アルビノ少女の異世界旅行記 ~私の旅は平穏無事にといかない~   作:影薄燕

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第59話 爆誕! 聖女ユキナ!!

 

 教皇さんの口からとんでもない単語が出た。

 まさか……バレてる!? いや、そんなはずはない!

 

「な、何のことか分かりませんのことよ!」

 

 おっふ。動揺し過ぎて言葉遣いが変に。

 一旦落ち着くんだ。COOLになれ私!!

 

「まずは顔上げて、順番に説明して。話はそれから」

 

「おお、私としたことが感情が先走ったために失礼を。そうですな。可能な限り話を要約して。……ちょうどいいのでステラも聞きなさい」

 

「は、はい!」

 

 少しして、私はベッドから上半身を起こしたままの体勢で、教皇さんとステラは部屋の真ん中にあった小さなテーブルとイスをベッドの近くに持って来て腰を下ろした。さらに部屋の外で待機していたステラの付き人の女性たちが用意していたらしいお茶を渡してくる。

 

「どうぞ。気持ちが落ち着くお茶です」

 

「ありがとなステラ」

 

 では一口。ズズッと。うん美味しい。

 

「それでは、まずは確認からですな」

 

 イスに座る2人も一口ずつ飲んだところで話が始まる。

 結構大事な話だから、部屋の外まで響くような大きな声は控えてくれとも頼まれた。了解っす。

 

「ユキナ様、アナタは【聖女】の称号をお持ちですね?」

 

 正確には【真・聖女】だけどなー。不本意ながら。

 てか教皇さん、確信した言い方っすね?

 

 私の考えてることが顔に出たのか、苦笑いする教皇さん。

 

「教皇には代々受け継がれる魔道具がいくつかあるのですが、今回ユキナ様のことが分かったのはこれのお陰ですね」

 

 そう言って、首から下げられた十字架を見せてくる。

 

「これは一定範囲内にいる【称号:聖女、見習い聖女、聖母】を持つ女性に反応する魔道具です。近づけると光るのも特徴でして。このように……」

 

 試しとばかり、隣に座るステラに十字架を近づける教皇さん。

 すると……

 

 

――ポワァッ。

 

 

 十字架全体が淡い緑色に包まれた。

 蛍の光を見たような幻想的な優しい光に目を奪われる。

 

「このように光ります。光の強さはその女性の聖女としての資質によっても変化します。ステラも見習い聖女の中では光り方が強い方なのですよ」

 

「最初は、この半分ぐらいしか光りませんでしたからね」

 

 懐かしそうに光る十字架を見つめるステラ。

 最初ってのがどれくらい前かは知らないけど、努力したんだろうなぁ。

 

「そして、ユキナ様に近づけますと……」

 

 目を手で隠しながら、恐る恐るといった具合に十字架を近づけてくる教皇――っておい。ちょっと待て。何か嫌な予感がす――

 

 

――ピカァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!

 

 

「「!? 目が! 目がああああああああああああ!!」」

 

「このように目が開けられぬ眩しさなのです。お判りいただけましたか?」

 

 嫌というほど分かったわああああああああああっ!!

 何してくれとんねんクソ教皇! 一瞬、閃光弾かと思ったぞ!? 見ろ、ステラまで巻き添え喰らってム〇カ大佐になってんじゃねえか!!

 

 つーか、光り方尋常じゃない!

 私が【真・聖女】だからか!? 【光系魔法】のレベルがMAXだからか!? 魔法はともかく、称号は不本意なんだぞ!

 

「これ程この十字架が光るなど聞いたことがありません。ユキナ様との出会いは神々のお導き。伝説の聖女の再来と言えるでしょう」

 

「感慨深くなる前にそれ引っ込めろおおおおおおおおおおお!!」

 

 オマエはいつまで光らせる気だ!

 

「ユキナ様、声が大きいです。お静かに」

 

「よーし。そのケンカ買った。表出ろや」

 

 教皇だろうと、もう許さん。1度シバいたる。

 

「ユ、ユキナ様!? おちゅ、落ち着いてください! 教皇様も! 光りすぎてどこにいるのか分かりませんが、ユキナ様も私もさすがに迷惑ですから、早く十字架をおしまいください! 話し相手を怒らせてどうするのですか!?」

 

「ふぅ。ステラもまだまだですな。見なさいこの魂に響くかのような光を。私は年甲斐もなく感動して涙で目も開けられぬというのに」

 

「……それ、ようするに見てないってことですよね? 最初からずっと」

 

 初めて聞くようなステラの冷たい声。きっとジト目だろう。

 

「私ぐらいになると、目を閉じたままでも光を感じ――」

 

「教皇さん♪ 私が目を開かせてあげますね!」

 

 とびっきりの笑顔でベッドから教皇のいるだろう場所へ飛び掛かった。獲物を狙うヒョウのごとく!

 

 

~数分後~

 

 

「んで? 私が聖女だったら何だって言うんですか?」

 

 腕を組みながら教皇(笑)を睨み付ける。

 

「ま、まあ先程も言いましたとおり、この国で聖女として皆の象徴になってもらいたいのです。無論、好待遇をお約束します」

 

 教皇は目や頭部を気にしながら(至近距離で十字架が光っている中で目を無理矢理開かせ、隙を突いたステラが腰に下げていた本を奪って頭部に一撃を喰らわした)深く頭を下げてお願いしてくる。

 

「お断りします」

 

「そこを何とか!」

 

 ええい。爺さんが縋ってくんな! 土下座の体勢に入ろうとすんな!

 

「教皇様。ユキナ様は世界を旅して見てみたい、という夢がおありです。聖国の見習い聖女としての立場から言えば、私もユキナ様には皆の象徴になってもらいたい気持ちはあります。ですが、無理強いだけはおやめください。本来であれば、この問題は私たちが解決しなければならないのですから」

 

「ステラ……」

 

 ステラの立場からするとかなり複雑だよな。

 普通なら見習い聖女の中から聖女となる女性が出て来るはずなのに、私みたいなポッと出が聖女として求められているんだから。

 

「それは……私も分かっているさ。教皇としてならともかく、人としてはダメなんだろう。だが、聖女がいなくなって十数年。聖国の立場は年々弱くなっている。これが普通の国なら問題ないが、ここは神々を信仰する信者たちが集まってできた国だ。建国時から常に存在した聖女が長期間いないという事実は足を掬われかねん。もう限界が近いのだ」

 

 そういえばそうだったな。

 元々は別の国があったのが、戦争で滅んだドサクサに紛れて信者たちが建国したんだったか。

 

 言い方は悪いけど、各所で混乱している最中に「ここは私たちの国だ!」ってゴリ押しして運よく周囲から認められた――いや、違うか? 他の国同士で戦争が激化した時期だったから構っている暇がないまま内側だけ政治体系が整って、戦争が終わった頃にはもう他の国が関与できないぐらいにまでなっていたと、そういうことかな? 認めざるを得なかったと。

 

 ゼロから整えるのはまだしも、中途半端に国として出来上がってくると領土の切り取りとかでややこしい問題も出てくるだろうしなぁ。

 

 元から住んでいた住民だって、そうコロコロ支配体系やら国としての在り方やら変わったら迷惑だろ。戦争が起こっている時代の住民にとって、国を支配するのは余程の愛国心でもない限り誰だっていい。最低限自分たちの衣食住を保証し、守ってくれるなら誰だって。

 でも、振り回されるのも限度があるから反発もあった可能性が高い。

 

 どうにかしたくても、戦争後の国なんて大なり小なり、勝ったとしても負けたとしても、疲弊するのが当たり前。他国の支配云々は余裕が出て来てから。なのに、その頃にはもう手出しが出しにくい状況になっていた。

 当時の国々としてはおもしろくないだろ。数百年経った今だって、おもしろくないと思う人物はどの国でもいるはず。

 

 そんな人たちからすれば、今の聖国は格好の的だ。

 教皇のちょい疲れた感じの実感の籠った言葉を聞くと、もう既にいろいろ言われ始めているのかもしれない。

 

(う~~~ん……おもしろくないな)

 

 ステラと教皇のどっちも正しい言い合いをBGMに、今後のことについて真剣に考えてみたけど、聖国に関して“何もしない”を選択すると後味が悪い。かといって“何とかする”を選ぶとなると、どこまで関わるべきかって話になる。

 

(……“聖国に所属している聖女がいる”ってことにさえなっていれば、文句言う奴を黙らせることができるんだよな?)

 

 本来はステラを含む見習い聖女たちがその役目を担うはずだった。だけど、どうにも聖女が誕生しないから他国に布教ついでで聖女、もしくは聖女になり得る人物を探す羽目になった。

 そこで見つかってしまった【真・聖女】な私。

 

(ここで断ったとして、明日から普通に観光や冒険者業ができるのかっていうと怪しいよな。目撃者多数で、外堀から埋められそう)

 

 きっとステラが事故にあったあと、奇跡的に助かった話は爆発的に聖都で広まっていることだろう。

 

 じゃあ、一体誰がステラを助けたんだって話に繋がる。

 私の容姿はどこでも目立つしなぁ。もう既に数日前に聖国に来た冒険者だってことまでバレてると思った方がよさそう。

 

 となると、教皇みたいに聖女になってくれっていう信者たちや教会関係者が毎日のように接触してくるかも。最悪、聖国に聖女がいてほしくない輩にマークされる可能性も高い。うん。どの道平穏無事にとはいかねえ。

 聖女になろうと、ならなかろうと、私に待っているのは胃が痛む日々。

 まさに八方塞がり!

 

(何か妥協点は!? 上手い負け方は……!?)

 

 痛む頭に悩まされながらも脳味噌をフル回転する。

 

(多少無理があっても、外野を黙らせる方法。……時間稼ぎとか?)

 

「それだ!!」

 

「「――っ!?」」

 

 突然大きな声を上げた私にビックリする2人。

 

「ねえ、教皇さん? 国のトップ連中相手に口回る方? ウソを言っても相手に気付かれない、もしくは押し通す度胸ある方?」

 

「え、ええ。それはもちろん。だてに教皇という地位にいるわけではありません。今までも様々な事を笑顔でゴリ押ししてきました」

 

「んじゃ、耳貸して。ステラもついでに」

 

 

 3人揃って、コショコショコショ……

 

 

「……妥協案としては、良いかもしれません。少なくとも数年は時間稼ぎができます。そのためには教会関係者も騙すこととなりますが……」

 

「教皇様。私はユキナ様の提案を受けるべきだと思います。条件付きとはいえ、私たちのためにここまでしてくださるのに、こちらがどうこうだと言っている場合ではありません。私にユキナ様の専属見習い聖女の任をさせてください。このような事態になった責任は私にもあります!」

 

 思案する教皇さんに、瞳を燃え上がらせるように力説するステラ。

 ところで“専属”って何の話?

 

「…………分かった。ユキナ様、そちらの条件を受け入れます。短い間ですが、この国の民を導いてください」

 

「こっちとしても条件全部飲んでくれただけでも有り難いっす。それで、細かい所なんかもこのまま煮詰めていきたいんだけど……」

 

「もちろんです。ではさっそく、大まかな流れからですが――」

 

 それから数時間以上、途中で休憩を挟みながら夜が更けるまで続いた話し合いはようやく終わりの時を迎えた。

 

 あとはもう、振ったサイコロの出目のごとく流れに任せるしかない。

 どんな出目がでようと、受けて立ってやる!

 

 そう、思ってたんだけどなー。

 

 1週間後のお披露目で死んだ魚の目になってしまうとは、この時は思ってもみなかったよ。いや、考えれば当たり前なんですけども。

 精神保護するスキル持ってて、それだぞ?

 普通の人なら心臓に毛でも生えてないと胃がやられるって。

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

「もうやだ。おうちかえる」

 

「ユキナ様、今寝泊まりしているのはここですよ? ここがユキナ様のお家です。帰るも何も、外出すらしていません」

 

「……ですよねー」

 

「今日は果実を生地に練り込んだクッキーをお持ちしました。これを食べて元気になってください」

 

 お披露目を終えて、ぐだーっとテーブルに突っ伏す私。

 

 聖女の間近でその在り方を学ぶ専属の見習い聖女、という立場になったステラが寄越したクッキーをボリボリ食べながらこの1週間のことを思い出す。

 

 教会関係者に質問攻めに合うわ、護衛依頼を出した商人や一緒に依頼を受けた冒険者たちに根回しするわ、ステラが庇った子供と面会するわ、聖女が覚えるべき知識を頭の中に詰め込むわ、怒涛の日々だった。

 これで教皇さんが上手く立ち回ってくれなきゃ泣くぞ私? ついでにあの教皇にも責任とらせて泣いてもらう。グーパンで。

 

「……私の考えた設定、上手くいくかな?」

 

「2、3ヶ月は非常に忙しくなると思います。そこからは時期を見計らって聖国から他国に行くしかないかと……」

 

 私の考えた妥協案。

 それは“一時的に伝説の聖女の再来になろう”作戦。

 

 伝説の聖女の話はステラと一緒にいた数日の中で聞いた。

 かつて実在した人物で、ステラが憧れた聖女の中の聖女。世界を回り続けて人々を癒し続けた、恐らくは私と同じ【真・聖女】だった女性。

 

 じゃあ、私が似たようなことしたっていいじゃん!

 

 どうせケガや病気で困ってる人見かけたら、良心から無視するなんて選択肢はないし、目に見える範囲は助けちゃう。

 それこそ、ステラの時みたいに。

 

 しばらく聖国で活動して「伝説の聖女に倣い、世界の救いを求める人たちを救います!」とかなんとか言えば国を出れる。そこからの数年間でステラたち見習い聖女が本物の聖女になればいい。時間稼ぎにしかならないけど、私にできる譲歩はここが限界だ。

 あとのことはステラたちを信じるしかない。

 

「それにしても『どうせ見たら助けちゃうから』、ですか」

 

「ん? なによー」

 

「ユキナ様は……聖女とか関係なく、お優しいのですね」

 

「……優しくなんてないよ」

 

 ただ、自分がやりたいと思ったことを勢い任せでしただけ。

 

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