悪徳転生者討伐機関「AMORE」~不死身少女とTS娘のマルチバース冒険譚~   作:カオス箱

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第2章ラストになります。
が、タイトル通りほとんど第3章へのインターバルとなる回です。





●次元の狭間
世界と世界の間に広がる異空間。
宇宙空間と同等の環境に加え時空のねじれが頻発するため、専用の装備がなければ数秒で死に至る危険領域。
ザインに関しては次元の狭間での活動を前提とした人体改造を施されている為、生身で行動可能。


interval:ほんの僅かな間のお別れ

 

 地下牢

 

 

「……………………」

 

 神坂悠希は、石壁の前で座り込んでいた。

 

 目の前に開かれていた空間の亀裂はもう閉じてしまった。憧れの人(めぐる)はもう先にいってしまい、その姿はもうどこにもない。

 アスターとフリスタは転移者達の保護や奴隷商人達の捕縛といった事後処理に奔走されている。

 

 周囲の状況が動きだしたにも関わらず,悠希はその場から動かない。

 否、動けない。

 

(なんで………………わたしはここに居るの? )

 

 この有り様はいったいなんだ? 

 なんで、自分の足は動かなかった?

 何故手を伸ばすことしかできなかった?

 仲間が捕まって、憧れの人に置いて行かれて。だというのに、自分はここで座り込んでいるだけで。

 

 憧れていた、恋焦がれていたあの人に追いつきたいと思っていながらも、それを叶えられるだけの力が自分にはない。

 情けなくて、悔しくて。

 でも、その感情は何の意味もなさないことも知っているが故に、悔し涙を流すことすらできなくて。

 

(わたしは、何のためにここにいるんだ――)

 

 誰にも届かない無音の号哭が、地下牢の空気を震わせる。

 しかし。

 その声なき声に価値はない。

 

 

 

 


 

 

 

 徐々に意識がクリアになる。

 どうやら、数秒の間だけだが意識が飛んでいたらしい。

 

「う……………………」

 

 氷牙の目の前に広がるのは、不気味に蠢動する極彩色の異空間。そして、肌を通して感じる冷たさ。

 手を伸ばしてみると、ガラスのようなものに接触する。

 氷牙は今、カプセルの中に入れられてザインに拉致されているのだ。

 

「ここは次元の狭間。細胞質基質のごとく、世界と世界を隔てる壁の内側。常人では決して生存することは叶わない死の領域だ。死にたくなきゃじっとしてるんだな」

 

 カプセル越しに声が聞こえる。

 顔を上げると、ザインが飛行していた。

 彼の指先からは細い糸のようなものが伸びており、氷牙の入ったカプセルを牽引している。先程の糸の包囲とあわせて考えると、ひょっとしてこれがザインの能力なのだろうか?

 

「………………俺を捕まえてどうする気だ」

「お前を見つけ出すのに随分と苦労した。まさかそのような姿となって転生し、あまつさえAMOREの犬に成り下がっていたとはな…………運命ってのはいつも俺の敵に回りやがる。一度はしくじったが、次はない」

「お前……俺を知ってるのか? 」

「知ってるも何も――お前を殺したのは俺だぞ」

「ッ‼︎  」

 

 ザインのその言葉に、氷牙は衝撃をうける。

 転生する前後の記憶は曖昧になっているのだが、あの時氷牙はギラつく糸みたいなものに脇腹をかっ捌かれていた記憶がある。

 その犯人が、ザイン。

 

 トバスを殺した時と同様に、殺人を犯しながら平然としていられるその精神性を、氷牙はどうしても受け入れられない。ましてや、自分を一度殺した相手となるとなおさらだ。

 

「元より俺達はお前の中にあるその力を頂くために命を狙っていたんだ。お前個人の命は必要ない、殺した方が扱いやすいからな。だが結果はこの通りだ。どうやらただお前を殺すだけじゃあ俺達の目的は果たせないみたいだ」

「この力…………自由断在(カッターライフ)のことか? 」

「――やっぱりだ。AMOREの奴らはその力の真価を知らない。秩序の維持とかいうくだらないものの為に使っていいもんじゃないんだ、その力は」

「じゃあなんなんだよ? お前らは何のために俺を――」

 

 氷牙がそう言いかけた時。

 ベシュンッ‼︎‼︎‼︎ と、歪んだ銃撃音の様なものがしたかと思えば、ザインの頬を何かが掠めていった。

 ザインは、攻撃が飛んできたであろう後方を睨みつける。

 

 傷つけられた頬からは血が出ることはなく、代わりに銀色の機械部品らしきものが露出する。

 こうして見ると、先程のロケットパンチといい、彼は本当にサイボーグなのだという認識が強くなる…………気がする。

 

「――誰だ」

「オレだよ馬鹿野郎。うちの仲間攫うなよ。天井ネタ2回もやられてこっちは辟易してんの」

 

 ザインの問いかけにそう答えながら姿を現したのは、輪道めぐるだった。

 秒単位で時空が乱れる危険領域を、まるで水の中を泳ぐかのような感覚で追跡してきている。

 そんな化け物を目にしたザインは、目に見えて平静さを失っていた。

 

「コイツ――次元の狭間に生身で入ってきやがった! 馬鹿なのかっ、生身で宇宙遊泳をするようなもんだぞ⁉︎ いくら不死といえども痛覚や温度感覚は常人と変わらないはずッ……それなのに何故――」

「愚問だな、この程度不死じゃなくても耐えられる。そうでなきゃAMOREの仕事(ヒーロー)なんか務まらない」

 

 めぐるは涼しい表情のまま、指鉄砲を構える。

 死なないとはいえども途方もなく苦しいはずなのに、めぐるは微塵もそんな素振りを見せない。

 

 そして、ブォンッ、と。

 めぐるの指先の空間が歪んだかと思えば、今度はザインの手の甲が数ミリほど消し飛んだ。

 

空間弾(バウンドバレット)。歪んだ空間が元に戻る際に生じる反動を利用した衝撃弾だ」

「ふざけやがってッ! テメェみたいな化け物に邪魔されてたまるかっ! 」

「化け物で結構だ――誰かを守れるならば、オレは進んで怪物にでもなってやる」

 

 ザインの指先からギラつく糸が何本も伸ばされ、めぐるを貫かんとする。

 が、めぐるは裏返りの円環(リバーシブル・メビウス)で防ぐことすらせず、そのまま攻撃を受けながら追走してくる。

 戦術だの作戦だのといったものとはかけ離れた、不死性にモノを言わせたゴリ押し。

 当然ながら、ザインはめぐるの行動に疑問を感じる。

 

「――何故避けない? 」

「決まってんだろ、こうする為だよッ! 」

 

 ザインが疑問を口にした直後、めぐるは自身を貫いているザインの糸の束を掴むと、そのまま糸を一気に自分の方へと引っ張った。

 ザインの糸は彼の指から出ている。

 この状態で糸を丸ごと引っ張られれば、当然ながらザインの身体も、そして彼と糸で繋がれた氷牙の入ったカプセルも、全部まとめてめぐるの方へと引っ張られてゆく。

 

「糸を引っ張って引き寄せるッ、結局なところこれが糸使いを潰す一番楽な方法なんだよねッ! 」

「ッ、行ける! 」

 

 糸を介して、氷牙・ザイン・めぐるの三者の距離が一気に詰まる。

 引っ張られれたことで体勢を崩したザインに一撃を叩き込むべく、めぐるは拳を振り抜く。

 裏返りの円環(リバーシブル・メビウス)を使ったコークスクリューパンチ。まともに食らえば内臓がかき混ざるような衝撃をくらってダウンする。サイボーグだろうと、体内をめちゃくちゃに掻き乱されて無事でいられるはずがない。

 ――勝った。

 そう確信しながら、めぐるはザインの腹部へと拳をぶつけ――

 

「――糸解(シカイ)

「お」

 

 ――ようとした瞬間。

 ザインの身体が無数の糸の形となってバラバラに解け、めぐるの拳をすり抜ける。

 そして。

 

分糸断(ディバイド)ッ‼︎ 」

 

 ザインの身体を構成していた無数の糸が、一斉にめぐるに襲いかかった。

 裏返りの円環(リバーシブル・メビウス)による防御は間に合わない。そもそも、めぐるは能力を使った防御はあまり得意としていないため、やったところで、これだけの密度の攻撃を防ぎ切ることができない。

 

 ――刹那。

 音を立てる間すら与えられずに、めぐるの身体はバラバラに切断された。

 

 

「めぐる……………………………………」

 

 氷牙の目の前で、めぐるがバラバラにされてゆく。

 それでもめぐるは諦めなかった。

 斬り飛ばされた左足で、氷牙の入ったカプセルとザインを繋ぐ糸を切断し、氷牙を解放しようとする。

 

 だが、そこまでだった。

 ザインの両手から伸ばされた糸が、バラバラになっためぐるの各パーツにぐるぐると絡みつき、包み込んでゆく。

 輪道めぐるは不死身。ならば、殺さずに無力化すればいいだけの話。この世には、そのための力や技術はいくらだって存在するのだから。

 

「あ――」

「しばしのお別れだ氷牙。大丈夫、さっきと立場が逆転するだけ。何も心配はいらねえよ」

 

 それがめぐるの最後の言葉だった。

 いつものように不敵な笑みを浮かべながら、めぐるの頭部は完全に糸で覆い隠される。その有様はぱっと見巨大な毛糸玉にしか見えない。

 

「チッ、余計な邪魔が入ったッ! 」

 

 糸で拘束しためぐるの各パーツを引き寄せながら、ザインは氷牙の回収に向かおうとする。

 が、その時。

 バリバリバリバリバリッ‼︎‼︎‼︎ と、氷牙達の真下の空間が激しい音を立てて砕け始め、下に大穴を生成し始めた。

 同時に、氷牙達は強い力で大穴へと向かって吸い込まれるように落下を始める。

 

「しまった! 先程の戦いの余波で空間の亀裂が開いたかっ⁉︎ まずい、このままだと他所の世界に不時着するッ――」

「まっ――」

 

 グオンッ、と。

 氷牙の入ったカプセルが、なすすべなく穴へと落ちてゆく。

 

 氷牙は、ザインに捕らえられためぐるへと手を伸ばす。

 しかし、届かない。

 

 氷牙の手は、カプセルの中で虚しくも空を掴む。

 そして、その背中の下には見慣れた灰色の街が――

 

 

 

 

 

 

 

 




第2章はここまでです。
あまり間があかない内に第3章をあげたいとは思っております。
鋭意執筆中ですのでお楽しみに!
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