サトノクラウンを迎え入れたと思い込みたいので、初投稿です。
私の手違いで、間違えて一度完全しきれてない状態で次話が投稿されてしまい、ご迷惑をおかけしました。
X月XX日
今日は日本ダービーの日だった。
最近調子が良かったとはいえ、かなりギリギリまでトレーナーさんと話し合いをしていたなかでの出場、正直少しだけ心配でもあったけど、彼女の走りを見てそれは杞憂だったと思いしらされる。
カフェさんは、一生に一度しかないあの舞台に挑戦し、見事1着という結末を勝ち取った。
走り終わったカフェさんは疲れはてて、足がフラフラとしていたが、彼女は自分の足で最後までやりきった。
戻ってきた彼女の顔は、少しヤツれていたが、同時に誇らしげな感じでもあった。
X月XX日
日本ダービーでの影響か、周囲へのカフェさんの視線がなんとなく変わったことを実感した日だった。
学園で喋っていると、彼女のファンだという子が、握手を求めてきたり、走り方をアドバイスしてほしいといった相談をされたりと、たくさんの子にもみくちゃにされていた。
彼女は面倒見がいい子なので、一人一人丁寧に応対し、私はそれを少し遠くから見ていた。
なんだか、少し遠くへ行ってしまったようで、……寂しいなぁ。
X月XX日
今日はゆったりと読書の気分だ。カフェさんが持ってくる小説を読みながらダラダラ過ごした。
カフェさんは新しいことに挑戦したくて、ウマッターの使い方を私に教えて欲しいと頼まれた。
(この後の文章はなく、何度も書いては消して書いては消してと紙がボロボロになってしまった形跡が残されている)
X月XX日
もうすぐ、夏の合宿だ。
トレセン学園の合宿は2ヶ月近くを、砂浜で心身ともに鍛える日々を送ることになる。
海なんて久しぶりだから、とても楽しみだ。
ただ、最近例の発作が少し増えてきたのだけが心配だ。
もし海のなかで例の発作が起きたら洒落にならないからね。
※
「え、ウマッターの使い方を教えてほしいの?」
「……はい」
ある日寮のキィさんの部屋に遊びに来ていた私は、本を読みながらゆったりとした一時を過ごす最中で、悩みごとを聞いてもらった。
私に、ウマッターのやり方を教えてほしいという悩みを。
「あれ、カフェさんウマッターなんてやるの?失礼かもだけど、ちょっと意外だね。正直ウマッターどころかこの手のものをあんまりやるイメージなかったけど」
「……先日の日本ダービーの後で、その……私のファンだという方々に、ウマッターはやらないのかとたずねられて、それで……。トレーナーさんも、やってみたらということで……」
「それでやってみようってこと?へぇー、良いことじゃん!」
興味津々といった表情で、本を机に置いてこちらを見つめてくるキィさん。
「はい……でも、お察しの通り私は、こういうのは…ちょっとやったことがなくて……」
「おっけーおっけー。そういうことなら私に任せてよ。カフェさんを立派なバズウマッタラーにしてみせるから」
「あ、いえ、よくわかりませんが、そこまではいいです……」
「そう、残念……。?で、何を手伝えばいいの?」
バズウマッタラー?と私は、頭で疑問符をかかげながらも自分の端末を彼女に渡した。
彼女は使いなれているのか、馴れた手つきで色々操作をしている。
「うわすご!万フォロワーもいるんだね」
「はい、ありがたいことに……。でも、昨日から通知がすごくて……」
「大変だね。……はい、とりあえず通知オフにしといたよ。後ついでにフォローしといた」
「……ありがとう、ございます」
彼女から端末を受け取った私は改めて、自分のアカウントを見る。そこには今なお少しずつ増えていくフォロワーの数がある。
自分を応援してくれている人達が、こんなにいるとは思わなかった。
「ていうか、これ初期アイコンだね。自分の写真使わないの?」
「……?自分の写真じゃないと、駄目なのですか……」
「いや、駄目じゃないけど。カフェさんみたいに本名でアカウント使ってるなら自分の写真の方がいいんじゃないかな?ファンサも兼ねてるんならね」
「はぁ……。なるほど……?」
よくわからないけど、そういうものなのでしょうか。
とりあえず言う通りに、自分の写真を使おうと思ったが、私は自分の写真を持っていないことに気づいた。
「あの……そういえば、私は自分の写真を持っていなくて……」
「あー、そうだったね」
私は自分の写真を撮ろうとすると、何を撮ったのかわからない奇妙な紋様が映り自分の姿が撮れない。
そのせいで、端末内部どころか自分だけが写真を私は一枚たりとも持っていない。
困ったなぁっと言った風に頭を悩ませたキィさんだったが、少しして思い付いた!と言って自分の端末を取り出した。
「ならさ、とりあえず私が撮ってみようか?この新しい端末で」
「キィさんので……?」
「うん。もしかしたら最新のカメラなら撮れるかもしれないじゃん。まぁ、物は試しだよ」
「はぁ……」
あまり上手くいくとは思わないけど、とりあえず言われた通りやってみることにした。
キィさんから少し離れた場所で私は立つ。これでいいのだろうか。
「カフェさん、それじゃ証明写真みたいになるよ。何かポーズとって!」
「えぇ……?えっと、こう……ですか?」
ポーズなんてとったことないけど、とりあえずやれるだけやってみた。
顔を少し傾けて胸の辺りに右手の拳を持ってくる。少し照れくさくて顔が熱い。
「おっけー、撮るよー」
そう言うと、カシャリと聞きなれた特徴的な音がした。
私はポーズを解いて、どんな風に撮れたのか確認するためにキィさんに近寄る。
ただ、彼女があちゃーと困惑した顔をしたので、写真を見る前に何となく予想がついてしまった。
それでも一応確認した。やっぱり、写真は謎の紋様しか写っておらず、私はそこにいない。
「うーん、ダメだったかぁ。そのごめんね」
「……いえ、あなたが悪いわけでは、ないですし……大丈夫です」
わかりきっていたことだから、別に気にする必要はない。
でも、少し寂しかった。
「うーん……あ、そうだ!なら一緒に撮ってみない?」
「……一緒に、ですか」
「そうそう。もしかしたら、一緒に撮ったら大丈夫かもしれない!」
「……どういう理屈ですか」
なんだかおかしな理屈だなと思いつつも、やってみることにした。
カメラに収まる範囲で彼女の背後まで近づ、先ほどと同じようなポーズをとった。
そして、撮る。
「……うーん、ダメかな。ちょっと距離があったのかも。もうちょい近づいてみない?」
「こ、これ以上……ですか?」
今でも10cmくらいしか距離が空いてないから、結構近いくらいだ。
これ以上となると、もう互いにくっついてしまうくらいの距離になってしまう。
正直今でも結構顔が熱いくらいに恥ずかしさを感じる。
「ダメかな?私としても、カフェさんとの写真はほしいから出来れば一緒に撮りたいんだけどね」
お願いと言った感じで見つめれる。
私もキィさんとの写真は欲しいと思ったけど、これ以上近づくのはやはり恥ずかしさもある。
どうしようと、少し考えた。
一歩踏み出すか、今日はもう退いて諦めるか。
そして、私は決断した。
「わ…わかりました……」
私は勇気を出して、文字通り一歩踏み込むことを選んだ。
すぐ横まで近寄り、腕がぶつかるくらいの距離になる。そして、彼女は嬉しいのか尻尾をブンブン揺らしているため、時折尻尾の先がくっつくのがわかる。
尻尾の先がくっつくたびに、あのドラマで見た尻尾ハグを思い出す。
とても刺激的なものだった。私は顔をうつむける。
「カフェさーん?どうかしたの?」
キィさんは私の気持ちもしらないで、惚けた風にそう言った。彼女の尻尾が原因なのに。
この人はいつもそうだ。私はこう意識してしまっているのに、彼女は何でもなさそうにしている。
初めて会ったころからいつもこう。私1人だけ勝手に意識してしまって道化のようだ。
彼女は好きだけど、そういうところは、苦手だ。少しムカムカする。
「あ、顔を上げてくれた。じゃあ、撮るよー。はい、チー……」
私は顔をあげると、自分の尻尾を彼女の足に絡ませた。
キィさんは驚いた表情でこちらを見ている。
私は必死に恥ずかしさを堪えながら、尻尾を強く締め付けた。
「え……?カ、カフェさん、尻尾絡まってるよ」
「……絡めてるんです。こ、こうやって近づいたほうがもしかしたら撮れるかも、しれないですし……」
「あ……なるほど……?」
納得したように、頷くと端末を構え直して、写真を撮った。
私は尻尾を解くと、写真を見た。
そこには、互いに顔を真っ赤にさせながら、ぎこちない笑みの私たちがちゃんと写っていた。
「……本当に写ったね、自分で提案しといてなんだけど」
「えぇ……。でも、これじゃアイコンには使えないのじゃ……」
「あー……。た、たしかに」
この写真をアイコンに使ったら、色々問題になるのはなんとなく私でもわかった。
「せっかく撮ったのに、ごめんね」
「いいえ……。あの、その写真、送ってもらっても……いいですか?」
「あ、う、うん。もちろんいいよ」
彼女から写真を送られるのを確認する。
私がちゃんと写った写真が、こんな形で手に入るなんて、思わなかった。
嬉しい。
「あの……他にもウマッターについて色々聞きたいことあるんですけど……いいですか?」
「も、もちろん!ドンドン私に聞いてよ!」
お互い恥ずかしさを隠すために、話題を変えた。
その後も、私はどんな発言をしたらいいか、どんな発言をしたらダメなのとある程度のことを教えてもらった。
その日の夜、私は改めて撮った写真を眺めていた。顔を赤らめたキィさんの表情に、少し満足を覚えて、この写真を待受画面に変更した。
たくさんよお気に入り、評価ありがとうございます。
以下、本編の物語とは関係のない蛇足です。
「……すいません、やっぱり遠慮しておきます」
私は一歩を踏み出すことが出来なかった。
「そっかぁ。まぁ、撮れるか保証もないしやめとこうか」
「……すいません」
「いいや、こっちも急に距離を詰めすぎたのかも。ごめんね」
そういって謝る彼女に、罪悪感を覚える。
結局そのあとも色々試したが、写真を撮ることは出来なかった。
私はあの時もし一歩を踏み出せていたらどうなったのか、上手く取れたのだろうかと、夜1人で考えていた。
「次の機会があればきっと……」
そういって、眠りについた。
そして、私に次の機会は訪れなかった