アウラがハントの家に来てから数年後
ここ最近ヒンメル達の話を耳にすることが増えてきた。
七崩賢が討たれたという話も聞くようになった。誰かが新しく七崩賢になったりしていないのなら、残っているのは私とマハトだけのはず。
南の勇者との戦いで大きく数を減らしたが、それは決して私達が弱かったからというわけではない。
それにあの戦いを生き残った奴らは何かしらの学びを得て強くなっているはず。それを倒せるということはそれだけヒンメル達も強くなっているのだろう。
一人で活動していた南の勇者と違って四人でパーティーを組んでいるという違いはあるが、それだけで倒せるほど甘い相手ではない。
人間はその短命さゆえか成長が速い傾向にあるが、連日のように魔族と戦っているのならなおさらだろう。
この前はオレオールの近くにまで行っているという話を聞いた。
魔王様と戦いになるのもそう遠くないことかもしれない。
だが成長をしているのはヒンメル達だけではない。
この家に来てからずっと変身の魔法を使い続けているおかげで、魔力量・魔法の制御力ともに上がっているし、研究の方も順調に進んでいる。
料理だって成長している。
最近は一人でも作れる料理が増え、一回の食事の全てを私が作るときもある。
きょうの夕飯も私が作る予定だったのだが
「……遅い」
ハントが帰ってこない、今日は遅くなるとは言っていたがここまでになるとは聞いていない。
(せっかく作ったスープが冷めちゃうじゃない……)
それに街の様子もおかしい。この時間はいつもならもう静かになってきているはずなのだが、今日はまだ騒がしい。
今日は街に行くと言っていたはず、何か事件が起きたような雰囲気ではないため大丈夫だろうがここまで遅いと流石に気になる。
何か祭りのようなことをしているように見えるが、今日祭りがあるなんて聞いていない。
いっそのこと街まで行ってみるか? いや流石にそれは危険すぎる、いやでも……
「……すみません、遅くなりました」
「遅かったじゃない! こんな時間まで何してたの!?」
「す、すみません……街の人たちにつかまっちゃって、出来るだけ早く帰ろうとはしたんですけど……」
「……まあいいわ、ご飯はどうするの? 食べられる?」
「あ、はい! いただきます!」
「そ、じゃあ座って待ってなさい、スープ温めるから」
「ありがとうございます」
街の様子を見るにまだ落ち着く気配はないのだから、これでも出来るだけ早く帰ってきたのだろう。
街の人たちには私のことは黙ってもらっているから、帰るにしても上手く理由を付けるのは難しかったのだろうし仕方ない。
「はい、どうぞ」
温め直した料理を食卓に並べ食べるように促す。
「いただきます」
料理の腕前が上がるのと並行して味の良し悪しも分かるようになってきたおかげでハントの料理の凄さが分かるようになった。
味はひとつひとつ丁寧に整えられており、盛り付けも見栄えが良く食べやすくなるように工夫されている。
だが何より凄いのはその速さだ。私も時間をかければ同じようなことはできなくはないが、素早く、それも複数の料理を並行して作るなんてことはできない。悔しいが料理の腕前では当分勝てそうにない。
それに比べて私の料理は普通だ。別に特段不味くもなければ上手くもない。
味はどうかと聞かれれば美味しいと答えるが、いちいち反応するほどのものでもない、そのぐらいの味だ。それなのにこいつは……
(毎度のことながら本当に美味しそうに食べるわね……まぁ悪い気はしないけど……)
「どう? 美味しいかしら?」
「はい! 美味しいです!」
「そう、なら良かった……ねえ、今日街で何があったの? 何か催し物があるなんて話は聞いていなかったと思うんだけど」
「そうだ! 言おうと思ってたのに忘れてましたすみません!」
「別にいいわよ、それで何があったの?」
「実は……魔王が勇者様達によって討伐されたらしいんです」
「………………え?」
(嘘でしょ……!? やられた? あれほどの力を持つ魔族が? 確かにいつも北のほうから感じていた強大な魔力がなくなっているけどまさか本当に……?)
「……アイラさん? どうか、しましたか?」
「い、いえなんでもないわ! それは喜ばしいことね! ええ本当に!」
「ア、アイラさん……?」
「ごめんなさいハントさん、今日はもう寝ることにするわ! あぁ、疲れてるだろうし食器はそのままでいいわ、明日私が洗うから。それじゃあ、おやすみなさい」
ハントの返事も聞かずにすぐに部屋に向かう。
(確かにヒンメル達は強かった、でも南の勇者程じゃない。私と戦ったときより強くなっていたとしてもそこまで強くなれるものなの? いやでも他の七崩賢がヒンメル達に倒されたっていう話も聞いていたし可能性はある……まさか本当に? でも確かに魔力は感じなくなっているし……いやでも——————
勇者による魔王の討伐。それは人類にとって大きな影響を与える知らせであったとともに、魔族にとっても影響を与えるものだった。