アルビノ少女の異世界旅行記 ~私の旅は平穏無事にといかない~   作:影薄燕

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第80話 源種狼族

 

 目の前には不安げな表情となっているクリスタルのような立派な角を生やした鹿型の聖獣と、額から汗を流しながらも真剣な顔つきのステラがいる。

 

「彼の者に癒やしを……『ハイ・ヒール』」

 

 ステラの手から出た優しい光が、傷ついた聖獣の脚を包む。

 一瞬だけ聖獣はビクッとしたが、自分の脚が治ったことを理解したのだろう。調子を確かめ、とても喜んでた。

 

『治った! ありがとう!』

 

「ふふ。そんなに喜んでもらえると、がんばった甲斐があります」

 

 聖獣の言葉が理解できないはずのステラ。だけど、喜ぶ聖獣を見て何を伝えたいのか分かったようで、つられて嬉しそうにする。

 

 鹿型の聖獣はもう1度お礼を言うと、森の奥へと消えた。

 これでケガをしていた聖獣たちは全て完治したはずだ。

 

「お疲れ様。ゴメンね、1人だけ無理させちゃって」

 

「いえいえ、思ったほどではありませんでしたので。やはり例の一件で魔力量も上がったのでしょうか、『ヒール』や『アンチ・ポイズン』だけでなく『ハイ・ヒール』も数回使ったはずなのに、想像していたよりも疲れなかったのですよ」

 

「それでも、だよ。はい魔力回復薬。グイッといきねぇ」

 

 取り出した魔力回復薬を軽く投げてステラに渡す。

 

「ユキナ様、魔力回復薬は普通の回復薬より高いのですよ? 飲んでも満タンまで魔力が回復するには時間が掛かりますし」

 

「むしろ、この状況だから使うべきなんだよ」

 

 逃げ出したアイツらが仲間を連れて戻ってこないとも限らない。アイツらも軽傷ではないし、可能性は低いけどゼロじゃない。

 なら早期の回復が必要になる。

 

「それにさあ……」

 

 私は目線を少し下に向けると、

 

「もしアイツらが戻ってきたら、この子また無茶し出すじゃない?」

 

「ウ~~~……」

 

 私の腕でガッチリとホールドされた獣人の子供と目が合った。

 最初ほどではないけど、まだ警戒心は解いてくれない。悲しい。

 

 

 

 戦いのあと、逃げた黒ずくめたちが『探知』の効果範囲から出て行き、ステラが聖獣たちの治療を何体か終えたところでようやく大人しくなった獣人の子供。

 さすがに今から追いかけても意味ないと分かったのだろう。こっちに非難がましい目を向けてきたが、文句の言葉は飲み込んだようだ。

 

 そこからは「……オマエら、ミハる」と言って、ステラの治療している光景をジッと見続けていた。

 まるで、おかしな行動をしたらタダじゃおかないとばかりに。

 

 

 なので不意を突き、あぐらで座った私の足の間にINしてみました。

 

 

 何するんだ!?と暴れようとしたので、獣耳の弱い場所をナデナデしてあげた。結果、「ふ、ふわぁ~ゥ~」と気持ちよさそうに陥落。

 かつてチェルシーさんに教わったことがここで生きるとは!

 

 それから私の腕から抜け出そうとするたびにナ~デナデ~をして動きを止めつつ、魔力回復薬を飲んで無駄遣いした魔力が多少なり戻ってきたので、「キミも治療するよ~」と獣人の子供にも回復魔法を掛けてあげた。

 

 松風に相手をしてもらうことも考えたが、残念ながらただいま溜まった疲れからお昼寝しております。気持ちよさそうに目を閉じてる。

 1番起きてほしい時に限って! もうもう!

 

 そんなこんなで聖獣たちの治療もすませ、今度こそお話をしようとあの手この手で会話使用と試みたものの……

 

 

「なぁ、私ら名前教えたっしょ? そっちも教えてよ」

 

「ヤ!」

 

「あの、ですね? せめてご家族のことを」

 

「イ! ヤ! だ!」

 

「ダメだこりゃ」

 

 はい。ご覧の通りです。

 話が一歩も前に進みやしない。

 

 

 【ヘルプ】に確認すれば一発なんだろうけど、そういう個人的なことは切羽詰まった状況以外で本人の意思に関係なく知るのは躊躇われる。信頼関係って大事だと思うんよ。チートスキルで知った情報だと、その関係が薄くなりそうで……

 古本屋の爺さんも言ってた。「信頼っていうのは、人と人とが正面から向き合って生まれる」ってさ。

 

 しかし、まずは“信頼”じゃなくて“信用”を得ることが先っぽい。

 それもこれも、半分は|駄馬共(ユニコーン)のせいだ。そして残り半分は私のせいだ。ぶっちぎりでマイナスの信用を取り戻す手段が思いつかん。

 

 どうしようもなくね?と諦め掛けたその時、

 

 

――くぅ~~~

 

 

 すんごく可愛らしい音がなった。

 

 足りない頭で悩んでいた私も、警戒を解かなかった獣人の子供も、虚を突かれたような顔で音の発生源に目を向ける。

 

 ステラのお腹だ。

 

「あ」

 

 バッとお腹を押さえて顔を赤らめるステラ。

 恥ずかしそうに目で「き、聞えました?」と見てきたので……

 

「ばっちし聞えたよ。可愛らしい音だったね」

 

「……オマエ、はらへったのか?」

 

 親指をグッと立てサムズアップしておいた。そして、獣人の子供は純粋に疑問を口にする。

 

「ち、ちちち違うのですよ! いえ、違うわけではないのですが、そういうのではないんです! ただ、今日のことを考えたら食が進まず……」

 

 あたふたして言い訳をするステラ。

 そういや宿屋で出された朝食、ほとんど食べてなかったな。

 

「しゃーない。私も腹減ったし、遅めのお昼にするか」

 

 空いた場所にピクニック用のシートを広げ、その上に座る。

 獣人の子供は【アイテムボックス】やシートを見慣れないのか、目を丸くしていた。本当にどこのお子さんだろ?

 

「う~ん、何にしようかなー?」

 

 軽食ならサンドイッチでもいいんだけど、ステラも珍しくお腹がへっているみたいだしボリュームあるのがいいだろ。

 

「よし、カレーに決定」

 

 早速、作り置きのカレーや炊きたての御飯を取り出す。

 お皿に御飯をよそり、上からカレーをかける。定番の野菜にオーク肉を使って作られたカレーは、その暴力的な匂いを周囲にばらまいた。食欲をそそる少しスパイシーな匂いに私もお腹が鳴りそうだ。

 

 

――ギュ~~~グルルル……

 

 

 ……また誰かのお腹が鳴る音が響いた。

 だけど、今回はステラじゃないし私でもない。今回は、

 

 

「………………(ダラダラダラダラ)」

 

 

 よだれをダッラダラに流している獣人の子供の方だった。

 目が完全にカレーをロックオンしている。

 

 試しにカレー&ライスをよそった皿を右に移動させてみる。

 ぴったりと目どころか顔も右に大きく向く。

 

「………………」

 

 今度は左へ大きくゆっくりと皿を移動してみる。

 よだれダッラダラの顔が大きく左に動く。

 

「……ぐ、うぅ……(ダラダラダラダラ)」

 

「え~~~っと……」

 

「あの、ユキナ様、この子……?」

 

 これって、そういうことだよね?

 

 試しにとスプーンでカレーとご飯部分を半々になるよう掬い、フーフーしてから口に入れる。うん、さすが私の力作だ。美味い。

 

「――あ(ダラダラダバダバー!)」

 

 すげーな。よだれが滝みたいになっちょる。

 どうしたら口の中からそれだけ出せるのだろうか?

 

「これね? カレーって料理なんだ。辛いけど美味しいの」

 

「りょ、りょうり……?」

 

 よだれ滝状態のままコテンと首を傾げる獣人の子供。

 料理名じゃなくて“料理”って単語に反応するのかい。いよいよ文化人かどうかすら怪しくなってきた。

 

「それでさ。見ての通り鍋いっぱいにあるんだ。ご飯もたくさん。で、よかったらだけど……一緒に食べない?」

 

「そ、れ、は……!?」

 

 葛藤してる。めっっっちゃ、心の中で葛藤しているよ。今すぐにでも食べたい自分と警戒心がある自分との板挟みになってる。

 もう一押しだ。まずはチャンスを掴まねば!

 

「ほれ。騙されたと思って、まずは一口」

 

 カレーが乗せられたスプーンを獣人の子供に近づける。オーク肉付きだ。鼻がいい獣人にカレーを近づかせたから効果は劇的なわけで、

 

「……(ダバァアアアアアアアアアアッ!!)」

 

 フラフラとその口がカレーに近づいていく。目の焦点はすでに合っていない。意識が半分ぐらい飛びかけてそうだ。

 

(自分でやっといてアレだけど、そこまで? あれ? 普通に私が作ったカレーだよな? 禁止指定の薬物とか入ってないよな?)

 

 小さなお口が開く。ちょっぴり犬歯が目立つその口を。

 そして――ついに食べた。

 

 

 

「――!!!!!!????」

 

 

 

 その様子はグルメマンガのように目から光が出そうなほど。

 

 しばらくあとになって本人に聞いたことだが、未だかつてない複雑で美味しいとしか言えないカレーの味に味覚がパニックを起こしたそう。

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

~1時間後~

 

「すごかった、ですね……」

 

「あぁ、激しい戦いだったよ……」

 

「zzzZZZ……」

 

 まさか、こんなことになるとは予想外だった。

 

「あんだけあったカレー、全部食べちゃったんすけど……」

 

 目の前にあるのは中身が空になった複数の鍋。少し前までその鍋いっぱいに特製カレーがあったんだ。炊きたての御飯をいれていた魔道具の炊飯器も、役目を終えたかのようにフタを開けていた。積み上げられた牛乳瓶は太陽に照らされて輝いく。……中身がない分余計に。

 

 10皿目のおかわり大盛りカレーライスまでは微笑むことができたんだ。いや、この時点でも十分おかしいよ? でもスキルとか種族特性の問題だろうと深く考えなかったんだ。

 だがしかし、20皿目に突入して口が引きつり、30皿目で目が死に、40皿目を超えたところで泣いてしまった料理人の私。

 

 途中からステラが背中を優しくポンポンしてくれなかったら、心も体も崩れていたかもしれない。

 休みの日を使って丁寧に作ったカレーが全部食べられたんだから! 私ストック用に作ってから2、3回分しか食べてないのに!

 

 そしてできたのが、私の横で満足そうに寝ている獣人の子供。

 ただし、腹がめっちゃ膨れてる。オメェ子供だけど妊娠してないよね?って疑っちゃうぐらい膨れてる。

 

 リアルでこんなにお腹って膨れるんだなーっと変に感心したよ。

 あの膨らみ全部が、カレーその他の圧縮なのかと。

 

「結局、この子が誰なのか聞けませんでしたね」

 

「距離は縮まったんだし良くね?」

 

 難しいことはこの子が起きてから考えればいいさ。

 ……そういや、初対面からずっと“獣人の子供”とか“この子”としか呼んでいないな。せめて犬系獣人なのか狼系獣人なのかだけでも確認しないと、会話がうまく進まないかもしれない。呼び名のためにも種族ぐらいは知ってもいいよね?

 

「【ヘルプ】。この子の種族って何?」

 

 犬か狼か。そしてその種類は如何に!?

 

 

『〈源種狼族(オリジン・ウルフ)〉……全ての犬系・狼系獣人の祖先に当たる獣人種族。非常に高い潜在能力と進化の可能性を有しており、身体能力が特に優れていたとされる現在は存在しない種族』

 

 

 

「…………これは、予想外だな」

 

 一応は狼でいいのかな? じゃあ狼っ子で決定として、だ。

 

【ヘルプ】によれば源種狼族(オリジン・ウルフ)という種族はすでに存在しないとなっている。なっている、はず、なんだけど……

 

「クー……すぴ~~~」

 

 だったら、私の横で寝てるお腹ポンポコの狼っ子は何さ?

 

 




~あとがき~

【今日の狼っ子のお昼】
・御 飯…………炊飯器五個分なり
・カレー…………鍋十個分なり
・牛 乳…………瓶一八本なり
・デザートに果物各種

雪菜(;゜Д゜)「カレー1年分が1時間で……っ!?」
  ↑
丸1日掛けて1年分のカレー作った人
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