断頭台のアウラは嘘をつく   作:未知華

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第6話

 

 勇者ヒンメルによる魔王討伐の知らせの翌朝

 

「……ん……んぅ……朝?」

 

 どうやらいつの間にか眠っていてしまったようだ。

 もう一度確認してみるがやはり魔力は感じられない。信じられないが、魔王様が討たれたのいうのは本当のことらしい。

 

(驚いていたとはいえ昨日の対応は不味かったわね、どうにかして誤魔化さないと……あぁそれと昨日のお皿洗わなきゃ……)

 

 どんなふうに誤魔化すか考えながらリビングまで行くと、もうすでにハントが起きていた。

 

「おはようございます、アイラさん」

 

「お、おはよう……ってもしかしてお皿洗ってたの? 私がやるって昨日言ったじゃない」

 

「大丈夫ですよこれぐらい。それに、考え事をしてたらあんまり眠れなくて。今朝も早く目が覚めちゃって暇だったので」

 

「それならいいけど……」

 

(……何、この違和感? 雰囲気がいつもと違う?)

 

「それより少しいいですか? その、考えていたことでアイラさんと少し話がしたくて……」

 

「話?」

 

 ハントがこちらを見る。

 ハントは話をするときは人の顔をちゃんと見る。家を出るときの挨拶も、帰ってきたときの挨拶も、その日の予定を伝えるときも、料理の感想を伝えるときも、基本的に話をするときはハントは顔を見て話す。

 今もそうだ。いつものように話を切り出し、いつものようにどこか少し緊張したような声で話し、いつものようにこちらを見つめている。

 

 だが何かが違う。話し方も、話している時の姿勢も、声色だっていつもと同じだ。だが何かが違う。一体何が違うのかわからないが、何かいつもとは違う雰囲気を纏っている。

 

 

「はい、アイラさんと……いえ、

 

 

 ハントが私の目を見る。不自然なほどまっすぐに私の目を見つめてくる。

 そうだ目だ、目が違うんだ。だがなんだこの目は? 今までこんな目をしたハントは見たことがない。だがこの目は最近どこかで見覚えが…………

 ヒンメルだ、ヒンメルが私に剣を振ったときも似たような目をしていた。

 

 それだけじゃない。今まで私が服従させ、首を落とさせた戦士達も同じような目をしていた。

 

 そうだ、これは決意の目だ。何か大きな決意を持った人間のする目だ。

 だがなぜハントがこの目をしている?

 さっき言っていた考え事と関係が?

 となるとそれは私に関係することか?

 満足に眠れなくなるようなことで、私に関係があり、私に直接話すこと…………まさか!?

 

 

 ()()()()()と、お話がしたくて」

 

 

それ以上話を続けるつもりなら気をつけなさい!! 武器なんかなくてもあなたを殺すぐらい造作もないことなのよ! 死にたくないのなら冷静に言葉を選ぶことね!

 

 

 魔族は魔法の研究に自らの生を捧げるが、それは決してそれ以外ができないというわけではない。

 そもそもの肉体が人間に比べて強靭なものになっているため、人間一人を殺すことなんて素手でも出来る。

 ましてや喉元に突きつけた爪でその喉を切り裂くなんて朝飯前だ。

 

「………………すぐには、殺さないんですね」

 

「なんで分かったのか聞いてからでも遅くはないでしょう? ……いつ気づいたの?」

 

「……確信を持ったのは昨日ですけど、怪しんでいたのは最初からです。夜の森に一人でいた人を疑うななんて無理のある話ですし、次の日に街で七崩賢の断頭台のアウラが勇者一行によって撃退された、なんて話を聞いたら否が応でも疑います。それに、その……今は大丈夫ですけど初めて会ったときは、その……個性的な格好をしていらしたので……」

 

私さっき気をつけて発言しろって言わなかったかしら?

 

「すみません……」

 

「はあ……まあいいわ、今の話が本当のことならつまりあなたは、私が人間に化けた魔族で、それも魔王軍七崩賢の一人の断頭台のアウラかもしれないと知っていながら、この数年間私と一緒に暮らしていたということ?」

 

「……そうなりますね」

 

「正気とは思えないわね、それとも何? ここまで黙っていたんだからお願いを聞いてほしいなんて言うつもりなのかしら?」

 

「お願いですか……そうですね、あるにはありますが……」

 

「そう、なら言うだけ言ってみたら良いんじゃないかしら? 」

 

「……いいんですか?」

 

「好きにしたらいいんじゃないかしら、まあ死ぬ前に後悔は減らしておいた方がいいとは思うけど」

 

「そうですか……じゃあ、これを」

 

 そう言ってハントは手のひらぐらいの大きさの箱を差し出した。

 受け取り箱を開けてみると、意外なものが入っていた。

 

「何これ、指輪? これをあげるから殺さないでほしいってこと?」

 

「いえ、そうではなくて……

 

アウラさん、俺と結婚してくれませんか

 

 

「……………………………………………は? な、何を言っているのあなたは?」

 

「えっと、魔族のそういう事情はよく知らないんですけど、こっちではプロポーズをするときに指輪を相手に渡すのが通例で……」

 

「そんなことを聞いてるんじゃないのよ!! ていうかそれくらいのことは知ってるわよ!! 指輪を渡した理由じゃなくて私に結婚を申し込んだ理由を聞いているの!!」

 

「理由、ですか……最初は一目惚れだったんですけど一緒に暮らしてる内にその、もっと一緒にいたいと思うようになったというか……」

 

「魔族がどういう生き物か知っているでしょう!? あなたが一目惚れしたというこの顔はあなた達人間を欺くために出来ているものなのよ!? 言葉だってそう! 私達魔族のあなた達人間への言動は全てあなた達を欺くためのもの! 全部偽りのものなのよ!?」

 

「きっかけは外見かもしれないですけど、今はそれだけが理由じゃありません」

 

「私はただの魔族じゃないの、魔王軍幹部七崩賢の断頭台のアウラなのよ?」

 

「知っています」

 

「何人もの人間を殺してきているのよ?」

 

「分かっています」

 

「あなたよりもずっと長く生きているのよ?」

 

「かまいません」

 

 正気とは思えない、自分の同胞を数えきれないほど殺した相手を匿うどころか、求婚までするなんてどうかしているとしか思えない。

 一体どんな人生を送ってきたらこんなことを考えるようになるというの?

 

「……前に、アウラさんがこちらに来たばかりの頃に何故この家に住んでいるのか聞かれたことがありましたね。あのときに話したことが嘘だった訳ではありませんが、理由はもう一つあるんです」

 

「理由?」

 

「昔に魔族に襲われたことがあるという話をしましたよね。住んでいたところが一瞬で火の海にされて、衛兵の人達が向かっていっても、ものともしない圧倒的な力を見せつけられました。そのときからあの力に憧れるようになったんです」

 

「ちょっと待ってちょうだい……あなた確か、そのときに父親が殺されたって言ってなかったかしら……?」

 

「そうですね、俺を先に逃したことで父は逃げ遅れて死にました」

 

「住んでいた所を焼いた、父親を殺した、あなたはそんな相手に憧れたというの?」

 

「…………俺は、どこかおかしいんです。俺を産んで母が死んだという話を聞いたときも、家が焼かれたときも、父が死んだときも、悲しいとは思いましたがそれ以上のことは感じなかったんです。悲しいことだけど運が悪かったのだから仕方ない、そんなふうに感じてしまうんです」

 

「それでこんな人里離れたところに住んでいるってわけ?」

 

「はい、最初の頃はやっぱり街の方に住もうかなとも思っていたんですけど、街の人たちと話をするにつれて、やっぱりどこか俺はズレていて、普通じゃないんだと感じることが増えていって、それで怖くなってそのままここに住むことにしたんです」

 

 なるほど、まあなんとなく言いたいことはわかった気がする。

 長く生きてきた中で色々な人間を見てきたつもりだ、こういう考え方をする奴が一人ぐらいはいるかもしれない。いや十分おかしいとは思うが。

 

「すみませんいきなりこんなことを言って。俺のことは殺してくれて構いませんしこの家はそのまま使ってもらって大丈夫です。元々長く生きるつもりはありませんでしたから。アウラさんと過ごした時間はすごく楽しかったです。死ぬ前のいい思い出になりました、ありがとうございました……」

 

 

 

 

 

「…………この指輪って、確かはめるのは左手の薬指で良かったかしら?」

 

「………………え?」

 

「どうしたの? 指輪をつけるのはどこか聞いているんだけど?」

 

「え、あ、はい、そこであってます…………俺のこと殺さないんですか?」

 

「なに? 死にたいの? それなら別にいいけど、あなた生きてたとしても私のこと誰かにいうつもりないでしょ?」

 

「えっと、まあそうですね……」

 

「なら殺す必要ないじゃない。私のことを言いふらさずに匿って、街から情報を入手してくれる、こんな都合のいい隠れ蓑捨てる訳ないでしょ?」

 

「えっと…………それはつまり、俺と結婚してくれる……ってことでいいんですか?」

 

「だからそう言ってるじゃない、何度も同じことを言わせないで……ってなんで泣いてるのよ……」

 

「す、すみません嬉しくて……まさか本当にしてもらえるなんて思ってなくて……」

 

「自分から言っておいて泣いてるんじゃないわよ……まあいいわ、これからもよろしくね、ハントさん? あ、それともあなたって呼んだ方がいいかしら?」

 

「え!? いやそれは……! その……! 勘弁してください……」

 

「あら、前はしつこく呼び捨てで呼ばせようとしてきたじゃない」

 

「あれは! あのときは酔っていたからで……

 

 

 魔族と人間、本来は相容れぬ二つの種族。

 だが互いに言葉を話し、それを互いが理解出来るというのなら、どこか歪ながらも関係が結ばれることがあるのかもしれない。

 たとえそれが嘘だらけのものだとしても。

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