第1話
(有り得ない有り得ない有り得ない! まさか私が
勇者ヒンメル達によって魔王軍七崩賢が一人断頭台のアウラが撃退された日の夜、森の中を一人で走る魔族がいた。
(相応の実力者をぶつけたはずなのに怪我どころか疲労もせずに真っ直ぐに私のところまで来るなんて、あれが勇者ヒンメルなのね……)
ただひたすらに走る。
(それにあのドワーフの戦士もおかしかった、名前は確かアイゼンだったかしら。攻撃を受けてもピンピンしてたし、重装備でかなり重い鎧を着ていたはずの戦士をまとめて吹き飛ばしてた。ハイターとかいう僧侶もおかしかったわ。僧侶のくせに無駄に攻撃力が高かった、あれは女神の魔法ね。そのくせしっかりと回復も支援もしっかりこなしていた)
自分が何処に向かっているのか、後ろにヒンメルたちがついてきているのか、そんなことを考えるなんてことはせずにただ走る。
(そして何よりもフリーレン……! 魔力量はそこまで多く無いくせに覚えている魔法の数が多いし、それらを上手く使い分けてヒンメルが私のところに来るまでの道を作ってた)
アウラはかつて無いほど焦っていた。それは敗北を喫したことによる悔しさからか、それとも倒されて死ぬことによる恐怖からか、はたまたそのどちらともか。
(とにかく今は出来るだけ遠くに逃げなきゃ……! 今は変身の魔法で角を隠せているけれどいずれバレる、その前にできるだけヒンメルたちから離れて遠くに…………!?)
森の中を走り続けていると少し開けた場所に出た。そこには木で出来た簡素な家と一人の人間の男がいた。
(人間!? どうしてこんな森の中に? いやそれよりも早くこいつを殺さないと私のことがバレてしまう……! 大丈夫こいつは戦士でも無いただの人間、悲鳴すらあげる暇もなく殺して————)
「大丈夫ですか!? 森から出てくるなんていったい何があったんですか!? いえ、それよりも夜の森は危険です! 取り敢えず俺の家の中に入りましょう!」
(……まさか気づいていない? 私を油断させようとしている? いや、戦士でも無い人間がそんなことをする理由がない。だとしたら本当に?)
「どうかしましたか? もしかして足を怪我しているのですか!?」
(まあいいわ、どちらにせよこの程度の人間なら難なく殺せる。今は大人しくしておきましょう)
「いえ、大丈夫です。お気遣いありがとうございます」
「それは良かったです、早く中に入りましょう。あ、お名前を聞いてもよろしいですか? 私はハントと申します。」
「アウ…………アイラです。」
「アイラさんですか、素敵なお名前ですね。」
(危なかった……安直すぎる気もするけどバレていないなら良いわ。取り敢えず今夜はこいつのところで夜を越すことにしましょう)
〈魔族〉
魔族とは大魔法使いフランメによると『言葉を話す魔物』と定義されており、その起源は「助けて」と鳴いて人を誘き寄せる魔物であるとされている。
見た目は角が生えている以外人間と変わりはなく整った顔立ちをしており、これは人間を欺くためのものとなっている。
そのため会話も出来るが魔族は精神構造が人間とは全くと言って良いほど異なるため、情に訴えるどころかそもそも魔族と会話をすること自体が無意味と言って良い。
魔族が人間に対してとるほとんどの言動は人間を欺くためのものである。