これはあくまで確認作業であって   作:古守

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おまけという名の蛇足


人たらしの素養

 楽しそうだから分かると言った時の表情とか、泣いていた理由とか、この人マジでいつから俺を? とか考え始めると自滅するのでそういったものは追々だ。ずっと前から、という言葉をくれるからには、少なくとも夏のコンビニで会った時……より前からではなかろうか。であれば今太刀打ちできる話でもない。

 手っ取り早い攻め手はバグの利用だと思うが、正直全てに自分が関与しているとも思えておらず、どういった内容の話でフリーズしたりテンパったりしていたかもそう思い出せるものではない。触れるとバグりがちなのはなんとなく把握もしているが、……意識した後だと憚られるものもあるにはある。ただ、まあ。

 

(少しずつでも知りたい。し、……んー……慣れてほしくも、あるか? あるな)

 

 そのままで良いという全く焦りのない俺と、気持ちを無碍にできない俺が鬩ぎ合いを繰り返しながら出した答え。何れにせよ蔑ろにはしたくないし、尊重する気持ちに変わりはないわけだ。

 何も今すぐキスしろだの抱きしめろだの押し倒せだのという話でもない。第一お花畑るんるんハッピーハッスルな恋愛的思考回路でもなければ容量の大部分をクソゲーとエナドリ漬けにしたアオハルを送る俺、単純に親和性が低い。仮想現実とはわけが違うのだから適正レベルを見極めて進むのが賢い選択ってもんだ。そうだろ?

 

 大凡の方針を整えつつゾンビよろしく頭を擡げると、ほっとした様子の玲さんが視界に映る。急に動かなくなるから驚きました、と分かりやすく焦りながら伝えてくるその目元は致し方ないことだが矢張り赤かった。

 結構ごしごし拭ってたからなぁ。こういうのって冷やした方がいいんだっけか。

 

「へ」

「やっぱちょい熱持ってる。家帰ったら保冷剤とかで冷やした方がいいと思うよ」

「~~っ、」

「ハンカチ濡らす? あ、取り敢えずペットボトルでいいか。……玲さん?」

「くゅぅっ…………、ぁい、あの、らっだっ、大丈夫です家で、はい」

「そ?」

 

 手よりはマシだと思ったけど家でやるならまあいいか。

 目尻から引っこめた手をそのまま上へ、一度ぐっと伸びをしてから携帯で時刻を確認。長居するのもなんだし、取り敢えず慣れ目的に握手で様子見してそのあと岩巻さんに報告……報告いるよな流石に、協力頼んだ以上は。……うん、報告して帰ろう。

 

「じゃあ玲さん、はい握手」

「ぅあくしゅっっ!!?!」

「うお吃驚した……ほら、今後を考えての練習というか、慣れた方がよさそうじゃない?」

「れっ、ててててってを……手を、? ……めっ、さ、きほどの、は?」

「先程?」

「あぅ、いえっ……なんでもないです……て、手ですね、」

「……ロックロール来るまでに繋いだなそういや」

 

 先程のってそういうこと? とはいえアレは勢い任せに引っ張らざるを得なかったものだからノーカンだと思うんだけど。玲さん的にはカウントされてんのか? いやでもそれなら握手はハードル下がらね?

 差し出した手は未だ虚しく繋がる先を待っているわけですが。しばしお待ちをと息を整えた玲さんは掌を見つめ、くるりと返し手の甲を見つめ、ぐっと拳を握ったかと思えばまた深呼吸を……し、開いた掌をまた見つめ…………うん。

 

「玲さん、これからよろしくっていう謂わば挨拶よ挨拶」

「あい、さつ……そう、ですよね。挨拶、あいさつ」

「そうそうコミュニケーションの基本」

「キホンハタイセツっ……すぅー…………よ、よろしくお願いします!」

「はいこちらこそ」

 

 あ、デジャヴ。と一瞬過ぎったが確かあの時めちゃくちゃ声ちっさかったから……あー、あれもそ(・)う(・)なのか……? 取り敢えず半端に差し出された玲さんの手を迎えに行き固く握る。世界を舞台としたビジネスルール的に握手の強さは信頼関係を左右する、でしたよね武田氏。

 寧ろ誠意を見せるなら両手でも、などと一瞬思考を飛ばしていると玲さんはなんというか、軟体動物みのあるへにょっと融けたような様相を呈していた。片手だけを伸ばした状態で額から机に突っ伏しそうになるのをぎりぎり堪えているような。

 ちょっと悪いことをしている気分になるんだが放した方がいいのかこれ。

 

「まだ早すぎた……? っていうか今日はもう止め──」

「だ! だらいじょうぶっ、れす! から、ぅう……も、もう少し、だけっ!」

「あっはい」

 

 控えめなんだかそうじゃないんだか、留めるためか握っていない方の手も上に重なった。いや本人が欲張りっつってたからもしかしたらそっちの玲さんが出ているのかもしれない。握手だけってことはないだろうが、仮にこういう時間が彼女の我儘だとか欲というなら驚くほど可愛らしいもんだ。趣味に生きる血筋ゆえに余計にそう思えてしまうのだろうが、穏やかで、全く嫌な気がしない。

 手を握り合っているだけで会話がないと流石に暇にもなるが。知らないことが多い分ある程度は玲さんの観察で……ん。

 

「玲さんこっち側の手マメの痕ある?」

「……あ、そう、ですね……鍛錬の一環として昔はよく、剣道も……す、すみません手入れが行き届いておら、ず」

「いやいや努力の証でしょ。カッコいいじゃん、あと普通にきれいだし」

「そん……~~っ、あ、ありがとう、ございま……!?」

「てか指ほっそ……玲さん体は鍛えてんのになぁ」

「ぅ、ぁぁあの、っ」

「やっぱ比べると全然違うわ」

「────ッ、~~……っら、らくろうくんっ!」

「え、あ」

 

 叫ぶように呼ばれたことで一瞬できた隙を逃さず、玲さんの手が俺の手からするりと引き抜かれていった。若干の面白さを見出したところだったので残念ではあるものの、玲さんが自由になった両手で即座に顔を覆ってしまったのでそれ以上何かを言える状況でもなく。

 しかし復旧待ちかと思った玲さんはといえば小刻みに震えており、揺れる髪の隙間から見えた耳がとてつもなく赤い。握手だけで流石に、とも思ったが直前までの自分の行動を振り返ると掌へ触れてもいたし、比べるのに集中して指を掴んだりなぞったりも、……したな?

 

「あのぉ~……玲さん」

「うぅぅぅぅっ」

「お、お嫌でしたでしょうか……?」

 

 聞けば、これでもかというほど頭が左右に振られるからどうやら嫌ではないらしい。

 ……あっぶねぇここで拒否られでもしたら俺の次回は絶望的であった。まあ、玲さんの心の広さに甘えていてはいずれ致命傷を負うだろうからもう少し距離感を……というか興味持って見ようとすると割と近くなりがちでは? 隠されると逆に知りたくなる部分も、とまたもや逸れかけていた思考は玲さんの呟きによって引き戻される。

 

「……ではな  が、  ぃの、で」

「うん?」

「っ……嫌ではない、ですが……ほ、ほんとうに は、恥ずかしくて」

「ああ、うん」

「急、に……だと、しっ……心臓が、もちませっ、ん……ので」

「うん」

「……、……ってかげん、してくださ、い」

 

 ────あ。

 

 真っ赤だ。声だけ控えめなクセに滴りそうな薄膜が張った瞳が縋りつくように訴えてきて、大変困ったことに視線が剝がせない。いや見せられているのだから剥がす必要はない、し、これはきっと俺にだけ……俺にだけ? なのだ、から……? ……待て。まてまてまてまて、ステイ。心臓うるっせぇ。

 すかさず口元を覆う。大丈夫、ダイジョウブ、見られていない。

 

 ヤバい。これ駄目なやつかもしれない。

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