シロコとシロッコ   作:メイショウミテイ

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本作を作る上で一番悩んだのが、シロコをどうやって元の世界へ返すか、という点です。
そこらへんちょっと設定詰めれそうにも無いので、あんまり突かないでもらえると助かります。

後、注釈を何故ここまで入れているのかという話にもなるのですが、作者の趣味です。こういう画面外で提供される情報を書いている時が一番楽しいです。




 その後、シロッコに連れられて少し移動したところにある、そこそこ広めの部屋に案内されたシロコ。

 

 シロコにも色々考えるところは当然あるのだが、このシロッコという大人から何かしら情報を得る事が出来そうな以上、大人しく従っていた方が良いと考えた訳だ。

 

 

 案内された部屋は最近まで使われた痕跡がなく、大急ぎで用意されたのだと分かる。

 まさかそこに居るシロッコが、彼女──シロコの為に用意したとは思わないだろう。

 

 シロッコは監視カメラを確認して艦内を移動しているシロコの姿は既に確認しており、報告通り犬耳を携えたシロコという存在に心底驚いていた。しかしそれと同時に興味を抱いている事実。それはその通りで、宇宙世紀において──というより、有史以来犬のような耳を備えた人類というのは聞いたことが無い。当たり前の話だ。

 連邦内部できな臭い研究を行っているというオーガスタ研やらムラサメ研やらの強化人間計画に通じた、一種の人為的に進化を促す研究とも考えられたが聴覚の強化は既に確立された手順がある為、わざわざこのように目に見える結果として改造を行う必要はない。

 シロッコはそういう点もあり敵対勢力*1から差し向けられた間者であるという筋は限りなく低いとみている。

 

 しかし事実として、目の前には犬耳を生やした人間(仮)が立っている訳だ。いっそ彼女を保護できるのであればそれに越した事は無い、そう考えたシロッコは先んじて女性職員に命じてこの部屋を整えさせた。

 

 

「……ここは?」

 

「君が使うといい。何か必要なモノがあれば、そこの受話器から要請してくれればすぐに持ってこさせよう」

 

「……信用できない」

 

「それはそうだろう。しかし、私達としても無暗に事を構えるつもりがない事は分かってほしい」

 

「うーん……」

 

 

 先程、シロッコから発せられたプレッシャー*2に中てられた事もありシロコの中でシロッコの信頼度は余り高くないが、事を構えたくないのはこちらも同じ事であった。

 先程シロッコは、この艦を預かる責任者と言っていた。艦というからには、創作の中で出てくるような戦艦とかそういった類の中に居るという事になる。つまりは現状、敵地のど真ん中に居る事に相違ない訳で、そのような状況で万が一事を起こしてしまうと確実にシロコの方が補給切れを起こしてしまう。いくら肉体が頑丈で身体能力も上回っているにしても、それだけではペイしきれない程の数の暴力が待ち構えている事は少し考えれば分かる事だ。

 

 結局、シロコの側に選択肢などは存在していないも同義なのだ。シロコ自信何としてもアビドスへ帰る事を目指しているから、ここで万が一にも命を落としてしまうような真似は絶対に出来ない。

 

 

「……分かった、とりあえずはこの部屋を使わせてもらう」

 

「賢明な判断だ、その判断に感謝する」

 

「ん」

 

 

 それからシロコは部屋の機器類の説明や食堂などの場所などシロッコから説明を受けた。どうやらこの艦の中でシロコは賓客という扱いを受ける事になっており、艦内の様々な設備を使用しても構わないという事らしい。重力ブロックには先ほどいざこざを起こしてしまった食堂よりも大きな食堂や、本格的なトレーニングルームや年代物の酒などを取りそろえている小洒落たバーなんかもあるらしい。もっとも、バーの方はシロコには関係のない話なのでスルーしたが。*3

 

 変に気を回してくれるシロッコに底知れない恐怖を感じながらも、若干トレーニングルームが気になっているシロコ。

 

 

「どちらがいいかな?」

 

「……じゃあ、紅茶を」

 

 

 長々と説明をしている間にシロッコは部屋に備え付けてあったドリンクサーバーを操作して、コーヒーと紅茶をそれぞれ用意していたらしい。部屋中央に備え付けられたテーブルにそれらを置くと、シロコに席に座るように促した。

 どうやら、ここからが本題らしい。悟った様子のシロコはその誘いを受け、シロッコの対面へと腰を落ち着ける。

 

 

「さて。改めて自己紹介だが、私はパプテマス・シロッコ。大型採掘艦ジュピトリスの艦長を務めている。君は?」

 

「……砂狼シロコ」

 

「──シロコ、か」

 

 

 名前が似ている、のはシロコも感じていた事だ。

 

 シロッコの感性はさらにそこから踏み込み、運命を感じていた。まぁ、こんな突飛な出会い方をすれば誰しも運命を感じそうなものではあるが、シロッコのニュータイプ的な感覚が反応しているらしい。それこそ監視カメラでその姿を確認していた時から、何かしら不思議な感覚を味わっていたというのが実際の話だ。

 

 

「日本人のような名前だが、そこの出身なのか?」

 

「二ホン……? というのは良くわからないけど、私はアビドスで生まれた……んだと思う」

 

「アビドス? どこかのコロニーの名前か?」

 

「コロニー……? うーん……」

 

 

 話がかみ合わないのは当然の話だ。なにせ歴史や文化体系が大幅に異なる二つの世界の人間がここで喋っている。宇宙世紀世界の統一された政府である地球連邦は、地球上に存在する国家及びスペースコロニーの連合体であるのに対して、キヴォトスでは『学園自治区』が所謂国の代わりを果たし、連邦生徒会がD.U.*4を治めつつキヴォトス全体の政治活動を行っている。敏腕すぎる連邦生徒会長の脇をサポートする統括室や各部署が支えていても、キヴォトスの治安はあまり良い状況とは言えないのだが。

 

 

「シロッコ……さん。ここは──」

 

「固くならなくても良い、シロッコと呼んでくれ」

 

「分かった、私の事もシロコでいい。コロニーとはなに?」

 

「……コロニーを知らないのか? この世界では誰でも知っているような事だが」

 

「分からない……、私の街でその名前を聞いたこともない」

 

 

 シロッコは何かを感じたような顔で考えを巡らせ始める。宇宙世紀という時代は、人類が宇宙に生活圏を移すようになったことに由来している。宇宙に巣立った人類の第二の故郷となるべくして建造されたスペースコロニー、今となってはサイド7まで建造されその中で人は子を産み、育て、そして死ぬ事が出来るようになった。

 

 言い換えれば宇宙世紀は、コロニーの時代と言い切れる。

 

 そこで確信を得たのだろう、シロコに質問を投げかける。宇宙世紀に住む人間ならば確実に分かる、コロニーと並ぶほど有名なモノの話だ。

 

 

「ふむ、シロコ。これは見たことがあるか?」

 

「……。ううん、知らない」

 

「やはりか。これも知らないとなれば、やはり君は……」

 

「うん、そうかもしれない」

 

 

 どうやら二人の理解は共通の地点まで進んだようだった。

 

 宇宙世紀の常識を知らず、この世界の住人には見られない犬耳や頭上で光っている円形の物体。情報はまだまだ少ないが、一つはっきりした事がある。

 

 

「ここは、キヴォトスじゃない……」

 

「キヴォトスという地名は知らない。どうやら、そうらしいな」

 

 

 

 砂狼シロコは、宇宙世紀時代へと。

 

 時を超え、時空を超え、転移してしまったようだった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 その後も二人は様々な情報交換を行った。シロコを取り巻く世界の事──アビドス、対策委員会のみんな、キヴォトスなどのあれやこれ──をシロッコは理解し、逆に宇宙世紀の基本的な知識──簡単な歴史や今起きている戦争の話、ジュピトリスについての事など──をシロコは手に入れる事になった。

 

 

「なるほど、確かに君の言うような学校や地名はさっぱりだ」

 

「うん。私も、モビルスーツの事も戦争の事も知らない」

 

「ここまで食い違いがあっては、信じるしかあるまい」

 

「……うん」

 

 

 シロコ達が抱いていた疑問は確信へと変わってしまった。シロコは別の世界、それこそ次元をも超えてしまった世界からやってきた存在という事で間違いがない。その世界には国家というシステムすらないのでは、自分の世界とは根本的に違うと思わざるを得ない。学園の名の下に自治区が成立している歴史はシロッコからしてみれば理解に苦しむだろう。よく話を聞いてみれば、宇宙世紀の地球連邦政府との共通点も見られるが、それでも技術形態やアビドスにて起こっている異常気象など消化しきれない事象も多い。

 

 シロコとしても宇宙戦艦やモビルスーツなどの超技術は初めて見るものであるし、キヴォトスの人間が宇宙空間に進出したという情報は確認されていない。──もっとも、アビドスが荒廃しすぎて情報が回ってきていないだけかもしれないが。何よりもキヴォトスでは銃火器でちょくちょく戦闘になったりするのだが、20m級の人型兵器を使って戦争をやっているという事実にシロコは抑えきれない衝撃を受けた。

 

 

「その、シロッコにこんな事聞くのは違うって分かってるけど……」

 

「元の世界に帰る方法、だろう?」

 

「うん。何か、分かったりする?」

 

「ふむ……。確実に言える事が一つだけある」

 

「……それは?」

 

 

 シロッコは先ほど淹れたコーヒーを一口含んでから自らの見解を述べ始める。

 

 

「この世界において、砂狼シロコという人間は存在してはいけないものだと考えている。別の世界の人間が存在するという事が世界にとってどのような影響を与えるのか、私にも分からない。全くの未知数だ」

 

「……」

 

「もしかしたら、突然歴史の修正力によって元の世界に帰っている可能性も考えられる。存在するべきではない人物が、元の世界へと送り返される。人々の記憶が都合の良い形に改竄されて、この邂逅が無かった事のように扱われる」

 

「……寝てる間の夢のように?」

 

「うむ。現実的な見方をすればそのような結論しか導き出せん。こちらにやってきた方法や原因が分からない以上、そう考えるのが自然だ」

 

「うーん……」

 

 

 宇宙世紀の時間が経過する事で、砂狼シロコという存在はある日突然元の世界へと帰還を果たせるのではないか。砂狼シロコが宇宙世紀に存在する、という歴史は本来の歴史からしてみれば異物そのものであり、ジュピトリスの艦長を務めているシロッコとの出会いはそこそこ大きな特異点に成り得る。実際にあるかどうかは不明だが、ここでの出会いがきっかけでシロコの身体的特徴を持った兵士が完成したり、まだまだ生きて居られるはずのシロッコが死んでしまう可能性もある。シロコがここにやってきた事は世界にとってとんでもない不都合な事象だから、数日のうちにシロコは元の世界へと帰る事になるだろう、とシロッコは考えていた。

 

 もう一つ考えられるとすれば、とシロッコは続ける。

 

 

「こちらにやってきた際に、何か時空の歪みのようなものを通ってきたという説だ」

 

「歪み?」

 

「概念としては分かるだろう、ワームホールだとかテレポートのようなものだ」

 

「なるほど。私は知らずのうちにそれを通ってここまでやって来たかも、そういう事?」

 

「ああ。そうなれば、こちらとあちらを繋ぐゲートは、このジュピトリスの内部にあると断定できるだろう」

 

 

 もう一つのアプローチをシロッコは提示した。時空の歪み、言うなればこちら(宇宙世紀)あちら(キヴォトス)を繋ぐ扉の役割を果たしている“何か”がある可能性。シロコがこちらの世界に足を踏み入れたのは、知らずのうちにその扉を通過してしまっていたからではないか、というものだ。

 

 

「どちらにせよ、だ。今君を向こうに返してやれる準備がこちらには無い。しばらくはジュピトリスで生活してもらうしかない」

 

「うん、分かった」

 

「くれぐれも早まった行動だけは、しないようにお願いしよう。こちらでも掃除も兼ねて全艦点検をさせる、何か不審なモノが見つかれば連絡を入れさせよう」

 

「ん、ありがとう、シロッコ」

 

「フ……、礼には及ばんよ。先ほども言ったが、艦内の設備は自由に使ってもらって構わない」

 

 

 そう言ってシロッコは一枚のカードをシロコに手渡した。金属で出来ている黒色のカードだが、表面には何も印字がされていない。強いて言うのであれば通常のカードと同じように、ICチップが内蔵されている事が分かるだろう。

 

 

「これは?」

 

「艦内の設備を使うのに必要になるものだが、これは少々特別製だ。これ一つあれば艦内であらゆる買い物も出来るようになっている。一種の艦長特権*5というヤツだよ」

 

「えっと……。でもシロッコのカードは」

 

「気にしなくても良い。基本的に自室で過ごすか、ブリッジに行くかしかしていないのだ。是非使ってくれて構わない。どうせその支払いも政府が持ってくれている」

 

「……そういう事なら、ありがたく使わせてもらう」

 

「それでいい」

 

 

 コーヒーを飲み干したシロッコはそう言い残して部屋を後にする。部屋にはシロコ一人だけが残り、その顔も少しばかり暗い様に見える。

 今すぐにはアビドスに帰る事は出来ない、帰る方法も分からない。そんな中に居て不安にならないはずがないのだ、シロコだってキヴォトスの人間である以前に年端のいかない一人の少女なのだ。自分一人見知らぬ環境に取り残されては、精神だってすり減っていく。

 シロッコも妙に信頼しきれないところがある、それは彼自身の持っている性格に因る所もある。しかし、自分の知らない環境で周囲に気を配らないというのも不用心すぎる話だ。

 

 シロコは目の前に置かれた紅茶を、ようやく口に運んだ。ドリンクサーバーから抽出された普通の紅茶であったが、常に気を張っていたシロコの心を和らげるには十分だったらしい。皆は心配しているだろうなと心の中では考えながらも、シロコは部屋に備え付けられていたベッドへ横たわる。

 

 

 どうせすぐに帰れないし、後でジュピトリス内部を探検でもしよう。そう考え、今ひと時の眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
ここでは、一年戦争に敗北して散り散りになったジオン残党だったり、近年活動している反地球連邦組織エゥーゴやらの事を指している

*2
ガンダムにおいて登場する、人間の精神に直接干渉する感覚やら武装やらを纏めた感じのヤツ。Zガンダム劇中を見た人間なら分かると思うが、分からない人はZガンダムの46話『シロッコ立つ』をご視聴願いたい。ニュータイプはこの力を感じる事が出来、同じニュータイプが接近している事を感じたり、モビルスーツの動きを止めたりも出来る。すごいサイコパワー

*3
なお、この設定は公式のモノではない。あくまで作者の考えた設定であるが、宇宙空間を往復で四年も旅しなくてはならないのに、それくらいの娯楽施設も完備していないとは考えづらいだろう。全長約ニ㎞の巨大輸送艦ともなれば、食堂なんぞ何個あっても足りない気はする。

*4
District of Utnapishtim、地下鉄駅やら大きな空港、子ウサギ公園などが集中した連邦生徒会の直轄領。実質的なキヴォトスの首都とも言える。

*5
作者の考えた設定です。木星船団の責任者ならそれくらい許せよ、って感じ




1週間に1~2本の投稿を目指していきます。

厳格にこの日に投稿すると言っても、自分はそういう事が出来ない人間だと自覚しておりますので。
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