断頭台のアウラは嘘をつく   作:未知華

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Aルート(仮)
第11話


 

「う、ん……んぅ………ぅ……? 今のは……夢?」

 

 懐かしい夢を見た。

 ヒンメルに敗れこの家に転がり込んできてからの数年間、平和で穏やかで退屈な、それでいて飽きることのない、そんな日常の夢。

 

「私が夢を見るなんて珍しいこともあるのね」

 

 夢というものがあることは知っていたが、自分で見るのは初めてだった。、

 たいてい夢というのは自分の記憶が継ぎ接ぎになったようなめちゃくちゃなものだと聞いていたが今回のものはどうにも違うようだ。

 初めてのことを経験したからだろうか、どこか落ち着かない不思議な気分だ。

 

「少し寝すぎたわね……あいつはもう起きてるでしょうね」

 

 寝ぐせのついた髪を軽く整え部屋を出て、静かな廊下を一人で歩く。

 この家も随分と静かになった。

 聞こえてくるのは自分の足音と床材の木のきしむ音くらいだ。

 朝の作業をする音も、朝食の準備をする音も聞こえない。

 部屋の前まで来るとドアをノックしてから開ける。

 

「入るわよ」

 

 部屋に入り最初に目に入るのはベッドで寝ているハントの姿、次に開かれた窓とそこから差し込む日の光。

 

(起きてるわね)

 

 ベッドの隣に置かれている椅子に座り彼の顔を見る。

 いつも見ている顔のはずなのにどこか違和感を覚える、昔の夢を見たせいだろうか。

 

 

 

「おはようございます、アウラさん」

「えぇ、おはよう」

 

 ここ最近ハントはよく寝ている。

 起きてくる日もあるが、ほとんどベッドから出てこないような日もある。

 起きてきたとしても、町まで行ったり森に入ったりすることはしなくなっていた。

 

「今日は起きられそうなの? あなたの世話をしているとそれで一日が終わってしまうから魔法の研究が進まないのよ。あぁでもその前に朝ごはんね、何か食べたい物はあるかしら? それとも、もう遅いし少し待って昼と一緒にする? いえ、そうしましょう。それならそうね、メニューは──―――」

「アウラさん」

 

 言葉を遮るようにハントが口を開く。

 

「今日、夢を見ました」

「…………夢?」

「はい、正確には夢ではないのかもしれませんが」

「……どんなものを見たの?」

 

 彼が見たという夢の内容、恐らく私が予想しているものと同じものだろう。

 それでも聞かないという選択は取らない。もしかしたら予想と違うものかもしれない。

 そんなことを考えながら質問をする。

 

「あなたと会ってから今までのことです。」

「…………そう、私も、同じ夢を見たわ。私は最初のころの数年分だけど」

「そうでしたか、俺は全部です。アウラさんと出会ってから今までの全部を」

「よくそんなに覚えてられるわね、印象に残るようなことなんて初めのころくらいしかなかったでしょう」

「そうですか? 案外いろいろありましたよ。俺が体調を崩したときのアウラさんとか」

「……そういうのは覚えてなくていいのよ」

 

 ハントは基本的に健康だがそれがずっと続くわけではない。

 突然の雨に降られたときなどは体調を崩すことがあった。

 

 ……まあ、確かに初めて体調を崩されたときは多少は、多少は焦ったりしたかもしれないが。

 

「いろいろ、ありましたね」

「そうかしら? 変わり映えのしない退屈な毎日だったと思うけど」

「でも、俺は楽しかったですよ」

「別に、楽しくなかったとは言っていないじゃない……」

「わかってますよ」

 

 沈黙が流れる。

 彼は何を考えているのだろうか。

 今までのことを思い出しているのだろうか、それともこれからのことを考えているのだろうか。

 

 たしかに、色々なことがあった。

 もちろん強く印象に残っているものとしたら、もっと強烈なものはある。

 それでもそれの密度でいうのなら、ここでの暮らしが一番だろう。

 ここで暮らしてきた日々は退屈かもしれないが、飽きることのない毎日だった。

 

 

 

「……そういえば、しばらく一緒に暮らしてきたけどまだ敬語のままなのね」

「それは……すみません」

「別に謝らなくていいわよ、あなたがそういう人だっていうのは知っているもの」

「……呼び捨てで呼ばれた方がうれしいですか?」

「別に……」

 

 暖かい風が頬を撫でる。

 すでに太陽がほとんど登り切っている。

 そろそろ昼食の準備をした方がいいだろう。

 

「ごはんの用意をしてくるわ。何か希望はあるかしら? 何もないなら勝手に作らせてもらうけど」

 

 握っていたハントの手をはなし椅子から立ち上がる。

 ドアの方へと歩いて行きながら何を作ろうか考える。

 ドアノブへと手をかけ、開けるために力を加える。

 

 

 

 開けない。

 

 

 

 なぜ?

 ドアノブをひねりドアを開くだけの簡単なことだ。

 なぜそんな簡単なことができない?

 

 

 いや違う、ドアを開くことができないのではない。

 この部屋から出たくないのだ。

 

 

 なぜ?

 別にこの部屋とキッチンがあり得ないくらい離れているというわけでもない。

 来ようと思えばすぐにこれる距離だ。

 

 

 わからない。

 なにもわからない。

 そう、なにもわからない、わかっていない、私はなにもわかっていない、私はなにも気づいていない。

 

 今朝夢から覚めたときに感じた悲しさの理由も、朝廊下を歩いていたときの恐怖感の理由も、この部屋のドアを開けるときの緊張感の理由も、彼からの返事が聞けたときの安堵の理由も、彼と話していたときの焦燥感の理由も、握っていたこの手から彼の手のぬくもりが消えていくことへの寂しさの理由もすべて、なにもわからない。

 

 

「……ラ…ん」

 

 わからない

《わかりたくない》

 

「……ウラ…ん」

 

 知らない

《知りたくない》

 

「……ウラさん」

 

 聞こえない

《聞きたくない》

 

「アウラさん」

 

 気づかない

《気づきたくない》

 

 

 

「アウラ」

 

 

 

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