アルビノ少女の異世界旅行記 ~私の旅は平穏無事にといかない~ 作:影薄燕
話し合い、という名の情報の確認は終了した。
嫌でもやらなきゃいけないこと、絶対にやるしかないこと、いっぱいあるけど今日は休もう。少し寝るには早いけど体が横になりたいと訴えてくる。1日に経験する出来事としては濃厚すぎた。
ステラたちの元へ行けば、随分と狼っ子と仲良くなったようだ。松風も加わって今に至るまでの経緯を話したと。
「出会いは最悪だったけど……許してくれるの?」
「いい。マツカゼ、話した。オマエ、ザンネンだけど、いい奴」
どうやら狼っ子は聖獣や動物の言葉・感情が分かるスキルを持っているらしい。だからあの時、松風と短いながらも通じることで私たちに事情があったこと、悪い奴らではないことを知ったそうだ。
|駄馬共(ユニコーン)や森にした事が事なので超疑ったみたいだけど。
つか松風よ、誰が残念やねん。自覚してるわボケ。
「結局、ユキナ様はユニコーンたちのことを許してもらえたのですか?」
「許すもなにも、爺さんの方が先に怒ってたから私は後出しなだけでね? 何が言いたいかっていうと、世の中には知らない方が幸せなことがあるってことなんだよ。大丈夫。
「松風も言ったそうですが……あのユニコーンに何が?」
松風はちゃんと2人に黙ったらしい。
良くやったと親指を立てれれば、それを見た松風も「ブルル」と答えた。うん、何言ってるのかさっぱりだ。
「爺さま、なに話してた?」
「とても大切なことをの。安心せい、古い友人と同郷の者じゃ。理由もなく森を荒らす者ではないから、リルも信用できるじゃろう」
「ユニコーン、アイツらに何した? マツカゼ、答えなかった。爺さまも、前から近づくなて言ってた。理由ある?」
「あるのじゃが……リルは知らなくていい。こればかりはユニコーンが一方的に悪いからのう……。もう聞かんでくれ。ワシとの約束じゃ」
「う~~~ん……分かった。約束!」
老人と子供が約束をする微笑ましい光景だ。ただし、内容の裏に隠された事情がアレすぎて素直に笑えない。
「ユキナ様、明日以降はどうしましょう?」
「いやーそれがさー……私が暴れたせいで大騒ぎ?」
魔王教団関連に区切りを付け、そういやバーサーカー状態で随分と派手に暴れたけど、警備とかどうなったんだろうと【ヘルプ】で確認してみたんだ。
はい、大混乱です。無茶苦茶警備が厳重になりました。
当たり前の話で「誰が聖獣の森をこんなにした!?」と、責任者が激怒するほど魔法乱打された範囲は酷い有様になってたとさ。
で、犯人捜しからの各国が応援要請。
結果、しばらくは帰れない状況となっていた。
皮肉というか、不幸中の幸いというか、警備がより厳重になって大勢の人が目を光らせたことで、魔王教団もおいそれ手を出せない状況になっていた。下手したら今日明日の夜に奇襲を掛けてくると思ってたけど……こりゃダメだ。裏切り者の警備の場所から入ったんなら、尚更数日は動けないだろ。この混乱期に無理を通せば間違いなく疑われるから。
少なくとも数日、奴らが襲いに来るまでの猶予ができた。
この中心部にまでこれなくても、私たちを見つけるまで聖獣の森を探し尽くすだろう。ついでで聖獣を殺しながら。
さすがにそれは無視できん。爺さんと対策を話し合う必要がある。
「……ねえ、狼っ子」
「おおかみっこ? リルのこと?」
「次、黒ずくめたちが現れたらさ、また戦うの?」
「ん! 当たり前! 森、みんな、今度こそマモる!」
「そっかー」
この子は強いだろうけど、実践慣れはしてないだろう。それに相手は複数人で……次はたぶん幹部も来る。“狩人の仮面”と呼ばれるのが。
「……分かった。じゃあその戦い、私は狼っ子を守るよ」
「え? ど、どうして?」
「奴らのやり方にムカついているのは私も一緒。どうせ私もステラも狙われるんだ。だったら返り討ちにしてやる」
何より、剣二が託した子供を見捨てられるかってんだ。
「……いっしょに戦う、のか……?」
「当然。聖獣の森も狼っ子も……誰も死なせるか」
狼っ子は目を潤ませる。全く想像してなかった、だけど1番欲しい言葉を貰ったかのように。鼻をすすり、涙を堪えて。
「……リル」
「んぁ?」
「おおかみっこ、じゃない。名前、リルだ。そう呼んで。爺さまみたいに」
「……いいよ。一緒に戦おうぜリル。あとさ、それを言うなら私は雪菜って名前だし、そっちの子はステラって名前だ。ちゃんと覚えろよ?」
「そうですね。是非ともステラと呼んでください、リルさん」
「ん! ユキナ! ステラ! よろしく!!」
狼っ子――リルは出会ってから初めて私たちに子供らしい笑顔を向けてくれた。
その様子を見ていた爺さんは、孫の成長を見て心から嬉しいような、ちょっと寂しいような、そんな目で私たち3人を無言で見つめていた。
こうして、怒濤の1日は終了し、みんなで寝息を立てたのだった。
……あ、そだ。寝る前に黒ずくめたちに嫌がらせしとこ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
翌朝。知らない天井のネタどころか、そもそも天井すら無かったことの空しさを覚えつつも起床。
簡易の家は今回なしだ。森の景観が壊れるし。
なので直接ベッドを出して寝た。2つあったから1つは私とステラで一緒に眠り、もう1つは爺さんとリルに貸してあげた。
リルは初のベッドだったからかすぐ爆睡だった。これぞ布団の魔力!
「ユキナ様、おはようございます。お祈りですか?」
「うん。全身全霊を込めて|祈(のろ)ってるよ」
湖の中央にそびえ立つ世界樹に向けて祈りのポーズを取る。
もちろん対象は魔王教団さん。真剣に|祈(のろ)ってるぜ。
「さて、と。朝ご飯を作って、具体的なこと決めるか!」
体全体を伸ばすよう、ゆっくりストレッチする。
簡単な運動をして確認すれば、昨日の疲れが綺麗に取れていた。
それから先に起きていた爺さんに許可を貰い、携帯用のコンロやオーブントースターを出して朝食作りを開始する。
魔石で動くこと以外は普通のコンロやオーブントースターと同じだ。普通なら嵩張るモノだけど、収納を気にせず使えるのは反則だな。【アイテムボックス】様々。
――ジュゥゥゥウウウウウウウウッ
「~♪~~~♪~――焼き加減はー……こんくらいかな?」
「あ……あ、あ、ああぁ(ダラダラダラダラ)」
匂いを嗅ぎつけ、光速で起きたリルが隣でよだれを零しまくる。
こりゃ、調理中に顔を近づけ過ぎちゃいけません。
今日のメニューは食に飢えたリルのために、シンプル・イズ・ザ・ベストな朝食ということで食パンのトースト(バター塗り)、目玉焼き(胡椒の振りかけ)、カリカリベーコンの3品にしてみた。
昨日のカレー食べてた時に見て分かったけど、リルは食器に慣れてない。
カレーライスの入った器を持つ手は危なげだったし、スプーンも幼児掴みだった。だから考慮して、手づかみでも食べられるものをチョイス。目玉焼きは半熟が好みだけど、素人が手掴みで食べようとすると悲劇が起こりやすいからな。今回は中まで火を通します
「それで? 爺さんの方は何か対策したの?」
完成した朝食を四等分に分けながら爺さんに問う。
昨日の時点で私の持つ【ヘルプ】のことは話した。それを聞いた爺さんもやれることはやっておくと言っていたのだ。
リル? 難しい話は分からないって、朝食に夢中ですが? ステラが隣で食べ方を教えている。そうだよね。食パンの上に目玉焼きとベーコン乗せて食べるのはジャスティスだよね。最初に考えた奴天才。
「ワシのスキルを使って一部の聖獣たちの“目”を借りておる。数日中に事が起こるなら、それまでは問題ない」
【スキル:視界共有(聖獣限定)】。
数体の聖獣が視界に納めたものと、爺さんの視界をリンクするスキルだそう。
制約はあるし、聖獣の方にも負担があるから普段は使わないけど、今回は事態を重く見た聖獣の方から協力させてくれと言われたらしい。
それによって、鳥型の聖獣による空からの監視や地中を住処にしている聖獣による地面の異変などを爺さんはすぐに知れる。
私が掘った穴は速攻で発見された。ど忘れしてたよ、テヘッ☆
すぐに埋めてもらいました。ご迷惑掛けます!
「雪菜たちはどうするのじゃ?」
「ステラには森の地形について爺さんと話してもらおうと思ってる。私は……今日はリルと訓練かな?」
「――!? くんれん? ユキナと!?」
一緒に戦うんなら最低限の連携はできた方がいいしね。
今のリルに絶対的に足りないのは経験だと考えている。たぶんこの子、自分では気付いていないけど才能の塊だ。元から持っているポテンシャルのおかげもあるけど、理屈じゃなく感覚で強くなっていたんだ。
誰からも教えを受けず練習相手もいない中、野生本能でここまで強くなれた。なら、そこに今まで触れなかった戦いに関する基礎知識と練習相手による経験が加われば……一気に化ける。近接戦闘に限れば私では歯が立たないぐらいの高みにいけるはずだ。
「間違いなく強くなれるよ。あの黒ずくめ共も瞬殺さ」
「うん! がんばる!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ふい~~~疲れた~!」
「ハァハァ、こんなに、動いたの、初めて……」
朝食を済ませて数時間後のお昼時。
私もリルも汗まみれで横になっていた。
「お疲れ様でしたユキナ様、リルさん。タオルです」
「サンキューなステラ」
「ん。ステラ、ありがと」
「見ているこっちがヒヤヒヤしてしまう訓練でしたねー」
「うん。そりゃあ、ね?」
最初は軽い手合わせのつもりだったけど、途中から本気になっちゃったよ。
初めは座学として基本となる体の動かし方や体術を教え、それが終われば森では見かけることが無いだろう武器や魔法の種類を教えた。
リルにとっては10年間の森での生活が全てだったから、何から何まで初めてのことを一気に知って頭から煙が出ていた。途中から頭に知識が入ってきているのか怪しかったし、最低限のことは時間を掛けて覚えてもらうしかない。
座学が終われば、実際にやって・見て覚えましょうの時間。
リルには体をゆっくり動かしてもらいながら体術の型や動作・意味を理解してもらった。もちろんこれは知識の延長戦なので、リルの戦闘スタイルに合わないようなら無理にやる必要はないと注意することも忘れない。
武器は【アイテムボックス】の中に結構な種類が入っていたので、それを見せた。
何かの役に立つかなーっと武器屋で叩き売りされていた安物や、冒険者としての活動で倒した悪人から奪ったのを種類ごとに1つは入れるようにしていたのだ。
剣・弓・槍・斧・棍棒・ナイフ・盾の基本的なモノから吹き矢やモーニングスターなどのクセのあるものまで見せた。比較として私のハルバート・杖を見比べさせて、見た目がすごそうなのは決して油断しないことを約束させる。
そして最後は手合わせ。正確にはゲーム形式での勝負。
リボン状に結んだ紐を腕に付けて、先に相手の紐を奪った方が勝ち。過剰な攻撃以外は何でもあり。
思いついたことは全部やってみましょう!とそんな感じ。
結果、軽く3回は気持ち的に死にかけた。
「そりゃヒヤヒヤするよ! だってこの子、手加減がまるでできてないんだもん! 何でもありとは言ったけどさぁ、訓練だからね! 試合じゃなくて
「ご、ごめんなさい……」
危うくデスゲームになるところだったわ!
当初考えてたとおり、近接戦闘に関しちゃすごい才能があったリル。スポンジみたいに吸収するから教え甲斐があった。
あとは時間と経験が解決してくれる――と思ったら大問題が。
リルは聖獣たちを殺した黒ずくめたちを倒すために、全力で強くなろうとした。相手を倒すために数年間特訓し続けた。
ただし、力の配分をガン無視してきた!
常に全力だから無駄な力が入りすぎて、動きが直線的になりやすい。本気のスピードは目で追うのが難しいレベルだけど、冷静で経験のある相手からすると次の行動を予測しやすい。
加えて、ずっと全力で力の強弱の調整もおざなりなもんだから、持久力に難がある。後半になるにつれ、弱体化する傾向だ。実践でこれは致命的。
結論、まずは冷静さと力加減を覚えさせましょう。
「……力加減を覚えたら美味いもん食わせてあげるからさ、がんばってよ」
「が、がんばる」
ワイルドに育ちすぎやねん狼っ子は。