらもたかが数日振りだが。それでもシロコは自分の事よりもシロッコとの会話ができなかった事の方が気掛かりだったらしく、無事に復調した彼と再び会話が出来て心から良かったと思っていた。加えて、シロッコの話した推論を正しい事だと考え、これからはより一層体調には気を付けようと気合を入れている始末。素直というか考えなしというか、それだけ彼女の中でシロッコへの信頼は篤いという事だろう。
シロッコとしても、自分に不都合が起こる以上はシロコには健康を維持してもらう必要があった。身体は資本とはよく言った物で、それがある程度保証されていなければ彼は研究を進めたくとも進められないのだから仕方ない。
ランニングの様子を見ていても、これまでの不調が嘘のように快調に速度を飛ばしつつも息が上がっていない様に見える。先日までベッドに寝込んでいたというのにここまでの復調ぶりは正直異常だが、とは言えこれもキヴォトス人の基礎的な能力なのかもしれないと考えるシロッコ。これはシロッコ自身も気にしていないから分かってはいないが、そもそもシロコの状態は体調不良でも何でもないのだから体力低下など起こるはずもない。
その後に登校し対策委員会でバイトに向かった際も、絶好調のシロコは目覚ましい活躍をしていたしいつも以上に勘も冴えていた。敵の襲来を察知して遭遇戦を回避したり、敵の手の内を読み切って攻撃をされる前に潰していたり、戦場を空から俯瞰しているのではないかと思える程に色々な事が見えていた。実際はそんな事なく、彼女の“勘”が冴えていたに尽きるのだが。
元の世界においてシロッコが調子を崩した事が無かった為に実感する事もなかったが、ニュータイプとしての力は身体的・精神的に安定している*5方が発揮しやすいのだ。分かりやすく言えば、攻撃が来ると分かっても身体が不調では咄嗟に動けないだろうし、逆も然りだ。身体は万全でも、精神的に動揺していては見えるものも見えなくなる。ニュータイプに限った話では勿論ないのだが、人間である以上は同じ事が言える。
シロッコの教えを活かして力の使い方を実践してきたシロコは、正直言ってキヴォトスでも指折りの実力者へと成長を遂げていた。アビドスにおいては小鳥遊ホシノの実力が突出していたが、シロコもそれに追随できるだけの実力を急速に身に付けていたのだ。ただ戦闘を繰り返していただけでは説明が付かない程の急成長に、対策委員会のメンバーの士気も目に見えて上がっている。それもあってか、それからの次の借金返済日までに想定を大幅に超える金額──利子額約700万に対して、今回は1000万もの返済資金を確保していたのだった。とはいえ会議で決まった事だが、返済金額は利子の額をほんの少し上回る程度の金額を引き渡す事にしていたらしい。要はいつも通りの金額だ。
これはアヤネの「何かあった時の為に自由に出来る現金は残しておきたい」という発言に理解が得られた為だ。まぁ9億の借金の内、たかが300万程度元金が減ったからってだからどうしたという様な感じだし、現実的に返済も見込めていない以上返済額を抑えるのは妥当な判断だろう。
これで明日の返済に関しての問題はなくなった。
「という事で。明日の大まかな流れについて、簡単におさらいします」
アヤネは作戦の振り返りを行うべく帰る前に全員の時間を頂戴し、ちょっとした会議を企画していた。1ヶ月もの間温めておいた予定であり、多少なりとも気合が入っているらしい。先生にもリモートではあるが参加してもらい、内容の共有を行う徹底ぶりだ。
「少々過密なスケジュールになりますが、先ずは私を除いた対策委員会メンバーと先生には、朝からブラックマーケットに入ってもらいます」
“戦車の出処を調べるんだよね? ”
「はい。それと、ヘルメット団の使っていた大量の武器についても、調査をお願いします。こちらでもモニタリングはしますが、私もその間はチラ見程度でしか確認ができないと思ってください」
「アヤネちゃんには、もう一つ仕事があるんだよね?」
セリカの確認に頷くアヤネ。現場にはアヤネ以外が向かうのは分かったが、ではその間アヤネは何をしているのか。彼女が現場組の状況モニタリングと並行して行う仕事、今月の彼女たちのもう一つの目標と合わせて話し始める。
「明日の正午に、私達が用意した返済金を受け取りにカイザーの社員がやって来ます。私はそちらの対応を行いつつ、隙を見て輸送車にコレを取り付けます」
そう言って彼女が手に取って見せたのは、小さな機械のような物だ。作戦説明を今日初めて聞いた先生はその物体を観察し、目的から逆算して物を推測する。
“それは……発信機かな? ”
「はい、これを取り付けて輸送車の行動ルートを割り出します。そうすれば、現金でしか返済を受け付けないという、不思議な条件の理由が分かるかもしれません」
先生としては、これから生徒が犯罪紛いの行いをしようとしている事を止めなければならない立場だ。しかし、カイザーもきな臭い動きをしている以上、こちらもなりふり構っていられないのもまた事実という事も分かっていた。いざとなれば彼女たちの前に立ち、庇護する事も考えなければならないと、先生は覚悟を一層強めていく。
「私はそれと並行してドローンで上空からも現金輸送車を追跡します。位置情報だけでは誰と取引をしているのか、どこに現金を落としているのか、情報が掴みきれない可能性もあります。もし万が一発信機に気付かれた際の保険にもなりますし、これで二段構えの作戦です。私はそちらの監視と操作を行わなければならないので、ブラックマーケットは皆さんに丸投げする形になってしまうかもしれません。ですが、現金の行方に関しては必ず追跡して見せます!」
「アヤネちゃん気合い入ってるね〜」
「当然です! この為に先生に無理を言って、ミレニアムでドローンを用意して貰ったんです!」
“エンジニア部の子達も喜ぶよ”
他学園に伝手を多く持っている先生を仲介として、ミレニアムサイエンススクールのエンジニア部に頼んで、電波効果範囲が従来品の数倍にまで拡大されている特注ドローンを調達していたアヤネ。先生も色々な所で活動していた甲斐があるという物だ、そういった伝手を作る為にシャーレとして行動している訳ではないが、それでも生徒の役に立てていると実感出来る事は先生にとっても悪い事ではない。アヤネは後で運用レポートを纏める事になり、残しておいた現金も半分程使ってしまったが必要経費だと割り切っていた。これで少しでも前進出来るのであれば儲け物、お釣りが来るのだから。
「これが、明日の流れになります。皆さん、よろしくお願いします!」
「はい! アヤネちゃんもファイトですよ⭐︎」
「ん、こっちは私たちに任せて」
“私も、しっかりしないとね”
明日はアビドスの未来を左右する、大きな作戦が決行される日。このために準備を重ねてきたアビドス対策委員会と先生。
しかし、準備をして来たのは彼女たちだけでは無かった。
『フフフ、もしかしたら……。明日は良い日になるな』
妖しげな微笑を浮かべる男もまた、成り行きを見守っていたのだった。
誤字報告して下さっている方もありがとうございます。
ホント支えられております。
今回もありがとうございました、次もなんとか早めに投稿したいですね。