アルビノ少女の異世界旅行記 ~私の旅は平穏無事にといかない~   作:影薄燕

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第25話 予想外の対面

 

 ピュウッと、目の前の仮面が口笛を吹いたような音がした。

 

「いいね~その目。中々見ることが出来ない目だよ。今の啖呵もどうして。うんうん。オジサン、久々に興奮しちゃうわ」

 

 ………………え?

 

「ど、どこ見てんだ変態!?」

 

 若い女の子に対して「興奮する」とか、もしかして貞操のピンチ!?

 100歩譲って私はまだしも、リリィのアレやコレやは護らねば!

 

「いやいやいや! 待ってくれ! そういう意味じゃないから! オレが言いたいのは年甲斐も無くワクワクするって意味であって、イヤらしいこととかこれっぽっちも考えていないから! オジサン、そういうのずっと前に枯れてるんだよ!」

 

「命だけは助けてやるが、代わりにオマエの体を好きにさせてもらうぜグヘヘヘとか思ってんだろ! くっ、私はどうなっても文句言わんが、リリィにだけは手を出すな。その子はまだ10歳なんだ。オマエみたいな変態に散らさせるもんか!」

 

「話を聞いて! それシャレにならないから! オレは悪人の自覚はあるけど、外道でも無ければロリコンでもないから。ね? まずは落ちつ――」

 

「嫌がる私に迫りながらリリィを盾に無理矢理襲い掛かるんだろ! 薄い本みたいに! 薄い本みたいに!! くっ、殺せ!

 

し・な・い・か・ら! よ~し、一旦落ち着こうか。キミらのことはオジサンが責任持つから、まずは落ち着いて話し合おうじゃないか?」

 

「責任を、持つ……だと!? やる気マンマンか!?」

 

「もうヤダこの子! 何がなんでもオレを変態扱いする気か!? 意地でもオレに不名誉なレッテルを張り付ける気か!?」

 

 さっきまでのシリアスな空気はどこに行ったのやら。私自身混乱していて、どこから収拾つければいいのか分からん!

 

 1つだけ良かったのは、今もなお首にナイフを当てられているリリィが先程の恐怖で声も出ないような青い顔から、「え~と、私……どうすればいいの?」みたいな目をパチクリしながらポカンとした表情になっていることだ。

 

 うん、可愛い。

 こんなカオスな状況で何やってんだって話だけど。

 

 そんな「落ち着こうよ!?」「この変態!」な言い合い(?)に終止符を打ったのは、新たに登場した女の声だった。

 

「あの~蛇様? 言われた通り、そこの少女が奥にふっ飛ばした新人3名を拘束したのですが……何です? これ?」

 

「おおぉ、アナちゃん! ちょうどいい所に! オレ泣きたくなってきたから助かったよ。もう少し早く来て欲しかったけど」

 

 裏路地の奥から出て来た女は仮面にローブ姿だった。

 目の前の変態(確信)の仮面と違って、下が無いから口元が見えている。

 にしても、ある部分が自己主張しているというか……ローブで隠せないほどの兵器(おっぱい)がすごいです。

 新幹線かロケットの先端を想像していただければよろしいかと。

 

「とりあえず、アナちゃんは例のモノでそこの白い子を拘束して。オレがこの小さい方の子を拘束するから。そしたら合流地点にしばらくいてもらって、全部の用事が住んだら解放ってことで。オレが責任取るから」

 

「……よろしいのですか? 他の者たちが……」

 

「いいの、いいの。文句ばっか言ったってオレに勝てない奴らばかりでしょ。今回やらかした新人を見せしめにすれば言うこと聞くって」

 

「かしこまりました。蛇様がそうおっしゃるなら」

 

「というわけで話はまとまったから。キミはそこの女性に大人しく拘束されてね。さっきも言った通り、大人しくすれば何もしないからさ」

 

 一連の会話を聞き、私は――

 

「拘束具だと……!? 一体どんなアブノーマルなプレイを強要する気だ!? 私初めてなんだぞ? ちょっとハードル高過ぎじゃね!?」

 

 余計に貞操の危機を感じていた!

 もう全身が鳥肌だらけ。

 

違うからぁああああああああああああああっ!! まだ誤解したままだったの!? むしろ誤解が解けないまま拍車掛かっていない!?」

 

「蛇様……私は、アナタの部下であり、忠誠を誓った身でありますが……本当にこのようなまだ少女と言っていい年齢の者にいかがわしいマネを……ア、アブノーマルなマネをするというのであれば、部下の身なれど、いえ部下だからこそ、厳重に注意する義務が……」

 

「あっれー!? アナちゃんまで誤解が伝染してる!?」

 

「あの、ね。オジサン。よく分からないけど、ユキナお姉さんに酷いことするのやめてください。お願いします」

 

「へ、へへへ。小さい子にまで遠回しに変態扱いされちまったぜ……。了解。この場にオジサンの味方はいないんだね?」

 

 何かさっきよりもカオスになっているような?

 私のせいじゃないよね。

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

「いや、キミのせいだからね? 自覚してね?」

 

「解せぬ」

 

 その後、どうにか混乱が収まり私とリリィは魔道具のような手錠を付けられた状態で裏路地にある建物の一つに連れて来られた。

 

 一応逃げ出すチャンスはないものかと隠れてスキルを使い、目で、耳で、探知で、そこら中を探ってみたけど収穫はゼロ。

 元々何かしらの効果がありそうな手錠を付けられた時点でマイナスからのスタートになるわけだけど、念のためってやつだ。

 

 今はこの仮面のオッサンがいるのもあって下手な行動は起こせないけど、逃げ出すことを諦めたわけじゃない。

 

 私が今欲しいのは情報だ。

 

 そもそも、どうしてリリィが誘拐されたのか? “新人”と呼ばれてたあの3人は誰なのか? 仲間らしいけど、どうにも違って思えるオマエら2人はどんな立ち位置で、具体的に私たちをどうしたいのか?

 それらを聞いてからじゃないと、どこに地雷があるかも分からない。

 踏む前に回避できるものが1つでもあれば、勝率・成功率も変わる。

 それ以外の要素は時の運に任せるしかない。

 

 今までのことは水に流してやってもいいから、仕事をしろよ【幸運(大)】。クジ引き以外でも効果を発揮しろ。ラストチャンスだかんな?

 

 そんなことを考えつつ、改めていろいろ確認する。

 

 まず私とリリィ(+仮面のオッサン)がいるのは、連れて来られた建物の一室だ。人の手で最低限の掃除だけがされているのが丸分かりな汚さで、普段は全く使われておらず今だけ使っているのが見てとれる。

 ソファーもテーブルも中古臭が酷い。

 部屋の端っこを見ればクモの巣がある。

 衛生面的にも最悪だ。帰れたら絶対体の隅々まで洗わないと。

 

 次に目の前でだらしなく座ってる仮面のオッサン。

 会ったばかりだけど、能力の相性抜きに私よりずっと格上だ。もしかすると冒険者の実力に当て嵌めたらAランクぐらいあるかも。

 

 ちなみに落ち着いて見ることでようやく気付いたけど、仮面には蛇を思わせるような模様が描かれている。

 仲間内からの呼び名も“蛇様”って呼ばれていたし、蛇を意識した魔法といい、今後は少しでも蛇を思わせるワードが出てきたら要注意だな。

 

 最後に建物は3階建てで、今いるのは2階だ。

 1階部分はカモフラージュなのか、チャラい服を身に付けた目つきの悪い男女が数人いた。タバコみたいのを口に咥えて、テーブル代わりの台の上にお菓子や飲み物が散乱しており、地球で会ったら急いで回れ右する絵面だった。

 

 普通に迷い込んだだけなら素行の悪い若者が集まっているようにしかならないだろう。もっとも、仮面のオッサンが私たちを連れて「問題はあったか、オマエら?」と尋ねた途端、ビシッといっせいに立ち上がって「問題ありません蛇様!」と異口同音に言ってきたことから、仲間内でもリリィを誘拐した3人と違って随分前から仮面のオッサンと関わりがあると見ていいだろ。

 

 しかも蛇様と呼ばれた仮面のオッサンが件の3人(私がドロップキックしたのは気絶したままだけど、残り2人はリンチにあったみたいに顔が腫れていた)を突き出して事情を説明したら、顔を青くして忙しなく動きだした。

 どう見てもチンピラの類いじゃない。上下関係が構築された人間の動きだ。

 マジでコイツら誰だよと疑問は増すばかりだった。

 

 そこから体内時計で10分~15分くらい3人で部屋にいるわけ。

 正直飽きた。

 初めは緊張していたリリィも足をプラプラさせてる。

 

「ねえ、お菓子出さないの?」

 

「ダチの家に来た子供か。水ならちゃんと用意したでしょ。一応自分たちの立場考えて言ってよ」

 

 下の階の奴らが食ってたの持ってきてもいいじゃん。

 

「じゃあ、おもしろいこと言って」

 

「無茶振りか。オジサンに笑いを求めないでよ。ていうか急に喋り出したね。最初はおとなしかったのに。どうかした?」

 

 ふむ。敢えて理由を言うなら……

 

「密室にアンタがいる状態で身の危険を感じてきたから?」

 

「うおぉおおおい!?」

 

 バン!とテーブルを叩いて身を乗り出す仮面のオッサン。

 

「まだオレの変態疑惑晴れてなかったの!? いい加減、オジサン泣いちゃうぞ? いいのか? 本気だよ? フリじゃないよ?」

 

 えー? そんなこと言われてもねえ……

 

「良い年したオッサンの涙なんて、女の子の涙の足元にも及ばないじゃん。しかも仮面付けてるから泣いても分からんし」

 

「正論だよ畜生ぉ!」

 

 その通り。正論で真理で全てだ。

 前にギランさんとの会話で言えなかったこと言ってスッキリ。

 

 

――コンコン。

 

 

「蛇様、失礼します」

 

 仮面のオッサンが頭を抱え始めた時、控えめなノック音と共に部下の――アナさんだっけ? その人が入って来た。

 すぐに怪訝な雰囲気になったけど。

 

「蛇様? どうされたんです?」

 

「アナちゃん。オレ、もう泣きそうだよ」

 

「……何となく察しました」

 

 こら。何で私の方見てから言った?

 まあ実際、8割方は私のせいですけど。

 

「はあ、もういいや。それで? あのバカ3人のことは?」

 

「こちらに」

 

 仮面の――もう仮面付けてるの2人いるし、蛇のオッサンでいいや。その人はアナさんからメモを渡されると、フムフムと言いながら納得していく。

 

 おーい。いい加減説明プリーズ。

 

「……はあ~。もう処分した?」

 

「その身に責任を取らせました」

 

 めっちゃ不穏な会話だな!

 悪人の世界は下っ端に厳しいってか?

 

「ねえ? 結局どうしてこうなったのか1から10まで全部とは言わないから、ある程度は説明してよ」

 

「おぉ。じゃあオジサンからの説明タイムだ」

 

 さっさと話せ。

 

「オレらはとある組織に所属しているんだが、今日は大事な計画を実行する日でね。オレとは別の幹部が作戦を決行して、オレとその部下はサポートにまわる手筈だったんだが……。その別の幹部の部下である新人3人が金目的に勝手に人攫いを計画してね。本当、バカとしか言いようがないよ。――ったくアイツ、新人の人選ぐらいやれねえでどうするんだ?」

 

 えっと、話をまとめると、コイツらは王都でなんか悪いことしようとしていた。蛇のオッサンとは別の幹部が自分の部下の教育ちゃんとしていなかったために、バカをやらかす奴が現れた。それがあの3人。

 組織って言っていたけど、結構大きいのかね? それこそ、一番下の新人にまで注意が向かないぐらい。話聞く限り、別の幹部にも問題ありそうだけど。

 

「だが所詮ガバガバの思いつき計画だ。ちょっと情報集めれば、変な動きしている奴らなんてすぐに分かる。で、ちょうどアナちゃんと一緒に探して見つけた時に、すんごい蹴りを放っていたのがキミというわけ」

 

 全身全霊のドロップキックでしたからね。

 

「本来関係ないキミらを巻き込んだ負い目はあるけど、オレも組織の幹部だからね。情報漏洩の観点からも一時的に拘束することにしたんよ」

 

 そっからは私も知っての通りか。

 

「幹部によってはすぐに殺した方がいいって奴もいるけど、どうにもそういうの嫌いでね……。犠牲者は、なるべく減らしたいんよ」

 

 犠牲者ときたか……

 コイツらの計画は何か知らないけど、そこにその犠牲者とやらがいると思うと、なんかなー。

 根っ子まで腐っていなくても、所詮は悪人。目的のために誰かを不幸にする時点で許しちゃいけない存在だよね。

 

「つーわけで、キミらにはしばらく上の階にある牢屋で大人しくしてもらうことになる。先にいる子と仲良くしてくれや」

 

「先にいる子?」

 

 誰だよそれ?

 2人は私の疑問に答えることもなく、私とリリィを引っ張って3階に上らせた。

 

 3階に到着すると、建物の雰囲気に似合わない重厚な扉があり、そこだけ異質さを強くさせていた。たぶん後付けで設置したんだろうな。

 ――誰かを逃がさないために……

 

 

 

「じゃあな。大人しくしていてくれよ? オジサン、これから組織の連中に事情の説明と納得をさせなきゃならないんでさ」

 

「そこに水差しはあるので、ご自由に」

 

 そう言って去っていく蛇のオッサンとアナさん。

 

 扉の閉まる音がやけに耳に響く。

 普通に考えたら絶望一歩手前だからかな? 命は大丈夫って蛇のオッサンは言っていたけど、犯罪組織に所属しているなら一枚岩でもないだろうし、別の幹部とかの部下が殺しに来る可能性も考慮せないかん。

 

「ユキナお姉さん……」

 

「大丈夫。私に任せて」

 

 とは言ったものの、さてどうしたものか……

 日頃の行いが良い私をお天道様が見守ってくれてるなら、ここから脱出するため手段や機というものがやって来てもよさそうだけど。……あれ? この場合のお天道様ってあのクソメガネ神のことを指すんじゃ……?

 

「………………どうしよ? ダメに思えてきた」

 

「お姉さん!?」

 

 冗談だってばリリィ。

 

「あ、あの~……?」

 

「あ、すんませんね放置しちゃって。こっちも心を落ち着かせたかったっていうか……。同じ牢屋に入れられた同士、自己紹介しましょ」

 

 実はこの牢屋には蛇のオッサンが言ってたように先客がいた。

 格好は王都ならどこにでもいるような普通の服装だけど、帽子とメガネでも隠し切れない整った顔立ちをした、私と同じぐらいの少女だ。

 

 ただし、一般人ではないだろうな。

 ちょっとした動作に、いい所のお嬢様らしさが出ているし。

 

「私は雪菜。一応、冒険者」

 

「えっと、リリィです。10歳です」

 

「これはご丁寧にどうも。初めまして。わたくし、レーヴァテイン王国第2王女のクラリス=フォウル=レーヴァテインと申します」

 

「………………は?」

 

 第2王女? とんでもねえ人物じゃんか!?

 

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