後2~3話くらいやったら、シロッコさんには死んでもらおうかと考えています。
一応原作ブルーアーカイブで通してるのに、宇宙世紀ばっかりやってたら怒られてしまう……。
シロコがジュピトリスにやって来てから早くも一週間が経った。
ジュピトリスは既に核パルスエンジンを用いた加速を行った後であり、文字通り地球圏への移動は加速によって得られた慣性によって行われている。その為、細かな軌道変更以外は推進剤を使う活動は行う必要がない。余計な加速は到着予定を大幅に早まらせることは言うまでもないが、そうなれば莫大な慣性に振り回される事にも繋がる。
全ては計算された加速であり、それ以上は必要ない。
このままの予定ならば、宇宙世紀0087の4月か5月辺りの帰還になるだろう。その時期に無事帰還できれば、自分の力で世界を手中に収めることも然程難しくもない。
それまでにシロコを帰す算段を付けなければならないと、パプテマス・シロッコは改めて肝に銘じるのだった。
あれほど興味深い存在も滅多にないが……、しかしそれだけだ。
シロッコの感覚は、アレを残しておくことで将来不利益を被る可能性が高いと警鐘を鳴らしている。ニュータイプとしての直感は何よりも信用に値するモノで、確実に処理しなければならない。それも適切な方法で、だ。
頭を悩ませるには大分早いタイミングではあるが、早めに対策を講じておくに越したことは無い。
──自分が思い違いをしているとは思っていないが、少し実験をやってみるというのもいいかもしれない。
シロッコはブリッジに確認の通信を入れてから、急遽決まった目的地へと歩みを進めるのだった。
ジュピトリス内部のトレーニングルーム。
基本的なマシンは数多くそろっているのは勿論の事、インストラクターも常駐している。さすがにプールなどは無理だったがトレーニングルームの中に簡単な浴場やサウナを設けていたり、大きめのシャワールームが完備されている充実っぷりであった。
そこには普段から男性女性に関わらず多くの人間で賑わっている場所であり、ジュピトリスの中でも気分転換に少し利用する人間やがっつりトレーニングに励む人間、浴場施設だけ利用しに来る奴も居るような、人によって利用のされ方は違うがモチベーションを保つ上で重要な施設の一つと言える。
だが、今日に限ってはそれ以上の騒ぎになってしまった。その渦の真ん中にいるのは、一週間ほど前にジュピトリス中を巻き込んだ大騒動の中心人物である砂狼シロコであった。
シロコはシロッコから貸与されたブラックカードを使ってトレーニングルームを利用しているだけである。すぐに帰れないのだから仕方ない、探検の一環だから。そういう気持ちで覗くだけ覗いてみたのは最早過去の話である。
今では毎日ここに通う程の常連客となってしまった異世界からの来訪者、砂狼シロコ。
シロコがここにやって来た初日。日課としてトレーニングルームを利用していた連邦軍の士官や、運動不足に悩む技術畑の連中は奇妙な視線を向けていた。こんな採掘艦には似合わない程に可愛らしい犬耳付けた女の子が、トレーニングルームにやってくるとは考えても居なかった。
艦長のシロッコからは艦内に対して
初日からシロコはそのような視線を一切気にせず、スピニングバイク*1へと一直線に向かっていった。アビドスの面々であればシロコの趣味がサイクリングである事は常識であるし、最早ジャンキーの部類に入る事も知っているのだが。如何せんここはジュピトリスであり、誰も彼女を深く知る人物などいるはずもない。
周囲で興味深そうに見ていた人々も自分のトレーニングを行いながら観察する事に決めたようで、続々と普段通りの雰囲気へと戻っていく。
と、思っていたのだが。
「おい……いつまで漕いでるんだよ、あの子」
「常人があのペースで続けてたら一時間と持たないぞ……」
「大の大人が全く相手になってないとは……」
スピニングバイクは基本的に20~30分継続して行えば効果が出ると言われているモノで、連続でそのくらいの時間を完走できるという事は普段から同じメニューを熟している証拠だろう。
ただし、ここに居るシロコはぶっ続けで4時間ほど続けた後、スポーツドリンクを半分ほど流し込んでからまたスピニングバイクを漕ぎ始めて3時間が経っていた。最初の4時間ぶっ続けで漕ぎ続けていた時も周囲の反応は大分おかしかったが、間にほとんど休憩を置かずまた漕ぎ始めて早3時間が過ぎてしまった時。トレーニングルームには8時間前と同じような一体感が生まれていた。
その途中で可愛い少女の(の見た目をした)シロコに負けて居られるかと、隣のスピニングバイクを使ってトレーニングを始めた筋骨隆々のいかにもなメカニックが居たが、一時間を超えた辺りで限界を迎え地面に倒れ伏す事になったのは言うまでもない。その後も挑戦者は何人かいたが、いずれも地面に人型の染みを作るだけに終わった。
そうして満足そうにシロコは7時間半にも及ぶ旅路を終えシャワーを浴びて自室へと戻っていった、というのが初日の話。
その後もランニングマシンや他のフィットネスバイクなどを楽々熟していくシロコの事を、可愛い嬢ちゃんといって舐めてかかる様な人間は一人として消え去った。純粋にトレーニングが好きな事はやっている姿勢を見れば伝わってくるし、実力差でマウントを取ってくるような事もない。*2まぁそれ以前の問題としてシロコには妙に近寄りがたい雰囲気があり、皆遠巻きに見つめるだけで誰かと喋ったりなどはしていないのだが。
そうしたちょっとした騒動がありつつも、早いもので1週間が経った。
今日もトレーニングルームへと向かっていたシロコ。
「シロコ。すまないが少し時間を貰えないだろうか」
「ん、シロッコ」
その背後からやって来て呼びつけたのは、いつもの白い軍服ではなく黒の軍服を着込んだシロッコであった。*3
「今日もトレーニングか?」
「うん。体を動かしている方が気分も晴れるし、日課みたいなものだから」
「そうか。連日艦内では大きな噂になっているよ。トレーニングルームにとんでもないヤツが居るぞ、とな」
「うーん……? よくわからないけど、ごめんなさい?」
「あぁいや、そういう事では無いよ。クルーにも良い刺激になっているから、寧ろありがたい事だ」
良くも悪くもシロコには、自分の事に余り興味がない様に思える。人間ならば、自分が他人からどのように見られているのか気になってしまうモノだ。しかし、そういった感覚はシロコには希薄なように感じる。事実、噂になっている事も余り自分の事のように考えておらず、他人の事のように感じている。
それだけ、身体を動かす事に集中していると言えば、それもそうかと納得は出来るのだが。
「それでシロッコ、今日はどうしたの」
「その事なのだが、これから宇宙に出てみる気はないか?」
「……宇宙?」
宇宙に出るとは、一体どういう事なのか?
宇宙に出るとは、こういう事だ。
「パプテマス・シロッコ、メッサーラ、出るぞ!」
『了解、くれぐれもお気を付けて』
「了解している」
ジュピトリス前方のカタパルトより、紫色の機体──メッサーラが高速で射出される。
シロコは複座に簡易換装されたメッサーラの後部シートに収まっていた。白いごつごつしたパイロットスーツを着ているシロコは、どういう訳かそこで出撃──単にジュピトリスの進路を妨げている小さな隕石やガレキなどの、所謂スペースデブリを破砕するだけだが──を行う羽目になっている。
宇宙に出てみないかと聞かれ、たまには別の事をしてみるのも良いかと誘いに乗ってみたらこれだ。
「苦しくはないか、シロコ」
「うん、ちゃんと呼吸できてる」
「それならばいい。身体にGを感じたりはするか?」
「そっちも問題ない。特に締め付けられる感覚は無い」
「よし、異変があればすぐに伝えてくれ」
キヴォトスの人間だからなのか、シロコの身体はこの世界の人間よりも耐G性能が高い事を、シロッコはこの時点で悟った。
メッサーラは本来、木星圏の高重力下から振り切れるようにと大型スラスターとメガ粒子砲門が内蔵された複合ユニットを装備している、可変モビルアーマーとして開発されている。可変機構を搭載するにはある程度機体フレームの剛性が担保されていなければならないが、シロッコは独自に開発したフレームを組み込んだことでこれを突破している。*4
変形時にはスラスターが機体後方に集中するような形態へと変形する為、直線上での機動力は同じ時代の兵器を遥かに凌駕する性能を誇っている。しかし、それは必ずしも良い事ばかりではなく、スラスターが後方に集中しているという事は莫大な推進力がパイロットに襲い掛かるという事。操縦難度も当時のモビルスーツの比にならない程に難しく、使いこなせれば強いそれらしい機体になっている。
シロッコ自身も初めて乗る頃はメッサーラの推進力に振り回される事も多少あったものの、すぐに手足のように乗りこなして見せてしまった。
しかし、自分で操縦していないとは言え、強烈なGが掛かっているハズのシロコはどこ吹く風といった感じだ。見た目通りの少女では無いと分かってはいるつもりだったが、やはり凄まじいモノだ。
「では、このまま前方に存在するデブリの清掃に入る」
「了解」
そうして宇宙空間の掃除が始まった。
掃除とは言うがそこまで大掛かりにやる必要もない。というのも、ジュピトリス自体にも対空レーザー砲が搭載*5されており、雑多なデブリ程度なら簡単に破砕できるのだ。何故メッサーラが出撃したのかと言われれば、シロッコがシロコを連れ出す言い訳に使われた事と出撃してもジュピトリスとしては別に不利益にはならないから。出ても出なくてもどちらでもよい、だから出たというだけの話であった。
変形を解除したメッサーラは、前方に接近しつつある
何もかもが初めてなシロコは新鮮な気持ちで宇宙を見つめる。キラキラと輝きを放つ星々に、遠くに見える赤い惑星や輪っかに囲まれた惑星。いくら興味がないとは言っても綺麗な光景には目を奪われる程度には、シロコも普通の少女という事なのだろうか。
しかし、そこでシロコは。
普通の少女では気づかない事にも気づいてしまったのだった。
「シロッコ! 右! 」
「ッ!? ──何だと?」
シロコは自分でも分からずシロッコに声を掛けていた。シロコ自身声を張り上げる事など滅多にないとは思っているが、それがなぜ今出たのか、彼女自身分かってはいないがしかし。
何かを感じた、言葉にし辛いがこれは感じたこともある感覚だ。
──殺気。キヴォトスで似たような体験を日常のように経験しているシロコは、不思議とその感覚を思い出した。
シロッコはその声に瞬時に反応しフットペダルを踏みこみ、メッサーラを急加速させると。
先程まで機体が静止していた場所を、緑色の光芒が通り抜けていった。シロッコは瞬時に右方を見遣れば、先ほど粉砕したデブリと同じムサイ級*6がメガ粒子砲をこちらに向けて突っ込んでくるのが確認できた。火星と木星までに広がるアステロイドベルトからやって来たジオン残党軍と考えられる。
さらに、そのムサイの後方からモビルスーツらしき機影が3機。
「よく分かったと礼を言うのは後だ。これから戦闘になる、あまり気は使っていられないが我慢してほしい」
「ん、分かった」
「よし!」
相手にはならないだろうが油断は禁物、シロッコはメッサーラを変形させムサイへ急速接近を仕掛ける。ムサイの方も発射管から順次ミサイルを射出し始め、接近させまいと弾幕を張ってくる。その間にムサイ後方から展開していた3機小隊の緑色の機体──ザクⅡの近代改修型に見える──がバズーカやマシンガンで狙いを付けてくる。
さすがにジオンの残党をやっているだけありそれなりの練度と自信があるのだろうが、シロッコのメッサーラには腕前も性能も追いついてはいなかった。
「まずは、一つ」
擦れ違いざまに放出したミサイルが突出していた一機に直撃。あえなく爆散。
簡単に背後を取ったメッサーラは背部のメガ粒子砲を撃ち放ち、続く2機のザクも簡単に沈めてしまう。
「後は丸裸の戦艦を叩くだけか」
退屈そうにつぶやくシロッコだが、決して人殺しが趣味なのではない。単純にモビルスーツに乗れる時間がこれで終わってしまう事を、ただただ純粋に残念がっているだけである。
当たり前のようにムサイの艦砲射撃を躱し切って戦艦下部に位置を付けた所で変形を解除し、そのままミサイルやグレネード、メガ粒子砲をたんまり撃ち込んでいく。そうするとたちまちムサイの内部から爆発が広がっていき、ついには大きな爆発を残して跡形もなく消滅してしまった。
「……凄い、こんなあっさり」
「彼らとの機体性能が大きかったというのもあるが、私もそれなりにモビルスーツの操縦には自信がある」
「でも、人を……」
「私は既に慣れてしまったのだ、人を躊躇なく殺してしまう事に。そうしなければ、死ぬのは私の方だったかもしれないのだ」
「……」
「私の手は既に、取り換えしのつかない程に汚れてしまっているのだよ。願わくば、君はそうならないで欲しいと思っている。砂狼シロコ」
「……ん、覚えておく」
残敵がない事を確認したシロッコは、再びメッサーラを変形させジュピトリスが移動しているとされる予測地点へ機体を急がせる。慣性で航行しているジュピトリスが一箇所に留まるケースは基本的に無い。いくら全長2㎞もの長大な船体に、並の大型艦にも匹敵するコンテナを搭載していたとしても、無駄にエンジンを吹かしたり途中で止まるような行動は命取りになる。この艦で旅をするという事は、常に限られた資源しかない事を重々理解しておかなければならない。
そうでなければ、宇宙の粗大ゴミと化すのはこちらなのだから。
「シロコ」
「なに?」
目の前にジュピトリスが見えてきた頃、シロッコは気になっていた疑問を投げかけてみる。素質があるのかどうか、それを確かめる為に。
「どうして飛んでくるビームが感じられた?」
「……えっと。そんな感じがしたから、としか……」
「ふむ、他に何か感じなかったか?」
「他……、殺気かな」
「殺気、そうか……」
「それがどうかしたの?」
宇宙に出た人類は、地球とは違い無限に広がっている宇宙の中で生活を重ねるうちにその環境に適応して進化していく、そう唱えた人間*7が昔存在していた。彼は猿が人間へと進化したように、人間も宇宙に出ればニュータイプ*8へと進化できると主張した。しかしその気高い理念は、別の人間によって乗っ取られ戦争を起こす為の口実へと成り下がってしまう。
ニュータイプは現実に存在する事が先の大戦争の最中に確認されたが、それは不幸な話であった。たった一人のニュータイプ*9が戦局を大きく動かしてしまった事が、最早周知の事実となってしまったからである。ただの一般人が戦争の中で経験を積み、多くの人々の死に直面し、敵とも分かり合って、そうして戦争を終局へと導いてしまった。
ニュータイプは今では戦争の道具でしかない、そう思っている人間はこの世の中にごまんと居る。それを変革しようと考えているのが、何を隠そうこのパプテマス・シロッコという人間なのだ。
「どうやら君には、素質があるらしいな」
「素質……何の?」
「ニュータイプさ。敵の殺気を感じるという事は、普通の人間では出来る事ではない」
「私がキヴォトスの人間だからじゃなくて?」
「君の問題だと、私は感じている。その感覚を忘れない事だ。きっと君にはその力が必要な時が必ずやってくるだろう」
「……ニュー、タイプ」
宇宙に出た人類が必ずニュータイプへと覚醒するとは一概に言えないが、シロッコは確実にシロコがニュータイプとしての片鱗を見せ始めている事を理解していた。戦いに明け暮れるアビドスの話は聞いているし、それがトリガーの一つというのも納得できる。しかし、宇宙という新天地へ足を踏み入れて
らしくもない、シロッコは目の前で覚醒を始めたシロコをチラと見遣って、そう独り言ちるのだった。
また来週お会いしましょう。
頑張ってどこかのタイミングで一本書き上げて投稿します。
気長にお待ちいただければ幸いであります。