シロコとシロッコ   作:メイショウミテイ

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次回、エピローグです。


今回は短めです。





アビドス編 23

 ヘイロー。

 

 キヴォトスの生徒であれば必ず所持している──“所持“という表現が正しいかは不明だが──物で、頭上に光り輝いている『天使の輪(エンジェル・ハイロゥ)』。

 

 生徒によってその形状は多種多様であり、複雑怪奇に入り組んだ物からシンプルな形状の物まで、さらに所属の学園に応じて機械的だったり神秘的な意匠があったりで、生徒一人一人同じヘイローは存在しないと言える*1

 

 外から来た人間である先生には勿論ヘイローは存在しないが、それ以外にも生徒以外のキヴォトスの住人もヘイローを持っていない事が極めて多い*2

 その他にも、ヘイローには触れなかったり、影が投影されなかったり、ヘイローに対するあらゆる干渉は無効化される、といった具合に色々特徴があるのだが、そこは一旦置いておいて良い。

 

 

 重要な事は一点のみ、意識の有無によってヘイローが明滅するという事。

 

 

 

 

 先生とアビドスがそこに到着した時、小鳥遊ホシノのヘイローは最早消え掛かっていた。

 

 

「ホシノ先輩!」

 

「委員長!? ちょっと、起きてよ!」

 

 

 いつもとはまるで違った、とても弱々しい雰囲気の彼女が赤いコードに繋がれ雁字搦めにされていた。身動きが取れないように後ろ手に縛られている彼女は、意識も朦朧としており酷く消耗しているらしかった。

 

 頭の遥か上では既に始まっている戦闘の余波なのか、大きな振動がこのような地下にまで届いていた。崩れるとは思っていないが、しかし地下という都合上一定数危険とは隣り合わせになっている。早いところホシノは返してもらって脱出させなければならない。

 

 先生には少しの焦りが見られていた。黒服の発言もあって警戒していたのはそうだが、ここまで早く動き出していたのは想定外だったからだ。この様子では急いでデータを回収でもしようとしていたのか、それとも現場のカイザー連中が勝手に暴走してしまった結果なのか。何方にせよ、ホシノは今すぐに動けるような状態ではない。

 

 

 “今はホシノが生きていた事を喜ぼう。さ、まずは脱出しよう”

 

「そ、そうよね……。アヤネちゃん、帰り道のナビゲートもよろしく!」

 

『うん、任せて! 最短距離で行きます!』

 

「先生! 先輩は私が背負いますから!」

 

 “う、うん。よろしく頼むね……”

 

 

 勢いよく脱出の音頭を取ったはいいが、ちょっとの距離ホシノを背負って走っただけで息が切れてしまった。その姿を見かねたノノミがホシノを受け取って再び走り出す。流石に外の人間と、キヴォトスの人間では強度が違う。ノノミの走る速度はホシノを背負った後でも変わらず、先生は失った体力が大きかったようで徐々に遅くなって来ている。

 ここもいつまで持つかは分からない。落ち着く時間は今はない、分かっているから先生は息を切らして走っている。

 

 

 趨勢はすでに決まっていようとも、完全勝利でなければならない。誰一人欠ける事のない脱出を果たさなければ。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「ええい……!」

 

 

 互いから放たれたビームの光は、向こうを押し退けようと鍔迫り合いのようにぶつかり合っている。強力なエネルギーの拮抗は周囲にまで衝撃波を巻き起こし、最早この戦場に介入出来るのはヒナであっても難しくなっていた。

 

 

「ぐ、ぐおおおッ……! パワー負けしている!?」

 

「力押しなら、負けはしないっ……! けど、それじゃ!」

 

 

 そもそものスペックであれば、シロコは最早負ける事は考えられない。しかし、それでは力押しのままにあの機体を消滅させてしまいかねない。徐々に押し込みつつある現状を見れば、シロコは別の意味で焦りを感じざるを得ない。

 

 シロッコからの諫言を受けたシロコは、今の自分の行いに疑問を抱いていた。戸惑いとも言える。

 

 

 殺せない、殺してはならない。でも、任せる。

 

 意思は分かっている、感じている。でも意図が、分からない。

 

 

「が、ハァっ!? ま、負ける……! し、死ぬのか!?」

 

「──ッ!? そういう、事……」

 

 

 撃ち出している全てのビームの威力を弱め、その上でシールドの照射ビームを拡散するように変更したシロコ。それでも圧倒している状況には変わりはない、いずれは押し潰してしまう事だろう。

 

 力を持つという事は、どういうことなのか。シロコは今まで不透明なまま、グラシュティンのように巨大で、そして強大な力を持った武器を使っていた。

 

 それがどういう意味を持っていたのか。

 

 

「怖い、よね。それは、そうだね……」

 

 

 シロコが放った4本の収束ビームが、ゴリアテのそれをとうとう押し切ってしまう。

 

 背後のビームカノンは頭部をそのまま消滅させ、右手のHMLは相対している右の肩口を焼き切ってしまった。直前で拡散させたシールドはギリギリでゴリアテの正面装甲を焼き切らずに済んでいる。が、ビームの熱の殆どを受け切ったゴリアテは溶解していない箇所を探す方が難しい程で、その熱もあってシステム系がオーバーヒートしている。最早戦闘など、出来る物ではない。

 

 それで、十分なのだ。敵の戦闘する意思を、その源を断つ。それで収まってくれるという事を。

 

 

 目の前で崩れたゴリアテの残骸のコックピットから、所々煤で汚れている理事が飛び出して来た。身体中に感じる熱を、外気に晒して逃してやろうと身体をバタつかせている。しかし、命は拾っているとは、彼の悪運もまだまだ保っているという事か。

 

 

「それで、それで言い訳がつくでしょ!」

 

「このまま……おめおめと逃げ帰れるものか!」

 

「まだ、抵抗する気なの!?」

 

 

 意味が分からない物を見付けてしまったという表情のシロコ、懐から拳銃を取り出して尚も抵抗する理事を見つめて。

 

 前に突き出したままのシールドが何発かの弾を弾いているが、それ以前に理事の射撃の腕はそこまで高くない上に、精神的な動揺が酷いのか狙いはてんでばらばら。

 

 そうやって浪費を続けていれば、その内拳銃の弾が無くなってしまう、無慈悲な程に当然だ。弾は撃てば無くなる事は、お金を使ったら無くなってしまう事と同じように、当たり前の話なのに。

 

 

「クソ! クソ! 弾が出ん!」

 

「……」

 

「おのれ! そのような目で、私を見るな! 憐れむな!」

 

 

 彼を動かしている源流は何処にあるのか。そればかりは彼女にも分からない。

 

 

「もう、戦いは終わったよ」

 

「……そうみたいね」

 

 

 隣にはいつの間にか警戒態勢を解いていたヒナが、デストロイヤーを支え代わりに立っていた。彼女に疲弊した様子はないが、休日を返上してここまで駆け付けてくれたのから心は疲れてしまっている事だろう。彼女にはこの前の貸しとは別に、何かお礼を考えなければなぁとシロコは呑気に考えていた。

 未だに目の前でこちらに殺気を向けている彼は、最早敵ではないが気を抜きすぎではないか。ヒナは少しばかり呑気が過ぎる彼女をやれやれといった様子で見詰めるが、確かに弾切れの拳銃だけを握り締めた男程度は問題にならんか。

 

 

「もう、消えていい。私は、そう言ったよ」

 

「貴様……!」

 

 

 今にも火が飛び出そうな程に怒りを滲ませた彼の視線を、涼し気な表情で受け流すシロコ。自分が言った言葉では無いが、それを引き継いで帰るように促すが、理事は周りの状況はおろか自分の事すら見えていないのか、聞く耳をまるで持たない。

 

 

「もう戦えないでしょう? 貴方のおもちゃは、あんな有様だし。これだけ大事になれば、きっとシャーレだけじゃなくて連邦生徒会の本流も出て来る事になる。そうなれば──」

 

「うるさい! そんな事は知っている……!」

 

「もう、貴方だけで収められる事態では、無くなっている事。いくら貴方のような人間であっても、それは分かっているハズ」

 

 

 さらにヒナによって引き継がれた冷静かつ客観的な発言に、理事は反論する言葉を持たない。意気消沈した様子でその場を走って後にする理事の姿を、何の感情も持たずにシロコは見詰めていた。無表情のように見えるが心なしか安心した、というような感情を窺える、そんな表情だった。

 

 

 

 さて。

 

 とはいえ、これで敵の首魁は逃亡し、これで指揮系統は崩壊したと言えよう。この戦いは、アビドスの勝利という事になるだろう、が。

 

 

「まだ、終わってない」

 

「ホシノ先輩の事?」

 

「そう。此処まで来た元々の目的を忘れた訳ではないでしょ?」

 

「勿論」

 

 

 そういうシロコの様子に焦りは見られない。同じ委員会の仲間を信頼しているのは分かっているが、それにしても余裕を保ち過ぎているのではないかと感じるヒナ。その感覚は“常人の“という前置きがあれば正しい物だが、事今回に至っては例外である。気を強く持っているというのであれば、それは彼女の限界も近いという事の証左にも他ならない。

 

 

「きっと、無事よ。貴方なら分かるんじゃないの?」

 

「ふふ、分かるんだ、ヒナ」

 

「……そんな気がしただけよ」

 

 

 気休めでも何か言っておいた方がいいと思った彼女だったが、まさか本当に分かっているとは思わなかったヒナは、若干の驚きをその表情に浮かばせた。あまり感情が顔に出ない子なんだと思っていたシロコだが、アンタだって同じようなものだ。

 

 ホシノの感覚が近づいて来るのを肌で、頭で感じているからシロコはいつもと変わらない様子で待っているのだろうか。

 

 何にせよ、小鳥遊ホシノの身柄が無事だと確信が持てていて、それでいて残敵は無しと来た。それならば、最早この場に私が残っている意味はない、空崎ヒナの時間外労働は──いや、“友情出演”はここまでになるだろう。

 

 

「なら、私は帰るわ。また例の件で聞きたい事があったら、その時は連絡するわ」

 

「うん。今日は、ありがとう。本当に助かった」

 

「いえ、それはこちらも同じ、お互い様よ」

 

「そう言ってくれるなら、私も気は楽だね。その件は、こっちでも少し調べてみるから」

 

「それは有難いけど、くれぐれもバレないようにね。他の誰かに見つかる危険性があるなら動かない方がいい」

 

「出来ることしか、やらないつもり」

 

「そう。なら、いいわ」

 

 

 そういう事だからとヒナは言い残し、身の丈以上のデストロイヤーを担いでアビドス自治区を去っていく。

 それを見送ったシロコの方も、最早戦闘態勢でいる必要はない。戦闘中は何も気にならなかったが、戦闘を終えた今ならば身に染みて分かる。この形態──これからは便宜上『グリモア形態*3』と呼称する──でいるだけで、物凄く疲れてしまうという事だ。肉体的な意味ではなく、精神的な面、端的に言えば頭を死ぬ程使ってしまうという話だ。

 グリモア形態ではシロッコとリンクしている時以上に全ての能力が跳ね上がった状態になるが、代償として精神的リソース*4の消費が早くなり戦闘継続に耐えうる時間が減ってしまうと言い換えられる。

 

 

「シロッコ」

 

『うむ』

 

「グラシュティンを外すには?」

 

『背後のグラシュティンに対して、外れろと強く意識してみろ』

 

 

 言われた通りに念じてみれば、背中についていたブースターユニットは背中から外れていき、右手にあったメガランチャーも勝手に空高く浮遊を始め、3つのパーツが元のメッサーラ・グラシュティンへと戻っていく。

 そのまま彼方へと飛び去っていくグラシュティン。シロコは分かっていなかったが、グラシュティンのエネルギーもそれなりにカツカツであった為、これ以上の戦闘も無いだろうというシロッコの判断で帰投させられていたのだった。

 

 

「……ふぅ」

 

『今日はいつもよりも早めに休息を取るといい。自分で思っている以上に、身体に限らず精神の方も相当に消耗しているはずだ』

 

「うん。何も考えたくないくらいには、疲れてるかも」

 

『想像に難くない事だ。ニュータイプでなくとも、命を取り合っている以上はどうしても肉体が、心が摩耗していくものだ。それも、私の世界のように命のやり取りが一般化していない世界であればこそ、その行為に繋がりかねない戦闘が恐ろしく思える。キミには簡単に終わらせる事が出来るだけの力がある』

 

『その前提がある以上、キミは知らずの内に精神的な重荷を背負っている状態と考えられる。私が開発したモノは、全てのリミッター*5を解除した状態で運用すれば、恐らくはこの世界の人間であっても』

 

「……今まではそんな事意識していなかったけど、これはとんでもない武器なんだよね」

 

 

 そう言って、空の向こうへ飛び去っていくメッサーラ・グラシュティンを見つめるシロコ。アレに搭載されている火器は全て、この時代の技術体形の外に位置している事もある。逆にあんな物を企業が量産でもしよう物なら、それこそこの時代が壊れてしまうだろう。一般的な銃弾よりも火力は高く、着弾も一瞬。シロッコの開発した武器の設計図が流出した場合、まず間違いなく技術的なブレイクスルーがそこに発生する。

 

 そうなった後は、最悪を更新し続けるだけ。

 

 シロコは、本来そこまで考慮した上でこれを運用しなければならない、のだが。

 

 

『ああ。とはいえ、あの程度の威力であれば“そうなる可能性”は低いだろう。そこは安心してくれていい、が。確かにアレらの使い方は、今まで以上に考えておいた方が良い』

 

「うん。でも、シロッコも色々気を遣ってくれているんだね」

 

『当然だ。キミにそんな事をさせるつもりはないよ』

 

 

 

 シロッコは彼女には過保護すぎるような気がするが、それだけ大事にしている証拠だろう。それに安全を確保しながらではあるが、彼女に様々な経験を積ませるようにこれまで動いていた。それは説明の付かない邂逅から、変わらない彼自身の性質なのだろうか。

 

 

 さて。

 

 

『シロコ、分かるか?』

 

「うん、戻ってきたみたいだね」

 

『あの愚か者に、言いたい事の一つや二つ、あるだろう』

 

「うーん……。結局、頼ってはくれなかったし、ちょっとモヤモヤする気持ちはあるけど」

 

『……優しいな、シロコ。嫌味の一つでも言ってやれば良い、それ位の意趣返しは許されると思うが。──いや、それは私の個人的な感傷に過ぎんか、忘れてくれ』

 

 

 近付いてくる親しく、そして少しだけ懐かしい気配。どうやら何事もなく無事に帰ってくる事が出来たらしい。*6

 

 まぁ何はともあれ。

 

 

「とりあえず、此処まで来た甲斐はあったね」

 

『大した被害も無く目的を達成出来たのなら、間違いなく我々の完全勝利と言えるだろう』

 

「うん。私達アビドスの、勝ちだね」

 

 

 遠くからこちらへ走り寄って来た委員会のみんなと無事な様子のホシノ、そして先生の姿を己の両の眼で認めたシロコは、今まで以上に安心したように微笑んだ。

 

 まだまだ他にも解決しなければならない問題は山積みではあるが、それでもこの勝利の証は、何人たりとも消す事は出来ない。

 

 何故なら、誰一人欠ける事無く生きているのだから。

 

 

 

 

*1
モブ生徒はみんな同じだけど、本来はそんな生徒たちにも個別にヘイローがある事でしょう

*2
獣人、ロボットなどはヘイローを持たない。例外はある

*3
メッサーラ・グラシュティンとシロコとの融合形態

*4
今話題のGジェネで例えると、『グリモア形態になった場合、EN以外の全てのステータスに対し1.5倍の補正を加え一部武装を変更・強化する。毎ターン終了時にグリモア形態を維持していた場合、自身のMP(テンションゲージ)を最大値から参照して4分の1消費する。MPが規定数減少出来なかった場合、その減少を行った上で通常形態へと移行する』といった具合か

*5
“0”ver.ON(オーヴェロン)もその中の一つのリミッターという扱い。“0”ver.ONは各種武装の性能や火力を制限している他、グラシュティンのブースト性能や火力もそれぞれ抑えられている。それとは別に、設計段階では無かったリミッターとしてビームの性能を抑えるだけの物も、シロッコがこの世界へやって来てから考案・搭載されている。流石に生身の人間を殺すつもりはシロッコも無かったという話。ここら辺の設定は後々纏めて一本の話にするつもりです

*6
この戦闘のお陰で建物にはそれなりの被害が出ている模様。ホシノが地下ではなく建物内の何処かで拘束されていた場合、それはそれで一悶着あったかもしれない




ここまでちゃんと書き切れた作品は、なんだかんだで初めてです。

自分語りしてしまって申し訳ないですが、自分は改名前に何個か作品を投稿していた事があったのですが、そのどれもが完結する事なく非公開になっていきました。

初めてなんです、完結まで物語を紡ぐ事が出来たのは。実際には、ここからもパヴァーヌ編→エデン編→最終編と続いてはいきますが、自分の中ではここまでで一旦一区切りとなります。元々はそのつもりだったのでね。


パヴァーヌ編の進捗は0です、これから書きます。
エピローグですが、まぁ上手くいけば今週中です。

あともう少しですが、それまでお付き合いいただければ幸いです。

どっちが先に見たいか

  • パヴァーヌ
  • エデン
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