ある日あなたはウマトレなる概念を受信した   作:シマキ

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 毎日投稿できなかったので、実質初投稿です


ある日あなたは余裕をぶっこいた

 

 小さな頃から、他の人には見えないものが自分には、見えていた。

 でもそれを信じてくれる人は、いてくれなかった。

 誰に話しても、それは幻覚や妄想、ただの思い込みだと言われ次第に気味悪がられるようになっていった。

 

 大切なものを傷つけられたくなくて──元々身体が弱かったのもあるから閉じ籠っていた時期もあったけど、ある日自分によく似た後ろ姿の女の子の走りを見て、とても楽しそうな姿で走る彼女の姿を見て、羨ましくなって、閉じ籠っていた暗い部屋から、外に飛び出した。

 

 めいいっぱい走ったあの瞬間は、今でも覚えている。

 悩んでたことが、なんであんなことで悩まされていたのだろうと感じさえいた。

 

 それ以来、目に見えない彼女は私にとっても大事な存在であり、誰かに傷つけられたくない聖域だった。

 誰にも理解されなくても、私にはしっかり見えているから構わない。そう思っていた。

 

 

 ※

 

 

 

 「ぎゃああぁっ!」

 

 深夜のトレセン学園のレース場、もう自分と『お友だち』や他の人には見えないあの子達しかいなかった場所に悲鳴が響く。

 先ほどから遠くでこちらを眺めていた子の悲鳴だった。

 ずっとこちらを眺めていたから気になった彼女に目をつけられた様子だ。

 今日は、いつもより血気盛んだった彼女にイタズラで蹴飛飛ばされた子を助け起こすために、私はかけよる。

 

 「……あの、大丈夫ですか」

 「いてて、うん大丈夫大丈夫。平気へっちゃらだから」

 

 金髪で黒いマスクをしたウマ娘。彼女は、たしかキィと呼ばれている同学年の子だったはず。

 彼女は、転んだ姿を見られたのが恥ずかしいのか、頭をかく。

 私は彼女に手を差し伸べると、キィさんはあははとに笑いながら手をつかむ。

 

 「ありがとう、あ、えーと……」

 「……マンハッタンカフェです」

 「そうそう!マンハッタンカフェさんだね。同じ学年だけどこうやって話すのは初めてかな?私はキィ。キィさんでもキィちゃんでもキィ坊でも、なんならあなたの好きなように呼んでくれていいよ」

 「……では、キィさんで」

 「うん。あ、私もカフェさんって呼んだほうがいいかな?それとも何かあだ名とかあったりする?」

 「……カフェで、いいです……」

 「おっけーおっけーよ」

 

 そういって、笑顔でOKサインをつくりだす少女。

 なんという押しが強くて掴み所がない人、というのがキィへの第一印象だった。

 旧理科準備室を共有している彼女も大概押しが強くて掴み所がなかったが、それとは別の押しの強さと掴み所のなさだ。

 

 「いやー、ごめんね。なんか誰かに蹴られたような感じがあって倒れちゃって。誰もいないはずからそんなことないはずなのにね」

 「……いえ、ちゃんと、いますよ……お友だちは」

 「え」

 

 目をパチパチさせ何も見えていない彼女に、私は言ったことを少し後悔するも、それでもちゃんと口に出す。

  

 「あなたには、見えていないだけ……見えていないのは、あなただけじゃない……他の人もそうだから……だから気に病ま」

 「へー、どの辺にいるの?」

 

 私の言葉を遮ると、彼女は周りをグルグルと見回した。そんなことをしても、見えないのに。

 私はお友だちの方向へ、指を指す。

 

 「……そっちじゃないです。あっちの方に……」

 「あっち?……うーん、やっぱ私には見えないな」

 「……えぇ。私以外の誰にも……認識されない、向こう側にいるだけですから……」

 「ふーん。それは残念だ。ねぇ、そのお友だちとやらはなんなの?私にも教えてよ」

 

 知りたい!と笑顔でそう言うキィ。私は、いつもとは違う返答が返ってきて戸惑う。

 

 「……お友だちは、私以外見えなくて、とっても速い子なんです」  

 「速い?それはどれくらい速いの?」 

 「私は、小さな頃からずっと彼女を追いかけてきましたが、1回も彼女を追い抜いたことがありません……背中しか、見たことがないんです」

 「1回も?それはすごいね。どんな風に走るの?」

 

 更に深掘りしてくる。私は、ちゃんと答える。

 

 「……とにかくすごく速くて、まるで柳のように柔らかく走って、コーナーでも加速がすごいんです。」    

 「めちゃくちゃすごいじゃん、それ!スゴすぎでしょ。ねぇねぇ、お友だちってどんな見た目してんの?」

 

 目を輝かせながら見えないはずのお友だちを誉め称える。私は、少し彼女が怖くなった。

 彼女は目に見えない存在が怖くないのだろうか。

 私は質問を無視して、逆に聞き返した。

 

 「……あなたは、信じられるんですか?……怖くないのですか?目に見えない……存在が」

 

 それを見えるという私が、というのは少し躊躇った。

 そう言うと彼女は、うーんと腕を組みだし、ちょっと困った風に答える。

 

 「うーん、まぁ、信じられるし怖くないと言えば少し嘘になるけど、実際蹴られてるわけだし、存在してるのは間違いないんじゃない?蹴られたとこ、わりと痛いし」

  

 それに、と溜めながら私を指差した。

 

 「そんな楽しそうに喋るカフェさんのこと見てると、見えなくてもいるんじゃないかなって私は信じられるよ」

 

 思わず顔を触った。私は、そんな今日初めてちゃんと会話する人にも伝わるくらいわかりやすかっただろうか。

 そんな私を見て、あっはっはと笑うキィさんに、少しだけムッとした。

 

 それからも彼女は、お友だちのことを聞いたり私のことも当たり障りのない範囲で聞いてきた。私も当たり障りのない範囲で答えた。

 体感的にはほんのすこしのつもりだったのに、気づけばもう冬の空がほんのり赤く染まってきた。

 思ったより長い間喋っていたようだ。

 彼女も空に気づくと時間の経つスピードの早さに驚きを隠せていなかった。

 一緒の寮だから、自然な流れで一緒に帰りながら思った。

 今日は、トレセン学園に来てから、お友だち以外でこんなに長く喋ったの初めてなんじゃないかと。

 

 

 

 

 ※

 

 

 

 その次の日もそのまた次の日も、キィさんはまた深夜のレース場に現れた。

 ただ、あれだけ積極的に実質初対面のときは話しかけてきたのに、ここ2日間はこちらを遠くでじっと眺めているだけで、気づいたらいなくなっていた。

 私はそれにちょっと、ほんのちょっとだけムカッとした。

 今日も、ぼーっとこちらを見ている。私は、立ち止まって話しかけた。

 

 「……あの、そんなところで立ってないでこちらのベンチで座って見たら、どうですか……」

 「あ、いいの?もしかして、邪魔になると思って立ってたんだ」

 「そこで立たれて、じっと見られてる方が……気になって仕方ないです……」

 

 それもそうかと、言いながら彼女はベンチに座った。

 私は、また走り出す。その間、彼女はずっとこちらを見続けているだけだった。

 私は、気になったことを質問してみる。

 

 「……キィさんは、走らないのですか」

 「私?わ、私は、いいかな。ちょっとまだ疲れてるし」

 

 笑いながら言うキィさんだが、その表情は焦りのようなものが見える。

 そのときだった。彼女の目から、光が消えた。

 

 「……キィさん?」

 

 それは、ほんの数秒くらいの一瞬のことだったけど、私には見えていた。

 そうして、目に光が戻ったと思ったら、ゲホッゲホッと咳き込む。マスクをしててもわかるくらい顔色は悪い。

 私は、心配になりかけよる。

 

 「あの……大丈夫、ですか?寮に戻って横になったほうがいいんじゃ……」

 「い、いやいや大丈夫。ただの貧血だし、すぐ治まるから」

 「……そう、ですか」

 

 彼女が大丈夫だと言うのなら、それを信じるしかない。

 ……そういえば、少し前に生徒会室前で倒れて病院へと運ばれた子がいると大騒ぎになったことがあった。

 あれは、もしかしたらキィさんのことなんじゃないかと、なんとなくそう思ったが、それは質問せず私はまた走り出した。

 

 

 

 ※

 

 

 今日は『彼ら』の相談をずっと受けていた。

 この世に、未練を残して長い間留まり続けている彼らのことを私は放ってはおけず、できる限りのことをしてあげたい。

 1人、また1人と相談を受けているが、相談に乗ってほしいと言う彼らの数がかなり多かった。

 最後の1人の相談を終える頃には、結構クタクタに疲れてしまった。

 ベンチに座り、息を整える。今日は、お友だちももう走り終わっているし、もう寮に戻ろうか。

 そんなところに、彼女は今日もやってきた。

 

 「あれ?カフェさん、今日は走ってないんだね」

 

 キィさんは、珍しげにそうつぶやく。

 

 「……今日は『彼ら』の相談に乗っていたんです」

 「あ、そうなんだ。大変そうだねそれは、お疲れ様」

 「……はい、今日は少し……疲れてしまったのでもう戻ります……」

 「おっけーおっけー。それなら私も今日はもう帰ろうかなあ」

 

 息を整えて、立ち上がるが、思ったより疲れていたらしく、眠気で頭が回らない。

 元々そこまで体調が良い方とも言えないから、余計にきつい。

 足元がフラフラしていたのもあり、段差につまづいてしまった。

 倒れる、そう思ったときだった。

 

 「カフェさん、大丈夫?めちゃくちゃ眠そうだけど」 

 

 キィさんは、倒れそうになる私の手を掴みとっさに支えてくれた。 

 彼女の手は、冬でも温かい。

 

 「……ありがとうございます。……ちょっと眠くて……でも、大丈夫ですから」

 「そうは見えないけど。ここから寮はそこそこ距離があるし危ないよ」

 「……お気づかいは嬉しいですけど、本当に大丈夫なので」

 

 彼女の手をほどこうとしたが、ガッツリ掴んで離してくれない。

 

 「……あの、手を離してもらっても……」

 「……仕方ないなぁ」

  

 彼女はそう言って手を離してくれた。どうやら諦めてくれたようだ。

 

 そう思ったとき、私は身体は浮遊感に包まれた。

 

 「よっ、と」

 「え、え」

 

 キィさんの顔がすぐ近くにある。背中と足の膝裏が彼女の腕で持ち上げられる。

 

 

 「な、なにしているんですか……!」

 「ん?お姫様抱っこだよ」

 

 何でもない風にとんでもないことを言い放ったこの人は…!

 ん?って惚けた顔が少しムカッとする。

 顔が熱い。みるみる真っ赤になっているのがよくわかる。

 

 「あ、あの……降ろしてください……!は、恥ずかしいし、自分で帰れるので……」

 「そんな照れなくても。女の子同士だし、誰も見てないよ」

 「だから……!あなたが見えてないだけで、見てる子はいるんです……!」  

 「まぁまぁ。どうせ寮は一緒だしいいじゃない。それに、実は私結構お姫様抱っこ得意なんだよ?」  

 「答えに、なってません……!」

  

 あははと笑って誤魔化される。この人は、笑えばなんでも許されると思っているんじゃないか。

 キィさんの顔を下から、キッと睨み付ける。

 私よりは短いが、それでも前髪は長い方の彼女の思ったより綺麗な顔が──今日は、何故かマスクをつけていないのも加わってよく見える。

 彼女の黒い瞳は、どこか深淵を覗いているような深さがあり、飲み込まれそうだ。

 私が睨み付けてるのに気づくと、ニヤニヤしながら顔を近づけてきた。流石にそれは押し返した。 

 がっしり掴まれてスゴい密着してるのもあって、彼女の温かい体温が伝わってくる。 

 自分で得意というだけあって、不安定な姿勢なのになんだか少し心地好い。

  

 

 「……上手なんですね」

 「ありがとー。なんならこのまま寝ててもいいんだよ?寮の自室まで運んであげるからさ」

 「別に……褒めてないですし、寝ません……」

 「そっか」

  

 このままされるがままなのは、なんとなく癪でそう言い返したけど、どんどん目蓋が重くなってきた。

 薄れていく、意識のなかで、キィさんがおやすみと口を動かしたのがみえていた。

 

 

 

 

 ※

 

 

 旧理科準備室、ここは私が自分のコレクションを置くため生徒会から許可をもらって使わせてもらってたのだが、今は共同でつかっている。

 

 私は、1人この部屋でコーヒーを飲みながら先ほどここに連れてきていた客人について考える。

 彼女に、その……お姫様、抱っこされた後結局私は眠ってしまい、朝起きたら寮の自室まで運ばれていた。

 手段は強引だったが、助けてもらった事実は変わらないため、何かお礼をと思い以前キィさんはコーヒーがそれなりに好きという発言を思い出して、この旧理科準備室でコーヒーをご馳走した。

 

 「気にしなくてもいいのに、あれくらい」 

 

 そう言うキィさんに、私は複雑な感情を抱く。

 あれから数日経ったが、私はこの数日間あの出来事でひたすら頭がいっぱいになっていた。思い出すだけ、まだ顔が熱くなる。

 あんなことされたのは産まれて初めてで、自分には縁がないものと思っていたのに、彼女はさらりとそれを私にやったのに、それをあれくらいと一蹴されるのは複雑だ。

 

 「おや、カフェ。もう君の客人は帰ったのかい?」

 

 彼女はアグネスタキオン、この部屋の共有者だ。

 彼女も、キィと別の類いで押しが強く掴み所がない人で、よく実私にも他の人にも実験に引き込もうとしてくる。

 彼女には、事前に部屋を使いたいから少し部屋から離れてくれないかと頼んだら、思いの外あっさり了承したのは意外だった。

 

 「……えぇ。ついさっき、帰りました……」

 「あぁ、なら先ほどすれ違った金髪のウマ娘が君の客人か。そうかいそうかい。……それにしてもまさか君がねぇ」

 「……何の話ですか」

 

 ニヤニヤと笑みを浮かべるタキオンさんに、何かイヤな予感がする。

 

 「いやぁ、あれは数日前のことだがね、私もなかなか今やっている研究がうまくいかなくて、気晴らしに深夜のトレセン学園を歩いていたのだよ。そうしたら、なんと珍しいものを見つけてしまってねぇ」

 

 数日前、深夜、そのキーワードが私はタキオンさんがなにを言いたいのか察してしまう。

 

 「み、見ていたのですか…?!」

 「たまたまだよ。たまたま」

 

 最悪だ。よりによって一番見られたくない人に見られるなんて。

 

 「他人と深く関わりたがらない君が、まさかお姫様抱っこされるなんて、実に興味深いじゃないか。私も興味が出てきたよ、その子に。ぜひ、紹介してくれないだろうか」

 「しません……!」

 

 キィさんに出会ってから私の情緒はめちゃくちゃだ、あの押しが強くて掴み所がない彼女の顔を思い出すだけ胸がモヤモヤしてくる。

 この感情をどこにぶつければいいかわからず、ただコーヒーを飲む。

 

 

 

 

 ※

 

 

 

 

 X月X日

 

 

 勝ったなガハハ!

 今日はカフェさんのことを見ていたトレーナーさんとの接触に成功した。

 睨んだ通り、あのトレーナーさんはカフェさんの走りに惹かれている。

 そこで私は、カフェさんのされたらイヤなことや案外押しに弱いから積極的に落とせってアドバイスを送った。

 あとはトレーナーさん次第だが、なんとなく上手くいくだろうと私は睨んでる。

 これはもうウイニングランだぁ。これを書きながら部屋で見たかった映画を見ている。

 最近流行りのよくある男女の恋愛物だが、私はこういうのが大好きだ。やはり男女の恋愛っていいなぁぐへへ。

 

 

 X月XX日

 

 今日は以前から悩ませていた鼻血の件についての対処が片付きそうだ。

 アグネスタキオンというウマ娘が、私に鼻血を一時的に止めてられる薬を処方してくれたのだ!

 原理はよくわからないが、すごいなこれ、ノーベル平和賞ものだろ。

 タキオンさんは今後ともよろしくと言いわざわざ部屋まで持ってきてくれたのだ。タキオンさんは風の噂で、めちゃくちゃヤバい人って聞いてたけどめちゃくちゃイイ人じゃん!

 やっぱ噂は宛にならないね

 

 

 X月XX日

 

 私にも、担当トレーナーが見つかりました。

 相手は、カフェさんと同じトレーナーです。

 ……なんで?

 

 

 

 

 





 
 

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