アルビノ少女の異世界旅行記 ~私の旅は平穏無事にといかない~   作:影薄燕

112 / 118
閑話 狩人は夜に笑い、朝を迎える

 

【side.狩人の仮面】

 

 飢える。

 狩人の名を冠しながらも、時が経つのを待たなければならん。

 それが、酷くオレを飢えさせる。

 

「協力者からの報告はどうなっている」

 

「ハッ。初日を含め数日は各国の動きが激しかったそうですが、森で騒ぎを起こした人物も見つからず、ひとまずは落ち着いたようです。ただし、すぐ協力者側が動くと怪しまれるので、もう2、3日は様子を見たいと」

 

「このままでは飢え死んでしまいそうだ……」

 

 組織からの命令。

 それは数年前と同じく聖獣の森へ協力者のもと侵入し、様々な物品の材料を大量に調達することだ。

 

 オレの下に付いた奴らは、元から組織の物資調達班で構成されている。

 裏で組織に必要な物資を補給してきた一団だ。

 

 組織というのは大きければ大きい程、必要となってくる物資が多くなる。食料ならいい。食える魔物は多々おり、商人を経由しても手順さえ間違えなければ疑われることはない。だが、物資――それも貴重なモノや魔道具の素材となるモノになってくると話が違う。

 

 マタルギアのような大量製品生産国やエンディミオンのような魔法実験を行う国が取引するなら疑われんが、個人・所属不明の一団が堂々とそのようなモノを購入すれば少なからず国の目が向けられる。

 協力者によって持ち込めるモノもあるが、それが難しい場合もある。

 そもそも、組織とて金銭は無限ではないのだ。協力者も増やせばいいというものではない。甘い汁を吸わせることができなければ、基本として力ある協力者は得られない。ぶら下げるエサを用意せねば、いつ背を向けられるか分からん。

 

 だからこそ、オレたちのように現場で直接物資を調達する者が必要なのだ。

 

 狩りを嗜む一族に産まれ、しかしオレにはここは狭いと集落を飛び出したのは随分昔だ。あの頃から突出した才能を、スキルを、実力を持っていたが、いかんせん周囲の獲物が弱すぎた。

 他人が大物だと騒ぐ獲物でも簡単に狩ってしまうことに“飢え”を感じたのはいつからだったか……

 

 

 そうして月日は流れ、今の組織に入り――幹部にまでなった。

 

 

 今ではほとんど飢えなくて済む。

 

 狩った。狩って狩って狩って狩りまくった。

 強い獲物であれば何でもいい。危険度の高い魔獣だろうと、神聖視される聖獣だろうと、同じ人間でさえも。

 

 たまに第三者は初めて人を殺した時の感想を聞いてくるが、その質問にはいつも同じ答えで、聞いてきた方が顔を青くさせる。

 

 

 ただ、「初めて狩ったララビットと同じだった」と言っただけで。

 

 

 そう、オレにとっては違いなど無い。

 女2人だろうが、獣人の子供だろうが、それが狩りの獲物なら、

 

「いつも通りに、狩ればいい」

 

 正面から射貫いてもいい。罠に嵌めてもいい。

 大事なのはそれが狙った獲物であり、最後のシメとして……命を奪うことだ。獲物が持つオレが欲しいものを手に入れることだ。

 それこそが狩人。それこそがハンティング。

 

 それだけが、オレの存在理由でいい。

 

 報告で部下の隊長格を倒したという白い女は是非狩りたい。

 監視している者からは聖国側・王国側・帝国側の3方向のどれからも、聖獣の森から出た女子供はいないという。

 

 なら、まだ森に潜んでいる。どんな理由があってかは知らんが、今も息を潜めてるのだろう。

 必ず見つけ出して……狩ろう。

 隠れん坊は得意だ。追う側になってから1度も負けたことがない。

 

「ああ……楽しみだなぁ」

 

 早く狩りの時間は来ないのか? このままでは命令無視してでも、協力者なぞ知ったことではないと、森に入ってしまいそうだ。

 

 だが、我慢だ。

 少なくとも今、狩りをするべきではない。

 

 どんなに飢えていようとも、準備が整うまでは……

 

「フフフ、このままでは我慢のしすぎでも死んでしまいそうだ」

 

「失礼ながら申し上げますと……もう皆、我慢の限界であります。アナタだけが無理に我慢をする必要は……」

 

「分かってるさ。だが、幹部としての矜持もあるのだよ」

 

「くっ、狩人の仮面様ぁ……」

 

 報告に来た部下が泣きそうになっている。

 分かるさ。オマエの気持ち、分からぬはずがない。

 

 早くその時が来て欲しい。

 

 

 早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く……!!

 

 

 このままでは死んでしまいそうだ。

 

 

 なぜならば、こんなにも……こんなにも……!!

 

 

 

 

 

「ああぁ…………全身が、痒いぃぃぃぃぃ!」

 

 

 

 

 

 こんなに、体中が痒いのだから。

 

 

「うっ、うっ、申し訳ありません。そのように威風堂々としておいでなのに、我々は痒すぎて、肌を掻きすぎて、真っ赤で……!」

 

「フフフ、気にするな。オレも意地だけでどうにかしてるのだから。フフフフフ、フハハハハハハッ!」

 

 何というザマなのだろうか。

 痒すぎておかしくなったせいか、つい笑ってしまう。

 

 オレはいつでも戦闘ができるよう魔道具を含めた戦闘服のまま、いつ何時も隙を見せないようにしている。日常的にだ。

 

 だが、それが今は辛い。

 

 部下たちが逃げ帰ってきた日の夜、まだ混乱が大きかった警備の隙を突いて聖獣の森に踏み込むことも考えていたが、突如としてオレと部下の全員が謎の痒みに襲われることとなった。

 特に手足が酷い。狩りをする者にとって機動力は重要だというのに、想像を絶する痒みによって動くことも難しい。

 

 部下の中にはあまりの痒みに皮膚を掻きすぎ、出血した者が複数いる。

 どうやら蒸れやすい場所が酷いようだ。オレも弓が描かれた、幹部の象徴ともいえる仮面をすぐに外したい。顔が痒くて仕方がない。

 

「早く……薬が欲しいな」

 

「最速でこちらに届けるよう指示を出しましたので、もうすぐ届くかと」

 

 持参していた薬品類ではこの謎の痒みは消えなかった。

 仕方なく離れた場所にある組織の施設に使いの者を出し、必要となりそうなモノを片っ端から持ってくるよう言いつけたが……

 

「ちゃんと……寝ているのか?」

 

「痒すぎて無理です。寝不足から倒れる者も増えております」

 

 オレは狩りにも使う睡眠剤を何倍にも薄めて摂取することで何とか眠ることはできているが、部下にはそれが無いからな。

 

「……いつになれば、狩りを行えるのだろうか?」

 

 夜中だと思っていたが、朝日が出始めている。

 疲れからか時間感覚にも異常が出始めたようだ。もう自分がしっかりと目を開けているのかも怪しくなってきた。

 

 

 

 飢えの前に、痒みで死んでしまうかもしれん。マジで。

 

 

 

 





雪菜( ゜言゜)「アイツら全員重度の水虫になっちまえアイツら全員重度の水虫になっちまえアイツら全員重度の水虫になっちまえ水虫になれ水虫になれ水虫になれ水虫になれ……!!」
    ↑
痒みの原因――というか、犯人。
毎日欠かさず祈ってました(呪ってました)♪
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。