断頭台のアウラは嘘をつく   作:未知華

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第4話

 

 アウラの初めての料理から数ヶ月後

 

 ここ数日あの人間の様子がおかしい。何か考え込むようなことが増えたように感じる。

 それに家に帰ってくる時間もバラバラだ。いつもは大体同じような時間に帰ってくるのだが、最近は遅くなったり逆に早く帰って来て部屋で何かをやっている。

 

 玄関の方から音が聞こえた。どうやら今日は早く帰ってくる日だったようだ。

 

「おかえりなさいハントさん、今日は早かったんですね……って、どうしたんですかそれ?」

 

 今日は街に肉や山菜を売りにいくと言っていた。

 街に行く日は食料などを買って帰ってくることが多いのだが、今日は違っていた。

 

 食料を買って来ているのは同じなのだが、いつもは買ってこない酒類を買って来ている。

 値段が高いから普段は買わないようにしていると言っていたがどうしたんだろうか。

 

「アイラさんがどんなお酒が好きなのか分からなくて色々選んでたら思ったより多くなってしまいまして」

 

「あ、ありがとうございます……ってそうじゃなくて、酒類は普段は買わないと言っていませんでしたっけ?」

 

「あぁ、やっぱり気づいていませんでしたか。今日でアイラさんが家に来てからちょうど一年なんですよ、それでちょっとしたパーティーみたいなことをしようかと思ってて。まあそんなに大したことはできませんけどね」

 

「一年、ですか……」

 

(え、一年? 確かに今日でちょうど一年だった気がするけど、たった一年で? ……あぁいや、そうだったわね。人間は、そうだったわね)

 

「もうそんなに経っていたんですね、気づきませんでした」

 

「とりあえず、先にご飯の準備をしましょうか」 

 

「あ、私も手伝います」

 

 二人で並んで台所に立つ。アウラは基本的に手伝いだが、料理の腕前は格段に上がって来ている。

 一人で使うには広いが、二人で使うには少し狭い。そんな台所で二人で料理をする。こんな光景も今では見慣れたものだ。

 

 そうこうしているうちに料理が完成してくる。

 出来上がった料理達は並べられ、食卓を彩っていく。確かにこれはちょっとしたパーティーのようだ。

 やがてすべて並べ終え、二人はそれぞれ席につく。

 

「アイラさんは何を飲みますか?」

 

「そうですね……じゃあ葡萄酒をお願いします」

 

「じゃあ俺も葡萄酒で」

 

 互いのコップに葡萄酒が注がれていく。

 

「えっとじゃあ、そうだな……アイラさんが家に来てから一年を祝して、乾杯!」

 

「乾杯」

 

(酒は初めて飲むけれどこれは……なるほど、高値で取引されるのもうなづけるわね)

 

「このお酒美味しいですね」

 

「それは良かったです。買って来た甲斐がありました」

 

 談笑をしながら食事を続けていく。

 話す内容は様々だが、やはりこの一年のことについての話が多い。

 

「アイラさんは料理が本当に美味くなりましたよね。まだ始めてから一年経っていないのに、いろんなものが作れるようになっていてすごいです」

 

「ハントさんの教え方がいいんですよ。それに、まだ一人では大したものは作れませんから」

 

「そんなことないですよ! 前に作ってくれたあのハンバーグすっごく美味しかったですよ!」

 

「またそれですか? もう何回も聞きましたよ。あれぐらいのものでいいならいくらでも作りますよ」

 

 正直なことを言うと料理がこんなに続くとは思っていなかった。やるにしてもたまに手伝うぐらいで、こんな毎日のように手伝うなんて思ってもみなかった。

 前までは何故食べてなくなるものにそこまで時間をかけるのか分からなかったが、今なら少し分かる気がする。

 

「あ、そうだハントさん」

 

「どうしました?」

 

「何かお願い事とかはありますか? 一年間私を泊めてくれたお礼として、私に出来ることでしたらなんでも」

 

「なん……!? いえ、なんでもありません。お願い事ですか、そうですね……」

 

「ほんとになんでもいいんですよ? あ、またハンバーグを作って欲しいとかはなしでお願いします。それぐらいでしたらいくらでもやりますから。」

 

「そうですね、それじゃあ……タメ口で話してもらえませんか?」

 

「タメ口、ですか……?」

 

「はい、なんというか一年間一緒にいたのに敬語のままだと少し距離を感じるというか、寂しいと言いますか……あ! でも無理にとは言いません。もし元々の喋り方がその喋り方だっていうならそのままで大丈夫です」

 

「タメ口で………………そう、じゃあこれでいいかしら? 敬語を使わないとなんというか、乱暴な喋り方になるから控えていたのだけど……」

 

「………………」

 

「ちょっと、何か言いなさいよ。あなたがお願いしたんでしょう」

 

「あぁ、すみません。 なんだか新鮮でぼーっとしちゃいました。でもその喋り方も似合ってます。あ、いやその悪い意味じゃなくて、凛としているというか、威厳があるというか」

 

「気にしてないわよ、というかそういうあなたは敬語のままなのね。まあ別にいいわ、あなたはどうせそれが素なんでしょ?」

 

「すみません、昔からこういう喋り方で……街の人にはもっと気楽にしていいってよく言われるんですけど、どうにも直らなくて」

 

「謝らなくていいわよ、別に私は気にしないし。それにあなたが気にしないしっていうならこれからもこの喋り方でいようと思うのだけど、いいかしら?」

 

「これから……」

 

「? どうかしたの?」

 

「いえ、なんでもありません。そうですね、それで大丈夫です。これからもよろしくお願いします」

 

「それを言うのは私のほうだと思うんだけど……まあいいわ、これからもよろしくね、ハント…………やっぱ名前は元のままにするわ」

 

「え! なんでですか!? 呼び捨てにしてくれて全然大丈夫ですよ!? というかもう一回読んでみてください!」

 

「い・や・よ!」

 

「お願いします! 一回だけでいいですから!」

 

「いやよ! というかそれならあんたも…………

 

 こうしてまた日が更けていく。

 数百年を生きる魔族であるアウラにとって一年なんて短い時間は大したものじゃない。

 だがときとしてその小さな一年が、それが本人が気づかないほどの小さなものかもしれないが、アウラに何か変化を与えることがあるのかもしれない。

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