中間テスト最終日、最終科目は物理基礎。
「終わったあー! 部活ー!」
チャイムの音と教師の掛け声と共に、叫ぶ誰かの声が遠く廊下を通じて響くのを、月島は冷めた気持ちで聞いた。
帰りの挨拶を適当につぶやき廊下に出ると、丁度日向が体育館に面した窓に手をかけていた。一見自殺志願者だが、入学してふた月も経てば周囲も「ああ、また日向か」という反応をする。
鞄を肩にかけ、靴は上履きのまま、きらきらした笑顔を外に向ける。気付いた教師が「こらー! 日向ぁー!」と声を上げるのに慌て、「ごめんなさいっ」一言告げて、重心を窓の外へ。
そのまま、小柄な体躯を目で追う。
体がふわり、と重力に逆らう。二階の窓から羽根のように浮く。重さよりも空気抵抗が勝ったかのように、髪が風に揺れた。放物線を描いて中庭に降り立った後で、逃げるように部室棟へ逃げ込む。
隣で山口がにしし、と笑う。
「またやってるね、日向」
「いい加減飽きないのかな」
日向待てボゲェ!
騒ぎに気付いた影山が叫ぶ。先日は彼の方が固有魔法を使って一番乗りしていたのだから、どっこいどっこいだ。
「僕らも行こうか」
黒いスポーツバッグを手にして歩き出すと、後ろから楽しそうな幼馴染が答える。
「そうだねツッキー!」
魔法使いの割合が増えつつある昨今、「魔法覚醒者と非覚醒者が等しく活躍できる」とされるスポーツは、特に魔法使いに奨励されている。指定魔法学校に指定されている宮城県立烏野高校も、校則で部活動を生徒全員に義務付けていた。
烏野に通う生徒は、全員が魔法覚醒者、通称魔法使いだ。義務教育期間中に固有魔法に覚醒した子供たち。この固有魔法というのが厄介で、人によって効果や傾向にばらつきがある。毒にも薬にもならない固有魔法も多いが、そうでないものの効果は日常生活の概念自体を変える。技術として後天的に魔法を身に着ける手段が未だ確立していない現代において、固有魔法は超能力と同義だ。
日向翔陽は、同じく魔法使いである月島から見ても反則級の固有魔法を持っていた。真面目なスポーツマンが日向の固有魔法を聞いた時には、どうしてお前がバレーをしているんだと詰りたくなるだろう。建前上公式試合では魔法封じの枷を付けるものの、やはり固有魔法による多少の肉体的優劣は存在するのだ。
部室棟に行くには、体育館の脇を通る必要がある。通りすがりに扉の隙間から見たところ、すでに変人コンビはボールを出して自主練を行っていた。
「もう一本!」
高く、高く、少年は地を跳ねる。
その姿を見て、月島蛍は目を逸らした。
日向翔陽の固有能力は「飛翔」。
どこまでも高く跳ねる、それが彼の固有魔法だった。
*
日向=光、できれば自然光に当たるとどこまでも高く跳ねる「飛翔」の能力。月島などは「光合成」と揶揄する。自分が魔法使いだと知ったのは中三で、かなり遅かった。家族は非魔法使いで、烏野にずっと通いたかったので魔法使いだと知った時にはすごく喜んだ。いつ魔法に覚醒したかは自分でも覚えていない。魔力を無限に蓄える性質を持つため、光がある限り疲れない。バレー練習中は制御グッズをつけているので跳躍力は普通の人間と同じだが、魔法の性質から空中での身のこなしが上手で、それをバレーに生かしている。