アウラがハントの家に来てから数ヶ月が経過した。
研究が詰まった。なにがと聞かれればそれは魔法の研究に他ならない。
こうしたことは今までも何度もあった。前までは適当な人間を見繕って遊んだりして気分転換をしていたが、身を隠している立場上そんなことはできない。
最近では変わりに森の中を散歩したりしていたがそれも限界だ。
とはいってもこのまま何もしないで解決するということはないだろうしいったいどうすれば………………あ、
「……はい? 料理がしてみたい、ですか?」
「はい、居候させてもらっている身でありながら何もしないのはと思いまして。それにいつも夕食はハントさんが帰ってきてから作っていますから、全部を作るとまではいかなくてもせめてお手伝いだけでもできればと」
「正直魔法で火を起こしてもらうだけでもかなり助かってはいるんですが……わかりました、あまり大したことは出来ませんが俺でよければ」
「ありがとうございます」
(よし、うまくいったわね。こうすれば人間の機嫌をとれるし気分転換にもなる、我ながらいい考えね)
(……というか毎日あの量を作れて大したことがないの? それに種類だって沢山なのに……人間のことはまだ分からないことが多いわね)
「うーんまずは何からにしようか、アイラさん料理のご経験は?」
「すみません、お恥ずかしながら……」
「いえいえ、大丈夫ですよ。そしたら、まずはハンバーグを作ってみましょうか」
「ハンバーグ、ですか? たしか私がこちらに来た日にいただいた肉を丸くこねて焼いた……」
「はい、それです。肉をこねて焼くだけなので簡単に作れますし、ちょうど肉もありますから」
「わかりました、ではそれでお願いします」
◇
早速その日の夕食を一緒に作ることになった。
「ではまずは肉を細かくしていきましょうか。俺が半分やるのでもう半分をお願いします。俺は他の準備もしてると思うので終わったら声かけてください」
「分かりました」
◇
「…………ふう、ハントさんこれで大丈夫でしょうか?」
「あ、出来ましたか? うん、いい感じですね」
(すごい、肉を細かくするだけじゃなくてサラダにスープの準備まで……本当にこれで大したことがないというの? それとも私が遅いだけ? いや、確かに初めてのこととはいえ肉を刻むだけにそこまでの時間はかかっていないはず……)
「アイラさん? どうかしましたか?」
「あ、いえなんでもありません」
「そうですか? じゃあ次はこの肉をこねていきましょうか」
◇
「こね終わったら丸くしていきます。そのときにかるく投げつけるようにして中の空気を抜いていきます。こうすることで焼いたときに割れずに綺麗に出来上がるんですよ」
そう言いながらハントは肉を適量取り手際よく丸めていく。
アウラもそれをみて同じくらいの量の肉を取り同じように丸めていく。
「投げつける……こう、ですか?」
「もう少し強くやっても大丈夫ですよ」
「分かりました」
(力加減に気をつけないと肉が破裂して周りに飛び散りそうだわ……ものを投げるなんて攻撃以外でしたことがないから、どれくらいの強さでやればいいか分からないじゃない)
「丸め終わったら焼いていきましょう。俺はスープの方を見ているので焼けてきたらひっくり返してください」
「ひっくり返す……わかりました」
(焼けてきたらってどれくらいなのよ……大丈夫よね? 焦げたりしてないわよね?)
「すぐに焦げたりしないのでそんな心配そうに見てなくても大丈夫ですよ」
「え? そんなに顔に出てましたか?」
「はい、それはもう」
そう言ってハントが笑う。
人間に笑われるなんて魔族であるアウラにとっては屈辱的なことであるはずだが、何故だか今はそう感じなかった。
◇
「ハントさん、どうでしょうか?」
「うん、ちゃんと焼けてますね。アイラさんは向こうに並べたらそのまま待っていてください。俺もスープが出来たら持っていくので」
「分かりました」
ちょうどハンバーグを並べ終えて席に着いたところでハントがスープを持ってやってきた。
「それじゃあ食べましょうか、いただきます」
「いただきます」
女神様とやらに祈るつもりなどあるわけではないが、食べる前には必ずいうようにしているらしいので、それに合わせて言うようにしている。
正直何故自分で調理した肉や野菜を食べるのにわざわざ祈り、感謝をしなければいけないのかわからない。
そんなことを疑問に思いながらハンバーグを一口食べる。
「! おい、しい……?」
「初めて自分で作ったものはいつもより美味しく感じますよね」
「ハントさんもそうだったんですか?」
「小さい頃に父に教えられながら作ったんですけどそのときに父から言われたんですよ。実際にいつも食べてるのよりも美味しかったですしね」
「そうなんですね。確かに、いつもよりも美味しく感じます。……あ! ハントさんの普段の料理が美味しくないと言うことではないですからね!?」
「…………ふ、あはははははは! いや、すみません。なんだか必死に否定してるとこが可愛らしくてつい」
「そ、そうですか?」
「いつも美味しいと言いながら食べてくれてるのは知ってますから。それに、今日はアイラさんのいろんな表情が見られて楽しかったです」
「いろんな表情、ですか?」
「アイラさんって普段は落ち着いていて焦ったりとかしなさそうだったんですけど、焼いているときなんかはとくに心配そうにしていてなんだか新鮮でした」
「そ、そうですか……」
(そんなに表情に出ていたの!? 確かにいつもよりは緊張していたけどそこまでだったなんて……)
「アイラさん、料理楽しかったですか?」
少し間を空けてハントが質問する。
正直なことを言うなら思っていたよりも大変だった。比較的簡単な方だと聞いていたがここまで大変だなんて思ってもいなかった。
それに一皿だけじゃなくてサラダやスープも作っているのだから普段の料理はもっと大変なのだろう。
自分から進んで作っていきたいかと聞かれればそれは否だ、だが…………
「……正直なところこれほど大変だとは思ってませんでした。ですがそうですね、楽しかったです」
「それは良かったです。それじゃあこれからも手伝ってもらってもいいですか?」
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
魔法研究の気分転換ついでにならこれからも手伝ってやってもいいか、そう思えたアウラだった。