私の試験やらでなかなか書く時間を作れずに申し訳ないです。
キヴォトス最大級の学園規模を持つミレニアムサイエンススクールのお祭りともなれば、その規模たるや想像も付かない程の規模感で企画されているとは考えていた。ミレニアムとしてもこの機会は外貨を稼ぐ良いチャンスでありここで自分たちの製品を気に入って貰えれば、延いては自分達の物作りの才能を認めてもらう事が出来れば、それこそ継続的な収入となって部費を上乗せする事だって可能だ。
そういう商売的な側面も確かに存在しているがミレニアムプライスの本命は何と言っても、来場者とミレニアム生の投票によって最優秀作品を決定するコンテストだろう。次の一年の命運が時ここで決まると言っても過言でもない、この日の為にミレニアムの各部活は準備を重ねて来たのだ。何としてもここで良い結果を残して次年度の部活のポジションを良い物にしたいと、同じように考えている部活は多いだろう。それこそ、今年で学園を去る事になる第三学年ともなればその感情は大きい事だろう。
まぁ、観光にきただけの私達には関係ないのだが。
『今日と明日で投票を行い、明後日に集計した結果を発表するらしいな』
「シロッコ、楽しそう」
『ミレニアムの技術力は宇宙世紀ほどではないとはいえ高い水準にある。その学園の祭典であれば気持ちも昂ってくるというものさ』
「じゃあ来て良かったね」
『ああ。ここまで連れて来てくれた事、シロコには感謝しても足りないくらいだ』
前と変わった様子はない、それなのに違和感を感じてしまうのは何故なのだろうか。シロコは先日生まれた妙なしこりを解消出来ずに居た。
いつもと同じ様に回りくどい言い回しばかりで、本心を明け透けにしない様に、自分をあたかも物語の登場人物の様に、そういう風に徹底されていると感じる様になって来たシロコ。前までは気にならなかった事に気がつく様になった要因は分からないが、この感情がこれまで自分に手を貸し続けてくれた彼に対する態度として最低のモノなのは彼女自身理解していた。
だからこそ、この得体の知れない感情を排除したがっているのだが、その糸口を彼女は持っていない、知る由もない。
『受付を済ませたら、一先ずはエンジニア部の方へ向けっては貰えまいか?』
「あー……、その事なんだけど。今日はシロッコが身体を使って良いよ」
「……私としては願ってもない事だが、良いのか?」
「うん。ちょっとアビドスの事とか自分の事とか、色々落ち着いて考える時間が最近なかったから今が良い機会かなって。私はシロッコみたいにこういう科学とか機械とかには疎いし……」
「そうか。これらの知識も後々必要にはなって来るが……ふむ、まぁ今でなくとも他に機会は巡って来よう。分かった。今日はキミの身体を使わせて貰おう」
「後で感想聞かせてね。アビドスに持って帰るお土産も用意しないといけないし、色々見て回って欲しい」
「その件も承知した。任せて貰って構わない」
言いたい事を言い切ったシロコは精神空間の奥深い場所まで潜って行った、シロッコはそのように感じ取っていた。恐らく、私とも会話をするつもりがないという意思表示だろう。この世界に流れ着いてからという物、常に一緒に居たので一人の空間・時間が消滅していた。
ミレニアムにやって来てから、いやそれ以前からか。彼女の精神は少しばかり不安定な物になっている、それを紛らわせたいと思ってこのイベントに相乗りする形で遠征を勧めたのだが、今の所効果があったようには見られん。寧ろ悪化している……ようにも思える。これはどういう事なのだろう、気持ちをクリーンに入れ替える事を目的とした遠出だというのに。
シロッコにしては珍しく思考が定まっていない、彼自身もここまで妙な状態に置かれるのは初めての事なのではないだろうか。
宇宙世紀に居た頃の彼は、自分に関わる全てを思いの儘にしようと考え、事実としてその企みは良い所まで進められていた。ティターンズという愚物の中に塗れながらも己の純白を保ち続け、その中で腹心となる女性も凶暴ながら頼れる懐刀を見出し、汚濁を生み出して来たそして連中も排除し、これからという所で全てが無に帰したのだが。
その時だって基本ライブ感で動いてはいたものの、思った通りの結果を引き出し続けてきたのが彼であり、天才的なセンスを遺憾なく発揮してその全てを切り抜けて来た。*1
今回も同じ様に出来ると思っていた彼は、致命的に普通の人との付き合い方が分かっていなかった。そう、自分に関わるほぼ全ての人間を見下していたシロッコには、シロコの精神的な負担を軽くしてやる事は出来ないだろう。
何せ、自分がその精神的負担の原因だと気付いていないのだから。
その後、悠々とミレニアムプライスを観光し始めたシロッコは、気の赴くままに構内を探索していた。
自分達の発明を使った企画を展開していたり、食べ物の調理と絡めて開発を宣伝したり、まぁ色々な方法で自分達に気を引こうとしている。鬼気迫る雰囲気が漏れ出ていて最早銃火器が使われていないだけで、さながらミレニアム全体を巻き込んだ内紛とも言える状態だ。
しかしそこはミレニアムの生徒会組織であるセミナーと、非公認(自称)ホワイトハッカー集団であるヴェリタス、更にC&C──通称メイド部を始めとした公的*2勢力の監視があり治安は相当良い。まぁ一年に一度の祭典だし余程譲れない事情でもなければ、そうそう争い事など起こらないだろう。
「クソ……キヴォトスはクソだな全く!」
「巻き込んじゃって本当にごめんなさい! アイツらを大人しくさせる迄は手伝って!」
「──分かっている、微力ながら手を貸すとも」
「……? 何だか、昨日会った時と雰囲気が……」
「……先行する!」
何が祭典だって話。
隣同士のブースに配された団体がほんの些細な事から両団体を巻き込んだ抗争に発展してしまったらしい、とはユウカの言である。彼女が報告を受けて仲裁に入ろうとした時には最早手遅れで、既に負傷者も数人出ている始末。
その場に居合わせてしまった事が運の尽きであった。不祥事やら問題が秒で起こるキヴォトスにおいて、シロッコも所詮は大勢に巻き込まれるに過ぎないという事か。
しかし、流れに身を任せる立場も、悪くはないと思っている彼が居た。
「大人しくして貰おう」
「なっ、なんだアンタはっ!?」
「良いぞ! 誰か知らないけどそのままやっちま──ぎゃっ!?」
「別に貴様の味方という訳でもないのだが」
諍いを起こしている張本人である『優勢火力研究部』と『爆煙芸術創作部』の二団体に対して攻撃を開始したシロッコ、それを援護する為にユウカと彼女が引き連れてきた『保安部』の腕利き数人が弾幕を張っていく。
厚みのある的確な射撃がたちまちにして両部活の戦闘員がダウンしていく。ユウカの指揮もなかなか様になっているとシロッコは素直な感想を抱くが、それもそのはず。やたらと我の強いミレニアムの部活動を統制し切っている彼女の実力は伊達ではないのだ。
「今よ! 彼女が作った穴に飛び込んで!」
ユウカの一声を受けて保安部の部隊がシロコの開けた傷口に浸透してからは、案外あっという間に鎮圧出来てしまった。両部活の長である生徒は保安部にしょっぴかれて行った事で事態は急速に静まっていく。
……思っていたよりもミレニアムも武闘派なのか? 保安部の戦力もなかなか目を見張る物があった、当然指揮者の能力も戦闘では重要であるが、だからと言って指揮者だけが有能でも戦いには勝てん*3。彼が全く同じような状況で敗北を喫しているのも記憶に新しい。実力が求められる場面でしっかりと本来のパフォーマンスが発揮出来るというのは、出来ていて当然の事ではあるが、誰にでも出来る事ではない。
「協力してくれてありがとう、シロコ!」
「まぁ成り行きではあるが、気にしなくてもいいさ」
「……まぁ、いいわ。今はそれを気にしている暇はないし」
あからさまに今のシロコの様子に違和感を感じているみたいだが、しかし彼女も時間がないらしくそこへの追及はしないらしい。
「ユウカちゃ〜ん!」
「ノア! 遅いわよ、もう! 収拾ついちゃったわよ!」
「あら……? 急いで来たつもりでしたが、もう解決しちゃったんですか? 結構大きい揉め事が起こっていると聞いたいたのですが……」
「ああ、それは彼女に手伝って貰ったのよ」
「彼女……?」
最早事後処理だけが残されている状況であり私が此処に居座る意味も、そうするだけの資格も持っていない。そもそもミレニアムには観光に来ただけの人間だというのに、事件の処理に巻き込まれているのがおかしな話なのだ。
心中でシロッコが文句を並べ連ねている内に、遅すぎる応援がやって来た。応援というか、事後処理をする為にやって来たように見えるが。綺麗な長い白髪とヘッドギアらしき物を装着している、少なくとも戦闘が得意そうな雰囲気ではない生徒が走り寄ってきていた。
「もしかして、貴女が砂狼シロコさんですか?」
「……そうだ。君は?」
「失礼しました、私は生塩ノアと言います。セミナーで書記を務めています」
セミナー所属、という事はユウカの同僚という事か。つまりは、ユウカとは別の意味で優れた人間という事だろう。
「君も知っての通り、私は砂狼シロコだ。アビドス高等学校の2年生だ。よろしく頼む」
「ええ、こちらこそ。ユウカちゃんからお話は伺っています、先日はユウカちゃんがお世話になったみたいで──」
「何言ってるのノア! 寧ろお世話したのは私の方だって昨日話したでしょ!?」
「ふふっ、そうでしたっけ? まぁ、今はその話は置いておいて、です」
後ろから文句をガミガミ言い続けているユウカは無視して、そそくさとその場を立ち去ろうとしていたシロッコの方へと歩いていく。
「改めて、私達の仕事を手伝って頂いて、ありがとうございます。学校も違うのにわざわざ力を貸して頂けた事、セミナーを代表して感謝致します」
「そう格式ばった感謝は必要ないよ。これも私とユウカの友情があればこそさ」
「まあ。もうユウカちゃんとお友達なんですか。ユウカちゃんも立場上、気兼ねなく喋れる友人が少ないんです。これからも仲良くしてくれると、私も嬉しいです」
「ちょっとノア! 友達が少ないは余計だし、そもそも少なくない! シロコとは昨日あったばかりで友達とかそういう関係じゃ……」
「おや。ユウカと私は友達ではなかったらしい。すまないが生塩さん、友達というのは私の勘違いだったらしい」
「あらあら。ユウカちゃん、今の発言は砂狼さんが可哀想ですよ?」
「う……。ご、ごめんなさいシロコ。で、でもっ、まだ連絡先とかも交換してないし、貴女の事何も知らないし、というか昨日初めて会ったばかりなのに友達なんて……」
恥ずかしがっているのかなんなのか、ユウカが一人でぶつぶつ呟いている内にシロッコとノアは連絡先の交換をテキパキと済ませていた。特に話すべき内容も無いので、連絡先をユウカにも共有しておいて欲しいとノアに伝えてから、着々と事後処理と現状復帰が進んでいく事件現場を後にした。
他にも回りたいプログラムや展示はまだまだあるのだ。彼の意識は既に先ほどの事件から手元のパンフレットへと移っていた。
「──……っでも! そんなに言うなら先ずは連絡先の交換からっ! ……って、シロコは……?」
「シロコさんならもう行っちゃいましたよ? 連絡先なら私が貰っているので、後で共有しますね」
「……もうっ! 何なのよーっ!!」
その後もシロッコはパンフレットを随時確認しつつ、気の向くままに歩いて行く。目に付いたプログラムに首を突っ込んでは原理や設計に関して意見交換を行い、求められていないアドバイスを授けたりしていた。それを受けた研究者は皆口を揃えて新たな発想を得られたと喜んでいたので、まぁ結果オーライと言えるか。
そうして歩き回って様々な部活をハシゴしてシロッコ自身も新たな知見を得たり、既に知っている事柄でも復習ぐらいに考えて色々楽しんでいた。彼なりにリフレッシュになったのなら、気を遣って身体を貸し与えてくれたシロコにも感謝しなければならない。
しかし、シロッコはそれと同時に考えていた。
今朝のシロコのちょっとした雰囲気の違いというか、心の不調というか。
「シロコ」
『居るよ』
「私に気を遣って貰って感謝する。今日は十分楽しませて貰ったよ」
そう言って彼は身体を彼女に返そうと意識を楽にする。
「楽しめたなら、よかった」
『ああ。ここまで気を楽に出来たのは、随分と久しぶりの事だった』
「そっか」
その後も彼女が宿泊しているホテルに到着するまで、色々な事を話しながら歩いた。
アビドスに持って帰るお土産の話。今日巻き込まれた事件の話。ノアと波長を合わせてユウカを揶揄った話。新技術と称してスライムを利用したボディアーマーの話。今日に関しては話す話題には困らなかった。
それは身体を借りていた以上、彼が遭遇した事象の全ては共有されるべきだとシロッコが考えていたからなのだが、シロコにとって今日の彼はいつも以上に饒舌に喋っている様に映る。最近のシロッコの態度にモヤついている彼女にとって、得意気に話している彼を見るとよくない感情が吹き出してきそうになる。そんな感情を抑え付けようとして思わず素っ気ない反応になってしまった。
……そんな反応をしてしまった自分にも、嫌気が差してくる。
『キミは、どうだ? 何か答えは出たか?』
「……シロッコはさ。私が何にモヤモヤしてるか、分かる?」
『皆目見当が付かんな』
「即答しないで、もう……」
やはりシロッコは分かっていない。
昨日のエンジニア部での一件、彼女達を少し話しただけで信頼し
『ああ、なるほど。今分かった、昨日のエンジニア部での件か』
「──ニュータイプって、ホント……」
サラッと思考を読まれた。ニュータイプとしての能力は彼の方が圧倒的に上なので、彼がその気になればこの位は朝飯前なのだろう。
ニュータイプ同士の会話はもはや言葉が必要無い、というのは最早常識である*4。ニュータイプとして覚醒して一ヶ月余りの時を過ごしたシロコであったが、言葉を使わずに会話する事に全く慣れていない……というより、そういう方法を当たり前にしたいとは思っていなかったという言い方の方が正しいか。
ニュータイプとしての能力を日常生活に持ち込みたくないと考えている彼女は、意図的に他人の思考を読まないように意識している。折角面と向かって会話している時に相手の話したい内容が分かってしまうのは、何というか良い気持ちにはならない。
『そうか。シロコも可愛いところがあるな』
「……嫌な感じ」
『すまない。確かに、説明不足だったかもしれないな。私の悪い癖が出てしまったのだろう』
シロッコは語る。彼女達にはエンジニア部という名前の通り確かな能力を持ち合わせており、特にあのウタハという少女には
しかし、そんな経緯はシロコは何一つ知らないのだ。不信を招くのも無理はない、散々危険だ何だと囃し立て警戒させておきながら、シロッコは信頼した人間にその武器をさっさと預けて自分にはその件に関して何も言及がない。たとえ身近な人間であっても、自分の理解の及ばない事を始めていれば疑いも抱くし、何をしようとしているのか知りたくなるのは当たり前なのだ。それはニュータイプとか、オールドタイプとか、そういった概念で語るべき物事では無い。
簡単な話が、行き違いなのだ、これは。
シロコは分からないから説明して欲しかった。それに加えエンジニア部に急速に心を許していた事に関して少しばかりの嫉妬心があった、というのもあるのだが。
シロッコは彼女であれば自分の目的を分かっている物だと思い込んでいたのが全てだった。自分が手ずから育てたニュータイプであれば、とでも考えていたのだろうか? 彼は大っぴらに自分の胸の内を話そうとしない人間であり、それさえも正しい事なのか分からない。
「……うーん、そっか」
『納得はしていなさそうだな』
「いや、シロッコがそういう人だったって、忘れてただけだと思う」
『……知っていると思うが、君もニュータイプなのだ。私の思考を読むくらいは出来るのだろう?』
「あんまり、人の心の中を覗き見るのって、良い気はしないんだけど……」
『まぁ、気持ちは分からんでもないが……。そもそもニュータイプとはそういう物だよ。宇宙に出て革新を果たした人類は、そこで生きていく為に必要な
「……そうなんだ」
本来であれば、そうするべき。しかし、この世界ではどうあってもニュータイプはこの二人だけになるだろう、宇宙を知らない他の人間が覚醒するとはシロッコも考えていない*5。であれば、その力の使い方にセオリーや定石があるわけがない。
彼が与えた力は、彼女が信じる事に使えば良い。元々そういうつもりで考えていたのは、シロッコ自身のはずだ。
「私は、シロッコから教わったこの力は。みんなを守る為に使いたいの。別に革新とか、そういう事に興味はない」
『……ああ、そうだな。私はキミにこうして欲しい、ああして欲しいと願いを込めて教えた訳ではなかった。それはそうだ。……どうやら私も、キミと出会った頃を忘れてしまっていたらしいな』
「私の事、見てくれるんでしょ? これからも、ずっと」
『ふふっ……ああ、そうだ。勿論だとも。キミの行く道には常に私が居るさ』
彼は既に傍観者の役目から降りている。
彼も当事者である事を、今一度理解する必要があった。
今回のミレニアム遠征は、それを思い出すには良い機会になったと言えよう。
もう一本書き上げておりますので、明日に予約投稿をセットしておきました。
忙しくて中々時間が……