ある日あなたはウマトレなる概念を受信した   作:シマキ

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 クリスマスの夜に投稿したかったけど間に合わなかったので、初登場です。




ある日あなたはとっくに堕ちていたことに気づいた

 

 

 X月XX日

 

 長かった夏の合宿も今日で終わりを迎える。

 この夏はカフェさんの体調管理面のお手伝いだけじゃなく、私の練習もトレーナーさんは見てくれることになってしまった。

 砂浜ってなんであんなに走りづらいんだろう、軽く走っただけなのに足が持ってかれそうになり、何回も派手に転んでしまいそうになった。  

 私とは対称的に、カフェさんは多少走りづらさはあっても軽やかに砂浜を走りきっていて、転びかけてばかりいる私を気遣って、砂浜での走り方のコツまで教えてくれたりもした。

 

 練習の思い出ばかり書くのは、かなり味気ないし虚くなるからもっと楽しいことを書こう。

 例えば皆で海で遊んだこと。メンバーは私、カフェさん、タキオンさん、ポケットさん!とあと多分ポケットさんの舎弟が何人かいたような気もしなくもない。

 水鉄砲を使ったり、ビーチフラッグやビーチバレーで勝負、BBQで焼きそばを作ったりした。

 

 後はカフェさんと花火を見たことも楽しかった。

 合宿所の近くでやってる夏祭りは、3年に1度祭りの最後に大きな花火を打ち上げることがある。

 今年がその年だったため、夏祭りの会場はたくさんたくさんの人で埋め尽くされていた。

 こんな人混みじゃまともに花火見れそうにないなぁってがっかりしていると、カフェさんが良い場所があると私の手を取って、山へと向かった。

 

 最初はどこへ向かうのかわからず、ただ困惑しながら着いていった。そうして、歩き始めて数十後、山のなかの開けた場所にたどり着いた。

 

 そこは、人やウマ娘はもちろん動物の気配すら感じず、静かな場所で、ここだけ忘れさられたかのような神秘的というか奇怪的というか、まぁ異質な空間だった。 

 

 そこで待っていると、花火が打ち上げる音が聞こえ、夜空を眺めると、綺麗な星空を彩るように色とりどりの花火が上がっていた。

 私は、彼女によくこんな絶好の穴場を知っているねと訪ねると、お友だちが導いてくれたと答える。物知りだなぁ。

 

 花火を見上げているときに、いつもの距離感のはずなのに、なんか妙に距離が近いような気がして内心かなりドキドキししてしまって、少し距離を開けようとしたら、身体が金縛りにあったかのように動けなくなったという奇妙な現象があった。

 『ニゲルナ』なんて言われた気がしたが、きっと気のせいだろう。

 

 思い出を振り返ると、楽しいことも頑張ったこともあった楽しい合宿だったと、私は帰りのバスの道中そう思った。

 バスはみんな疲れが溜まっているのか、私のように起きている子はほとんどいない。

 隣の席のポケットさんも心地よさそうに眠っており、頭が私の肩に当たって重い。

 気持ち良さそうに眠っているから、どかすのも可哀想な気がしたのでそのままにする。

 

 明日からまたいつも通りの日々が始まる。

 私はいつものようにカフェさんとトレーナーの手伝いをしつつ、2人の絡みを間近で見ているそんな日々を送りたい。

 あの夢も、妙にカフェさんと一緒にいると変に意識してしまうのもきっと合宿が楽しくて、私が変に浮かれてしまったせいだ。きっとそうに違いない。

 

 

 X月XX日 

  

 セントライト記念も無事1着という活躍で終えたカフェさん、彼女の人気は留まることを知らずだ。

 それを私は聖蹄祭で実感することになった。

 

 聖蹄祭はいわゆる文化祭のようなもので、普通の学校の文化祭とは違い、ウマ娘との直接交流のファン参加型のイベントがある。

 

 私はカフェさんと組んで喫茶店を出すことになった。

 喫茶店は彼女の好みに合わせた落ち着いた雰囲気のもので、アンティークというのだろうか、まぁそんな感じだ。

 でも、これじゃ少し物足りないと思って、執事服を着ることを彼女に提案し、いかに執事服が素晴らしいのかいかにウマ娘に執事服が着ることが魅力的なのかいかにファン需要があるのかいかに私需要があるのか、まとめ書き上げた資料を30枚ほど渡したが、執事喫茶は他にあるからと言われて断られてしまった、無念。

 

 当日準備してる間、喫茶店なんて2人で回せるのかと、不安に思っていたが、カフェさんは、ここはそもそも人が来ること自体少ないでしょうと言っていたので、それならまぁなんとかなる、と思っていたのに、めちゃくちゃ人がやってきた。

 

 カフェさんも予想していなかったのか、驚いていた。何十人きたのか数えてないが、とにかくたくさんお客さんが来たのは覚えている。

 お客さんはほぼ全員カフェさん目当てらしく、ウマッターでカフェさんが喫茶店をやると知るとここを探しだしたらしい。

 途中でカフェさんがファンの対応で出ていかざる得なくなってしまったので、私1人でコーヒーやら紅茶やらを淹れたりスイーツを作ってお客さんに提出することになったのは、トレセン学園で1番の試練だったかもしれない。

 

 何人かここがレストランと勘違いしてるのか、私が作って用意しておいたスイーツを全部食べ尽くしてなお、おかわりを要求するものだからマジで肝を冷やした。

 

 途中からカフェさんが戻ってくるまでほぼ全部対応しきったのは、本当に奇跡だと思った。お客さんが美味しかったと言ってくれたのはほんとに良かった。

 また食べさせてくださいと、たくさん食べてたウマ娘に言われたときは内心ヒヤヒヤした。

 

 全員対応してクタクタに疲れた私を、カフェさんは労うようにコーヒーを出してくれ、ありがとうと笑顔で言ってくれた。

 

 その笑顔で報われたと感じた私は、カフェさんを連れて執事喫茶へと向かった。

 

 

 X月XX日

 

 菊花賞を見事1着で走りきり、2冠ウマ娘となったカフェさんを労うトレーナーさん。

 カフェさんも菊花賞での走りに何か手応えがあったようで、嬉しそうに笑みを浮かべている。

 あぁ~、久しぶりのウマトレを間近で見れて嬉しいな。やっぱウマトレよ、ウマトレ。鼻血を処理しなきゃ。

 

 鼻血を処理するために席を外している間に、2人は次の方針を決めたらしく、この勢いのまま、『有マ記念』に挑むようだ。すごいなぁ。

 

 

 12月24日

 

 今日は有マ記念、中央の1年を締めくくる大レースだ。

 

 カフェさんの他に、テイエムオペラオーちゃんやメイショウドトウちゃんが注目されていて、会場は誰が勝つのか、大いに盛り上がっている。

 

 カフェさんも流石に緊張しているのか、少し思い詰めた顔をしていた。

 どうにか緊張をほぐせないかなと考えた私だったが、特に良い案がとっさに思い付くわけでもないので、素直に頑張って、応援していると伝えることにした。

 

 こんな言葉しか私は送れないが、それが彼女の緊張を少しでも解くことができたらいいな。

 

 地下バ道から歩いていく彼女の背中を見ながら思った。

 

 

 ※

 

 

 走る走る走る。

 

 身体が軽い、呼吸はいつもより安定してる、もっともっと速く走れそうだ。

 

 『マンハッタンカフェ、ドンドン後方から差していく!』

 

 いけーっ!マンハッタンカフェー!や頑張ってー!なんて応援の声が聞こえる。

 そういえば、今日のレースを応援にきますって言ってくれた後輩の子やファンの方がたくさんいてくれたのを思い出した。

 少し前まで応援どころか、不気味がられて声をかけてくれる子すらいなかったのを思い出して、少し笑みを浮かべてしまう。 

   

 応援を背負って、私はもっと走り出す。

 

 『第4コーナーを進んで直線へ』

 『最終コーナー、最初に立ち上がったのはテイエムオペラオー、いや、マンハッタンカフェここで抜け出した!』

 

 私は前を見る、そこには『彼女』の背中がたしかに見える。。

 あとちょっと、ちょっとで追い付きそうなのに、そのちょっとがかなり遠い。

 

 もう少しなのに、さらに差をつけられそうだ。

 

 

 『残り400』

 

 私はさらに走り続ける。

 

 ここまで私を連れてきてくれたトレーナーさん、そして支え続けてくれたキィさんの想いを無駄にはしたくない。

 走りながら、私は思い出した。

 

 頑張って、応援している。

 

 すごくありふれた言葉で、すごく温かい言葉。それが私を支えている。

 

 「……っ、追いついて、見せる……!」

 

 私は2人の想いを胸に、最後の直線を走り続けた。追いつきたい、ようやくここまで来れたから。

 あと少し、あとクビ差なのに……!

 

 それでも、お友だちはただ速かった。

 

 彼女は楽しげに一歩を踏み込んで、私と更に距離を離してしまう。

 

 『マンハッタンカフェ、ゴールイン!夢のグランプリを制したのはマンハッタンカフェ!年末最後の大一番を制し、栄光のセンターの座を手に入れた!』

 

 ゴールインをした私は、はぁはぁと、息を整える。

 

 また、彼女には追いつけなかった。彼女は、ゴールインの後に遠く遠くへ行ってしまった。

 彼女の姿はもう見えない。

 

 悔しくて、寂しくて、たまらないのに、でもちょっと嬉しいと思った私がいる。

 だって、また彼女を追っていくことができるのだから。

 

 「……次は、必ず追いついてみせます……」

 

 そう決意を抱いた。まだ私には次があるんだから。これからも彼女を追い続けて、どんどん速くなっていく彼女をきっと追い抜いてみせるんだ。

 

 でも、その前に。

 

 私は手を振り、応援してくれたファンの人達へ感謝を示す。あの人達の応援のおかげでもあるんだから、ここまでこれたのは。

 

 私はウイニングライブを終え、地下バ道に戻る最中、テイエムオペラオーさんに声をかけられた。

 彼女はいつものように何か言うわけでもなく、私をじっと見つめると拍手だけを送り、また走ろうとだけ言って立ち去った。

 意図が読めなかったが、きっと彼女なりになにか思うところでもあったのかもしれない。

 

 「おつかれ、カフェ……おめでとう!」

 「えぇ……戻りました」

 

 そして、私はトレーナーさんのもとへ戻った。トレーナーさんは、私を気遣う言葉を最初に投げてくれる。

 

 「……キィさんは?」

 「彼女は先に喫茶店に行ったよ。カフェのお祝いのために料理を作ってまってるって」

 「そうですか……」 

 

 キィさんがこの場にいないのは少し寂しいけどある意味、都合が良いかもしれない。

 

 「それで、体調は?」

 「……何も問題ありません。いえ、むしろ調子がいいくらい」

 「わかった。……もしこのまま、来年の春まで調子が良ければだけど、前から話していた件、トレーナーとしても賛成してもいいかもしれない」

 「……!トレーナーさん……ありがとう、ございます……」

 「まだ先の話だよ。……ただ、キィはどうするの?この話、まだしてないでしょ」

 「……今夜、話をします。私としては、着いてきてほしいですけど……。最後の判断は、彼女に委ねます」

 「そっか……。わかった、今夜一緒に話そうか。自分も彼女の担当トレーナーなんだから」

 

 

 

 

 ※

 

 

 「……お話が、あります」

 

 クリスマスの夜、カフェさんの実家の喫茶店に集まった私、カフェさん、トレーナーさんの3人。

 もともと有マ記念の後で、ここで集まって3人でお疲れ様会をしようと話していて、私は先にここに来て、カフェさんのご家族に挨拶をした後、ここで待たせてもらっていた。

 

 後からやってきた、カフェさんトレーナーさんにコーヒーを淹れ、改めてカフェさんに有マ1着おめでとうと言って、この日のために用意しておいた、クリスマスプレゼントを2人に渡した。

 まぁわ、そんな大したもの用意できなくて、温泉旅行券なんだけどこれで2人の仲を深めてほしい。

 ちなみにカフェさんもプレゼント用意してくれていたようで、中身はチョーカーだった……なんで?

 合宿で見た夢を思い出しそうで内心かなり恥ずかしかったが、着けてくださいと言うカフェさんの視線に負けて、着けてみた。彼女は嬉しそうだ。

 

 3人でクリスマスの夜を過ごしていると、2人が大切な話があると言って、真剣な表情になっている。

 

 え、なに?もしかして、わたしたち付き合うことになりました!とかそういう報告かなと思って、内心ウキウキしながら会話を促した。

 でも、話の内容は私が想像していたものとは全くかけはなれていたものだった。

 

 「……私と一緒に、フランスに来てくれませんか?」

 「…………え?ふ、フランス?」

 「あなたが隣にいてくれるのなら、私は、もっと……速くなれると思うんです」

 

 ……………………………え?ふ、フランス?フランスってなに?ま、まさか、『あのレース』に挑むのかな?

 だとしたら、私がいても意味なんてないと思うんだけど。

 

 「い、いや、急にそんなこと言われても……。それに私が行っても、たいして役にたてないよ」

 「まだ先の……話のですよ。……それに、あなたは、隣にいてくれるだけで……いいんです。だって、一生、側にいてくれるんですよね……?」

 

 

 そういったカフェさんは、妖艶というのか猫のように茶目っ気があるといっていいのか、クスリと笑うと、私の両手をにぎにぎと掴まれ、尻尾の先を絡めて、私の鼓動を刺激してくる。

 その時私は思った。もしかしたら、私はとっくに彼女に堕ちていたんじゃないかと。

 

 「答えを、聞かせてください……」

 

 「は、はい……。わ、私もいくよ」

 

 

 そう言ったとき、他にだれもいないはずの喫茶店で、誰かが私に『ヨウヤクカ』と言ったような気がした。

 

 

 

 

 





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 次で一応本編終わります
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