アルビノ少女の異世界旅行記 ~私の旅は平穏無事にといかない~   作:影薄燕

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第24話 誘拐

 

 もしかして迷子に?

 いや、さすがにそれはないか。リリィに失礼だ。

 10歳の子が数メートルで迷子とか、この世迷子だらけになるって。

 

 他にも理由は思いつくけど、考えすぎか。

 トイレが長引くことなんて良くある良くある。

 

 でもなぁ、1人で喫茶店は少し寂しいんだよなあ……

 

「しゃーない。【探知】で場所だけ確認するか」

 

 最初こそ自滅してしまった【スキル:探知(中)】も、地道な努力によって正確に周囲の状況を知ることができるようになった。

 今までは“薬草”と意識すれば範囲内の薬草全ての場所の情報が頭に流れ込んできたけど、今は種類や名前さえ分かれば、それだけをピックアップしてくれる。他は除外だ。

 人に関してもそう。私が“リリィのいる場所”を意識すれば、リリィが現在どこにいるのかスキルの範囲内限定で分かる。

 

「よーし。【探知】オン!」

 

 発動する【スキル:探知】。

 対象はリリィ。さあ、一体どこに――

 

「え?」

 

 見つけた。見つけたのはいいんだけど……

 私が今いる所から明らかに遠い。しかも、

 

(すぐ近く――いやこれもう密着してるってレベルで側に誰かがいる?)

 

 リリィの反応はその誰かと一緒で、今も喫茶店から距離がどんどんひらいていく。

 何よりリリィの側にいる人は――敵性の反応を示していた。

 

 

「――っ!? リリィ!!」

 

 

 私の大きな声に周囲の人々が驚くがそれどころじゃねえ!

 

「お、お客様? どうされ――」

 

「店員さんお勘定! 釣りはいらねえ!」

 

「え!? お客様! ちょっとっ待――いや本当に待ってください! これ金貨ですから! こんなに貰えませんって! どうかお釣りをおおおおおおっ!

 

 後ろから店員さんが何か言っていたがそれどころじゃない!

 リリィがいる地点に向かってがむしゃらに走る。

 

 私のバカヤロウ!

 何を緩み切ってんだ! この世に絶対なんて無いんだから、王都に犯罪者がいてもおかしくないのに!

 

 とにかく後悔するのは後回しだ。

 周りの迷惑とか関係なくひたすら走る。

 後方では、私が走ったあとを追うように強めの風が間を置いて発生した。

 

「うわっ!? な、何だ? 突風?」

 

「キャアアアッ! スカートが!?」

 

「な!? スケスケの黒だと――ブフッ!

 

「ワシのカツラが風にぃいいいいいい!?」

 

 聞こえてくる声から、後ろはちょっとした惨事になっているらしい。

 すまんと思うが今は他の何を置いてもリリィを優先させてもらう。

 

「この先は……裏路地か」

 

 薄暗く汚い路地に躊躇いなく入る。

 

 そしてついに――

 

「見つけた!!」

 

 【探知】で見つけた時点で効果範囲のギリギリ外にいた反応を追いかけることしばし。【スキル:遠見(中)】によって強化された私の視力はリリィと思しき大きな動く袋とそれを抱える怪しい男を発見した。

 並行して同じ格好の男が2人一緒に走っている。

 

「 こ ろ ち ゅ 」

 

 なりふり構わず目標に急接近!

 袋を持っている男にドロップキックを叩き込む!

 

 

「こんのクソ野郎がぁああああああああああ!!」

 

 

「あん? 何だ――ゴバアアアアアアアアアアアアア!?

 

 

 走って来た勢いのまま叩き込んだ手加減なしのドロップキック。それをモロに喰らった男は、周りのゴミやらを巻き込みながら奥に吹っ飛ぶ。

 

 吹っ飛んだ瞬間に男の手から離れた袋をすかさずキャッチ!

 中に入っているのはリリィのはずだからね。ガラスを扱うみたいに丁寧に、かつ慎重に地面へ下ろした。

 

 他2人が唖然としている間、【アイテムボックス】から得物を取り出す。

 

「おしゃれスタンドライトよ、悪を滅ぼせ!」

 

 先程お店で奮発して買ったおしゃれなスタンドライト(私の身長と同じぐらいの床に設置するやつ。日本円価格、約4万円)をバットのように振った。

 

「「な――! ギャバベ!?」」

 

 雪菜選手ホームラン! 男たちは仲良く顔面を打たれ吹き飛んだ!

 尚、フルスイングしたスタンドライトは残念ながらひしゃげてしまい使い物にならない。1度でいいから普通に使いたかったなぁ……

 

 はっ! そんなことより、リリィは!?

 

「リリィ!」

 

 ちょっと悪戦苦闘しながらも袋を閉じている紐を外せば、中から出て来たのは口にテープを貼られた涙目のリリィ!

 

「んんーぅん!」

 

「待ってて。今すぐ外すから」

 

 大事な幼女の肌を傷つけないよう丁寧に剥がす。

 

「プハッ! ひぐ、えぐっ、ユギナお姉ざん……」

 

「ゴメンね。気付くの遅れて。大丈夫。大丈夫だから」

 

 嗚咽と恐怖と安堵から上手く言葉が出ないリリィを抱きしめて、頭を優しく撫でる。あーもう。鼻水と涙でグチョグチョじゃん……

 

「リリィ。言いたいことはたくさんあるけど、さっきの奴らが目を覚ます前にここを離れるよ」

 

 アイツら、本当なら半殺しにしてから、衛兵に突き出したい。

 でも今はダメ。

 今の私が優先しなきゃいけないのはリリィの安全。そのためには急いでここを離れなきゃならん。

 

 まずは袋からリリィを出して、表通りまでノンストップで走る。

 それでまずは解決だ。

 

 

「残念だが、ちと判断が遅かったな」

 

 

 ゾクリと、背筋に冷水が流し込まれたような感覚に襲われる。

 瞬間、私の体を這うナニカ(・・・)

 

 男の声? 一体誰が? どこから? これ何だ!?

 そんなこと考える暇も無く急に首を掴まれ引っ張られた私は、背後の壁に叩きつけられて肺から空気を漏らすことになった。

 

「カフッ!?」

 

「!? ユキナお姉――あ!」

 

 今度は私の方が一体何が起きたのかと混乱したが、リリィの焦った声を聞いてようやく体に黒い蛇のようなものが巻き付いていること。自分が抱えていたはずのリリィが手元から離れ、さっきまでいなかった仮面をしたローブの男がリリィの細い首にナイフを当てていることに気付いた。

 

「――っ!? オ、マエは」

 

「悪いな。オレとしては何にも関係ない子に手なんて出したくないんだが、そうも言っていられなくてね。ちょっとオジサンと付き合ってくんないかい? 素直に言うこと聞くんなら命だけはどうにかしてやる。いうこと聞けないなら……オジサンの手、赤く染まっちゃうことになるよ?」

 

 目の前にいる仮面の男はお願いみたいな形で言っているけど、どう考えたって脅迫だ。そしてリリィは人質。私が余計な事したら首に当てているナイフをどのように動かすか……想像するのすら嫌だ。

 

「ていうか、マジで誰やねん……!」

 

 登場がイキナリすぎんだろが。

 まあ、十中八九さっきの誘拐犯3人組の仲間なんだろうけど……?

 いや、本当に仲間か? 全然落ち着けない状況の中、スキルの効果で高速思考して思うのは、このオッサン(?)の纏う空気が違いすぎること。

 

 さっきの奴らは3人ともそこいらにいる一般人と変わらない素人臭さがあったのに、コイツは格が明らかに違う。

 

「さて、返答は?」

 

「人質取っといて返答もクソもないだろ」

 

「……まあ、確かにそうなんだが。仕方ないじゃないの? キミの正体が分からないから警戒するしかないんよ」

 

「正体? 見た目通りの少女ですが?」

 

 警戒の必要ないだろ。ピンチなの私なんだから。

 

「もしかして気付いてない? 君に巻き付いてるソレ(・・)、オレの得意魔法なわけだけど、本当ならもっとがんじがらめに縛って少し宙に浮かせるつもりだったのに、発動した瞬間どうにもキミ相手じゃ上手く効果を発揮しない――いや、これもう半分以上無効化してるのか? とにかくそんなんだから警戒するのは当然なんだよ。だからコンマ数秒で予定変更して人質取ることにしたの」

 

 無効化? そういやこの黒いの、最初は巻き付いてるって思ったけど、正確には巻き付こうとしている、だ。ほとんど私の動き阻害していない。

 魔法、無効化、スキル……もしかして?

 【ヘルプ】、この魔法の正体は?

 

 

『〈黒蛇の呪縛〉……【闇系魔法LV.5】相当の魔法。対象を蛇に似せた闇で捕縛し、締め上げることもできる。影を媒介に発動することが出来るため、周囲もしくは対象の影から直接出すことが可能。ただし、事前に範囲指定をしなければならないので、対象の位置が動くと失敗する。発動にはとある称号が必要』

 

 

 【闇系魔法LV.5】相当!?

 コイツとんでもない実力者じゃん! 最悪の遭遇にも程があるわ!

 

 ………………あれ?

 【闇系魔法】ってことは、私の【ユニークスキル:闇系魔法無効】の効果をモロに受けるんじゃ……

 あーそうかー。だから私に効かないのかー。

 【ヘルプ】のせいで自分の得意魔法の秘密をあっさりバラされ、しかもそれがスキルの関係で私と相性最悪ときたか……

 

「何で急に憐れんだ目を向けんの?」

 

「気のせいっす」

 

 相性の問題があっても、ほぼ詰んだ状況なのには変わりない。

 こういう相手って隠し玉の1つや2つ用意してるのが定番だし。

 何より……

 

「――! ――!」

 

 首に当てられたナイフの感触が伝わっているのか顔面蒼白になって、もう言葉も出せないリリィをこれ以上怖がらせる訳にもいかん。

 

 悔しいけど、今の私じゃこの状況の打破は不可能。

 なら最初の予定通り、リリィの安全を最優先させる。

 

 ……すみませんカイルさん、リサさん。夕飯までに帰るの難しいです。

 その代わり、リリィのことは私が責任持ちます。

 

「……分かった」

 

「お?」

 

「抵抗しない。好きにすればいい。でも、約束破ってその子を傷つけたら……刺し違えてでもオマエを殺す」

 

 それが私なりの覚悟だから。

 

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