自分の方でなんとしてもパスしないといけない試験があり、それの為にこちらの方に時間を割けませんでした。元々は息抜きで始めた本作ですが、それでも今となっては多くの読者様が楽しみに待って頂けている……んじゃないかなと、思える作品になりました。
責任感を持って、完走まで頑張りたいと思います。
ヒナのカイザーPMC本部襲撃と同時刻。
アビドスのメインストリートに侵攻していたカイザーPMCの大群を相手取っていたシロコと便利屋68。
まだまだ敵の数は多いが、それでもシロコと便利屋で挟撃していた範囲の敵は殲滅し終わった事で、ここに来て両者の合流は果たされた。
「や、やるわね砂狼シロコ……。アレだけの数を相手にして、まだ余裕そうな表情じゃない……!」
「ん、そう言いつつ、そっちもまだまだ行けそうだね」
「あったり前! まだまだ遊び足りないもん!」
「ハルカもあの様子ならまぁ、大丈夫そうだね」
そう言って彼女が見遣った方には、合流した事にも気付いていなさそうなハルカが、死んで下さいと連呼しながら一意専心でショットガンを敵集団に打ち込んでいる光景だった。被弾をちょこちょこ受けながらも、まるでモノともしていない様にショットガンを乱射し続ける彼女の姿は、もはや一種の怪物のように映る、彼女には痛覚の一切が欠如しているのだろうか? *1
しかしながら、まだまだ敵の戦力は多い。ようやく半分と言って差し支えない程の軍量だった。連中は一体どれだけの戦力を引き連れてきたのだろうか、思わずそう問い詰めたい程だった。
『数だけ揃えたとしても、我々には敵わない事を分からせてやらねばならんな』
「うん。二度とアビドスに入って来ようなんて、思わないくらいに」
とは言え、シロッコの言う事は間違っていない。確かにヘルメット何某の連中に比べれば確かに練度は高いと思われる。獲物を見つけたら喰らいつくだけの獣集団とは違って、カイザーPMCは浅知恵を働かせて小賢しく連携を取ってくるのだ。個が束になっているのではなく、軍という一個の塊になっている点は大きな違いである。
まぁこの2人からしてみれば、それがなんだという話ではあるのだが。
圧倒的な火力と機動力、そして制空権を完全に握られている状況では、彼らのような一般的な連携しか出来ない軍隊では敵わないのは道理だ。PMCの教本通りの連携で攻め掛かる彼らには、常識の範囲外と言っていいオーバーパワーのシロコ&グラシュティンを崩す事な不可能な話であった。それに加えて、地上で主に対面している便利屋68もなかなかに曲者揃いであり、それでいてカイザーPMCのそれとは比較するのも愚かに思える程に緊密な連携を取り合っている。
ハルカはショットガンを正面に乱射しながら前線を押し上げていく。彼女を正面で抑え込もうと相対している敵兵はなす術なく屍を晒す事になっている。
「ムツキ室長! カヨコ課長!」
「まっかせて!」
「やらせない……!」
しかし彼女は1人、便利屋から離れて孤立気味でありその隙を狙って背後を取ろうと画策していたPMCの一団を、すかさずカヨコとムツキの援護が襲い掛かる。ムツキが仕掛けた地雷と爆弾の連続起爆、その爆炎の中を突っ切って進出してきたカヨコの正確無比な射撃によって、カイザーPMC前線部隊は混乱に包まれていた。
カイザーPMCの部隊長は便利屋の猛攻に対して、後方に待機させていた予備戦力を前線に投入する事を決断した。後方で戦力を遊ばせて置けるだけの余裕は最早ない、全ての戦力を出し惜しみする事なく使い切ってでも任務を完遂させなくてはならない。それが叶わなかった場合、彼のキャリアは全て泡沫の夢の如く消えゆくのみだ。
部下に部隊の補充を命じようとした彼は、懐からトランシーバーを取り出して──。
視界がグリン、と。
気付いた時には、彼の身体は地面と熱く激しい抱擁を交わしていた。
便利屋68の首魁である陸八魔アルは、マークスマンとも狙撃手とも言い難い距離感で交戦している。彼女が持っている武器は専ら狙撃用のライフルとして有名*2であり、当然だが最前線で振り回すような物ではない。適切な距離を保った上で適切な援護を飛ばすための銃、そういう認識が正しいとされている。
が、彼女の立ち位置はその前提を大きく覆し、非常に交戦距離が近かった。狙撃するにしては近過ぎる、が前線には少し遠いような、そんな距離感。
「そんな見え見えの行動を見逃す程、私は甘くはないわ」
「流石ですアル様!」
『あの陸八魔という少女、なかなかやるな。よくあの一瞬で前線指揮者を看破し、あまつさえ撃滅してみせるとは』
「うん、私達も負けてられない」
彼女は、非常に『眼』が良かった。それに尽きる。
周りの人間を常日頃から観察でもしていたのか、それとも周りの目を気にして生きて来たのか。どういった背景があったのかはともかく、彼女の眼は、色々なモノが見えていた。単純に周りがよく見えていたと言っても間違いではない。
先程の様に慌ただしく増援を派兵しようとしていた指揮官を見つけた事も、孤立気味のハルカを包囲しようとしていた集団に気付いた事も、彼女の眼が冴えている事の表れである。そういう意味で、彼女が一歩引いた立ち位置から戦場を俯瞰しているのは、便利屋全体にとって良い影響を齎しているのだ。
「(い、今の一言! カッコ良かったんじゃない!? どうかしら!)」
……果たして彼女が、そこまでの事を考えて立ち位置やらなんやらを考えているのかは不明だが。
「下の状況も良さそうだね」
『便利屋68。実力は確かなのはあの時で分かっていたが……、あの時よりも動けているな』
「強くなったって事?」
『そうではなく、正しく全力を発揮しているのが今なのだと私は見ている。あの時はコンディションが、気持ちの面が乗っていなかったのだと思う』
「……そっか、そうだね」
グラシュティンに騎乗した状態で、地上部隊に対して容赦のないビームの応酬。それを片手間で済ませながらシロッコと交信をしているシロコ。順調に敵の数は減りつつあり、敵勢力が瓦解するのも時間の問題といった所ではあるが、なるべく早く殲滅出来るのならそれに越した事はない。シロコも仲間を信頼している気持ちは本物だし先生の指揮があれば大惨事にはならないだろうが、心配する気持ちが無い訳ではない。可能な限り早く駆けつけ、みんなと共に戦いたい。しかし、未だ多くの戦力が残っているカイザーPMCを放っておく訳にもいかない。自分の気持ちを押し殺してでも、成さねばならない使命がある。
自分にその力がある以上は、成すべき事を成すだけなのだ。
空中で旋回しつつ再び地上部隊に対して狙いを付けるグラシュティンとシロコ。軽くなった引鉄を握り込んだその時だった。
『──流石に厄介ね──』
『──フハハ! 風紀委員長と言えどもこれは──』
「ッ!? これは……?」
『言葉が走った……。どうやら、向こうも始まっているらしい。それも想定外の事態が、だが』
──シロコとシロッコは二人して、何かの映像と言葉を観測した。
それは、シロコが昨日の内に頼んでおいた援軍である空崎ヒナが、謎の巨大ロボット──シロッコがこの前に話していたゴリアテとか言う代物──との交戦を開始している光景だった。
「流石に厄介ね」
「フハハ! 風紀委員長と言えどもこれは防げまいて!」
「面倒くさい……っ!」
機関銃から放たれる最早ビームのような弾丸は、あの巨大駆動兵器に対して有効打になっているとは思えない。空崎ヒナは僅かな交戦時間でそれに気付いていた。彼女の持っている機関銃だって人間の携行出来る火力の中では最高峰の物だが、それでも突破出来ないほどの堅牢な装甲によってあの兵器は守られているらしい。
だからと言って全ての攻撃が無駄だと彼女は考えていない。人間の身体と同じ事だ、ああいったロボットにだって必ず弱点がある。人間であれば急所や関節部に攻撃を被弾すれば戦闘どころではないし、それと同じようにロボットも攻撃が通りやすい箇所がある。
これまでの経験からか、それとも彼女の直感なのか。ともかく、ヒナは正面からの撃破は一旦諦め、敵の行動パターンの見極め、観察するフェイズへと移っていた。
ヒナはゴリアテの両腕に装着されたガトリングガンより放たれる弾丸の嵐を、当たり判定の小さい身体と彼女特有の翼を駆使しながらなんなく回避していく。ゴリアテに搭乗している理事もヒナが進むであろう進路に銃撃を置いていたり、肩部多連装ミサイルランチャーによる面制圧を試みてはいるのだが、その度に細かな体重移動と翼を使った体幹移動で躱されてしまっていた。その攻撃の最中にひっそりとチャージされていた主砲を照射するも、ヒナには至近弾すら浴びせる事が出来なかった。ゴリアテ自体も見てくれの割には優秀な機動力を保持*3しており、ヒナを追い掛けつつ攻撃を必死に撃ち込んでいるのだが、やはり常に世紀末状態のゲヘナを取り仕切る彼女にはこれくらいは朝飯前という事だろうか。
何層にも貼り重ねられた厚い装甲によってヒナの攻撃を正面から凌ぎ切ってしまえる理事のゴリアテ、そこから繰り出される数多の攻撃を完全に避け切っているヒナ。両者とも、このままでは決着を付ける事が出来そうにないのは理解していたが、それでも打つ手がないのは共通していた。
「なぜ当てられんのだ! クソッ!」
「攻撃は単調で回避は容易。でも、こっちも手が出せないわね」
幸いにしてあのロボットの攻撃はそこまで苛烈ではないと判断したヒナは、最悪の場合敵のバッテリー切れまで粘り切るしかないとも考えていた。有効な攻撃手段を持っていない以上は、敵の行動限界を待つ他ない。非常に困難な戦法だが、無理な攻撃を仕掛けて疲労を招き万が一倒される様な事態は避けたかった。
既に本部建造物の中に先生とアビドス達が侵入しており、少なくとも探し物が終わって脱出するまでの時間は稼がないといけないのだ。無理な攻めを通す選択肢は、現時点では排除されなければならない。あくまでヒナの目的はここを確保しておく事、先生を追跡させないようにする事、この2つに絞られている。
それに、時間を稼げば。
「シロコも多分、向こうが済めば援護に来てくれるだろうし。尚更焦る事はないわね」
ヒナには確信があった。シロコがやって来るまで持ち堪えれば、この苦境は逆転できると。
そして、その予感は間違う事はないだろう。
未だ油断ならない戦力を持っていたカイザーPMCの残党を便利屋に任せて、飛んで来た思念へグラシュティンで急行しているシロコ。
先日実物を見た時に感じた凄まじい圧力が間違いでなければ、ヒナは凄まじい実力を持っている事は間違いない。噂であれば幾らでも彼女の事を聞き及んでいるし只者では無い事も分かっているが、実際に彼女が戦っている姿を見るのは初めてになるだろう。
大前提援護の必要があるかどうかはともかくとして、シロッコが空崎ヒナの実力如何が気になっている事も間違いではない。彼女もキヴォトスにおいて相当な上澄みに分類される事は知っているが、その戦闘スタイルや技量の程は実際に見てみない事には始まらない。
『とは言え、そこまで危険な状況では無いと思うが』
「でも、ここと向こうでどっちの方が危ないかなって思ったら、向こうに行った方が良いかなって」
『それはそうだ。正しい選択だろう』
カイザーPMC本部への所要時間はそう長くはないが、しかし彼と意思疎通を図るには十分な時間であった。
「ねぇシロッコ」
『どうした、シロコ」
「今更言う事ではないかも知れないけど……。ありがとう、私に力を貸してくれて」
『──フム、確かに今言うことではないな。これから戦いに向かうという時にそういう事を言うのは少々縁起が悪いと、一説には語られているらしい。*4最も、私達が組んで出来ん事など無いと思うが』
「うーん……。一応言っておこうかなって思っただけだったんだけど……」
『今回の事が一区切り付いたら、また聞かせてもらうさ。今はその時ではないというだけだ』
「いいよ、分かった。早く終わらせて帰ろう」
何が起こるか分からないから言える時に言っておきたかったシロコに対して、そんな必要がないとばかりに取り合わないシロッコ。本心からそんな言葉を吐く必要が無いと思っているシロッコだが、彼がどういう意図を持ってそのように話していたのかは判っているので特に気にした様子はない。
互いの誤解なく意思の疎通が出来るというニュータイプ。ニュータイプ同士の間にはわざわざ口に出して会話する事すら必要ないというが、次なる戦場へ到着するまでの間、彼らの間から会話が消える事はなかった。*5会話の必要が無い、だからと言って二人で目線を合わせて頷き合うだけでは面白くはない。シロッコらしくない考え方のようにも思えるが、それだけシロコとのコミュニケーションを重要視していると考えられる。
「あそこ! 光が見える!」
『どうやら、そこまで出遅れてはいないらしいな』
「……ヒナ!」
『着地の準備をしておけ。直ぐに戦闘になるぞ』
遠くに見えるカイザーPMC本部からは爆発やらそれに伴う煙やらが立ち登っており、それだけで戦闘の激しさが分かるという物だろう。
時折見える紫色の閃光がヒナの健在を示しており、元より心配などしていなかったとはいえ良い事には変わりはない。
「ヒナ!」
「意外と早かったわね、シロコ」
「ん、急いできたから」
「早速で悪いけど、手伝ってくれる?」
「うん、一緒にやろう」
「忌々しいガキが! またしても私の邪魔をするか!」
『私としては何時ぞやの約束を果たしに来たつもりなのだが、今のヤツに言ってやる事でもないか』
「……一回グラシュティンを使って戦いたいとか言ってたけど、適当に喋ってるだけかと思ってた」
『ニュータイプと言っても未来が見える訳ではないさ』
いつの間にかあの戦場から脱出していたらしい理事は、シロッコが先日話題に挙げていたゴリアテという名の大きいオモチャを振り回してはしゃいでいるらしい。戦いが楽しく感じてしまうのは分からないでもないが、その程度のマシーンで戦場を支配した気になっているのは滑稽でしかない。視界に入れておく事も若干嫌になって来たと、目の前の愚物をさっさと排除すべくシロッコは最後の奥の手を切る事を決意する。例によってシロコには何も知らせていない情報である。*6
『シロコ。薄々勘付いているだろうが、この機体には所謂リミッターというものが設けられている』
「全然気付かなかった、そうなんだ」
『これは
「……ん、それで?」
『理事の乗っている機体、他の要素全ては私のグラシュティンの後塵を拝しているが、装甲の厚さ・硬さだけは目を見張る物がある。これを破るには今のままでは少々厳しい』
「だから、リミッターを外すって事?」
『これを作った頃に比べて、キミの力は著しい成長を遂げている。今ならばコレを全力で稼働させても問題はあるまい』
「そっか。じゃあ、やろう」
『──これも、信頼の結果という訳か』
分かっているよなと言われて、全く何の事か分かっていなかったシロコは少し申し訳なさそうにしながらも、説明せずに土壇場まで隠していたシロッコが悪いのは明らかである。こういう秘密主義な所は治して欲しいと思ってはいる事だが、それに助けられている以上は何も言えない。シロコも自分の力で彼の想像を超えて見せれば、こういった隠し事もなくなっていくのかも知れないが。
シロッコの決断を受けて、シロコもリミッターの解除を容認した。それを受けてシロッコも、これまで
彼、そして彼女の意思に応えるようにグラシュティンが──唐突に、その動きを完全に止めた。空中で微動だにせず、これまで見せていた縦横無尽の活躍が嘘のように、静かに佇んでいた。
「……故障、には見えないわね。でも……」
「ええい、何だかよく分からんが食らえ!」
理事は敵の動きが止まったのを良い事に、ゴリアテの頭部に設置された固定エネルギー砲を放つ。最大までチャージされたコイツの威力ならば、確実に、跡形も残す事なくアレを消滅させられるハズだ。あの兵器には先程辛酸を舐めに舐めさせられた、それは理事自身もそうだが、彼の直属の
部下たちも同じだった。理事はアレにヤられた全ての部下たちの思いを代弁し、その想いと共にトリガーを引き絞った。
カイザーの技術の結晶とも言えるビームの輝きは、彼の想像通りの結果を齎さなかった。彼が狙いを付けていたグラシュティンは避けた訳では無かった、しかしその攻撃は何かしらの干渉を受けて四方へと散っていった。
ヒナには見えていた。グラシュティンの周囲に薄く紫色のバリアのような物が張られている事が。
シロコには分かった。直感的に自分がどうなるのか。
シロッコには分かっていた。何一つ問題など無かった事が。
「目障りな奴め……落ちろ、蚊トンボォッ! 」
「ッ!?」
誰かの咆哮が、空中で動きを止めているあの機械から聞こえた気がした。ヒナは自分の頭がおかしくなってしまったのかと一瞬錯覚したが、それは対面の巨大ロボを動かしている理事の顔を見れば解決してしまった。
「何だ、今のは……!?」
理事にも分からなかった、誰かの声が響いたと思ったのに、それは男の声だった。この戦場には自分以外男など居ないというのに。しかし、それにも関わらず理事はさっきの声を、不思議と初めて聞いた物とは思わなかった。つい最近聞かされていたような気がする、聞いていると無性にイライラムカムカしてくる声だった……。得体の知れない現象に見舞われている事でさらに彼のイライラは高まっていくが、そういう時こそ冷静さを忘れてはならない事を理事は知っている。*7
そんな理事の様子を見遣ったヒナは、自分だけではないと悟る。隣に居たシロコにも確認しようと視線を向けると、そこに彼女は居なかった。
「……っ、何が起こっているの?」
彼女の姿はすぐに見つかった、周りに視線を向ける必要もなかった。
ヒナは隣に居るはずの彼女を探し、視線をそのまま上へと動かした。シロコは意識があるのか疑いたくなるような虚な目で、グラシュティンと同じように空中に浮遊していた。
グラシュティンは元々大気圏でも空中機動出来るように設計されているが、シロコはただの一般人に過ぎない。*8普通人間は空中に浮かんでいる事は出来ないという事を、ヒナは至極当然の常識として身に付けている。多少人間としての強度が上がってはいても、この世界の人間もそこまで進化した存在ではなかった。
自分の目を疑いたくなるような状況が続くが、彼女の高度はそのままぐんぐんと上昇して行きグラシュティンと同じ高度まで到達する。
すると、今まで動きの無かったグラシュティンに動きが──
「……3つに、分裂していく……」
「やはり先程の攻撃は当たっていたのか……? 何にせよ、今が──な、何だとッ!?」
グラシュティンが機首部分・左右のブースターユニットに分裂、凄まじい
数回の旋回を挟んでから、一対のブースターユニットがシロコの背中へと周り込み、そして“定着”した。残った機首の部分は大型のビームランチャーとして彼女の右手に収まった。
『やってみれば、出来る物か』
「凄い、身体からパワーが漲って来る感じ」
『完全には程遠いが、今は言うまい』
「これなら……!」
シロコはメッサーラ・グラシュティンを分解・
「合体、したというのか……。なんと非常識な!」
「凄い力を感じるっ……、あれは本当にシロコなの……?」
グラシュティンから分離装着したブースターユニットはシロコの身体と直接接続している訳ではない。シロコとシロッコ両名の精神・身体的親和性が高い事を彼は直感で分かっていた。それを見越して彼がシステム面に調整を加え込んでいた事もある。
何にせよ、実体的な接続ではなく、シロコの本体である肉体と、シロッコの本体をグラシュティンに見立てる事で、その高い親和性を活かして精神的な結び付きを強化した。詰まるところが、今回の“合体”に繋がる訳だ。*9
「虚仮脅しが!」
「そうそう好きには! ヒナ、援護を!」
「っ、了解」
目の前で理解出来ない現象が起こっている、それに対して理事は怒りを噴出させることしか出来ない。理解の及ばない事に関して怒るだけしか出来ない大人は、やはり粛清されるべきなのだ。
怒りのままに攻撃する理事を迎え撃つはグラシュティンを着込んでいるシロコと、それを追従するヒナ。
ヒナのデストロイヤーから放たれる光弾を背後に、シロコは背中に引っ付いているブースターを噴かして理事のゴリアテを翻弄してみせる。ヒナの援護射撃を物ともせず攻撃を続ける理事だったが、流石にシロコの持っている火器には警戒心をマックスにしている。彼女からの一撃を貰うわけにはいかない理事は、先程から満足に攻撃を行えていない。攻撃ができないという事は、敵を減らす事が出来ないという事。その事実を理事自身が分かっているから、彼は怒りを露わにしてそれを解消する事も出来ない。
シロコが両手で保持している
「見かけに依らず!」
『図体の割にはと言いたいが、しかし!』
「それでもその大きさでは!」
「押せている……! これなら!」
シロコのビームがゴリアテの左腕を掠め、回避しきれずにビームの熱量でガトリング砲まで誘爆、理事も慌ててそれをパージして対処するが左腕はもはや警戒するべき対象ではなくなったと見て良いだろう。ならば今度は、次を見なければ。
「ええい! 虚仮脅しではなかった、がしかし!」
「ヒナ! 私の後ろに!」
「まさか、人間規格の銃撃じゃないって分かっているの!?」
「問題ない! でしょ!?」
『ああ、問題ない』
シロコはこの形態になるのは初めてであり、何が出来るかなんて分からない、ハズなのに。
「(──シロッコから……分かってあげられる)」
『(そうだ、それでいい。それが、ニュータイプだ)』
これを使えばいいんだろう。そうだ、今でこそそれが出来る。それでなければならない。
「はァッ!!」
分かる。これだよね、こうすればいいんだよね。
シロコは最早身体の一部となったグラシュティンの中から、意識的に一つのシステムを起動する。
──エルドリッジ・システム。*10またの名を、『グリプスの呪縛』
彼が別世界からの手土産を持って来ていたお陰で、この世界でも完成させる事が出来た代物。
そうだ。私には因縁深い物だが、今ではキミの助けになれる。
「な、なんだッ、トリガーが!?」
『君は良い役者だったよ。いや、道化と言った方が正しいか』
ゴリアテのコックピットの中で必死にトリガーを握り込んでいる理事の姿が、シロッコには手に取るように分かっている。そして、何故弾が出ないと狼狽えている姿も。
ヒナの的確な援護が動けなくなって引くも押すも出来なくなったゴリアテの右脚部関節を捉える。人間の小銃程度であれば簡単に弾ける程の堅牢性はあったものの、流石に関節部まではそうもいかない。さらに彼女の獲物も、その体躯に見合わない程の大型の機関銃だった事も良くなかった。さらにさらにで、彼女に秘められている神秘の量も正しく膨大であり攻撃の威力が大幅にブーストされている事も、ゴリアテの関節部を撃ち抜けた事の理由に繋がっている。
右脚の関節部に甚大なダメージを受けたゴリアテは自重を支える事で精一杯になってしまい、先程までの様な見掛けによらない高機動を披露する事は最早不可能だろう。しかしながら、それでもアレの火力は流石に楽観視出来ない。何せ人間基準の口径ではないのだから、盾があっても完全に防ぎ切るのは難しい程に質量差は顕著である。
「お、おのれっ……」
「これで終わりにする!」
『手向けだ、受け取るが良い』
シロコは背後のブースターユニットを前に突き出しビームを連射しながら、格闘戦の距離に入った時、今まで使う機会がなかった武装を出してみる事にしたらしい。
それは原型機よろしくブースターユニットに折り畳む形で格納されていたクローアームであり、大きさだけで言えば理事の乗っているゴリアテの腕の方が巨大である。が、ゴリアテの両腕自体はガトリング砲になっている為、こういった接近戦では質量を活かした叩き付け位しか出来ないだろう。
一方でグラシュティンのクローアームは大きさこそ劣っているが、5本に分かれたマニピュレータ方式の、名前のように鋭利な爪が付いている事で攻撃力は高い。強靭な設計のお陰もありシロッコの見立てでは、あの程度のアーム擬き簡単に握り潰せると踏んでいる。
「思い上がるな!」
「負けないっ……!」
ブーストを噴かしながら接近してくるシロコを上から叩き落とそうと、ゴリアテの右腕を大きく振り上げた。対するシロコは背後のクローアームをアッパーカットの要領で下手に構え、真っ向から立ち向かうつもりらしい。
「うおおおッ!」
「くぅッ!」
両者の鋼鉄の拳が火花を散らしながらぶつかり合う。キヴォトスにおいては規格外のマッチアップだが、その拮抗は一瞬だけ。
握り込められたクローアームがゴリアテの右腕部を半ばから貫通し使い物にならなくさせてしまった。シロッコの思った通り負ける要素などなかったにせよ、少しくらいは驚かせて欲しかったとも思っていそうなものだ。
ゴリアテは先の一撃の反動を受け止めきれずに、仰け反りながらもなんとか体勢を維持しようと後退りをしているが、そんな隙だらけの状態を見逃してあげる程シロコは優しくなかった。今表に出ているのが彼女ではなくシロッコであったのなら、少し待ってやるから面白い事をしてみせろ、くらいは言いそうな物だが、何はともあれここいらが理事の年貢の納め時という訳だ。
彼の駆るゴリアテは機体の前面装甲こそ大した被害は無いが、背面からの攻撃は所々内部にまでダメージが響いているらしい。それだけに留まらず、ヒナの的確かつ高火力な射撃によって右脚部を損傷しており、ビームの乱射がいつの間にか肩部の多連装ミサイルランチャーを焼き切っている他、今の攻防の結果で両腕とも喪失してしまった。最早、戦闘の継続は困難と言える様な機体状況にも関わらず、操縦者の意思は死んでいなかった。諦めが悪いと言っても良いが、とにかく彼はまだ自分が負けていないつもりらしい。
「があああぁぁッ!! クソッ! クソが!」
「……」
『分かっているとは思うが、死に物狂いの人間は怖い物だ』
「油断なんか、しないよ」
ゴリアテに残された最後の武装、頭部の主砲を悠長にチャージしている理事。
シロコはその様子を見つめながらも、左手のシールドと右手のHMLに加えて背中のビーム砲を──彼女が現時点で持ち得るすべての攻撃手段をゴリアテへ向け、それらのエネルギーを収束させ始めている。理事の最後の攻撃を正面から打ち破るつもりの彼女に対して、シロッコが一つだけ言っておくことがあると前置きをして話し始める。
『奴の事を、憎いと思うか?』
「……アイツが居なければ、アビドスはもう少しだけマシだったかも知れない。そう思うと、憎くて堪らない」
『その感情のままに奴を、殺すか?』
「っ……、それは……。でもっ、そうしなきゃ!」
『最終的にはキミの好きの選択に委ねるしかないが、私はキミはそうするべきではない人間だ。私のように非情になり切れないのなら、これからも他者を心の底から思い遣ってやりたいと思うのなら、キミは行動を起こすべきではない』
「……」
『いつの日にか、私の言った事の真意が見えるさ。私の言うべきと思った事は言った、キミの中で良く咀嚼してみる事だ』
シロッコの言った事。ニュータイプであるシロコにも、その発言の意図は読めなかった。それでも、彼はそうすべきではないと言っている事が、包み隠されない本心である事が、シロコの心に響いていた。水面に滴り落ちた水の一雫が生み出した波紋の如く、長く、深く、そして何重にも彼女の中で反芻され、彼女を悩ませていく。
MS越しの感触であっても、生身の人間であっても*11。何方の命も奪った事のあるシロッコは何を思って、新たな時代を生きるニュータイプに選択を委ねたのか。
「私の前から消え失せろ! アビドスッ!!」
「──分からない、けど」
シロコの眼前に、眩いばかりのエネルギーの奔流が迫る。
彼女の中で、答えは出なかった。けど、きっとそう言うだけの理由がある、だから。
彼女は収束されたエネルギーの全てを開放し──。*12
読者の皆皆様にはいつもいつも感謝ばかりなのですが、それに関連しまして、なんとつい先日この作品にファンアートを賜りました。
私個人、作品にファンアートを貰った経験など無かった物で、夢なのではないかと疑った程でした。
ファンアートの作者様からは許可も得ておりますので、この後書きにて一旦公開させて頂きまして、後日目次のページにも追加したいと思います。
【挿絵表示】
【挿絵表示】
今回ファンアートを下さった『地下ピ』様、改めて感謝申し上げます。ありがとうございます、励みになります。
どっちが先に見たいか
-
パヴァーヌ
-
エデン