ある意味初投稿です
ある日あなたはウマトレなる概念を受信した
「……あの、キィさん。ちょっといいでしょうか…」
夕暮れの光が差し込む教室で、漆黒の髪の毛の少女マンハッタンカフェは金髪の、あるウマ娘に話しかけていた。
そのウマ娘──キィと呼ばれた少女は、人懐っこい笑みでマンハッタンカフェに手を振る。
「やぁ、カフェさん。どうかしたの?」
「……前に相談した件で、お礼をと思って」
「ああ、トレーナーさんとのデートの件ね。どうだった?上手くいった?上手くいった!?」
キィは鼻息を荒くしながら興奮した様子で尋ねる。マンハッタンカフェは若干その勢いに引きつつも少し顔を赤らめながら答える。
「……デートではないですけど、トレーナーさんとのお出掛けは、あなたの助言の、おかげでうまくいきました……」
「おおー!」
パチパチと拍手を送るキィ。
「……あの、それでなんですけど、来月トレーナーさんの誕生日らしくて、私、何を送ったらいいかわからなくて、キィさんといっ、一緒に、選んで貰えたらと思って……そ、そのいっ一緒に、行きませんか?」
顔を隠すような長髪の間からもわかるくらい、顔を真っ赤にして少しうつむくマンハッタンカフェ。
キィはそれには気がつかなかったのか、うん?と少し困ったような顔をした。
「いいねぇ、もちろん私に任せて!一緒にトレーナーさんへのプレゼント選ぼうか!」
「……お願いします。それと、その後、時間が空いたら一緒にコーヒーでも、ど、どうでしょうか……」
「それも楽しみだね。私、カフェさんがオススメしてくれるコーヒー大好きだし……ゲホッゲホッ」
「……!キィさん、血が…」
咳をだし、鼻から血をだすキィを心配するが、キィは手慣れた様子でティッシュを取り出し鼻血を拭く。
そして、見てる側がどこか痛々しさを感じるようなくらいの笑みを浮かべた。
「大丈夫、大丈夫!いつもの発作だから」
「……すいません。やっぱりおでかけは無しにしましょう……」
「そんな、もったいない!大丈夫だよ、おでかけまでには体調整えられるから」
「……でも」
「平気へっちゃらだからだいじょーぶ!それじゃ、また後で寮でね!」
そうして足早にマンハッタンカフェを置いて教室を去っていった。
1人残され寂しげに、キィの背中を見ていた彼女は気づかなかった。
キィが、顔を真っ赤にして鼻血を垂れ流しながら下品な笑みを浮かべていたことに。
※
○月○日 木曜日
私はキィ、普通のウマ娘。キィというのはあだ名で本名は別にあるが、みんなキィさんやキィちゃん、キィすけキィの字キィ坊と私を呼ぶ。なんでかは知らない。
ごく平凡な家庭で生まれ育ち、ごくごく平凡に将来に不安を感じたり、ごくごく平凡にトレセン学園に通い続けている。
レースの結果も掲示板内に入れるかどうかわからないぐらいの実力で、担当してくれるトレーナーが見つからない日々を送っているが、自分でいうのもなんだが私は友人が多く結果はだせてなくても案外楽しく過ごせている、最近はこのまま結果をだせなかったときのために勉強中だ。
そんな日々を続けていたが、ある日とても耐えられるものじゃない頭痛に悩まされた。
目の奥も痛く、意識も朦朧とするなか、頭のなかに、体験したことのない記憶のようなものが流れ込んでくる。
『普段厳しく接していたウマ娘がトレーナーにデレていく』『すごい勝ち気で無邪気なウマ娘がその無邪気さでトレーナーに絡み付いていく』『クールでプライド高いウマ娘が、トレーナーに無視されて次は釘付けにさせるために頑張る』『…これからはオトンと呼んだ方がいいか?』『深窓の令嬢のようなウマ娘がトレーナーとさながら恋愛小説のようなやり取りをしていく』『自分に自信がなかったウマ娘がトレーナーと出会い惹かれていく』『しゃあっ!鉄芯爆砕脚!!』『天才だが自分の身の回りを疎かとするウマ娘を見かねたトレーナーが料理をつくりそれが日常となる』『ウマ娘が卒業して大人になってトレーナーと結婚する』『ウマ娘同士のイチャイチャ』『トレーナー同士のイチャイチャ』……………。
それはもう濁流のように、私の記憶を塗り潰していく勢いで頭の中を侵略してくる。
今までの価値観を強制的に変えられるような体験で、脳汁がドバドバ出るような感覚で、私は意識を失った。あと鼻血も出た。
目が覚めたとき、私は病院のベッドで横たわっており、お医者さんに何か言われたような気がしたが、ぶっちゃけ興奮のあまりよく聞き取れなかった。
この現象が起きはじめて1ヶ月が経ち、なんだかんだ慣れ始めてきて、この体験のことをなんとなく理解しはじめた。
この存在しない記憶は、1週間に2、3回は突然あふれだすようになりその度に、理由はわからないけど、恐らくウマ娘とトレーナーがイチャイチャしている光景をメインに私の頭のなかに流れ込んできている。
記憶によると、これはウマトレとかいうらしい。正直どうでもいいが。
そして、流れ込んでいる間の私は、まるで貧血のようにぼーーっとした感じになり、視界は黒くボヤけて気絶する一歩手前らしい。
あれから倒れるくらいの頭痛はしなくなったけど、その代わり記憶が流れ込んできた後は、常に鼻血が出るようになってしまった。
端から見ると、何もないのに突然鼻血を出しているように見えているだろう。
正直恥ずかしいし、その度にティッシュを使って鼻血を拭いたりしなきゃいけなくてめんどくさい。
なんで、私の身体こうなっちゃったんだろう。これじゃ、レース中に記憶が流れ込んできたら、と考えると大切なレース場や勝負服を鼻血で汚すのが怖くて、走れなくなってしまった。
また記憶が流れ込んくる。私は若干うんざりしながら意味もわからない光景を鼻血の処理をしながらひたすら眺めていた。
それから私はこの体験について考えていた。これは一体何を意味するのだろうと。
記憶ではウマ娘とトレーナーがひたすら恋愛的な意味でイチャイチャしていた。
言うまでもないが、ウマ娘とトレーナーの恋愛はご法度だ。指導者と教え子の立場上、私情が入るのは許されるはずもない。
学園やURAにバレれば、そのウマ娘のレース人生は終わるだろう。
そんな禁じられた光景を、記憶はひたすらイチャイチャを見せてくる。これはなんなのだろう。
何かの啓示か、疲れからのストレスなのだろうか。寝る間も惜しんでひたすら考えていたが、なかなか答えはでなかったが、ある日私はついに答えを得た。
それはたまたま生徒会に用があった時の話だ。生徒会室に入ろうとしたときに、会長のシンボリルドルフが担当トレーナーと会話しているのが聞こえた。
盗み聞きは趣味じゃないのでまた機会を改めようとして去ろうとした時に、つい聞いてしまった。聞いてしまったのだ。
「……あ、あのルドルフ。二人きりとはいえちょっと近くないかな?」
「も~!トレーナーくん、二人きりのときは私はルドルフじゃなくて、ルナちゃん!いつも言ってるでしょ!」
「そ、そうだね。ルナちゃん……」
「うん!よろしい!」
私は、あり得ないものを見たかのように震えてしまった。呼吸もままならない。
あの、あのシンボリルドルフが、『皇帝』と呼ばれレースでは常に圧倒的な実力を誇りながらも、私たちウマ娘のことを常に考え凛々しく毅然としているあのルドルフ会長が、トレーナーの前でまるで盛りついたメス猫のような声をだして甘えている……!。
私はショックで、地面にへたりこんでしまった。
なんだこれは、一体どうなってるんだ。
いやいやいやで、でも会長だってま、ま、まぁ女子だし、そういうこともあるのかな?!
あのトレーナーさんとの付き合いも、たしか4年目くらいのはずだし、若い男女がそんな期間を一緒に過ごしてたら、そりゃちょっとは恋愛的なアレも芽生えちゃうのかな!?
頭が熱い。それに、胸が全力疾走をした後のように締め付けられる。
口角が上がっていて、自分が今すごい表情なのもわかる。
鼻血も、今まで見たことのないくらいドバドバ出てくる。
なんだこれは、なんだこの感覚は!
今まで生きてきて味わったことのない、快感のような幸福感のようなものに胸のなかが一杯になる。
そして、例の記憶が頭の中で写しだされる。相も変わらずウマ娘とトレーナーとのイチャイチャが流れ込んでくるが、いつもと違って私はまばたきすら惜しむように食い入るように、その光景を見つめていた。
へへっ、と気持ち悪い笑いがこぼれる。
もっと見たい!もっともっと見たい!ウマ娘とトレーナーがひたすらイチャイチャしているところを、私に見せて!
もっともっと見たかったのに、記憶の流れ込みが終わってしまう。
気がつくと、私は病院のベッドに寝込んでいた。
どうやらルドルフ会長が、大量の鼻血を出して生徒会室の前で倒れているところ発見し、急いで病院に運んでくれたようだ。
かなり危険な状態だったらしく、ルドルフ会長とトレーナーさんが応急措置を取ってくれなかったらどうなっていたのかわからなかったらしい。
そして、今病院のベッドの上でこの日記を書いている。
本当はスマホの日記アプリを使いたかったけど、スマホは寮の自室にあるため、ナースさんに頼み込んで日記帳とペンをもらった。
私はつい理解したのだ。この記憶の意味を。きっとこの記憶は私に教えてくれていたんだ。いかに、ウマ娘とトレーナーのイチャイチャは尊いのかと。
そして、私はきっとこのトレセン学園に入学したのはレースで最高の成績をおさめるためでも、良い大学に入るためでもない。
私はこの学園で、ウマトレを間近に見るために通っていたんだ。
それもただ見るだけじゃ駄目だ。最初から、ウマ娘とトレーナーが担当を組はじめてから恋に発展するまでを見ていたい。
私はそれを間近に、例えるなら恋愛ゲームでいう親友ポジみたいな感じでそれを見ていたい。できることなら、それを相談されたりしちゃったりなんかあったらそれはもう最高だろう。
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あれこれ妄想しだしたらまた鼻血が出てきてしまって日記帳に少し垂れてしまった。ナースさんがめちゃくちゃ慌てだしたので、一旦書くのを終える。
ああ、明日からの学園生活が楽しみだなぁ。