シロコとシロッコ   作:メイショウミテイ

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エピローグです。

エピローグと言いつつ、最早次章のプロローグみたいな感じですけどね。


ありがとうございました。


アビドス編 エピローグ

 その後の顛末は、特に語る程の事がなかった。

 

 無事に帰ってきたホシノ先輩を再び迎え入れて、私達アビドス対策委員会はカイザーPMCの基地を後にしました。帰る前に基地を見渡してみたのですが、事が起こる前と比較すれば見るも無惨な光景でした。基地の管制を行うのであろう一際大きな建物は、辛うじて倒壊せずに済んでいますが、それでもシロコ先輩やあのゲヘナの風気委員長──空崎ヒナさん、それと理事が操っていたという巨大な機械との激しい戦闘の余波によって荒れ果てた外観、地上階地下施設も揃って戦闘の影響で原型を留めていませんでした。地下の惨状は特に酷いもので、一階の床が抜けて地下へ降り注ぐような事態もあり、最早人間生活や経済活動が行えるような状況ではありませんでした。

 どれだけ激しい戦闘だったのでしょうか……。後から話を聞いただけではちょっと、状況が分からないんですけど……。シロコ先輩があのグラシュティンと合体? して戦っていたというし、何だかよく分からないですが。

 

 基地の外部に目を向ければ、PMCの兵隊どもが集う兵舎があった……場所は、残骸すら残らず跡形も残っていませんでした。焼け焦げた建材やコンクリートが僅かに残っているだけで、どのような建物がそこに在ったのか推測する事すら出来ない程でした。他にも色々な建物が建っていた筈だが、基地内にはびっくりするほど人工物が残りませんでした。ここが本当に基地だったのかと疑いたくなりますが……、ホシノ先輩がここにいた以上は現実だったのだろう。

 

 

 アビドスの借金は約九億円から何も変わりませんが、理事が付け加えた法外な利子や三億円の預託金の件に関しての社内監査が入った事で、そのついででアビドスの借金にもその調査が入ったらしく、月々に払う利子の額が大分現実的な額に収まる事になりました。それでも、元金が現実的ではないという話は今更なんですけど……。

 しかし、それ以外にアビドスの現状は何一つ変わりませんでした。依然としてアビドス自治区の大部分の土地はカイザーに所有権が移っていて、正式な取引の書状も向こうが保有している事も。これに関しては現時点で解決する事は出来ません、既に確定してしまった過去でしたのでそこは気にしていません。

 

 先生やホシノが関わりを持っていた『黒服』という存在に関して……彼に関しては、何一つ確定した事が分かりませんでした。先生もホシノ先輩も、彼に関しては余り喋ろうとはしませんでしたし。私が彼の事を調べると言い出したら二人揃って強く止めてきましたし、そのまま先生はホシノ先輩にも同じことを言って釘を刺していた。一体彼は何者なのか、それは知らなくて良いという事らしいです。絶対に関わらないで欲しいとまで言われたら逆に気になってしまいますが……。

 

 

 それでも、私達の日常は確かに帰って来ました。ホシノ先輩は無事に帰って来ましたし、シロコ先輩もノノミ先輩もセリカちゃんも、勿論私も居ます。先生も無事にシャーレの仕事を熟しているらしく、それでも偶に時間を作ってアビドスにまで足を運んでくれている。実際に今日のような日にも。

 

 

「それでは……、何だか久しぶりに感じますね……。コホン! それでは! アビドス対策委員会の定例会議を始めます!」

 

 “よっ! ”

 

「……ん」

 

「は〜い⭐︎」

 

「うへ、最近色々あったんだし、今日くらいはお休みにしてみんなでお昼寝でもしな〜い?」

 

「何言ってるの委員長! 折角先生のお陰で正式な委員会になったんだから、これをきっかけに借金を返す方法を考えないと!」

 

 

 

 私達の日常は、青春(ブルーアーカイブ)は、これからも続いていくのだろう。私は、奥空アヤネは。

 

 

 そんな事を、何も確信がないけれど、そんな風に思ったのでした。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 ホシノが“誘拐・監禁”された事件から、少し経った頃。具体的に言えば一ヶ月といった所だろうか。

 

 

 砂狼シロコは普段から慣れ親しんだ土地であるアビドスではなく、離れた場所に向かう為に少し遠出をしていた。シロッコが珍しく希望を出して来たので、シロコはサイクリングがてら遠出をする予定を立てていた。事件のバタバタからは一週間もすれば脱却出来ていたし、最近のアビドスはやけに落ち着いているし。

 そんな頃にシロッコから打診があったのが、今回の遠出に繋がっている。アビドスのみんなには少し──いや結構心配されていたが、そんな渦中のシロコはそんな皆を知ってか知らずか軽い気持ちでいた。よくよく考えれば、今更彼女がどうにかなってしまうかなんて余り考えられないし。

 

 

 その目的地へと向かう途上で辿り着いた此処は、ゲヘナ自治区。

 

 その目的は、まぁ一つだけで。

 

 

「ん、ヒナ……。何だか随分と疲れてる?」

 

「……シロコ。ええ、そうね。ちょっと最近忙しくって、ようやく一区切り付けて出て来られたの」

 

 

 ゲヘナ自治区の、適当に目に付いた喫茶店のテラス席に、砂狼シロコは居た。

 

 そこをアポイントメントの場所に指定されていたという事で、早めに到着した彼女はそこで待機していたのだ。そこに近づいて来たのは長い銀髪をハーフアップにした少女、見るからに疲労困憊といった様子の空崎ヒナがやって来て空いている対面の席へその小さな身体を収めた。

 

 

「お疲れ様。そんなに忙しいなら、別の日に回してもよかったけど」

 

「いえ。会って話す為だけにわざわざアビドスから出て来てもらうのも気が引けるし、そういう意味では今日は都合が良かったの」

 

「そっか。それで、どっちから先に話す?」

 

 

 軽い挨拶を済ませた二人。今日のガールズトークは、シロコがアビドスを少し離れて遠出をするという話をモモトークで聞いたのが始まりだった。折角だからゲヘナにも寄って顔を見せようかなとシロコが提案し、それを良い機会だと考えたヒナも了承した。シロコもこの前の騒動の詳しい後日談を報告しておくべきかなと考えており、突発的に決まった割には両者ともに話す内容を用意している様だった。

 

 

「私の話はちょっとだけ長くなるから、先にお願い」

 

「ん、分かった」

 

 

 そうして促されたシロコは件の顛末を話し始めた。ホシノのその後の様子やカイザーPMC理事のその後、アビドスの状況や先生の話。色々な事を話したがシロッコの影響だろうか、以前に比べて話が上手くなっているらしい。聞き手に回っているヒナは彼女と面と向かって話す事がこれで三度目なので、最初の物静かそうな印象の割には案外喋ってくれるんだなと意外に思っている事だろう。

 

 

「そう……。その話が本当なら、今はアビドスは比較的平和な状況って事で間違いはない?」

 

「そうだね。カイザーもこの一ヶ月は大人しくしてるみたい」

 

「それはそうよ。この一件でカイザーは社会的に大きな傷を負ったもの。流石にこのタイミングで表立って動ける程、カイザーは立ち直っていないと思うわ」

 

『彼女の見立ては正しいだろう。現在のカイザーの内部事情はガタガタさ、曲がりなりにも、シャーレの先生主導の連邦生徒会と立ち入り捜査も入っている。その結果として、借金返済の利子が多少なりとも下がっているのだ』

 

 

 ヒナの言う事は一理ある。そしてそれに同調するようにシロッコも続く。そういった政治的な駆け引きとは無縁の生活だったシロコは、そう言うものなのかと何となく思った。

 

 しかし、それをわざわざ聞いてくると言う事は。今回のヒナの議題は彼女が追いかけている“アレ”の話なのだろうな、シロッコは確信する。

 

 

「それで、ヒナの話は……。まぁ、“アレ”の話?」

 

「えぇ、そうね。と言っても、特に進展はないんだけど。それでも、カイザーの監視が緩んでいる今なら、誰にも見つからないようにアビドスの奥地に捜索に入れる」

 

「……手伝えって?」

 

「話が早いわね。今回はそれの打診もあるけど……貴女達アビドスが知りたがっていた事。『カイザーがあの砂漠で何を探していたのか、巨大な掘削機を使ってまで何をやっていたのか』と、それを知るきっかけにもなるかも知れない」

 

「私の都合に付き合わせる以上、こっちを優先して貰う事にはなる。それに対しての報酬も、ゲヘナの生徒会である『万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)』の名義で十分な量を支払わせるつもりだし、正式な支援の名目での報酬という話にもする。当然、他のアビドスの仲間を連れていく事は出来ない。私と、貴女だけで向かう調査になる」

 

「そしてこれは、他のアビドスの仲間には、内密で動く事になる。貴女にとっては、少し辛い状況になるかも知れない。それでも、アビドスの手詰まりの状況をなんとか出来る、そんな情報が見つかるかも知れない」

 

「……ん」

 

 

 結構面白い展開だ、シロッコは不謹慎ながらそう思った。『雷帝の遺産』、キヴォトスを滅ぼしかねないという代物。是非ともその性能や構造を知りたいという、技術者としての欲が出て来てしまう。肉体を失っても、こういった人間由来の欲が出て来てしまうのは、未だに俗世に対する未練が残っているという証拠なのだろうか。

 

 しかし、それはシロッコの話であり、シロコの方は一気に情報を公開された事で少々パンク気味*1の様子。

 

 

「(シ、シロッコ……お願い……)」

 

『確かにこういった話は私の領分だろう。しかし、そう難しく考える必要はない。単純にキミの意思一つだよ。──自分一人でもアビドスの為を思って行動するのか、もしくは牛歩の進みでも全員揃って行動をするのか。それだけさ』

 

「(……みんな揃ってた方が良いのは、そうだけど……。それでも、このチャンスは、逃せないと思う)」

 

『私も同じ考えだ。キミの状況で物事を考えるなら、この好機を逃す手は無いだろう。何分その『遺産』とやらの捜索を協力するだけで、確実に大きな額の報酬が確約される。そして、+αでゲヘナ学園からの別途報酬も期待出来る。そこで役立ってくるのが、彼女が“内密”と念を押している事、それとゲヘナ学園からの“正式な依頼”といった発言。それが最低限の報酬だ』

 

『そして、それに加えて、だ。アビドスの借金をどうにかする手段も見つかるかも知れない。もしかしたら、カイザーが探していた“お宝”でも見つかるやも、とね』

 

『参加するだけでも確実に利益が出る。運次第だが、アビドスを助ける直接的な楔になる。私は、この話を受けるべきと判断する。が、最終的な判断はキミに任せる。好きに選択するといい』

 

「(いや、受けるよ。何も持ってない私が身体一つで協力して、それだけの見返りを得られるなら)」

 

 

 シロッコの説得にも似た言い回しは、シロコの心を大きく動かしたらしい。これは受けるしかないと、彼女は直感的に思うだろう。

 

 

「いいよ、分かった。その話受けるよ」

 

「……本当に良いの?」

 

「アビドスの皆に黙って行動するのは、ちょっと気が引けるけど。それでも、私はアビドスの為に動きたい」

 

「……なるほど、分かった。正式な依頼の形にしなきゃいけないしこっちでも万魔殿に働き掛けたりしなきゃいけないから、今すぐにって訳ではない」

 

「ん、了解」

 

「それで、もう一個話がある。と言っても、そっちの方は正直おまけみたいなものだけど」

 

「ふーん……?」

 

 

 そういって空気を仕切り直したヒナ、これはこれで重要な話らしい。

 

 

「ゲヘナとトリニティ間で“条約”締結の動きが進んでいるのは知ってる?」

 

「和平がどうのって?」

 

「そう、それ。そのお陰で今現在、両校間でピリピリした空気が蔓延してる。アビドスは条約には関係ないのは分かってるけど、それでも違う学園の生徒を見掛けたら、きっとうちの生徒は突っ掛からずにはいられないと思う。良くも悪くも、ゲヘナは“自由”らしいから」

 

「それはそっちの生徒次第だと思うんだけど……」

 

「返す言葉もないわ。それでも、今は状況が良くない。ゲヘナとトリニティは今のところ、“条約締結”という一つの細い糸だけで繋がっているようなもの。それはたとえ些細な出来事でも、それがきっかけで切れてしまう程に不安定で脆弱。私はなんとしてもこの条約を成功させたい、その為に出来る事はなんでもやるつもり」

 

「……分かった。と言っても、ゲヘナに寄ったのはヒナに会う為だけだから。これが終わったら、私は本来の目的の方に戻るつもり」

 

「……ありがとう。条約が無事に締結されたら、私の仕事も落ち着いてくると思う。そうしたら、改めてゲヘナの事をゆっくり案内させてほしい」

 

 

 ヒナは引き締めていた顔を緩め、薄く笑みを浮かべる。シロコにだって問題を起こすつもりは毛頭ないが、それでもゲヘナの治安がそうはさせないのだと言う。最早当たり屋のようにイチャモンを付けてきては、金銭や物的補償を要求する質の悪過ぎる子悪党共がわんさか居るのがゲヘナ自治区であり、ヒナ達風紀委員達がどれだけ取り締まりを強化しても意味がない程の荒れっぷりなのだ。しかもそれに拍車を掛ける事実として、空崎ヒナ一人で風紀委員会の総戦力の半分を担っていると巷で流布される程に、組織の戦力が貧弱なのも良くない。ヒナ一人とそれ以外の風紀委員を天秤に掛けて釣り合ってしまうのは流石に問題なので、その状況をどうにかしたいと常日頃から考えているのが彼女だが、その嘆願は尽くが万魔殿に一蹴されている始末。あろう事か予算もちょくちょく削られている事もあり、大規模な取り締まりにも部隊を動かせない事態が多く発生しているらしい。

 

 自由がモットーのゲヘナと言えど、自由過ぎても良い事はない。各人が各人で行きたい方にばかり進んでいれば、それは無法であり、アナーキスト*2と言い換えても大した差はないだろう。ゲヘナは一応学園と銘打っているものの個があまりにも強過ぎる為、学校としての体裁をギリギリで保っている学園。そのギリギリを守っているのが風紀委員なのだが、ゲヘナの生徒は彼女達を酷く煙たがっているのはどういう事なのだろうか。学校なくなったらお前らだって困るだろうが。

 

 

 さて。

 

 お互いが話そうと思って持ち寄ってきた議題はこれで全て。ヒナも久しぶりに風紀委員会本部から脱出を果たしたというので、早めにここでの話し合いを切り上げる事で彼女に休む時間を与えようというシロコの気遣いもある。まだお天道様が真上に昇ったくらいの時間だ、残りの時間はヒナの好きに使って欲しい。忙しい身の上なら尚の事、自分の時間は大事にすべきだ。

 

 

「今日はありがとうヒナ。ゲヘナ案内、楽しみにしてる」

 

「こちらこそ。わざわざ時間を作ってくれてありがとう、シロコ。楽しんで貰えるように、しっかりコースを考えておくわ」

 

 

 互いに次の機会を楽しみにしつつ、ささやかな報告会はお開きとなる。

 

 

 そういえば、と。ヒナは聞こうと思っていたが、真面目な話が始まってしまった為に聞けなかった事を最後に聞いてみようと。

 

 

「……これは、ただの興味だから答えなくても良いけど、これから貴女は何処に行くの?」

 

 

 言ってなかったっけと、シロコは特に気負う事なく彼女に答える。

 

 

「──ミレニアムだよ。これから、何かお祭りがあるらしいから」

 

 

 思わず驚きを声に乗せなかった事を、ヒナは誇りに思いたい気持ちでいっぱいだった。意外、という言葉では語り尽くせない程に、意外だった。

 

 

 

 

 

アビドス編 完

 

次章 ミレニアム編に続く

 

 

 

 

*1
宇宙狼

*2
所謂無政府主義者の事。政府・国家のような上位権力による統治を否定し、自由な社会を追い求める連中の事……と言うのが超大まかな概略。『支配』に対して抵抗し、個人の自由を最大限に尊重する考え。まぁまともな考え方ではないが、ゲヘナっぽい考えでもある。あんまり詳しく書くと注釈の欄には書ききれないのでここまで。




ここまでのお付き合い、誠にありがとうございました。

一先ずの区切りとして、アビドス編はここまでです。

ミレニアム編は5話程度の短編を予定しています。と、言いつつもきっと5話では抑えきれないのだろうなぁと。細々と執筆中ですので、まぁ出来上がったら投稿します。


これまで読んでくださった方々には、深く感謝の言葉を述べさせていただくと共に、これからの変わらぬお付き合いを何卒よろしくお願い致します。
色々喋りたい事が出来ましたら、それは別途活動報告の方にでも投げようかなと思います。

それでは、重ね重ねになりますが。

本当にありがとうございました。メイショウミテイでした。




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