コメントくださる方も、同じく感謝です。
此処だけの話、徐々に増えていくUAを見ていると気分が落ち着きます。
ともかく、ようやっとアビドス編突入です。
10話程度で決着付けたいです。
今後ともお付き合いの方よろしくお願いいたします。
追記:最後の仕上げに文章整形を行うのを失念しておりました。若干読み辛い文章のままお出ししてしまい申し訳ありませんでした。修正は既に済んでおります。
プロローグ
──動け、ジ・O! 何故動かん!
──女たちの所へ戻るんだ!
──お……女だとォ!?
男は、敗北した。
自分の力を信じ、全てを手に入れられると確信していた男は、最後には何一つ掴むなく命すらも手放した。
力の使い方を間違えていたのは、果たして誰だったのか。
天才の力一つでは、世界を導く事は出来なかった。彼は、世界を動かしてきたのは一握りの天才であると主張していた。その理論はある意味で正しい。俗人たちは自分達では何も出来ない人間たちであり、だからこそ時代は天才を求める。
そしてその天才は時代に押し潰され、やがて闇と消える。
彼は歴史の中で燦然と輝き、そして淡く消えていった。
世の中に未練だけを残して。
──『彼』と再び邂逅したのは、あの依頼を片づけている時だった。
アビドス対策委員会は今日も借金返済の為に、持ち込まれた依頼を熟していた。仕事を選んでいる余裕は彼女達にはないが、それでも苦労の少ない楽な仕事を基本的には取るようにしている。
しかし、今回の依頼はいつもとは少し様子が違っていた。
「うへ~、今日もヤになる位あついね~」
「ちょっとホシノ先輩! こんなところで溶けないで! まだまだ先は長いんだから!」
「そんな事言っても~、今日はいつにも増してあついよー」
「確かにホシノ先輩のいう事も分かるね。今日は日差しが格段に強いから」
「日焼け止めを塗っておいて正解でしたね~♪」
その日はアビドス全域が異常なレベルの日照りにさらされており、外に出るような用事がなければアビドスの面々も学校で寛ぐか、そもそもの話として今日の登校は無しにしてしまうのだが。
「どうしてこんな日に限って、大きな依頼が飛び込んでくるのよ!」
『仕方ないよセリカちゃん。依頼料にも色付けてくれたし、この依頼はしっかり頑張らなきゃ……』
「それはそれとしてアヤネちゃ~ん、まだ着かないの~、おじさんホントに溶けちゃいそうだよー」
「ホシノ先輩じゃないですけど、さすがにこうも暑いと嫌になりますね~……」
「ん、みんな水分はしっかり取るようにして。こういう時一番脱水が怖いから」
シロコはドローンで索敵を行いながら注意喚起をする。まだ大丈夫だと思っている時こそ、熱中症の危険性が高い事をシロコは良く知っている。その言葉を受け、実働班は各自のスクールバッグから水分を取り出して補給を始める。こんな日に水分補給を怠れば、いくらキヴォトスの人間であっても命の保証はないのだ。
『……あっ、見えてきました! 遠くに見えるあの建物が、売人さんとの合流地点です!』
「うへー、やっとかぁ」
今回の依頼内容はとある業者の商品の仕入れを手伝って欲しいというモノだったが、あの時どうして依頼内容をよく読んでおかなかったのかと、一人アビドス高校に残ってオペレートをしているアヤネは振り返る。少なくとも依頼料がやたらと高い所にはもう少し目を向けるべきだった。
依頼の内容は製品の工場から指定された場所まで商品を護衛して届けるという、特段珍しいモノでは無かった。確かにそこだけ聞けばなんて割の良い依頼なのかと思うだろうが、商品を受け取りに行く工場の場所が問題だった。
砂の上を歩くという行為は、自分が思っている以上に体力を使ってしまう。広大なアビドス砂漠の真ん中に位置している工場から、ジュラルミンケースに入った精密機械のICチップを運んで欲しいという依頼内容。場所が問題とは、つまりはそういう事だ。ただでさえ異常気象で太陽の照りつけが凄まじい事になっているというのに、足場の不安定さも合わさり予想以上にしんどい以来となっている。もっとも、本来の依頼としては照りつける陽射しの事は勘定に入っていない要素なのだが。
「朝から足場の悪い所を歩いてばかりで、さすがに疲れたわね……」
『私がもう少し依頼内容を確認していれば……』
「それは違うよ。みんなで依頼は確認して受けるって決めたんだから、アヤネちゃんだけが悪い事なんてないよ」
「ん、アヤネは一人で責任を感じすぎ。私は契約書に全く目を通してないから私も悪い」
「それはそれでどうなのシロコ先輩……」
セリカからのツッコミに思わず顔を反らすシロコ。確かにシロコは読む書くの仕事よりも、こういった感じに現場に出て身体を使った仕事の方が得意だ。セリカもセリカで書類仕事よりも現場仕事の方が気持ちてしては楽だと思っている以上、あまり強い言葉は言えないのだが。
「ま、荷物を引き渡したら依頼も完了だし、あともう少しがんばろうか」
「ですね☆」
「ん、最後まで油断しないように行こう」
「そうね、ここまで来て失敗なんてシャレにならないし」
『銃の点検も忘れないでくださいね。この辺りはカタカタヘルメット団*1も活動しているとの噂もありますので……』
「んー、嫌なこと聞いちゃったな〜」
アヤネの万が一と思って喋った内容が、ホシノにはどうしても気になってしまった。嫌な予感がするというのは所詮感覚でしかないが、こういう場合の予想というのは大抵当たってしまうモノだ。
ホシノは自らのショットガンを構えて各部に入り込んだ砂を簡単に払ってから、異常が無いかどうかを簡単に確認する。それが終わったら、今度は展開式シールドを素早く取り出せるようにケースのジッパーを開けておく。その後、背負っているジュラルミンケースの状態を確認していく。
不測の事態を予測しろ、とは一体誰が言い始めた言葉か。ホシノは気怠そうな態度を少し引き締め、周囲の警戒の視線を向け始める。その様子の変わり様を察してか、他の対策委員会の面々も簡単に武器の確認を済ませて、緩んだ気分を振り払う。
依頼達成まではあと少し、このまま何事も無く依頼が完了する事を祈るばかりである。
「……結局こうなっちゃったかー」
「ん。私も来るかもしれないって思ってた」
「お、奇遇だねぇシロコちゃん」
「とっても大変ですね☆」
「ちょっと先輩たち! ヌクヌクしてる場合じゃないでしょ!」
『ヘルメット団の第二波が来ます! 10人は確認出来ました!』
「うへー、めんどくさいなー」
悪い予想というモノはよく当たってしまうモノだ。アビドス一行は目標の売人が待機している、アビドス郊外でも一際目立つ電波塔へとやっとの思いで到着──するその寸前で、運悪く巡回中のヘルメット団の斥候とかち合ってしまったのだ。理由は何故なのか分からないが、カタカタヘルメット団はアビドス対策委員会を目の敵にしており、事ある毎に突っかかって来る厄介な集団だ。武器は各自で持ち寄ったモノで統一性は無く、誰かが指揮を取ったりする事もないので、組織としては正に烏合の衆と言って差し支えない連中である事は間違いないのだが……。
「やっぱり数が多い……!」
「潰しても潰してもキリが無いわ!」
遮蔽物に身を隠しながら、セリカは正確な射撃で前方で無防備を晒していたヘルメット団員を狙い撃った。銃弾の雨霰を受けたヘルメット団員はそのまま意識を手放したのか、その場に倒れ伏して動かなくなった。しかし、無力化した団員の後ろからは二人の増援がすぐさまやって来て、戦線の穴を埋めてしまう。
「……っ、盾を使って中央を突破するよ」
埒が明かないと、ホシノは盾を使って強引に前線を押し上げる事を提案するが。
『待ってください! ホシノ先輩は売人さんに渡す商品を持っています! もし万が一があったら……』
「それは……、確かに」
ホシノは依頼にあった品物を背負っている状態であり、中身は頑丈なジュラルミンケースに包まれた状態であるとは言え、もし万が一があれば品物に傷が付いてしまう可能性だってある。だが、それならば持ち手を変えればいいだけの事だ。
「そしたら、シロコちゃんにこれを任せても良いかな? おじさんが盾を使って相手の注意を引くから、その間にノノミちゃんは奴らの側面に回り込んでヘルメット団の中央を崩しちゃおう」
「はい! 任せてください♣」
「私とセリカは先輩の援護をする」
「シロコ先輩は一歩引いた位置で援護してて! 品物に傷は付けられないわ!」
「うーん……、じゃあドローンを使って援護する」
作戦は決まったようだ。ホシノ達が敵の注意を引いている間に、ノノミの弾幕力で敵を突破する。急ごしらえの作戦にしては中々に完成度の高い作戦であり、統率もクソもないヘルメット団に対応する力は間違いなくないだろう。
「アヤネちゃん、敵の動きはどう?」
『じりじりと戦線をこちらに寄せてきています。このままでは包囲されます!』
「時間はないみたいだねぇ。それじゃあ、いこっか」
ホシノの一言に全員が頷く。ノノミは敵に悟られないように遮蔽物を利用しながら敵の側面を取るように移動を始め、ホシノは展開した盾の横にあるアタッチメントにショットガンを固定して、敵の前に躍り出る。たちまち銃弾の雨を浴びせられるが、完璧に盾で受けきっている為にダメージはほぼ皆無である。
そのすぐ後ろの遮蔽物からリロードを終えたセリカが狙いを外すことなく、確実に一人ずつダウンを取っていく。シロコはさらにその後方、一人孤立する形にはなったがいつもの撮影用のドローンを手動操作モードで展開。*2ミサイルによる援護を行った事で、既にヘルメット団は恐慌状態に陥っている。
その隙を見逃さず、移動を終えたノノミの『リトルマシンガンV』の圧倒的火力が襲い掛かる。銃の都合上狙いは付け難いが、散らばった敵を面制圧するには持って来いの武器だろう。毎秒50発を超える発射レートで撃ち出される銃弾から逃れることは出来ず、一人また一人とヘルメット団が地面に横たわっていく。
十字を取っている事もあり遮蔽物もほとんど意味を成していない為、最早どこにも逃げ場は無くなっていた。
『全てのヘルメット団が沈黙しました!』
5分もすれば対策委員会以外の動いている人影はそこには無くなっていた。この隙を逃すまいとホシノはすぐさま合流地点へ向かうように指示を飛ばす。
「よーし、今のうちに行くよー」
「りょうか~い♪」
「シロコ先輩急いで!」
「ドローンを回収したらすぐに向かう」
此処での戦闘は終了したと判断し対策委員会は各自、売人との合流地点を目指して走り始めたが、シロコはドローンを回収してからでないと行動出来ない以上、ワンテンポ遅れた動き出しになる事は避けられない。まだ活動できる残敵や伏兵が居ないのであれば、それ自体に何も問題はない。
──しかし。
「油断したな! アビドス!」
「これで報酬はアタシらのモンだぜ!」
「っ! しまった……!」
ドローンを回収し終わって、大きく出遅れた動き出しになってしまったシロコを狙ってなのか、単にたまたま伏せていた場所が良かったのか。焦っていたシロコは伏兵に気付かずに背後を取られてしまっていた。せめて品物に傷を付けまいと慌てて振り返るも、ヘルメット団の銃口はしっかりとシロコをロックオンしていた。
この距離では、最早避ける術はない。
「シロコちゃん!」
ホシノの悲痛な叫びが耳に届く前に、発砲音が響き──
『君らしくもないな、シロコ』
「……えっ?」
──渡る事は無かった。
それよりも先に、今ここで聞こえるはずのない男の声がハッキリと耳に届いた。それと同時に肩に掛けていたスクールバッグから、先ほど収容したモノとは別のドローンが
遥か彼方、こことは地続きではない遠い場所と縁を紡いだ事で存在する、幻の機体。
「あれ、なんで撃てねぇんだ!?」
「お前トリガー引けてないぞ! 整備不良かよ!?」
「い、いや違う! ゆ、指が動かない……!」
「指どころじゃない、身体が少しも動かないぞ!?」
『君たちには出来んよ、力を持たない俗人では』
シロコの目の前で銃を構えているヘルメット団たちは、その体勢のまま微動だにしていなかった。明らかに奴らの身に異常が起こっているのは事実なのだろうが、それがどういったものなのかシロコには見当が付かなかった。
奴らの真上にはドローンが滞空しており、シロコにはそれが紫色の禍々しいオーラに包まれている様に見えていた。
『君ならばこういう力の使い方も出来るはずだ』
「耳元で聞こえる、この声は……」
一か月近く聞いていなかったが、この尊大な喋り方はしっかりと耳が覚えている。
『また会えるとはな。シロコ』
「……え、嘘。どうして」
様々な感情の織り交ざった、困惑の声を上げる事しかシロコには出来なかった。
依頼は無事に完了したのは良かった。
あの後、動けなくなったヘルメット団に銃弾をお見舞いする事はさすがのシロコでも躊躇った為、交戦現場に放置したまま売人の所へと向かったシロコ。心配した対策委員会のみんなに揉みくちゃにされたのは最早言うまでもないが、その上空には常に紫色のドローンが追従していた。
無事に品物を引き渡して、ヘルメット団の襲撃を退けた事もあり割高の報酬を受け取った対策委員会は、学校に戻った後に解散。各自の帰路に就いた……のだが。
やはりシロコの隣には、別世界の技術で開発された特注のドローンが独りでに漂っていた。
「どうしてドローンからシロッコの声が聞こえるの? ううん、その前にどうしてこっちの世界に?」
『話せば長くなるが、端的に言ってしまえば……』
そこで一旦話を区切ったシロッコ。彼の身に起こった事を彼自身深く理解している訳ではないが、一つだけ確実に言える事があった。
『私は、既に生きている人間では無い』
「っ! それって……」
『君と別れてから私の方でも色々あったのだ。大きな戦争にまで発展し、そして私は敗北した。より大きな力と素質を持った者に敗れた』
「そんな……」
最終決戦で『彼』に敗れたシロッコの周りには、最早誰の姿もなかった。自分が目を掛けていた少女も、自分の力を感じ取り近づいてきた女も、誰一人として彼の周りに残る事は無かった。
女たちの下へ戻った、その結果とも言えるのがこの結果なのかもしれない。
『最早、私に肉体と呼べるモノは無く、魂だけが抜け落ちた存在として漂っていた所をこのドローンに引っ張られた、といった所だろう。つまりは、ドローンが私の身体という事だ』
「どうして、このドローンに……」
『理由ならばある。このドローンには私の情報を解析し、研究材料としたAI技術のデータが認識されてあった。恐らくは、そのデータと私の親和性が限りなく高かった事が原因だろう』
「うーんと、よく分からないけど……。何とか生き残ったって事?」
『……まぁ、そういう事だ』
難しい理屈はシロコには分からないが、何にせよこのドローンの中にはシロッコの魂が宿っているという事は理解できた。
『きっとこうなったのも何かの縁だろう。これからは、このドローンで君を支える事とするさ。どの道、他に何かが出来る訳でもない』
「そういう事なら、またよろしく、シロッコ」
『ああ、こちらこそよろしく頼む、シロコ』
そんなこんなで、シロコの隣には謎に自動追従するドローンがぷかぷか浮かび続ける事になったのだった。
すいません、アビドス編入ったとか言ってますけど嘘です。
話の都合上、次回辺りから本編入ります。
本当ならプロローグも何かしら描写したかったですけど、めんどくさいし、シロコも関わりないし、残念ながら割愛です。