アルビノ少女の異世界旅行記 ~私の旅は平穏無事にといかない~   作:影薄燕

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閑話 オレの時が動き出した時 ①

 

〔Side.レオン〕

 

 もうすぐ日が沈む。

 孤児院の人たち、心配してるかな?

 ……してるわけねーか。オレみたいな愛想の悪い奴。

 

 少し前からこの公園のベンチに座っている。

 だって他に行く所なんてねーし。孤児院にはあんまりいたくない。数ヶ月前まで暮らしていた家のある村は遠いから行くことができない。

 

「……どうして、こうなったんだよ……」

 

 涙が溢れそうになるのをグッとこらえる。

 泣いたって、神様に願ったって、意味なんかないから。

 

 

 

 

 

 オレが住んでいた村は聖都から随分離れた田舎だ。

 特に特産品も無いし、見どころもない。

 

 これで国境近くだったり、話に聞く「聖獣の森」の側だったらまた違ってきたんだろうって近所のおっちゃんたちも言っていた。

 宿屋や監視塔があるだけで違いがあるんだと。

 

 そんな村だから最近は……か、過疎化だっけ? とにかく、それが目立ってきた。

 その影響で若い奴が村を捨てて他の街に出ていくことも多くなった。

 小さい頃に優しくしてくれた村の兄ちゃんや姉ちゃんも、「冒険者になるんだ!」とか「私は都会で輝くわ!」とか言っていなくなった。

 

 最初は寂しかったけど1年ぐらいしてから兄ちゃんや姉ちゃんの家に、ときどき仕送りがされるようになったから元気なのは間違いない。

 出て行って10年以上音沙汰ない奴に比べればマシだ。

 

 オレも将来どうするか考えた時もあったけど、普通に村で自分がやれることをやることにした。

 それなら大好き父ちゃんや母ちゃんと一緒にいられるし、大人になって結婚することがあってもすぐ会えるから。

 

 そのことを2人に言ったら、笑っているような、泣いているような、不思議な顔をしていたのをよく覚えている。

 直後に乱暴だけど愛情を込めて撫でられた父ちゃんの手の温かさも、抱きしめてくれた母ちゃんの温かさも、全部覚えている。

 

 

 

 こんな幸せが続くんだって、根拠もなく思い込んでいた。

 

 

 そんなの、子供の作った泥だんごと同じくらい簡単に崩れるのに。

 

 

 今よりもガキだったオレは、考えつきもしなかったんだ。

 

 

 

 

 

 ――父ちゃんと母ちゃんが死んだ。

 それを近所のおっちゃんに聞いた時は質の悪い冗談だと思った。

 

 だってそうだろ? 何日も雨が続いて、今日も雨で、でも父ちゃんと母ちゃんは仕事で作った物を1番近い街に届ける為に朝早く出かけただけなんだから。帰ったら夕飯はオレの好きなチキンステーキだよって言っていたんだから。家で1人ぼっちでもいい子にして待っていたんだから。

 

 なのに…………土砂崩れに巻き込まれたって何だよ?

 

 

 

 それからの記憶はほとんど無い。

 気付いたら聖都に向かう馬車の中だった。

 

 あとから聞いた話だと、頑なに信じてなかったオレは冷たくなった2人を見て、狂ったように泣き続けたらしい。

 

 両親がいなくなったオレの扱いの話になったけど、村のどこもいきなりオレを養えるような余裕はなかった。村には他に身内もいなかったから、オレは聖都から来た役人の人に連れられて孤児院に入ることになっていた。

 

 これでもう少し大きくて1人で最低限仕事が出来れば援助金制度なんてのが適用されたみたいだけど、オレは10歳にもなっていないガキで、両親の仕事も覚えていなかったから無理だと判断されたらしい。

 一応オレ自身に役人の人が意見を聞いたりもしたそうだけど、まともに会話すらできず、このまま放っておくわけにもいかないからと他の村人たちの意見を聞いて、孤児院入りが決定したと言っていた。

 

 頭が整理できてきた頃、馬車の窓から外を見た。

 村のみんなが「神様はお空の上から見守っているんだよ」って言っていた空はすごくどんよりと曇っていた。

 まるで神様は最初からオレのことなんて見守っていないと言われたみたいで、勝手な想像なのに腹立たしく思えてきたんだ。

 

 住み慣れた村はもう、影すら見えなかった。

 

 

 

 あれから何日も掛けて聖都に到着したけど、何にも感じなかった。

 1度は行ってみたいって思っていたはずなのに。

 

 孤児院のみんなや院長たちは優しくしてくれたけど、それが逆に辛かった。「ボクのお母さんとお父さんは冒険者だったけど死んじゃったんだ」とか言っているオレより小さなガキも、「私の両親、借金して私だけ置いてどこか行っちゃったの」とか苦笑いしてる同い年ぐらいの女の子も、鬱陶しいし癪に触る。

 

 だったらどうしたってんだ?

 孤児院にいる以上、何かが原因で親がいないのなんて分かってんだよ。

 だけど……オマエらはオレの気持ちなんて分からねえだろ! オレに優しくしてくれた父ちゃんと母ちゃんの温かさを知らないだろうが!!

 

 誰とも関わりたくなかった。

 いつも壁を作るようにして、1人でいるようにした。

 毎日が空虚だった。

 

 

 

 オレの時間は……ずっと止まったままだ。

 

 

 

「レオンくん、ですか?」

 

 いつの間にか女の人が覗きこんでいた。

 たぶん成人もしていない少女。背丈からすると13ぐらいか? 優しそうな雰囲気で、見た目よりも大人っぽく見えた。

 

「……誰だよ?」

 

「あ、申し遅れました。見習い聖女のステラと言います」

 

 まさかの聖女様候補の少女だった。

 

 今、聖国が抱えている問題はオレも聞いたことがある。

 見習い聖女たちががんばっているとも。

 バカバカしい。本当に神様がいたら孤児院なんて必要ないはずだろ? 父ちゃんと母ちゃんが死ななくても良かったはずだろ?

 

 そう思うと目の前で微笑んでいる女がバカみたいに見えた。

 ……自分で思っててアレだけど、オレもだいぶひねくれた性格になってきたな。少し前なら絶対にこんなこと思わなかったはずだ。

 

 とりあえず話を聞いてみると、孤児院に訪れて子供たちと遊んでいたけどオレがまだ帰ってこないことを知って1人で飛び出してきたそうだ。

 居場所については偶然会った友達に聞いたらすぐに分かったって……何でその友達とやらがオレのいる場所知ってんだよ? ユキナなんて姉ちゃん知り合いにいないぞ? 怖えよ。ホラーかっての。

 

「みんな心配していました。さ、帰りましょ?」

 

「……いやだ」

 

 普通なら時間も時間だし、素直に言うこと聞いて帰った方がいいんだろう。

 だけど、心の中にある目の前の見習い聖女様に対するムカつきから意固地になって帰るのを拒否した。少しでも困らせてやりたいっていう、そんなガキみたいな理由だった。

 

「そう……」

 

 ほら困った顔しろ。オレのこと苦手になれ。

 

「じゃ、お話しましょう!」

 

「はあ?」

 

 何言ってんだこの見習い聖女様は? 何でそんな笑顔なんだよ――って、隣に座ってきた! 近いっての!

 

「先程もちょっと言いましたが最近ユキナ様というお友達が出来たんです。その方は本当にお料理が上手で――」

 

 そっからこっちの気持ちも考えずに、時たまオレに意見を求めながら最近あった出来事を楽しそうに話し始めた。

 

 外国での布教から始まって、ユキナって姉ちゃんに会ってからのこと、美味しい料理の話に他の見習い聖女たちのこと。

 こっちが聞いてもいないことをたくさん話した。

 

 どのくらい経ってからか分からないけど、すごいイライラしだした。

 とにかく目の前の少女を怒鳴りたかった。

 

「いい加減にしろよ! さっきから鬱陶しいな! オレのことなんてほっとけよ! どうせ聖女の地位を上げたいからご機嫌取りしたいんだろ! オレみたいな孤児なんて格好の的だもんな。優しくするだけで周りの評価が上がるもんな。ふざけんな! 少し前まで幸せだったんだ! 同情してんじゃねえ! 憐れむんじゃねえ! これ以上……オレのこと惨めにさせんじゃねえ!!」

 

 言ってやったぞ。ざまあみろ。

 オレのこと都合のいい道具みたいにして。どうせこのあとは「そんなことない」とか言い訳するに決まっている。

 

 だけど、オレに図星をつかれたはずの少女は、

 

「……同情していることは否定しません」

 

 あっさり認めたんだ。

 

「でもねレオンくん? 同情にも種類があるんですよ? たぶん、レオンくんが思っている同情は憐れむだけで何もしないものを言っているのかもしれません。ですが私は、決してレオンくんのことを憐れんだりなんてしません。だって、ご両親を亡くされて悲しい気持ちになる人が優しくないわけありませんもの。私はそんな優しい気持ちを持ったレオンくんが、未来に向けて歩いて行けるようにしたいだけです。理屈じゃないんですよ。これが私の素直な気持ちなんです」

 

「なん……だよ、それ?」

 

 意味が分かんない。

 ちっとも動揺していない。ウソをついている目でもない。まっすぐにオレのこと見ている。

 

 頭の中がぐちゃぐちゃになる。

 とにかく、今すぐこの場から離れたかった。

 

「意味分かんねえんだよ!!」

 

「――っ!? レオンくん!」

 

 走った。がむしゃらに走りまくった。

 あの少女から離れたかった。あのまっすぐな目でこれ以上、オレみたいな奴のことを見ないでほしかった。だから、碌に前も見ずに走って走って走って走って走って……走り続けた。

 

 

 そのことを、死ぬほど後悔するとも知らずに。

 

 

「危ない!!」

 

 さっきまでいた少女の必死さが伝わる声に気付いた時には遅かったんだ。オレはいつの間にか公園を出て、馬車の前に飛び出していた。

 

 

 不思議と、ゆっくり時間が流れているように感じた。

 

 

 驚く馬。そして馬車の御者。

 バカみたいに立ち止まったオレ。

 近づいていく蹄。

 

 瞬間、父ちゃんと母ちゃんとの思い出が頭をよぎった。

 ……あぁ、これが走馬灯ってやつなのかな?

 

 

 直後、衝撃がオレを――

 

 

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