「可愛い幼馴染がいますどうしますか?」「曇らせます」 作:空色
幼馴染は天真爛漫な少女だった。よく言えば純粋で無垢、見方を変えると無遠慮。容姿は非常に整っており、水色のロングヘアに大きな瞳を持った子供だった。
明るく純粋で何でもできる、誰とでも仲良くできる、そんな少女だった。二つ違いで俺を弟のように思っていたのか、時間があれば俺にちょっかいを掛けてくる子供でもある。
個性の関係で俺は人の記憶が覗ける。他人のことを理解できるとその個性も使えるようになる。そういう個性を持って生まれた。
正直、俺は子供らしくない子供だったと思う。10歳になるまでは個性のコントロールが不安定で意図せずに他人の記憶を追体験することになった。中にはヒーローやヴィランの記憶も含まれ、刺激的な物が多かった。俺は、よく言えば達観した子、悪く言えば諦観し捻じれた子供だった。
故に、少女の辿る可能性も予測していた。好奇心旺盛で、他人の心に土足で入り込み他人への理解が薄い妖精が、中学生という狭い世界で異端になるのは必然だった。
少女は、強個性を持っていることへの嫉妬から周りから心無い言いがかりを付けられていた。
何度か少女の相談には乗ったことがある。別に気にしなくてもいい、俺はそのままの君が好きだ、きっと君を受け入れる友人ができる、今は俺がいるでしょなど、その場凌ぎの綺麗事を言った。
正直、幼馴染のことは好きでも嫌いでもなかった。しいて言うなら、顔はいい。くらいである。しかし、中学時代、周囲に煙たがられて傷ついた少女を見て、ねじれへの俺の印象は変化した。
天真爛漫な彼女が陰るのはここまで美しいのかと。彼女の情緒をぐちゃぐちゃにしたら、もう一度彼女は曇るかな?
気が付けば俺は波動ねじれに興味を持っていた。
「個性ってさ、昔でいう魔法とか超能力なわけじゃん?何で個性って呼ぶんだろうな」
中国の軽慶市での「発光する赤児」の報道以来世界各地で超常現象が報告され、世界総人口の約8割が超常能力“個性”を持つに至った超人社会。“個性”を悪用する敵(ヴィラン)を“個性”を発揮して取り締まるヒーローは人々に讃えられていた。
「相変わらずイカレた世界だよな」
まったくもってふざけている。生まれで格差が付く不平等な世界。ヴィランの背景は気にされずにヒーローが力を振るうため、世の中は何も改善しない。ヴィランもヴィランだ。力任せに力を振るって不満を訴えるだけ。屑も多いがまともなやつはいるはずなのに、主張がないせいで一括りにされる。思考を止めた民衆は完全懲悪の演劇を求め、ヒーローもどきはそれらにこたえて金をもらう。本当にいかれた世界だと思う。
「黙っていろ。お前とそこまで親しくなった覚えはないぞ」
「そう言わないでくれよ、オーバーホール。貴方のことは理解できるんだ。仲良くできるはずなんだよな」
「俺とお前は協力関係なだけだ」
俺の視線の先には、一人の男が立っている。酷薄さを感じさせる細い眼つきに、若干赤みがかった黒髪のショートヘアーの男。トレードマークの赤いペストマスクを着用し、上半身は紫色のファー付きのモッズコート、黒シャツに白ネクタイを身につけ、下半身は黒のスラックスで白いスニーカーを足首までの靴下を履いて着用している。また、常に白手袋を身につけている。八斎戒の組長、オーバーホール様だ。
「仕事の話をしよう。どうやって作ったかは知らないけど、貰った個性を消す弾丸の実験について」
「………どうだった」
「効果はあるけど、実戦で使うには強度が欲しいね。火薬で破損する、軌道が一定じゃない、脆い、問題は多い」
「誰に使った」
「ヒーローと敵。どっちも戦闘タイプじゃないから通用したけど、あそこまで近づかない当たらないのはダメだ」
「………そうか。改良は玄野とやってくれ」
「自分は弾丸の中身を研究するので忙しいって?」
詮索をすれば殺すと言いたげだが、俺が売っている情報はヒーローに目を付けられている人間には必要不可欠だ。
「まあ、予想は付いているんですけどね。貴方の記憶を覗いた時、一瞬だけ見えた女の子。途中で反撃されたから、全部は見れなかったけど幼女の個性が材料ってとこかな」
だとすれば、理解できる。治崎は幼女の個性を利用することで、個性を破壊する銃弾と個性を復活させる血清という、2つの薬品の開発に成功した。
需要の向上に伴う莫大な利益は全て
「
「殺されたくないんでね。詮索はしませんよー」
「何ですか?この飾りつけ」
「理、雄英合格祝いだね」
俺が帰宅すると一人暮らしの部屋に、先客がいた。通形ミリオと天喰先輩である。
「受験日明日なんですけど」
「ミリオなりの激励だよ」
俺と同じく困惑を隠せない同類が一人。鋭い眼つきにとがった耳、黒髪が特徴の男子生徒。威圧的な印象とは対照的に、本人は壁に視線を向けて話さないと緊張してしまう極度のあがり症ではある。
「天喰先輩、止めてくださいよ」
「理、僕に止められるわけないだろう?」
「もっと自信もって」
「俺はその自信がうらやましいよ」
「先輩が言うと嫌味ですよ?2年生でもトップクラスの成績らしいじゃないですか」
「誰から聞いたんだ?」
「ねじれ」
「あぁ、なるほど。俺にプライバシーはないんだね………」
ソファーにもたれるようにして天を仰ぎ、ため息を吐く先輩。
「ヒーローは人生を晒し上げるお仕事でしょ?」
「ひどい偏見だ」
「アハハハハハハ、環は理と仲が良いな」
通形先輩の笑い声と同時に扉が開く音がする。俺の部屋の鍵を開けた犯人がお出ましだ。
「お菓子買ってきたよ!!!」
波動ねじれのご登場だ。ねじれはビニール袋を片手に部屋に飛び込んでくる。買い出しに行っていたようだ。通形先輩と天喰先輩は少し俺から距離を取り、ねじれがその間に座る。
「それじゃあ、始めよっか」
「マジで合格祝いするの?落ちたらやばいんだけど。俺結構座学は頑張ったけど、それでも合格できるとは限らないよ?」
「私知ってる。そーゆの無駄な心配っていうんだ」
「先輩方、俺が落ちたらちゃんと慰めてくださいね」
通形先輩と天喰先輩に視線を向けると、彼らは苦笑いで菓子の袋を開いた。
「勉強してないなら落ちるだろうけど、ねじれちゃんがマンツーマンしてたし問題ないでしょ?」
「落ちると波動さんの機嫌が壊れるから、頑張ってほしい」
俺は再度、ねじれの方を見て溜息を吐く。彼女は俺の手を握って、目を合わせる。
「大丈夫!理ならできる!私知ってるから!」
にっとねじれは太陽のように笑った。首から上に熱がへばり付くのを感じた。ああ、この感情に何と名前を付ければいいのだろうか。しばらく静かな熱が俺を支配した。
雄英の試験日がやってきた。筆記試験はまあたぶん大丈夫だと思う。ねじれに散々教えてもらっていた。
『今日は俺のライブへようこそぉ!!!』
広大な講義室。そこで試験説明されるのだが、その第一声がこれだ。ボイスヒーロープレゼント・マイクが名に恥じない声を室内全体に響かせる。しかし返ってきたのは静寂だった。
『オーケー! オーケー!緊張してるんだな!!』
しかし、そこはラジオ番組もやっているマイク。お構い無しと言わんばかりに説明を進めて行った。
『この後は事前に渡した入試要項通りだ!!持ち込み自由の模擬市街地演習!!』
相も変わらない声量のマイクは説明を続けると、試験の内容は以下なモノだった。
制限時間は10分。演習場には1~3Pの三体の仮想敵がおり、それを行動不能にしポイントを稼ぐ事が受験生の目的。謂わば、市街地戦を想定した実戦試験。
「質問よろしいでしょうか! プリントに記載されている4種目の仮想敵についてです!――これに関する説明がなく、もし誤載ならばこれは恥ずべき痴態!どういう事か説明を求めます!」
隣で叫ぶ様にマイクへ説明を求める受験生を見て、うるさい奴だなと漠然と思った。緊張が場を包んでいた会場。それをマイクに劣らずの声で壊した様なもの。
その受験生の行動は更に上を行く。声でか受験生は突如として振り返り、一人の受験生へ指差した。
「ついでにそこの君!――そう縮れ毛の君だ!! さっきからボソボソと気が散るじゃないか! 物見遊山ならば立ち去りたまえ!」
その少年は周囲に笑われながらも小さく謝っており、それと同時にマイクからの返答も始まる。見ていて気分が悪い。
『オーケーオーケー! そこの受験生、ナイスお便りサンキュー! 説明しちまうと、この四体目は、0Pのお邪魔虫だぜ』
マイクの言葉が会場に響き渡る。この四種目の仮想敵は得点0で、しかも倒すのはほぼ不可能。文字通り邪魔なだけの仮想敵であり、相手にしない方が良い。
プレゼント・マイクはゆっくりと手を叩いて己へと注目させる。
『それじゃ俺からは以上だが……受験生リスナーへ我が校の校訓プレゼント!――かの英雄ナポレオン・ボナパルトは言った……真の英雄とは人生の不幸を乗り越えて行く者だと』
『Plus Ultra!!いい受難を』
校訓を聞きモチベーションが下がったことは内緒である。
『よーい! スタァァァァァァトォォォォオオオ!!!』
プレゼントマイクの声がだだっ広い試験会場によく通る。毎年のこと、スタートの言葉に反応できる生徒は少ない。いや、ビクついて反応している生徒は多いが、一歩踏み出す。その動作をする生徒は毎年いるかいないか。なのだが……どうやらこの声に反応できる受験生は、1人の教師が確認できるだけで2名存在した。
1人は去年ヘドロ事件で一躍有名になった、折寺中学の爆豪勝己。かなり注目が集まっていたらしい。そしてもう1人は如何にも平々凡々と呼べなくもない受験生。資料の個性欄にはこう書かれている。
個性『コピー』
「驚いたね、あれはエンデヴァーの炎だ」
この場で1番権力のある根津の発言に教師陣は頷いて返す。熱エネルギーを一点に集め、指向性を持たせ爆発させる赫灼にて、周囲を蹂躙している。
「彼の個性って無条件にコピーできるのかしら」
「……本人も条件をわかっていないと記載があります」
ミッドナイトの言葉に反応するイレイザーヘッド。そんな会話を聞きながらオールマイトはOPロボを前にした理を見ていた。誰もかれもが逃げる中、彼だけはその場に佇んでいる。
『ジェットバーン』
一撃で敵を破壊する理を見て、彼は懸念を抱く。複数の個性を切り替えて敵を粉砕する彼が、オールマイトには危うく見えたのだ。