アルビノ少女の異世界旅行記 ~私の旅は平穏無事にといかない~ 作:影薄燕
矢が貫いたのは……左肩だった。
「~~~~~っっっっっ!!!!!???」
肉が裂け、骨が砕け、血が噴き出す。
未だかつて感じたことのない痛みと焼けるような熱。
皮肉なことに、それが思考をクリアにした。
「リ、ル!?」
「ユキナ! しっかりしろ!」
矢に貫かれた瞬間、一瞬だけ意識を失っていたみたい。
周囲の状況を確認する。
まず私。致命傷ではないけど重症。『リジェネ』の効果でキズは治ってきてるけど早くはない。右腕は抉れて、左肩は矢が貫通したまま残ってる。てか、魔力の矢がデケぇよ。サイズが完全に槍じゃん。後遺症とか出ないか心配になってくる。
次にリル。私の腰に抱きついて、地面へ押し倒していた。どうやら咄嗟のタックルによって、矢の当たる位置がズレたらしい。リルが来なかったら死んでたな。そのリルは一見無傷に見えるけど、疲労しているのと服装が所々破けているのを見れば『リジェネ』で回復しただけで、短期決戦で例の部下5人を倒したんだろうね。……無茶しやがって。
最後に“狩人の仮面”。何か驚いている?
「……驚いたな。すでにこの近辺はオレのユニークスキルの効果範囲となっているはずだが、効いていないのか? それとも、何らかのスキルか……」
「グルルルルル……!」
言われてみればそうだ。
私は空気中の成分濃度弄られたのせいでこのあり様なのに、リルは私を庇うように前に立って“狩人の仮面”を威嚇している。やせ我慢しているようにも思えない。まさかリルも想像を絶する痛みで意識を保っているのか?
(【ヘルプ】、何でリルは平気なの?)
『〈リルが平気な理由〉……【スキル:呼吸法】による効果』
――!? そうか【呼吸法】!
数日前、事前の話し合いでリルのスキル1つ1つを【ヘルプ】で確認していた時にあった珍しいスキル! どんな環境でも
普通の呼吸ができるっていうのが、単に汚染された空気を吸っても平気ってだけの単純な話じゃなかったら? 周囲にある空気の比率に関係なく、吸った瞬間に
それは【ユニークスキル:大気濃度変化】を無効化する存在――“狩人の仮面”の……天敵になりえる!!
「『餓狼軍隊』!」
リルの体から魔力が吹き荒れ、4匹の狼を形作る。
『『『『アォオオオオオオオオオオオンッ!』』』』
魔力で作られた狼は遠吠えを上げ、一斉に襲いかかった。
「く、初めて見る技だ!」
口では驚いてる風だが、やっぱり“狩人の仮面”は冷静に対処していた。時間差で牙や爪で攻撃してきた4匹の『餓狼軍隊』による連係攻撃を簡単に躱す。
「……ふう、少々強めの“ガルウルフ”程度か。ならば問題ない。ハンティングの対象が増えたとでも思おう」
その通り。今のリルが『餓狼軍隊』で作れる魔力の狼はそんなに強くない。しかも、ステラが新武器のメイスで殴っただけで霧散してしまう脆さだ。
だけど、
「『戦技・輝羅爪』!」
「ちっ!?」
そこに、リル本人が加われば違ってくる。
リルの長所は、森の中でも生きるスピードだ。
さらに周囲の木々を使った三次元戦法も得意だから、一瞬の気の緩みも許されない。ここ数日の模擬戦や修行で難があったペース配分を覚え、自分のスキルなのに持っている自覚がなかったモノも扱えるようになった。
さっき放った『戦技・輝羅爪』もそう。爪から光のつぶてを高速で飛ばす牽制用の戦技だったけど、リルは習得しているのにどう扱えばいいのか分からず宝の持ち腐れとなっていた。
それらを全部生かせば、幹部とだって戦える強さをリルは持っていたんだ。十分、森を守れるだけの力を。
(だから、私が、いつまでも座り込む訳にはいかねえ……!)
ようやく『リジェネ』の効果で抉られた右腕が回復した。
すぐにスキルリストを出し、【呼吸法】を取得する。
「――ッハ! ふうぅぅぅ……ふうぅぅぅ……」
心なしか息が楽になった……気がする。
なら次にやることは、
「このうざってえ矢を――ぶっ壊す!」
未だに左肩を貫いたまま残っていた矢を右手で掴み、力任せに破壊することだ。
本気で握り潰せば矢は元の魔力に戻って消える、と同時にポッカリ空いた穴から大量の血が吹き出た。
『賢者のローブ』自体は破損しない効果のおかげ無事だけど、中身は大変なことになってる。物理的な矢だったら貫通せずに済んだかも知れないのに……
「はぁ、はぁ……クッソ痛てぇ。『ハイ・ヒール』……!」
優しい光がキズを癒やす。ポッカリ開いていた肩は元通りに戻った。
(でも、完全には回復しきってない)
【大気濃度変化】の影響はまだ抜け切れていないし、ちょっと血を流しすぎた。
中学生女子の平均的な体格で腕は抉れる、肩にデッカい穴開くときたらそりゃ貧血にもなる。
普通に考えれば休むべきだ。でも、そんなわけにもいかん。
(アイツ、リルの動きに慣れてきた)
いつの間にか『餓狼軍隊』の狼たちが仕留められていた。
“狩人の仮面”の強みは冷静な判断力と、剛弓の力による特殊能力が付与された矢の攻撃。そこに魔道具も加わるオマケ付き。
今も魔道具らしい|鉈(なた)で攻撃を捌いている。
早く参戦するか対策を取らなきゃリルが私の二の舞になる。
(【ヘルプ】、私の体を短時間でも動かせるスキルは――)
「そういえば知っているか、白い女?」
弓のオッサンが世間話のように話しかけてくる。リルを相手しながらも無視して、おもしろがるように。
「狩りの基本の1つだ。複数の標的を相手する際の鉄則」
「おい! リルを、ムシする、な!」
嫌な予感がする――と同時に『危機察知』が……!
(【ヘルプ】!)
「弱い者、弱っている者から先に仕留める」
『〈未来予測〉……全方位から防御貫通効果付与&障壁貫通効果付与の矢による攻撃。……全力退避!』
……退避、できねえっつの。
ああ、これヤバい。本当にピンチだ。一体いつの間に撃ち出したのか、パッと見で10本程の矢が私に向かってきてる。
私に突き刺さるまですぐだな。防御系のスキルや魔法出す暇もねえや。出しても貫通されるのがオチっぽいけど。
頭と心臓だけは守ろう。奇跡的に重要器官への攻撃が逸れれば、まだ何とかなる。まだ戦える!
歯を食いしばれ! 永瀬雪菜! 意識だけは失うな! 動けなくたってリルのサポートぐらいはできるだろ! 矢が刺さるぐらい気合いで何とかできる……はず!
「あぶなっ――ユキナ……!!」
ゆっくりとした時間の中、矢が残り数メートルにまで近づき、リルの悲鳴が聞こえ、直後に来るだろう痛みに耐えようとして、
銀色の光と共に、矢が無くなっていた。
「何?」
それは、“狩人の仮面”の声で、
「リ、ル……?」
それは、私の口から零れた疑問で、
「………………」
目の前には、見慣れたはずの髪が、耳が、尻尾が、
後ろ姿しか見えないけど、いつもと雰囲気が違う。
「……バカな。あの一瞬で、全てを掴んだのか……!?」
リルの両手は、たくさんの矢を掴んでいた。
さっきまで私を狙っていたはずの矢だ。その全部を掴んだのか? 刹那とも言うべき速度で?
「リル、これは一体……?」
『〈固有スキル:銀狼覚醒〉……
固有スキル!?
昨日確認した時には『銀狼覚醒』なんてスキルは無かった。じゃあ、たった今この土壇場で習得したのか?
てか、内容! 効果盛りすぎだろ!
「……ユキナに、手、出させない」
そう言ったリルの姿が――消えた。
「――ぐあっ!?」
苦悶の悲鳴が上がる。見れば“狩人の仮面”は肩から血を流している。当のリルはその後ろで残心していた。
「速すぎるぞリル……全然目で追えなかった」
“狩人の仮面”は一瞬何が起こったのかとリルと肩のキズを交互に見て、すぐに自分がやるべきことをしだした。
「――! リル、避けろ!」
「装填――」
「……『疾風迅雷』」
結果として私の忠告は無意味だった。
今のリルが“速さ”で負けるわけなかったんだ。
「ぐ、おぉおおおおおおおおおおっ!?」
残像。対象が速すぎることで起こる目の錯覚。実際に見るのは初めてだけど、今のリルなら可能なんだろう。
それが“狩人の仮面”を四方八方から襲う。どんどんキズが増えて血を流していってる。速すぎて対処が間に合っていない。
途中から魔道具を使用したようで攻撃から守るように薄い障壁が順次生まれているけど、その度に破壊されている。
狩る側と狩られる側が逆転していた。
「あれ? てか、これ……私いらなくね?」
もうこれ敵は詰んでる状態だよね? このまま覚醒したリルだけで勝てちゃうパターンだよね? あれ? 私の存在意義は? これ完全に“狩人の仮面”を倒すリルの引き立て役になってますやん。
「いやいや、それでいいじゃん。私は別に物語の主人公ってわけでもないし、現実なんてこんなもんっしょ。みんな無事ならそれでいいじゃん。ウン、ワタシ、キニシテイナイ」
複雑な気持ちだけど、これでいいんだ。
このまま何もなければ――
『〈ヘルプよりお知らせ〉……リルの覚醒時間が残り数十秒を切りました。覚醒終了後に倒れる可能性大』
「何もないわけなかったあああああああああああああ!!」
敵は!? キズだらけだけど、まだ五体満足。
リルは!? 相変わらず速いけど、ちょっと焦ってる。
私は!? 内心焦りまくりだよバカヤロウ!!
「【ヘェェェルプッ】!!」
急げ急げ急げ! 間に合わなきゃリルが殺される! 『限定・超思考速度上昇』も使え! 意地でも間に合わせろ!
私が急いでいる最中、向こうの戦いにも変化があった。
「オレを舐めるなぁあああああああああああ!!」
“狩人の仮面”が新たな魔道具を発動する。
真上に投げられた禍々しい球体型の魔道具が黒い光を放つ。瞬間、血だらけの“狩人の仮面”も、あれだけ速く動いていたリルも、2人とも動きを止める。否、止められた。
「くっ!? これ、は」
「フハハハハハッ! 切り札が1つだけだと誰が言った!? 使用者の寿命を削って周囲の動きを止める
“狩人の仮面”は勝利を確信して高笑いする。
普通ならそうだろう。リルの覚醒状態はあと数秒で切れる。仮に私が遠距離から魔法攻撃したとしても、領域内では無効化されるらしい。物理で破壊するためには領域内に入るしかないけど、途端に動きが止められる。もう、リルの覚醒が切れるまで待つ他ない。
「私を、舐めるんじゃねええええええええええええっ!!」
――バゴンッ!
闇の領域とやらを発生させてた禍々しい魔道具に、右拳を渾身の力で叩き込む。魔道具はその機能を停止させた。
「なっ!?」
闇の領域が消えていく中で驚き、硬直する弓のオッサン。
アンタは知らないもんね。闇の領域だろうが何だろうが、魔法である以上は私の『闇系魔法無効』で意味ないこと。
アンタは知らないもんね。私が好きにスキルを取得できるの。『呼吸法』ともう1つを取得しておいたの。
『〈スキル:操り人形〉……自分の体を強制的に動かす』
体が言うこと聞かないなら、無理矢理動かせばいいじゃない?
んでさ、これが最初で最後のチャンスなんだよ。だからさ、
ビックリしすぎて、目を離したらどうなるかな?
「『超戦技・迅雷月狼』……!!」
自由になったリルの姿が消え、“狩人の仮面”の鉈を持っていた右腕が血と共に宙を舞った。その後ろに現れたリルは元の姿に戻って倒れ伏す。
「コイ、ツ……!」
だからさ、一瞬でも隙ができれば――
「魔力全力解放!!」
「――!? クソッ!」
――ガギィイイイイイイイイインッ!!
“狩人の仮面”が咄嗟に盾にした剛弓と、私の炎獄のハルバードが勢いよくぶつかり合い、火花を散らす。
「オレは、まだ“飢え”て……!」
「私たちの想いが……!」
ハルバードからジェット噴射のように火が噴き、
「テメェに負けてたまるかああああああああああああああああああああああああああああっっっ!!」
盾にしていた剛弓を破壊し、その首を――斬り飛ばした。
次回で3章は終了となります。
・呼吸法 1SP消費
・操り人形 1SP消費
・“狩人の仮面”討伐 35SP取得
〈所持SP:54〉