「おー、お前北一中か! なるほどな!」
あっけからんと笑う西谷に、何が「なるほどな」なのか判らない日向は首を傾げた。
「北一だと、なんかあるんですか?」
「あ、日向は魔法使いの家系じゃないんだっけ」
菅原が思い出したように言った。
「それなら知らないだろうけど、北一って魔法使いもそれ以外も入れるんだ。魔法使いの方では有名なんだよ」
家系的に魔法覚醒が期待される子供を入れたがる親が多いのだという。
「え、じゃ、お前の家って魔法使いなの」
「父親がそうらしい」
らしい、というが、影山自身も半信半疑のようだ。
その曖昧な物言いに、日向がむ、と顔をしかめた。
山口は、そのはっきりした言い方に疑問を持った。
「らしい、って?」
影山は困ったように顔をそむけた。
「俺の前で魔法を使ったことがないんだ。そういう、魔法らしい」
「魔法封じる系? その割には日向が元気だけど」
月島の言葉に、影山は「違う」と言った。皆の視線が集中し、居心地が悪そうに身じろぐ。
「俺の魔法、奪うんだよ」
「奪う? それが本当なら増幅系じゃん」
「すっげー! 俺、増幅系って初めて見るかも」
純粋に興味を持った様子の一年を見て、菅原は自然と止めていた息を吐いた。影山は三人の反応に人相が悪くなっているが、あれは照れているだけだろう。
『奪う』固有魔法。『北川第一のコート上の王様』。幾つかの噂話。「北川第一には化け物がいる」。
――強奪、いや……あの調子なら『支配』か?
単なる増幅系魔法なら、それほど忌避されはしない。烏野には純粋な増幅系の縁下がいる。比較すれば判る。魔力感度の高い菅原だから、何となく、判る。
奪われる、感覚。
*
「おい、お前。何やってんだ」
影山が、一人の挙動不審な男性に声をかけた。
その言葉を聞いて、影山の後ろを歩いていた月島と山口は初めて男に気付いた。男は懐に明らかな女性ものの鞄を抱えていて、それが盗品である可能性に月島はすぐに思い至った。
夜だった。街灯が煌々と光を放っていた。駅員が一人いる以外は、ほとんどひとけのない駅前だった。男は逃げ出そうとしたのだろう。しょせんは田舎、人目を避けるのは容易い。
しかし、それを影山は許さなかった。
「おい、聞いているのか」
傍から聞いていても物騒な声音に、山口が戸惑いながら声をかけようとするのを月島は手で引きとめた。
「……答えないなら、いい」
ぎらり、とした声音。砥ぎあげた鉄にも似た声で、彼は最終宣告を下した。
「答えさせるだけだから」
小さく何事かをつぶやくと、ぐるる、と獣の声が聞こえた。街灯の下で、黒い何かが蠢いた。
苛烈な独裁者、コート上の王様。
その異名は、バレーのプレイスタイルだけでなくその固有魔法を揶揄したものなのだと、二人は初めて気付いた。
影山の足元から生まれた漆黒の獣が、するりとその姿を現す。大狼にも山犬にも似た姿は闇一色でどこを見ているのかうかがわせない。巨体はするりと夜風に馴染み、男の影に入り込む。
「そんなんで俺が、……っ!?」
男が虚勢を張ろうとするが、その口がぴたりと止まる。男の表情に見知らぬものに対する恐怖が現れるが、その体はぴくりとも動かない。これが影山の魔法。
「王様!」
視線で人を殺しそうな人相の影山に月島が声をかけると、今初めて気づいたといわんばかりに彼は視線を動かした。怯える山口が目に入ったのだろう。
「魔法使い狩りに会ったのは判るけど、やりすぎは良くないデショ」
声をかけながら、ああ、もう大丈夫だろうと内心呟く。一度周囲の様子が目に入れば、賢い彼のことだ、やりすぎることはない。
「山口、ちょっと誰か呼んできてよ」
「ま、任せてツッキー!」
表情をこわばらせた幼馴染に頼むと、がくがくと頷きながら依頼遂行に走っていく。山口の背中を見送って、月島は影山にもう一度声をかけた。
「王様、ここじゃ邪魔デショ。その人を移動させることはできないの?」
「……できる」
「なら動かしてよ。僕たちの中でそういうことができるのは王様だけなんだからさ」
「王様って呼ぶなよ」
普段通りの悪態をつくまでに回復した影山に、ほっと息をつく。遠くで山口が、近くの駅員と共に走ってきた。
*
影山=影使い。光源がないと使えない。「繰影」あるいは「支配」。自分の意のままに相手の魔法あるいは体を従わせることができる。勿論、体をあやつる際には無理に従わせ続けると相手の心が壊れる。覚醒は中一の時。北一中で三年間過ごして魔法の制御はできるようになったため、無理に烏野に通う必要はなかった。魔力制御についても天才的で、通常何かを操る魔法は極めるのが難しいが、他人の体を自分のもののように操ることができる。その器用さから、数々の人間に注目されている。色々デメリットが多い魔法で、概要の割に危険度は低い。彼曰く、相手を従わせる時の感覚は思い通りにボールを操る時に近いらしい。バレーと魔法は一切関係ない、正真正銘の王様。