全部書き上がっているので、明日も投稿します。
良く頑張りました。
「そこの物陰に居る!」
「追い詰めろ!」
「包囲を狭めるのよ!」
シロコが隠れる物陰を囲み込む様に展開していたゲヘナ風紀委員の生徒たち。教本通りに、教えられた通りに包囲戦術を行っている彼女たちは確かに優秀であった。きっと、その戦術を教え込んだ講師がこの場に居たのならば、何も文句を言う事がない位には完全な布陣だった。
しかし、今回の一件においては2点ほど予想外の事態があった。
まず一点。対面しているシロコにとって、包囲陣形くらいは簡単に破れてしまうという点。人間には誰でも前にしか目が付いていない、それは生物学上当然の事である。しかしながら、シロコはその限りでは無い。後ろに目は付いていないけれど、背後で何が起こっているのか、誰が接近しているのか、感情や意思を目にしていなくても感じ取れてしまう以上、全方位からの攻撃であっても致命的な一撃を加え入れるには足りない。とはいえ、シロコだって今のところは一応人間の範囲内……に収まっているのだ。ずっとフルパワーで戦い続ける事は出来ないし、集中力だっていつかは途切れる。
敵が異常に強くても単体であれば、時間を掛けていればいつかは落とせる。
しかし、そのいつかは、彼女たちに訪れる事は永遠に無い。
もう一点の予想外の事態。それは東の空を駆け、眩しい光を放ちながら高速で接近していた。
二対の大きな四角錐のような物からは青白い火のような物が見える。ジェット噴射のようなものだろうか。機体前方、機首部分に内蔵された小口径の機関砲を撒き散らしつつ、機体後部に搭載されたミサイル*1も同時に発射。突如として現れて空からミサイルやら機銃やらで攻撃をしてくる飛行物体に、包囲を行っていた部隊は混乱状態に陥ってしまう。
ドローンのような飛行物体はキヴォトスでも多く普及しているが、ああいった高速で飛び回る戦闘機のようなモノはそうそう見掛けるものではない。あれだけの小型機体でありながら、ヘリコプターすら超える速度を発揮しているのは正直言って異常な事である。何よりも、四角錐より放たれる光が、キヴォトスの人間にとっては未知の兵器であり、彼女たちを混乱させる大きな要因の一つにもなっている。
「フフフ……、小手調べだな」
シロッコの意思に従って機体を大きく旋回させたグラシュティンは、地に蔓延る虫ケラを射程に捉えた。そんな事も知らない風紀委員部隊は、接近してくるグラシュティンに向かって各々が持っている銃火器を浴びせかける。数発の着弾を確認しているものの、機体の勢いが止まる事は無かった。
「撃て」
グラシュティンの背負った四角錐──ブースターユニットの先端に位置しているエネルギー砲に光がビリビリと集まっていき、次の瞬間。
「うああああああああっ!?!?」
「なっ、何が──!?」
「熱い熱い熱い!!!!!」
放たれた光の奔流に包まれた風紀委員達は全員漏れなく消し炭に──なる事はなかったが、それでも一撃を浴びただけで意識を喪失してしまっている。流石のキヴォトス人の肉体だと褒めてやりたい所だ、ビームを正面から浴びても溶ける事なく耐え切るとは。とは言え、身体が耐え切っても居たとしても、精神が耐えきれていなければ意味がないのだが。
「本当に、キヴォトスの人間というのは不思議なものだ。一体どういうんだ?勝手が違うとはいえ、人間の肉体くらいは簡単に炭にできる筈の出力だったのだが」
データ上では人体を塵一つ残さず消滅させられる筈だったがしかし、まともに当たれば一撃で敵を無力化出来る事は分かった。無闇に人を殺さなく良いのならそれに越した事は無い。シロッコとしても、依代となっているシロコの事を考えれば無闇矢鱈に人殺しなどはしない方が良いと分かっている。*2
何はともあれ、知りたい事も知れた。
「シロコ、聴こえるか」
『このフワフワとした感覚。不思議だけど、少し怖い』
「慣れてしまえば、そう不思議なものではない。──身体を返す、準備はいいか?」
『ん、こっちはいつでも』
「よし」
ゲヘナ風紀委員、それを纏め上げる幹部として名を連ねている銀鏡イオリと火宮チナツ両名は、眼前で繰り広げられている光景を上手く理解出来ていないようだった。上空を高速で飛び回りながらミサイルや機銃を掃射しつつ、明らかにヤバそうな光を放っている。その光を浴びた風紀委員は意識を失ってしまったのか、その場に倒れ伏してしまう。
アビドスにあんな兵器があるとは、誰も知らなかったし、教えてくれなかった。彼女達に便利屋の捕縛を命じた行政官の天雨アコからも当然だが聞いていない。*3
「あ、あれは、なんなんでしょうか……」
「私に聞かれても……」
「あんなモノが空を飛び回っていては、便利屋を捕まえる所ではありません!」
『……なんなんですか、アレは……!?』
「アコちゃんも知らなかったの!?」
『あんなモノが出るなんて分かっていたら、こんな所まで部隊を派遣していません!』
前線にいる部隊は軒並み鎮圧されてしまっている。ここが狙われるのも、もはや時間の問題であった。
──風紀委員は今、選択を迫られていた。
「アレは、味方って事で……良いのかな?」
“風紀委員だけを狙っているし、そう見るのが妥当かも知れないね”
『なんというか、シロコ先輩と一緒に戦っているようには、見えませんか……?』
“うん。あの飛び回っている機械が、しっかりとして意思を持って動いているんだと思う”
「あの機械は一体なんなのよ……!どうして私たちを助けてくれるのよ!」
目の前で起こっている事態を受け止めきれていないのは、こちらとて同じであった。
ノノミから状況を聞いた先生とセリカは、シロコの援護に入るべく風紀委員との戦闘を遂行しながら合流を目指していた。のだが、あの謎のマシーンの乱入があった訳だ。
先生の目から見て、あのマシーンの火力は異常過ぎる。あのマシーンから放たれたビームの直撃を受けた風紀委員の生徒が一撃で昏倒させられている光景を見せられれば、いやでもその威力を認識させられるというモノだ。あれがシロコを攻撃していない事から考えれば敵ではないらしいのだが、逆説的に味方であると判断するには材料が少な過ぎる。
シロコがインカムの電源を切ってしまっているので会話も出来ない。
「どうしましょう、先生」
「決まってるでしょ!シロコ先輩を助けに行くのよ!」
『き、危険です!アレが味方なのかどうかも分からないんだよ!?』
“いや、それでも行かなきゃダメだよ。もし味方じゃなかった時、シロコだけをあの場に残しておいたらって考えると、それこそ後できっと後悔するよ”
『それは、そうかも知れません……』
“出来る限り危険の少ないように立ち回るよ”
「了解です、先生」
シロコの事を見捨てるという選択肢は初めからないのだ。
──固い意思を胸に対策委員会は進んで行く、危険を承知の上でも進むしかなかった。
小鳥遊ホシノは走っていた。
黒服との邂逅がどうでも良くなる程に、彼女達の事が心配だった。
「あの場所で、一体何が……!」
嫌な予感が止まらない。
遠目に見えている、空を飛び回って光を放ち続ける謎の機械。
「クソッ……、こんな事なら……!」
後悔先に立たずとは正に、正に。もしコレで間に合わなかったとなれば、今の契約だって意味がなくなってしまう。みんなの居場所を守る以前の話になってしまう。それだけは、それだけはダメなんだ。
あんな男が話す誘い文句なんて、聞くまでもなくこっちの利になる事などある筈がない。こちらを利用して、騙して、そうして全てを奪って来たのがアイツなんだ。
だというのに。
「私は、なんてバカなんだ……」
普段とは比べ物にならない速度で市街地を駆け抜けるホシノ。その姿を高所より見下ろすのは、先程まで彼女と密談をしていた黒いスーツに身を包んだ怪しげな雰囲気の大人。
「クククッ……、良い買い物でした」
喜色を浮かべ ホシノを見下ろす彼。
事態は、最早止められない所まで進行している事を。
──一体、誰が知っているというのだろうか。
「ここまで来れば、一先ずは安心かな」
アビドスの、狼の耳を生やした彼女に見逃してもらった事で、ある程度の距離は稼げた。それこそ、戦闘からは完全に離脱出来たと言えるくらいには。
気を張りに張り詰めていたカヨコもようやっと一息吐けると、座り込んで壁にもたれかかっていた。
ムツキもそんなカヨコの様子を見て、この周辺が安全である事を確認したらしい。得物と爆弾を満載したスクールバッグを脇に置き、同じように腰を落ち着ける。
ハルカはアルの傍で大事そうにショットガンを抱えて立ち尽くしていた。そんなハルカを心配そうに見詰めるアル。この2人は未だに変な感じになってしまっている様だ。
ハルカはようやくアルの役に立てると思って、柴関ラーメンを突発的に爆破して今回の大惨事を引き起こしてしまった、それによって少し引け目を感じているらしい。アルはアルで迂闊な事を言わなければ良かったとも、おめおめと逃げ出してしまった今の状況を心底カッコ悪いと感じていた。
「アビドスの奴ら、どうなったかな……?」
「……さぁね。あの数の風紀委員相手に、どれだけ持つかな」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」
「……悪い事を、してしまったわね。こんな筈では」
「まぁ……、そうだね。私達の尻拭いをさせている様な物だから」
そう思うと、萎れていたアルの心に僅かな灯火が宿る。アビドスの連中は私たちを助ける――つもりだったのかは一旦置いておいて――為に、殿になって風紀委員を抑えている。
それを尻目に私達は安全圏まで逃げ果せている。みんな無事なのはいい事だけど、他人の犠牲のおかげというのは正直余りにもダサすぎる。アル風に言うのであれば『アウトローらしくない』、『ハードボイルドとはかけ離れている』と。
例えごっこ遊びと言われようとも、紛い物だと言われようとも。
「みんな、十分に休んだわね?」
「……行くの、社長?」
「勿論よ。受けた借りは返す、当然の事よ」
「くふふ、らしくなって来たじゃん!」
「ハルカも、良いわね?」
「はっ、はい!今度こそお役に立って見せます!」
「その意気よ!」
──信念が宿れば、偽物だって本物になり得るのだ。
シロコとグラシュティンは精鋭揃いの風紀委員を歯牙にも掛けず、その悉くを無力化しながら敵中奥深くへと進軍していく。
人間離れした能力を発揮するシロコと、この時代の兵器にしてはオーバースペックなグラシュティンを止め得るものは、風紀委員の中には存在せず──いや。
「そこまでだ!」
「ん?」
そんな彼女(と彼)の前に立ち塞がるのは、長い銀髪をツインテールに流した褐色の少女だった。その立ち振る舞いからは自分に対しての自信が感じ取れるが、さて。
「あなたは?」
「私の事はどうでもいい!ここに便利屋がいると聞いて、風紀委員は逮捕しに来た! ……というのに、なんだお前は!?」
「その前に、ここはアビドスの自治区なんだけど……」
「便利屋を差し出せば、これまでの事は水に流してやる!」
「……この場所で我が物顔するつもりなら、容赦しない」
「差し出さないなら……、お前も逮捕だ!あのよく分からない機械も、邪魔するなら壊してやる!」
お互い言いたい事を言っているだけで会話にはなっていなかったが、とりあえずは戦ってみて考えることにしたらしい。
少し離れた場所では、先生に率いられてノノミとセリカ、それにアヤネのドローンが風紀委員の一団と相対していた。
「やはり、先生がいらっしゃいましたか……」
“こんなところで会うなんて奇遇だね、チナツ”
「えぇ。出来れば戦いとは関係の無い場所で、そうでなくとも味方としてお会いしたかったです」
「え、何。先生知り合いなの?」
「キヴォトスに来たばかりの頃に、少しね」
「たとえ先生のお知り合いであったとしても、私達の自治区に手を出して来た以上は容赦しませんからね!」
『そうです!これはアビドスとゲヘナの外交問題なんですよ!』
風紀委員のチナツはあまり具合が悪そうな顔をしているが、それでも与えられた仕事が関わっている以上戦うしかなかった。それは先生や対策委員会の側からしても同じ事だった。このような無益な戦いはどちらの側も望むべくもないが、それでも譲れない物がある。ならばこそ、選択肢は一つしかなかった。
緊張状態は長くは続かない、がしかし。
最後の役者が揃うまでは、火蓋は落とせない。
「待ちなさい、アビドス。そして先生」
「! アンタ達!どの面下げて──」
「待って! 分かってるわ……。せめてこの戦闘が終わるまでは待って頂戴!」
一度はシロコに見逃されて戦域を離脱していた便利屋68の4名が乱入。風紀委員の今回の主目的である彼女達が現れた事で、チナツ達にも大義名分が出来たというモノだ。
「私達も加勢するわ、ここでおめおめと逃げ帰るなんて……カッコ悪いもの!」
「……お店を爆破しちゃった事の謝罪と賠償もしないと、だし」
「ええ、勿論。けど、その為には」
「
「アル様の邪魔をするなら……!」
“後で何が起こったのか、詳しく聞かせてね”
「ええ、分かってるわ。シャーレの先生」
即席だが、対策委員会と便利屋のドリームチームが結成されている裏で、風紀委員の士気も高まりつつあった。文字通り風紀を乱し、挙句他学園自治区にまで迷惑を掛けてしまっている便利屋の捕縛。これを果たす機会は、今を置いて他にない。
「仕方ありません。あくまで優先目標は便利屋です。全ての人員にしっかりと伝達させてください。それと、彼女達を指揮している方はシャーレの先生です。銃弾一発で致命傷になりかねません、攻撃には細心の注意を払ってください」
チナツの指令が各部隊へ即座に伝達された事で、向こう様の戦闘準備は整ったと見て良いらしい。部隊を率いる者として勝ち目の薄い戦いであっても、その僅かな勝ちの目を信じて進むしかない。
「風紀委員総員、進んで下さい!」
“対策委員会と便利屋のみんな!私がみんなを導くよ!”
今こそ、大会戦の火蓋は切って落とされるのだ。