アルビノ少女の異世界旅行記 ~私の旅は平穏無事にといかない~   作:影薄燕

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第28話 騎士様、空から残念な女の子が!

 

〔side:エリザベス〕

 

 私はエリザベス。レーヴァテイン王国直属、『ヤマト騎士団』第2部隊隊長を務めている。

 常に冷静な対処を心掛けている私だが、この時ばかりは焦っていた。それこそ、ほんの僅かなことでも苛立つほどに……

 

「遅い! 集まるのにいつまで掛かっているのだ! こうしている間にもクラリス王女は……!」

 

「申し訳ありません。今日は騎士団の第5部隊から第9部隊の隊長が報告会のために王城に呼ばれ、隊員たちも各自別々の仕事を割り振られている日でして。さらにここのところ王都付近で危険な魔物の目撃情報があり、第3部隊は冒険者ギルドと連携して調査をしている真っ最中。第1部隊は他の王族の護りを疎かにするわけにはいかないので動けず。……すでに捜索に向かった我が隊のほとんどと第4部隊が吉報を持ち帰ってくれれば良いのですが」

 

「くそっ!」

 

 なぜ? どうして? そんな疑問が頭の中を埋め尽くす。

 

(余りにもタイミングが悪すぎる……!)

 

 そもそも事の起こりは1時間以上前。この国の第2王女であられるクラリス様が、魔王教団『終末の闇』の幹部と思わしき者に連れ去られてしまったことから始まる。それも、私が近くにいながら何もできずに!

 

 

 

 クラリス様はとてもお綺麗で優しい方だ。

 私は同じ女で年もさほど離れすぎていないことから、騎士団で頭角を現し始めた数年前の時点で護衛を務めていた。

 

 初めて会ったばかりの頃は、少し実力を認められた新人の騎士と本物の王女という立場の違いから話を振られても思うように会話を続けることができずにいたが、あの方は立場や年など関係なく私と友人になりたいと言ってくれた。

 

 無論、本当の友人のように接するわけにはいかなかったが、2人きりの時は何もかも忘れて笑い合えるほどにまで仲良くなった。

 

 クラリス様を護りたい。

 その一心で鍛え続け、今では20年しか生きていない女の身でありながら、建国時から続く『ヤマト騎士団』の部隊の1つを任されるまでになった。

 

 元々第2部隊は王族に対する忠誠心が高いものが多い。

 忠誠心だけでなく実力も高い者は第1部隊として王族全体の警護を担っているが、逆に言うと自由に動くことができない。

 対して第2部隊は臨機応変に王族の望みを叶えるため、ある程度自由に動ける権限を持っている。もちろん権限はそれを上手く使える者がいて始めて意味を成すので、人材の選定は第1部隊より厳しい。実際、第2部隊の入隊条件の1つは柔軟な思考ができる者であることだ。

 

 

 閑話休題。

 

 

 ある日、秘密裏に呼び出されたので来てみれば、王女から平民の暮らしを直に見て学ぶため護衛をしてくれないかと頼まれた。

 

 2つ返事で了承したいのを抑えた私は偉いと思う。

 隊長という責任ある立場になった以上、軽々しい発言はできない。王の許可は取っているとのことだが、部隊の者たちに話を通しておかなければいけな。数時間とはいえ持ち場を完全に離れる以上、それぞれの仕事の割り振りを事前に決めておかねば当日混乱することになるだろう。

 

 それからしばらく、クラリス様は平民の住まう王都の町に足を運ぶことになる。

 私も騎士ではない格好でクラリス様の右側にて周囲を警戒し、もう1人の護衛には左側に付いて警戒をしてもらう。

 

「こういう秘密の仕事って一度でいいからやってみたかったのよね!」

 

 そう零したのはもう1人の護衛、宮廷魔法使いのニコラだった。

 人付き合いがよく、クラリス様に魔法を教えたのもこの人だ。

 

 【水系魔法】が得意で、街中で万一のことがあっても、被害を少なくした状態で護衛対象を護れることから選ばれたという。

 以前模擬試合で戦ったことがあるが、中々の使い手だった。大量の水を攻撃にも防御にも使用することが可能で、距離を詰めても足元の水を利用した流れるような移動ですぐに逃げてしまうのだ。

 結局、試合自体は時間切れで引き分けとなった。

 だからこそ、共に行動するクラリス様の護衛としては安心する。

 

 初めて身分を隠し、平民が住んでいる街並みを歩くクラリス様は見ていておもしろかった。私とニコラも冒険者の格好をしてみたが、あれはあれで新鮮だ。騎士の鎧とは違う皮鎧は動きやすさを重視しており、一般的な冒険者が守りよりも回避を優先しているのが分かった。

 緊急時に王族を護ることに専念しなければならない騎士は、人数を揃えた状態で守りのために盾を用いる。さらにいざという時は、自らの体を盾にしてでも後ろに控える王族を庇う必要もあるため、防御力の高い金属製の鎧の方が都合もいい。

 

 私は元から剣1本で身軽に戦うのが得意なため、むしろ冒険者の格好の方が便利に思えるが、他の騎士は守りの薄さに落ち着かないだろうと感じた。

 

 対してニコラの方は豪華なローブが普通のローブになったぐらいしか変わった箇所がないため、露骨に不満そうにしている。

 ニコラ曰く「もっと普段と違う格好がよかった」とのこと。

 宮廷魔法使いの中には無駄に豪華な服装を好む者もいるので、その辺りも考慮してニコラに護衛の話が出たのだろう。

 

 計4度となる視察だったが、幸いにも今まで平民の者に王女だとバレることはなかった。まぁ、大きめのメガネに頭がほとんど見えない深めの帽子を身に付けているだけでなく、クラリス様も言葉遣いや立ち振る舞いを平民のそれに合わせていたからな。

 話をするのも屋台の店主や大小様々な店の店員と少しの間ぐらいだから、まさか自分の話している相手が王女だなんて夢にも思わないはずだ。

 

 そして、今までと同じように何事もなく視察が終わった。

 帰りに貴族などが着替えやその他の準備などを行うために建てられた建物に寄り、いつものようにその一室でニコラがクラリス様の着替えを手伝った。

 

 私か? 私は扉の外で待機だ。

 正確には不埒者がクラリス様の着替えを覗かぬよう目を光らせている。まあ事故ならばともかく、故意にそのようなことをしでかせば重犯罪者扱いでひっ捕らえるがな。例え貴族でも許さん。悪質ならば捕らえる前に目を潰す。さらにクラリス様のあられもない姿を見たなら、その光景を忘れるまで頭を殴りつける。

 これに関しては決定事項だ。異論は認めん。

 

 

 だが、その時ほど扉の外に居たのを後悔したことはない。いや、一緒にいたところで()を相手にクラリス様を護りきれたか……

 

 

 それは余りにも突然だった。

 部屋の中から大きな魔力の放出を感じ取ったのだ。

いつでも武器を取り出せる状態で部屋に踏み込めば、そこにいたのはグッタリしたクラリス様を抱える雷模様の仮面をした何者かだった。

 

「クソ騎士、王女は頂くぞ」

 

 そう言って、一瞬の放電の後、2人は姿を消した。

 剣を抜く暇もなかった。急いで開いたままの窓の近くで周囲を見渡したが、痕跡すらない。本当に一瞬で逃亡したのだ。

 

 恐らくあの時の放電は上位の【風系魔法】の使い手、その中でも一握りしか扱うことが出来ない『瞬雷転移』。発動した瞬間、事前に決めておいた場所まで自身と触れているモノを雷と化して移動する技。

 だが、伝え聞いたところによれば『瞬雷転移』は移動手段として破格に思われるが、どんな強者であろうと発動するまでにかなり時間があるはずなのだ。それをあの仮面はノータイムでやってのけた。

 

 ――魔王教団『終末の闇』幹部“雷様”。

 

 我々が“雷の仮面”と呼ぶ者。【ユニークスキル:ストック】を持った厄介な相手。

 そんな奴にクラリス様をみすみす攫われた。

 

 

 

 私はすぐに城へ緊急の連絡を入れ、クラリス様をお救いするために奔走した。

 

 そもそもどこへ逃げて行ったのかさえ分からないのだ。無計画に私1人が走り回っても意味がない。まずは人海戦術でクラリス様、もしくは魔王教団の潜伏先を見つけなければ話にならん。それに雷の仮面がいるのなら普通の騎士数人では勝つなど不可能だ。

 だからこそ、3人一組で王都中を捜索して発見。その後、場所の情報を持ち帰り次第動ける騎士・宮廷魔法使いの大部隊をもってクラリス様を救出する。それしか今の私たちに取れる方法はなかった。

 

 情けなく、同時に悔しい。手から血が滲むほど握りしめても、一向に気持ちが落ち着かない。私は、自分自身が許せない!

 

「……ニコラの容態は?」

 

「……隊長がすばやく上級の回復薬を飲ませましたので、今は落ち着きを取り戻しています。しかし、当分は安静にするしかないと」

 

「……そうか」

 

 クラリス様をまんまと連れ去られ、怒りでどうにかしそうだった私を冷静にさせたのはニコラだ。……正確には、冷静にならざるを得なかった。

 

 ニコラは一目で重傷だと分かるほどの状態だった。

 私が扉の外で感じた魔力の放出は、雷の仮面が不意打ちでニコラに放った強力な雷の魔法だったのだろう。全身が焦げており、このままでは死んでしまうと急いで懐にしまってあった上級回復薬を飲ませて命を繋いだのだ。

 助かるかどうかは半々であったが、賭けには勝ったようだ。

 

(今回の件、どうにもおかしい。そもそも【ストック】の効果が資料に残っている通りなら、あの時間帯に私たちが着替えのための一室に入ることを知っていたとしか思えん。しかも普段城にいる騎士がすぐに動けない日に限ってこれだ。明らかに計画的な犯行ではないか!)

 

 貴族たちの中に裏切り者がいる。そうとしか考えられなかった。

 

「……今それを考えても、意味はないか」

 

「え?」

 

「何でもない。とにかく、些細なものでもいい。情報が入り次第、すぐにでも動けるように各自準備を――?」

 

 言葉の途中、急に違和感を感じ取った。

 何だ? 変な魔力の流れを感じるぞ? 場所は……真上?

 何も無いはずの空を見上げた時、私の目に映ったのは――

 

 

「え? え、何? 空? き、きゃああああああああ!?

 

 

「クラリス様!?」

 

 何で空から今も捜索が行われているはずのクラリス様があああああああああああっ!? いかんっ! このままでは地面に激突してしまう!

 

「『跳躍(ちょうやく)』!」

 

 【スキル:跳躍】の力を借りてクラリス様の元まで跳び、傷つけないよう優しく、しかしもう2度と離すまいと強く空中で抱き寄せる。

 

「エリザ!? どうして……」

 

「それはこちらのセリフです!」

 

 聞きたいことはたくさんあるが、まずはクラリス様を地面に降ろすのが先だ。かなり高く跳んだからか、着地の衝撃で脚が痺れる。

 

「クラリス様、御無事で何よりです。しかし、一体何がどうなって空から落ちてきたので?」

 

「それは……あら? ユキナ様とリリィ様は?」

 

 ユキナ様? リリィ様? はて? 一体どこのどちらだ? 私が知る限りクラリス様のお知り合いにそのような名の者はいないが……

 

 そんなことを考えている時だ。

 答えの方が、もっと高い場所から降ってきた。

 

 

「何で私ったらこっちに来てからこんなんばかりなんだよ、ちくしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

「ふぇえええええええええええええん! 高いよ~! 怖いよ~! ユキナお姉さん助けてええええええええええええ!」

 

「うおぅ、リリィ!? 今行くぞぉおおおおおおおお!」

 

 

 落ちてきた人影は2つ。

 1人はまだ小さい子供だった。空中で泣きながらもう1人の方へ、必死に手を伸ばしている。

 もう1人は白い少女だった。遠めだが、背格好からしてクラリス様と同じくらいの年齢ではないだろうか?

 

 そんな白い少女は空中で手足をジタバタと――いや、あれは何だ? 手足を平行にした状態で奇妙な動きをしながら、かろうじて前へ進んでいる。

 何というか……女性として、やってはならない気持ち悪い動きだった。

 そこはかとなく残念な感じがしてならない……

 

 そうこうしている内に子供の方に辿り着いて(あの動きでなぜ辿り着けたのだ?)、私がクラリス様にしたように抱きかかえた。

 地面との接触まであと僅かとなり、私がどうにかする前に、

 

「『エアー・クッション』!」

 

 白い少女の魔法が発動した。

 

 落下地点に非常に強い風が発生し、直後に落ちてきた2人を受け止めたのだ。

 そのまま徐々に風の勢いが弱まり、地面に足を降ろす2人。

 

「ユキナ様! リリィ様! ご無事ですか!?」

 

 私がどこの誰なのかを聞く前に、クラリス様が駆けつけた。

 

「……大丈夫かどうかで言ったら、大丈夫じゃないっす。クラリス様にまで危険な目を合わせたみたいでホンマすみません。私はどうなってもいいんで、リリィだけは勘弁を――あ、ヤバ。フラフラする。これ、もしかしなくても魔力切r――」

 

 話している途中でどんどん顔色が悪くなり、ついには倒れてしまった白い少女。腕の中の子供も気を失っているようだ。

 

「2人ともしっかりなさって! エリザ、直ちに医務室の準備を! この方々はわたくしの恩人です! 最高待遇で受け入れ準備を! 早く!」

 

「は? ハッ! かしこまりました!」

 

 この2人についても言いたいことは多々あるが、今はクラリス様の無事を喜ぶことにしよう。

 




※誰かを助けるためとはいえ、空中でカエル泳ぎする14歳の少女がこの作品の主人公です。
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