遅くなってしまい申し訳ありません。
細かい話は活動報告の方でしようかなと思います。
追記:活動報告の方で1ヶ月間のお話を少し残しておきました。本作とは全く関係のない、作者の身の上話になるので興味無い方はそのまま物語へどうぞ。
誰も予想していなかった展開、天より降りし闖入者。
彼女のイメージカラーなのだろうか、青の覆面を被った何処かの学園の生徒が、その隣に灰色のマシーンを侍らせたままトキと対峙していた。
「貴女は、一体……」
「先生、無事?」
“うん、ありがとうねシロ──”
「先生。私が覆面を被っている意味を考えて欲しい」
“あ、あー……。ごめん、えーっと、2号さん? “
「2号、いいね。それで行こう」
身体をトキの方へ向けたまま、背後に控えている先生に声を掛けるシロコ。普段とさして変わらないリラックスした様子の彼女が目の前に居る事を未だに受け止めきれていない先生だったが、落ち着いた様子の彼女と少し話した事で先程までの緊迫した雰囲気は霧散していた。今の先生は彼女同様、戦場特有のピリピリした空気感を肌で感じつつ、一息入れられた事で冷静な状態へ落ち着けた。
「いやいや! 待ってよ!」
「テメェは一体何者なンだよ!」
二人で勝手に解決した様子に対して、モモイとネルからツッコミが差し込まれる。
「先生、お願い」
“凄い投げっぱなしのパス……。彼女は、覆面水着団の……、2号さんだよ”
「ん、よろしく」
「ふざけてンのか!?」
正体を明かせない理由があるシロコは先生に丸投げしたのだが、まぁ名前が良くない方向に働いてしまい全く信じられていないというか、真面目な紹介だと受け取って貰えていない。どしたん話聞こっかーあーうんうんそれは覆面水着団が悪いよ。
“真面目な話、この子の説明は今は出来ないんだ。少なくとも、理由はアリスを助けてからじゃないと出来ない。でも、彼女は間違いなく私達の味方だよ”
「まぁ、それはそうでしょうね。こんな事、下手すれば外交問題にまで発展しかねないですし……」
「ん、ユウカ。やっぱり此処に居た」
「……私の事を知ってるの?」
「勿論。友達だからね」
遥か遠くから声が聴こえていたので現地に居る事は分かっていたが、知り合いのユウカも現地で先生に手を貸していたらしい。どういった事情があるのか掴みかねているが、彼女の性格ならなんだかんだで手を貸してくれそうである。
「ユウカちゃんの友達……、特徴的な動物のような耳の人物には心当たりがありますが……」
「ちなみに、ノアとも友達だよ」
「私の事も知っているんですね。それに友達、ですか……」
「ホントに信じていい奴なのかコイツ!?」
「怪しすぎる……」
「うーん……そんなに怪しく見える?」
『覆面している時点で一定値怪しく見られるのは仕方ないだろう』
先生しか彼女の正体を知っている人間は居ない以上、先生が説得を成功させてくれないと戦う以前の話になってしまうのだがそこは如何だろうか。
それならと、シロコは逆転の発想へと辿り着く。
「ユウカ、ノア。よく見てて」
そう言ってシロコはユウカとノアを呼び付けて、彼女達にだけ見えるよう工夫して覆面を外した。あぁなるほど、彼女達の反応は分かり易く安心したものだったが、ユウカの方は少し不安というより申し訳なさが見て取れる表情だった。さっきの電話の件と言い、彼女はシロコを二つの意味で巻き込みたくないと考えていた。当然だろう、別の学校の生徒を誰が好き好んで巻き込もうと考えるものか。
「……まさか、さっきの電話で此処だって分かったの?」
「そういう訳じゃない。けど、ある程度何かが起こってるのは分かった」
「凄いわね……。でも──いえ、これはまた後で話しましょう」
「何はともあれ、です。助けに来てくれてありがとうございます、シロコさん。正直助かりました。今は当てにさせてください、2号さん」
「ん、勿論。期待には応える」
シロコには分かっていた、ノアが隣のマシンについて聞きたがっている事を。それを上手く隠して、感謝の言葉を述べている事を。だからと言って彼女にシロコへ感謝する気持ちがない訳ではない、その感情が表へと出難いだけなのだ。
それでも彼女は、遠い場所から態々助けにやって来てくれたシロコに対して、自分の本心を表に出さずに感謝の言葉を述べられる子なのだ。シロコはそういったノアの事を分かっている、だから期待にも答えたくなるという物だろう。
「ネル先輩、大丈夫です。彼女はちゃんと信頼出来る人です。私が保証します」
「私ともユウカちゃんとも関わりがある子ですし、個人情報を明かせない理由も彼女の身を考えれば当然です。……今は私達の言葉だけで納得して頂ければと」
「……チッ、わーったよ。後でちゃんと説明しろよ!」
「正直私はそんな事よりも他に聞きたい事があるんだけど……。特に2号さんの隣の機械の事とか」
「今はそんな状況じゃないでしょお姉ちゃん!」
「……話はまとまった?」
『それはこちらのセリフよ。……まぁ、私達はいくらでも話し込んで貰って構わないけれど』
現時点の身柄の保証をセミナーの二人がしてくれているのに他人事だったシロコは、グラシュティンに取り付けられた見慣れない武装に意識を集中させていた。小さなミサイルポッドらしき物が取り付けられており火力はあった方が何かと助かる場面は多い、攻め手が増えたというのも良い事だ。しかし今回はその分メガランチャーが調整中で持って来れていない、戦力的にはプラスマイナス0といった具合か。今回のミサイルポッドの増設は、減った火力の分を補填する為にシロッコが気を遣ってくれたのだろうか、そう考えている内に向こうもやる気になったらしい。
「アレは私が抑える。先生達には、他にやる事がある。そうでしょ?」
“うん。お願いできるかな、2号さん”
「チッ……。ワガママ言ってられる状況じゃねぇってのは、分かってるつもりだ。……ウチの後輩が世話掛けるが、頼む」
「うん、任せておいて」
『出し惜しみは無しだ。最初から全力で行く、良いな?』
「私もそのつもり」
軽いリラックス状態にあった精神を、深く深く、心の最奥まで落としていく。
隣で待機していたグラシュティンもそれに従いその形を徐々に変化させ、いつの日にか見たグリモア形態へと再び融合を果たした。
以前の時とはグラシュティンに細かな差異が見られるが、キヴォトスにおいて規格外のパワーを保有している事は間違いが無い。それは相対するのは今回が初めての筈のトキでさえも、嫌というほど肌から伝わってくるピリピリした感触が感じ取れる程に。一種の武者震いとも言えるが、あくまで仕事として戦闘行為を行って来たトキにとって、そういった概念は馴染みの薄い物だった。
「せ、先生は2号がこういう子だって、前々から知ってたんですか……!?」
“前にシャーレの仕事でしばらく支援してた時期があってね。その時にちょっとね”
「これは……、記録しても良い事なんでしょうか。少し判断に困ってしまいます……」
「でも、これなら!」
「なんとかなるかも!」
モモイとミドリの士気が鰻登りに上がっていく。自分達では太刀打ち出来なかった強敵、これを突破出来なければ待ち人の下へ駆けつける事など夢のまた夢であった。しかし、思わぬ援軍の登場が、それまでの手詰まりだった状況を一変させたのだ。
見た目だけの比較なら互角のように見えるシロコとトキ。実際の所、明らかになっていない隠された能力が互いにはあるのだが、そんな事など初めて目にしたゲーム開発部やセミナー各位には知る由もない。
『トキ。
「……了解。お任せください、リオ様」
どうやら通信の向こうにいる──ホログラムとして映し出されているリオは、どういう訳かシロコの従えるマシーンを知っているらしい。勝って来なさいと自信を持って言ってやれない事に少しの申し訳なさを覚えるリオだが、トキにとってはそれで十分だった。普段から感情が表に出さない人であったが、身の回りの世話を日常的にやっていれば彼女の人間的な部分だって自然と分かるようになる。
そして、彼女が普段どのように考え行動していたのか。どれだけミレニアムの為を思って行動していたのか、その深い所までトキは理解できていた。
どれだけ、今の発言に彼女の心が込められていたのか。トキには、しっかりと伝わっていた。だからこそ、負けられない。
たとえ私の勝利が難しいとしても、時間を稼げばリオ様の勝利が近付く。ミレニアムを護りたいと話していた彼女の心に嘘はなかった。
「……じゃ、やろうか」
『私と君であれば、負けはせんよ』
今回の事件の全てを知っている訳ではないシロコだが、手を貸す事自体に後悔はない。今でこそ付き合いの長いセミナーの二人やエンジニア部、彼女たちが助けを求めているのならそれに応えるだけ。
都市の全てをたった一つの個へと集中させ、圧倒的なまでの火力と機動性、おまけに危機察知能力までを備えた死角の無いパワードスーツ──アビ・エシュフ。そしてそれを十全に扱い切れるだけのデヴァイサーである飛鳥馬トキ、幻のC&C『コールサイン04』を持つ彼女自身の能力もキヴォトス全体で見ても上澄みに当たる。その存在を完全に秘匿されてきた彼女は、リオによって割り振られた任務をたった一人で処理してきた事で実戦的な能力を身に付けていった。パワードスーツ抜きにしても、彼女の戦闘能力は非常に高い。
だからといって、そんな強敵を目の前にしてもシロコの心はひどく落ち着いていた。先生の下へと歩いていって一言二言、伝えておくべき事を言い含んでおいてからトキに向かい合う。
自分の能力を疑っていないからこそ持つ事が出来る自信。長い付き合いになる彼のサポートを心より信頼しているのもその自信の中に含まれていると思うが、まぁともかく。
「──行くよ」
遠く離れたミレニアムで、(ほぼ)人外同士の戦いの火蓋が。
「──行きます」
切って、落とされた。
「ここはライフルで様子を窺う」
「まずは、牽制射」
両者人間を遥かに超えた初速で動きを見せる。
シロコはシロッコ謹製のビーム・ショット・ライフルと
『しかし、所詮はニセモノ、作り物だ。勝機はそこにある』
「面白いね、未来が見えているみたい」
『キミはホンモノだがね』
「関係ないよ」
避けるべき攻撃は予測が教えてくれる、避けなくていい攻撃には反応しない。直撃コース、ダメージ想定、当たり所。様々な要素を考慮して
シロッコはそれをニセモノと評した。ニュータイプからしてみれば彼女が身に纏うシステムは酷く面倒で回りくどくて、そして歪だ。
ニュータイプであれば、わざわざそんな行程を必要にならない。
「……手強いですね」
「やる」
今度は
『分かりやすいな』
「そうだね」
『単純だが強力だな』
「どうしよっか。攻撃が当たらないよ、ビームなのに」
『フフフ……、やりようはあるさ。特に、今ならな』
「……もしかして、コレ?」
そう言って、無駄撃ちの効かないビームライフルをシールドの裏側にマウントさせ、これまでの愛銃を両手持ちにして再びばら撒きながらトキの様子を窺っている。トキの方はやる事は変わらずガトリングの応酬で、あちらさんも同じような事を考えているのだろうと推察できる。
こちらの手の内を見たいのだろう、前進と後退を不規則に行い揺さぶりを掛けている彼女には付き合わず、シロコは応戦を続けているが時間は向こうの味方である。その前提が生きている以上は、いつかはこちらから一撃を加える為に動きを見せねばならない。
コレ、とは増設されたミサイルの事だ。メガランチャーを持って来れない今回、低下した火力を補う為に用意された追加武装らしいが、シロッコが言うにはこれが決め手になるらしい。
『このミサイルには少し、特殊な仕様がある』
「……そういう事は先に言っておいて欲しいんだけど」
『まぁそう言うな、私も色々調整に手間取っていた。使い方は────という感じだが、まぁキミなら使いこなせると確信している』
「……事前に練習させて欲しかった。けど、使い方は分かった」
軽く説明を受けただけなのだが、シロコは心配そうな様子を見せずに自信もありそうな雰囲気だ。
『一先ずはライフルとキャノン、そしてミサイルの一斉射。ビームの発射1秒後にミサイルだ……いいな?』
「了解」
シロッコに使う武装を指定された上での攻撃指示が下る。シロコもその攻撃の意図を瞬時に察しており、確かにこれは決め手になり得るのだろう。一種の騙し討ちのような物だが、それでも迅速に勝利を収めるには一度こうしておく必要があるのは分かる。
背中に接続された三角錐型のユニットを両肩から前へ突き出す形に構え、高出力のビームを発射。それと同時に、シールドにマウントさせたままのライフルからも一筋の光を放つ。
瞬時に反応したトキは飛来するビームを大きく回避して距離を取ろうとするが、そこに襲い掛かるのは時間差で発射されていたミサイルだ。
「……ですがっ!」
しかし、隙を突いたように思われたミサイルでも、トキへの接近が叶う前にガトリングで撃ち落とされてしまっていた。彼女の心には少なからず動揺を与えたのかも知れないが、結局は無傷で凌がれてしまった。
背後には未だにリオのAMASによって張られた防衛線を突破出来ていない先生達が居た。徐々に押し込みつつある事はチラと見てみれば分かるのだが、だからこそ今直ぐに決着が付きそうにないというのも分かってしまう。時間が無いと焦っている気持ちばかりが前面に出てしまっているのだろうが、そのような感情ばかりでは空回りする事は明白なのだ。
手を貸してやりたい気持ちも少しはあったが、それを許してくれる程目の前の彼女は甘くは無いだろう。不用意に隙を晒してしまっては万が一という事も有り得る、かも知れない。
「(向こうは任せるしかない)」
「余所見を……!」
『見えているな?』
「別に油断してた訳じゃない」
寧ろよく気付いたとトキを褒めてやりたい所だ、今の一瞬の様子見の瞬間を見逃さなかったのは。
その一瞬を使ってトキはこれまでの戦局を押し返すつもりらしい、アビ・エシュフの強力な推進力から繰り出されるブーストチャージで大打撃を加える腹積りか。しかしシロコの方も直ぐに視線を正面に戻し、迫り来る強大な質量に対して展開したクローアームで押し留めようと試みる。
「ハァッ!」
「くぅッ!」
全ての推進力をそのままに放たれた、アビ・エシュフの大重量も合わさって凶悪な破壊力を孕んだ右脚は、シロコが操る一対のクローアームによって受け止められた。けたたましい激突音は戦闘に関わる全ての人間に衝撃と不快感を与える。
ガリガリと鉄が擦れる音が響く競り合いだったが、拮抗した両者のパワーは押し合いでの決着を否定する。
アビ・エシュフの背後に光が集まりつつある事を、シロコは察知している。おそらくもう一撃来るだろうという予感は、外れる事はない。
「強い……!」
「伊達じゃない」
「それだけの力を持っていながら、何故リオ様の邪魔を!」
「さあ。そっちの事情なんて関係ないよ」
「私には、守りたい物がある!」
「そう」
「だから私は負けられない!」
近距離戦はシロコに分がある、クローアームの方がリーチはある。さらに、グラシュティンのアームとは別にシロコ自身の手もある、単純に手数はトキの2倍なのだ。
しかし手数が不利状況ではあってもトキは一歩も退く事なく立ち回っている。
トキが
負けられない理由があるという事実は、それだけで戦い続ける力へと変わる。どれだけ強大な敵であっても、立ち上がる為の燃料になれる。
やはりシロコとの競り合いで決着は付かず、近距離戦を嫌がったトキはブーストを再度噴かし彼女を押し退けながら大きく後退する。しかし、無策で後方へと引き下がった訳ではない。アビ・エシュフの背面から一対の砲塔が正面へと突き出される。
「──エネルギー、充填完了」
「……」
「……主砲、発射!」
その一瞬の隙に、機体後方に懸下されていた、既にチャージ済みの主砲が姿を表す。エネルギーが限界まで収束された砲口からは光が漏れている。
「ふぅん……」
『感嘆している場合か? さっさと防御するがいい』
「分かってる」
直後シロコの視界を光が覆い尽くす。
「もう一手……いや、二手足りないよ」
「……ッ! ここまで、押し切れないとは……!」
左手のシールドで難なく主砲を凌ぎ切ったシロコだったが、主砲の火力も相当な物だったのだろう。盾の表面が焼け焦げて開閉ギミックの部分が溶け落ちてしまった。こんな状態では物避けとしても武器としても使用に耐え切れない、そう判断したシロコはそれをさっさと投げ捨ててしまう。
ヒートシザースとして使う事だって出来たが、それでもデッドウェイトになり得るシールドは思い切り良くさっさと切り捨ててしまう。そういった判断が出来るようになった事は、シロッコにとって喜ばしい変化であった。究極な話、ニュータイプの力があればライフル一つあれば大抵の敵は完封出来るのだ。
「私では、やはり敵わない……。 しかし!」
繰り出す攻撃の悉くが捌かれ、去なされ続けていても、トキの闘志が消える事は無い。戦闘を続けている限りは自身の役目を全う出来ている証で有り、それだけでリオの目的の一助になっているのだ。勝てなくても良い、ただ相手を続ければ良い。
幸いにして俊敏な機動力で回避だけは出来ている、回避予測も正常に作動している以上は負けない事は出来るのだ。
『臆病になる必要は無い。オーヴェロンならば──いや、キミならばやれるのだ。あの主砲を物ともせず、彼女を叩ける』
「もう、躊躇わない。時間は私達の敵だから」
背後で戦っている先生達の援護にも行かなければならない。助けたい人が居ると言う割にその進軍は遅々として進んでいない現状、それだけリオが用意した物量が膨大だったという事なのだろうが、シロコの力があればあの程度の数だけが多い雑魚は相手にならない。
寧ろシロコが居なかった場合、どうやって囚われの姫を助け出す算段だったのだろうか。今考えても仕方のない事ばかりが浮かんできてしまうが、そういう事はシロコ自身よく分かっている。
「……来る!」
敵の動きに最大級の警戒を呼び掛けるように、都市の予測がけたたましく警鐘を鳴らしている。システムに頼らなくても分かっている、明らかに先程までとは空気が変わっている。
瞬間、予測が反応した──正面から突っ込んでくる、ビームとARの連射。推奨、右方もしくは左方への迅速な回避行動。それを信頼している彼女は予測を疑わずに回避を選択する。リオを信頼し、リオの作ったシステムを信頼している彼女はその判断を正しい物だと考えている。だが、そのシステムには単純にして重大な欠陥がある。そう言われればそう、考えてみれば分かりやすい問題点なのだ。
「分かっています!」
「まだまだ」
予測通りのシロコの攻撃にブーストを使って回避をするトキ。しかし回避される事は織り込み済みなのだろう、シロコはご丁寧に追撃を用意していた。どちらに回避されても良いように、左右の退路を塞ぐ様にミサイルが展開されていた。
「やりますね、しかし!」
「──掛かった」
『本当に、使えないな』
アビ・エシュフの機動性ならば多少無茶が必要にはなるが、戦闘能力を失う事なく無傷で捌き切れる。システムもそれを推奨していた事もあり、迷わずにその選択に従ったトキ。時間を稼がなければならないのだ、ここでダメージを貰っていては今後の障害になる。
しかし、それは欲だ、とても危険な。時には被害を受け入れる事も重要な考え方だが、これまで苦境に立たされた事の無かったトキには馴染みの無い考え方なのは理解できる。だからと言って、容赦など有り得ないのだが。
「負荷を掛け過ぎ──ぐッ!?」
機体に大きな負荷を掛けながらも飛来するミサイルの群れを全て避け切った、と思っていたトキだったが、その背後にはどういった訳か複数のミサイルが着弾し小規模な爆発を繰り返していた。間違いなく回避したハズなのに、ミサイルはその構造上どうやっても急激な方向展開は出来ない。一度射線から逃れる事が出来れば再び誘導する仕様だったとしても、若干の猶予が生まれるはずだ。それなのに、都市の演算が反応すら出来ずに、トキ自身さえもその予兆に全く気付かないまま直撃を貰ってしまった。未だに信じられないといった表情ではあるが、それでも機体各部の被害状況を素早く確認していく姿は流石といったところか。
しかし、その被害は決して軽い物では無かった。アビ・エシュフの背部左推進システムに異常発生、端的に言えば中破している。ブーストを吹かせない事はないが、出力は半減といった状態なのに加えてそれなりの頻度でパチパチとスパークが漏れている。少しでも過負荷を掛ければ一瞬でボン、と言ったような具合だろう。幸にして装甲が焼け落ちて内部フレームが剥き出しになっているような事がなかっただけ運が良いと言えるだろう。しかし、それよりも重い損害を受けていたのは背後に懸下していた主砲であり、右砲塔はまだ原型が残っているが、左砲塔は爆発と燃焼によって半ばから欠損していた。主砲は最早使えない、そう判断せざるを得ない。コンピュータ上では右砲塔は生きていると判断されているが、外から見ればそんな状態ではないのは直ぐに分かる。
さて。
トキに大きなダメージを与えた攻撃の種明かしをしよう。
「シロッコの作る兵器は、本当に凄いね」
『ニュータイプに備わった空間認識能力と機体に搭載されたサイコミュ、これを利用する事で脳波による遠隔操作が可能だ。我々の世界では『ビット』や『ファンネル』と呼称される特殊な兵器だ。それを使い捨てのミサイルとして応用を効かせて再開発した──差し詰め、『ファンネル・ミサイル』と言ったところか』
「とても便利。考えただけで思った通りに当たってくれた」
シロッコがグラシュティンの複合ブースターユニットにポン付けしたミサイルポッド。中に搭載されていたのは大きく見ればミサイルであったが、ただのミサイルでは無かった。
グラシュティンに搭載されたグリモア──サイコミュとシロコ自身のニュータイプ能力、加えてミサイルに補助で搭載された小型のサイコミュによって、大気圏内であっても正確な微調整が可能になっている。ミサイルをそのままぶつける都合上小難しい機構は必要ではなく、炸薬と推進剤の割合を都合し、多少ミサイルの形状を作り変える程度で済んでいる。仕様変更に伴ってミサイル自体の炸薬量は減っているが、それでも直撃させられれば大きなダメージを与える事は可能だ。火力を上げる事よりも確実に当てることを重視した、シロッコらしい考えだ。
「くッ……、一体何が……ッ!?」
「決着は付いた。大人しくして」
「決着……? いえ、まだです!」
「いや、終わりだよ」
直撃を貰ったとは言えアビ・エシュフの機能はまだまだ生きている箇所もある。推進剤も充分量残っているし、左の推進システムも全開させなければ、戦闘の継続自体だけを考えるのであれば可能と言える。
まだ気持ちは折れていない、ここからさらに時間を稼いでみせる。ただ負けるだけではない、最後までやれる事をやり尽くした上でなければならない。
のだが。
「ッ!?」
「それは、あなたが選ぶ事じゃないから」
体勢を立て直したトキの眼前には、既に攻撃状態のファンネル・ミサイルが待機されていた。勿論両手に火器を携えたシロコと、グラシュティンのビーム砲もこちらを捉えていた。
「恨んでもくれていい」
「──」
今更、情けをかけるつもりもない。相手が何かを言う前にトキの眼前で停滞していたファンネル・ミサイルが、シロコの確かな意思の下さっさとトドメを刺してしまった。
衝撃と爆炎に包まれたトキ自身ははアビ・エシュフの硬い装甲もあって目立った傷が無いように見えるが、その分装着していた強化装甲への被害は凄まじいものになっていた。意図的にトキ本体への攻撃を避けたのはシロコの選択だが、別に脅威になり得るのは
煙が晴れた向こうには、意識を失ったトキがボロボロのアビ・エシュフと共に横たわっていた。
シロコはその光景を、少しばかりの憐憫を込めて。然れど、残心を忘れず。
一瞥の後に、背後で行われている戦闘へ介入する為、そのブースターを再び点火させるのだった。
とりあえず忙しい時期は一旦脱したと思いますので、また一週間に一本か二本のペースで投稿できればと思っています。
ミレニアム編が終わる頃まではなんとか出来るかもですが、その後はまた忙しくなってしまうかもです。断言できず申し訳ないですが、ご了承ください。