シロコとシロッコ   作:メイショウミテイ

23 / 44
また寄り道なんですね。

本編が進められませんすぐに脱線するので。


アビドス編 16

 ゲヘナ風紀委員会のアビドス侵入から、早くも一週間が経った。

 

 あれからというもの、アビドス対策委員会は挙って忙しそうに事後処理を行なっていた。来る日も来る日も山積みの書類を片付ける日々。

 

 

 そんな中セリカとアヤネの2人は、先日の騒動に巻き込まれてしまった柴関の大将のお見舞いにやって来ていた。同じような内容の書類を見るのが嫌になったのも一つの理由だが、そういった事情を抜きにしてもお見舞いは早いうちに行っておきたかったのも大きい。気分転換と言えば余り聞こえは良くないが、それでも彼女達が大将の身を案じている事はきっと伝わっている事だろう。

 彼女達の前にお見舞いにやって来た団体の付き添いとして先生も病院に足を運んでいたが、それが終わった後にちょうどアヤネ・セリカコンビに出会ったという訳で。そういうわけで一応彼女達のお見舞いにも同席しているのだが、特段先生は何か大将と話す事はなかった。というより、彼女達がやって来る前に色々と話す事は話尽くしているし、話し忘れた事がある訳でも無かった。

 

 アヤネとセリカは大将の傷の具合を気にしながら、やっぱり話題は吹き飛んでしまった店の話へと移っていく。一応は事故という形で処理されているが、それでも跡形もなくなってしまった店の事を考えると居た堪れない気持ちになる物だ。

 

 大将が語るには、ゲヘナの風紀委員会から公式に“謝罪”の手紙が届いたらしく、それと同時に店の再建に使って欲しいと慰謝料も振り込まれていたらしい。大将は口座など教えた事は無かったどころか、ゲヘナの風紀委員と話した事すら無いというのに不思議な事もある物だ。また、彼女達の前にやって来た団体からも同様で、先生にとっては見覚えのあったり無かったり……そんな謎のバッグを差し出されていた。中には何が詰め込まれているのか、先生には皆目見当が付かなかった。*1

 

 しかし、そんな事がどうでも良くなるくらいには、大将との会話の中で気になる事があった。

 

 

「実は近頃、体も妙に重っ苦しいし歳なんだろうなぁと思ってよぉ、そろそろ店畳もうと考えてたんだよ。立ち退き勧告もしつこく送られて来てたし、ここいらが潮時だと感じてはいたのよなぁ」

 

「そんな事言わないでよ大将! まだまだ全然動けてるじゃない!」

 

「──え? 立ち退き勧告……? そんな物私達は出していませんよ!?」

 

 

 セリカは大将が話した内容の前半部分に反応したが、アヤネはそんな事がどうでも良くなってしまう程に重要な発言があった事を聴き逃さなかった。

 

 立ち退き勧告。

 

 柴関ラーメンの土地はアビドス自治区に所有権がある。だから、彼女達がそうしようと思わない限りは立ち退き勧告などが送り付けられる筈が無かった。しかし、大将が嘘を付いているとは考えられない……というよりそんな事をする理由が大将にはない。アヤネはこれまでそうだと思っていた前提が崩れかねない、そんな危険な考えに気が付き始めていた。

 

 しかし、大将は知らないのも無理はないと初めに断りを入れながら、今年に入学したばかりのアヤネとセリカが知り得ない頃の情報を教えてくれる。

 

 

「何年か前のことだったか正確に覚えちゃいないが、当時のアビドス生徒会が借金を返せなくなっちまって、その時に土地と建物の所有権が移ってたのさ。具体的にアビドスの何処までの土地がそうなってるのかまでは分からねぇがね」

 

「そっ、そんな!」

 

「アビドスの自治区なのに、アビドスが権利を持っていないなんておかしいじゃない!」

 

「……その場合、誰が土地の権利を持って──」

 

 

 明かされた真実に驚き誰に対してなのか分からない怒りを噴出させるセリカに対して、アヤネはその先を考えていた。大将は昔のアビドスが借金を返せなくなったから手放したと言った、そして現時点でアビドスが借金をしている企業といえばそれは勿論。

 

 

「もしかして、カイザーコーポレーションが……?」

 

「そんな名前だったような……。あんま覚えちゃいねぇが、この前送り付けられてきた書類には奇妙なタコのロゴがあったのは覚えてるぜ」

 

「タコのマークといえば、カイザーの系列企業なのは間違いない……です」

 

 “……”

 

 

 土地の管理権は、その自治区を治める学校組織に帰属している。それは、この学園都市キヴォトスでは常識中の常識。

 

 企業を構えるにしろ、飲食店を営むにせよ、何かしらの事業を起こすにせよ、まずは根拠地になる土地が必要になり、それを持っているのは自治区である。だから、その自治区に断りを入れて許可を得る事で初めて土地を貸して貰えるという訳だ。当然正規の手続きに則った契約である以上、そこには金銭のやり取りが行われるのが筋だ。自治区は土地を貸し与えて、企業や個人・法人はその利用料を払う。

 

 

 これは一つの例に過ぎないがこういった契約があって初めて、各自治区は学校の運営資金を捻出し各々の学校運営を行なっていけるのだ。全てが全て学園が保有していたポケットマネーであったり、連邦生徒会からの援助金から出ている訳ではないのだ。

 

 何が言いたいかと言えば、土地は自治区にとって財源という意味では手放してはいけないものだった、という事である。確かに、その当時は砂嵐に対する有効な対策が確立出来ず、逐次の対応に追われて借金ばかりが膨れ上がってしまう状況だったのは理解に難くない。しかし、そんな状況でも土地の利用料を得られている事で、なんとか経営は火の車ながらも回っていたと思える。

 

 しかし、利用する人間がいる限り資金を生み出し続けてくれる土地、それを手放した時。

 

 学園は一体どこに、安定的な財源を求める事が出来ようか。

 

 

「……先生。私は急遽確認したい事がありますので少し出掛けてきます。なのでセリカちゃんと2人で学校に戻っていて貰えますか?」

 

「私も一緒に行くわ! 何を確認しに行くのかは分からないけど!」

 

「では先生。先に教室へ戻っていて下さい! 終わったらすぐに戻りますので!」

 

 

 先生の返事も聞かずに病室を飛び出して行ったアヤネと、それに遅れまいと慌てて走り去っていったセリカ。彼女達を取り巻く状況は時を掛ければ掛けるほど悪化していっている、そう感じた先生も出来る事を探そす為アビドスへと戻る事を決めたらしい。大将に断りを入れて病室を出ようとするが、その背中に声が掛けられる。

 

 

「なぁ、先生」

 

 “……なんですか、大将”

 

「俺ぁ、このアビドスって場所、結構好きなんだよ。でもな、そんなのよりも好きなのは、あの子達みたいな若者がウチのラーメンを食いに来てくれる事だ。店は吹っ飛んじまって使い物にならねぇし、土地だって最早取り上げられちまった。身体だってガタが来てるのはウソじゃねぇ。 ……けどな、そんな俺にも、まだ一個だけ残ってるモノがあるんだよ」

 

 “……それは? ”

 

「アンタなら、皆まで言わなくても分かってるはずだろ? ……あの子達の事、頼むぜ。俺がラーメン屋を続ける理由を、どうか守ってくれ」

 

 “ええ、勿論です。なんていったって私は、先生ですからね”

 

 

 そう言い残して病室を後にした先生。

 

 大将に言われるまでもない、先生であるのなら生徒を守るのは何よりも優先されなければならない。しかし、そんな先生の背中にはもう一つ、守るべき約束が増える事になった。

 

 その重みを十分に感じながら、アビドスへの道を急いで戻るのだった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 所変わって、アビドス高等学校。

 

 既に集まっていたのは2名。

 

 対策委員会の委員長、小鳥遊ホシノ。

 

 対策委員会2年、砂狼シロコ。

 

 

 同じ委員会の仲間である彼女達は今、一触即発の雰囲気になっている。それはシロコの、唐突に放たれた踏み込んだ質問からだった。

 

 

「ホシノ先輩。嘘なんて付かないで欲しいんだけど」

 

「うへ。な〜にシロコちゃん、そんな変な前置きしちゃってさ、おじさんに答えられる事ならなんでも答えるよ?」

 

「そのカバンの中の“退会届”、どうするつもり?」

 

「──うへ、何の事かな〜? おじさんにはさっぱり何だけどなー」

 

 

 正直に答えるとは思っていなかったシロコは、普段通り落ち着いた様子だった。対してホシノも見た感じ変わった印象はないが、心の奥底まで深く覗けば若干の動揺が見られる。細心の注意を払っていた、誰にもバレないように、勘付かれないように。それこそ、最近になってからグングンと成長して来ているシロコにこそ何一つ気付かれないように、と。

 頭の中で考えない様にしていた、憎くて堪らない“ヤツ”との取り引きを、みんなの為にもご破産にする訳にはいかなかった。

 

 

「あくまでシラを切るつもりなんだね」

 

「うーん、おじさんにはちょっと心当たりがないなぁ?」

 

「……そっか、分かった」

 

「分かってくれたならよか──」

 

「じゃあ、次の質問ね」

 

「ぁぇ? まだあるのぉ?」

 

 

 シロコがやっているのは質問、という皮を被った尋問であった。

 

 シロコにはなんとなくではあるが、細々とした内容まではともかくとして、ホシノが何かを隠したがっている事は確信している。だから、一発目の質問でカマをかけてみたのだが、まぁ目に見えるボロは出さなかった。何度も何度も迫り来る危機を切り抜けて来た彼女には、このような小手先の戦法などは通用しない事の証左だ。

 

 流石のニュータイプであっても読心能力ができる程万能では無い。しかしながら、それとは別口で元来彼女には高い洞察力と観察力が備わっていた。それこそ彼女がニュータイプとして覚醒を果たした事の要因の一つでもあるとも言えるが、ともかくそういった持って生まれたセンスも合わさって、この一週間の間ホシノが完璧に隠せていると思っていた心の奥、その全てと言わずともある程度は察していたのがシロコであった。

 

 

「あの日、昼寝なんかしてなかったんでしょ。どこで、何してたの?」

 

「いやいやぁー、ホントに昼寝だったんだって〜。偶々深く寝入っちゃっただけでさ〜」

 

「……そう」

 

「信じてないねぇその反応は」

 

「うん、見てたから分かるよ。ホシノ先輩が何かを隠してるの。それもきっと、アビドスに関わる事、退会届もそういう事だろうし」

 

「退会届なんて持ってないってー。どうしちゃったのさシロコちゃん、今日は一段と雰囲気が怖いよぉ〜?」

 

「そう言うなら、カバンの中調べても良いよね?」

 

「おじさんにだってプライベートはあるんだけどなぁ」

 

 

 やんわりと断るホシノに、少しイライラして来たシロコ。

 

 あまり切りたくはなかった選択肢だが、ここで何もしないよりはマシだった。

 

 それはこの前の一件で生まれた奇妙な繋がりから齎された情報だった。誰も知り得ないと思っていた、知り得ないはずだった逆転の一手。

 

 

「訂正があったら言って欲しい。……もう一回聞くけど、一週間前のあの日は昼寝してたんだよね?」

 

「そうだよ。そろそろおじさんを信じて欲しいなぁシロ──」

 

「じゃあ、これは誰?」

 

 

 彼女が言い切る前にシロコがスマホの画面に表示させたのは、遠巻きではありながら確かにホシノだと分かるような人物が、アビドス砂漠へと歩いていく写真だった。当然ながら一週間の前の日付けの写真である。

 

 砂漠の向こうに何があるのかと言われれば分からないが、それでも用がなければそんな所までわざわざ行かない場所。それこそがアビドス砂漠であり、基本的に何も無い場所として知られている。昔はオアシスがあったりとかなんとか言われているが、枯れてしまったのは随分と昔の話だと聞く。

 

 それを見て今度こそ、ホシノが分かりやすく反応を起こす。

 

 

「──っ、これは、当日の写真じゃないでしょ? そこに写っているのは確かにどう見ても私だけどさ」

 

「言い逃れはさせない。この写真も疑うなら、今度は証人だって呼んだって良い」

 

「……、シロコちゃん、何処から見てたの」

 

「私はホシノ先輩がその日、何処で何をしてたのかは知らない。この写真だって貰い物だから」

 

「……」

 

 

 明らかに雰囲気が一変したホシノ。いつものようなゆるふわな雰囲気は鳴りを顰め、鋭く引き絞られた視線──それなのに今にも泣き出しそうな目──をシロコに向けている。その目から、シロコは何を読み取ったのか、受け取ったのか。

 

 シロコはそんな彼女の様子にも驚く素振りを見せず、淡々と事実と考えを話していくだけ。

 

 

「どうして、そんなに悲しそうなの。どうして、何もかもを諦めているの。どうして、頼ってくれないの。ホシノ先輩、私達はそんなに頼りない?」

 

「……私はいつだって、私に出来る最善を尽くそうとしてる。シロコちゃんには、分からなかったかもしれないけど」

 

「私はみんなと、ホシノ先輩と一緒に過ごしていきたい。ホシノ先輩は違うの?」

 

「みんなを守る為に、私は進むの。みんなを守って、学校を守って、先輩の守った場所を、私も守ってみせる」

 

 

 ただただ想いがぶつかり合う。必死に言葉を紡ぎ、相手に届けと、人間らしく感情を投げる。

 

 

「そんなにしてまで、隠したい事なんだ」

 

「シロコちゃんには、関係ないよ」

 

「対策委員会を辞めようとしているなら、関係あるよ」

 

「そんな物は持ってないよ」

 

「……元より話し合いで解決出来るとは思ってなかったよ」

 

「……!」

 

 

 そう言って勢いよく立ち上がったシロコの様子を見て、一気に警戒度を最大まで引き上げて臨戦態勢を整えるホシノ。

 

 

「最近は色々忙しかったし、そもそも随分久しぶりだから。ヤろうよ、ホシノ先輩」

 

「もしかして、勝てる気で居るのかな?」

 

……勝つよ、私は。何を、やってでも。それで、全部話してもらうから

 

大きく出たね、シロコちゃん。これまで私に直撃なんて一発も当てられなかったのに。私にだって、譲れない物はあるんだよ

 

 

 ホシノのお昼寝用教室から外へと続く昇降口へ至る階段を降りていくシロコに対し、対策委員会の部室へと続く階段を登っていくホシノ。

 

 

 

 言葉があっても、争いは無くならない。

 

 だから、最後に頼れるのは。頼ってしまうのは。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 アビドス高等学校、その昇降口を降りた先にはそれはそれは大きな校庭が広がっている。今でこそ廃棄された車両や瓦礫やら様々な物が混在としている場所だが、戦うにはこれ程整った場所はないだろう。

 

 

「ルールは」

 

「いつも通り。降伏するか、倒れるか」

 

「分かったよ」

 

 

 対峙するは二人。

 

 ホシノはいつもの様にショットガンと盾──だけではなく、普段は使わない拳銃の入ったホルスターを脚に装着している様子。伸ばし切った髪もポニーテールに纏め上げてサッパリとした雰囲気が窺えると同時に、この戦いに対する彼女の姿勢も推測出来るだろう。

 

 

 相対するはシロコ。彼女自身の装備は普段とは変わらない。いつものアサルトライフルと手榴弾、それにグレネード。そしてシロッコから貰った超合金オーパーツと化したドローン。

 

 

『本当にやる気か?』

 

「私は、負けるかな?」

 

『負けはしまい、が。勝てもしないだろうな』

 

「正直だね」

 

『気休めを言っても仕方あるまいよ。パイロットは煽てて使う物だが、キミにはそうするよりも正直な心を話した方が良いと思ったに過ぎん』

 

「……これは、私の我儘。これから消えようとするホシノ先輩の、痛みと悲しみが、きっとシロッコには分かっていると思う。私はそんな先輩を止めたい、止めなきゃいけない。──だから……、だから! 私に、力を貸して! 今だけでも良い!」

 

『フッ……、私はキミの味方であり続けるさ。キミが考え、思ったように動けば良い。私はそれを最大限援け、その道行きを見守るだけさ』

 

 

 彼の想いに応じてなのか、それともシロコの思念が呼び寄せた物なのか。

 

 いずれにせよ。

 

 

 再びこの場へ、銀の躯体が舞い降りる。前回の時とは違い、機首の部分に新しい武装が取り付けられている様で、分かりやすく武装のパワーアップが図られているらしい。

 

 

「うへ、それも持って来ちゃったんだ」

 

「言ったでしょ、何をやってでも勝つ。これはその為の力、ホシノ先輩を止める為の」

 

 

 言葉は必要ではなくなった。

 

 ここで問われるのはただ一つ。

 

 

 

 シロコが手に持ったライフルを真上に向ける。その様子をホシノは見つめて、お互いにアイコンタクトを交わす。

 

 

 

 

 

 数瞬の後、乾いた音が校庭を駆け巡った。

 

 

 

 結果だけが、彼女達を正当化してくれるだろう。結果だけが、彼女達を救ってくれるだろう。

 

 

 結果だけは。

*1
見て見ぬ振りとも言う。




また来週、お会いしましょう。

本編完結後の展開について

  • 最終編+アビドス三章
  • 2部+最終編+アビドス三章
  • 3部+最終編+アビドス三章
  • 時間掛かっても良いから全部見たい
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。