アルビノ少女の異世界旅行記 ~私の旅は平穏無事にといかない~   作:影薄燕

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SS 受付嬢エミリー

 

 冒険者ギルド。

 そこで働く人たちの朝は早い。

 

「ふわぁ~~~……眠い」

 

 そんな1人。受付業務を任されているエミリーは、まだ半分寝ているような状態だった。他に人がいないのをいいことに大あくびしている。

 

 場所はロッカールーム。

 私服から女性職員の制服へ着替えている真っ最中。

 

 意識が飛びかけているというのに手慣れた様子で着替えていくのは、それだけ彼女が何度もしていることだから。

 

 エミリーが寝不足なのはここ最近ギルドの仕事が多く、加えてギルマスであるハーフエルフの誰かさんが大事な書類を出し忘れたせいでもあった。

 今度お茶を出す時はウンと濃いめのものを出そうと、ささやか(?)な復習を誓う。

 ちなみにギルドマスターであるユフィは基本薄味のものが好きである。

 エミリー、普段からは想像できないが中々良い性格をしているようだ。

 

「それにしてもユキナさん、一体今度は何をしでかしたんだろ?」

 

 

 

 王都にある貴族の屋敷で大爆発があったのは、誰もが知ることだ。

 

 しかも、その貴族が何やらよからぬことを企てていたことや、大爆発があった日の城に高ランク冒険者が複数滞在していた話が数日後に判明したことで連日王都を騒がせている。

 

 詳細は落ち着いてきた今でも不明のままだが、やれ「実は某貴族が反逆を企てた」だの、やれ「大量に買い込んだ酒に引火しただけの事故」だの、「暗殺者が証拠を消すため」「届けられた荷物が爆弾だった」「王族が密かに始末した」「実はただの偶然が重なった某貴族の自爆」などと噂は広まる一方。

 

 エミリーとしては危険が無くなったのならそれでいいと思っているが、常に新たな刺激を求めている王都の民たちにそんな思いは通じない。

 

「あーけど、……今回ばかりはギルマスに同情するなー」

 

 今後起きるであろうことを想像して同情的になるエミリー。

 かわいそうだし、普通の美味しいお茶にしておくかと考えを改める。

 ギルマスは苦手なお茶を回避した。

 

 さて、大陸の中心に存在して接する国全てと良好な関係を築けているレーヴァテイン王国。そこに住まう人々の元には吟遊詩人の語る物語から、人伝に聞く真偽不明の話、極希にしか発行されない新聞などなど、日々様々な情報が入りそこに住まう人へと広がっていき良くも悪くも楽しませる。

 結果として、真偽不明であろうとも井戸端会議の奥様方並みに情報に飢えた人は話の種を求めて街へと繰り出す。

 

 では噂の根拠や詳しいことを知りたい人たちはどこへ向かうか?

 

 

 ――王様の住む城?

 そもそも近づけない。近づくのはアホだけ。

 

 

 ――某貴族の屋敷跡?

 捜査のために集まった騎士でいっぱい。下手に近づいたら捕まる。そもそも近づけるのは常識と特権がある一部の人だけ。

 

 

 ――衛兵の詰め所?

 行ってみたけど本当に何も知らないようだった。役に立たねえ……

 

 

 ――冒険者ギルド?

 ……高ランクとはいえ、何人も城にいたなら誰か教えてくれるんじゃね? 全部は無理でもちょっとした情報なら酒代の代わりでイケるんじゃ……? おいオマエら! 酒とメシみんなで奢って聞き出そうぜ! 城にいたらしい冒険者と仲がいい奴も探せ! ヒャッハー!!

 

 

 とまぁ、こんな具合だ。

 

 バカ騒ぎ起こす側からすればギリギリ許してもらえるイベント感覚かもしれないが、巻き込まれる方にとってはいい迷惑である。

 

 エミリーも知り合いから聞かれるたびに「守秘義務です!」で通している。

 実際、知っていることなどほとんどないのだ。今回の件はほぼ全てギルマスが仕切っていたのだから。

 

 そんなギルマス、王都で顔も効き強さも十分なためあの手この手で高ランク冒険者から情報を聞こうとする人を相手に、日夜走り回ることになった(夜の居酒屋やバーなどを本当に走って回るハメになった)。

 そのため、昼間はストレス発散に酒を飲んで執務室で寝るという、事情を知らなければただのダメ人間にしか見えない状態に。

 

 職員の誰1人そのようなことを思わないのは、早朝に疲れ果てて帰って来る姿を何度も見ているからである。そのため、書類を出し忘れた件もほとんどの職員は“しかたがない”と皆許していた。

 エミリーだってお茶を濃いめ云々は半分冗談で考えついてたのだ。

 普段はマジメに仕事しているのも理由。

 

 

 そしてギルマスの胃痛の原因になってるだろう人物の1人は――

 

 

「ユキナさんは騒動に愛されてますから、今回も偶然が重なった結果かな?」

 

 半年前に冒険者登録をしたDランク冒険者ユキナ。

 先日の昇格試験に合格したことで晴れて“新人”が取れた彼女であるが、登録する前からBランクの魔物を倒すほどの実力者である。

 そして登録後も髙ランクの魔物を何体も討伐し、何をそうさせたのか王国のあらゆる場所で魔物を絶滅でもさせたいのかというほど倒しに倒した。自然発生型でなければ本当に絶滅しかねないぐらい。

 

 そんな新人とは思えないほど強かったユキナだが、同時にトラブルにも愛されていた。先の昇格試験が良い例だ。Dランクになるための魔物を討伐しに出掛けてAランクの魔物を倒してきた。普通の新人であれば間違いなく出会った瞬間に命を諦める。

 

 偶然であろうが、ユキナの関わったトラブルのほとんどは結果として誰かを救う形になることが多いので、副次的にギルドの評価が上がっているのは皮肉な話だ。最近では感謝半分の同情半分でお土産を渡す職員もいる。

 ちなみにエミリーもその1人だ。

 

(ギルマス、ユキナさんに夢の中で文句言ってたなー)

 

 今回の一件にユキナが大きく関わっていると知ったのは偶然だ。

 その日はギルドマスターであるユフィの様子を見るために、軽食を持って執務室にお邪魔した。

 

 ……詳細は省くが、ギルドのトップとしての威厳や女性としての魅力など微塵も無かった。ハーフエルフで美人だが、100年の恋も一気に冷めてしまう。

 普段の誰にでも親しみを込めて接する姿をよく知るだけに、この光景は墓まで持って行くと決めたエミリーだった。

 

 問題は退室する直前。

 

 ユフィが寝言として呟いた「ううぃ~~、もう、なんれわらしがこんな走りまふぁるハメになんのかねー? 恨むよユキナ~。飲むの付き合ってもらはなきゃ許さないんだはらねー……むにゃむにゃ……」というセリフを聞いたためだ。

 

あの(・・)ユキナさんなら、何やっても不思議じゃない)

 

 

 エミリーは今でも覚えている。

 

 

 ――ある日突然現れた、ギルド職員の先輩を助けたという女の子。

 

 ――ウソみたいに真っ白で、見た目は儚く見えるけど、強い意志を持った目をしていて、しばらく経って美少女だと気付いた女の子。

 

 ――ブラッディベアーを倒し、マッドバッドを倒し、半年の間に討伐系を中心に数多くの依頼を受けては達成させたルーキー。依頼達成率は100%。最低必要日数である半年の期間を経て、すぐにDランク冒険者になった女の子。

 

 ――旅行して世界を見て回りたいと言い、数日前に王都を出て行った。その中で、親しい人全員にまた会う約束をした優しい子。

 

 

「馬車の移動速度から考えて、もう数日で聖国かな……。フフフ、ユキナさんなら聖国でもトラブルに巻き込まれそうですね」

 

 着替えを終え、鏡の前で笑顔を確認する。

 

「よし!」

 

(ユキナさんと出会った頃に比べれば、大分自然に笑えるようになってきた)

 

 冒険者ギルドの職員になってもうすぐ1年。

 新しく入る子がいれば、自分も先輩風を吹かせてもいいのではないかと思うぐらい仕事も板に付いてきた。

 

 今日も受付嬢エミリーの1日が始まる。

 

 




~あとがき劇場~

雪菜(;゜д゜)「守秘義務はどうしたんだよギルドマスター? 私の情報が洩れてんじゃん。聞いたのがエミリーだったからまだいいけど、気を付けてよ。いや、マジで。寝言ぐらい抑えろっての」

ユフィ(ノ∀`)「あっちゃー。油断してたよゴメンねー?」

雪菜(#・∀・)「アハ♪ 舐めてんのかテメー?」
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