ハントの返事を待たずに部屋へと戻り中へ入ると同時にベッドに倒れ込む。
(なんなのよあの態度……私と結婚したっていう自覚が足りないんじゃないかしら……確かに私たち魔族にとっては結婚なんてくだらないことだし、家族なんてものもないけど、だからといってそんな何も考えず軽く決めるなんてことしないわよ……)
一週間前のことを思い出す。
ハントの帰りが遅くなったこと、魔王様が討たれたと知らされたこと、翌朝私が断頭台のアウラであると知られたこと、ハントに告白をされたこと、そして私がそれに返事をしたこと。
(返事はその場で返したけど別にあれだってしっかりと考えた上での返事だし、私だってちゃんと………ちゃん、と……?)
思考が一瞬止まる。
いったい私は今何を言おうとしたのだろうか?
結婚はした方が都合がいいと判断したからしたことだ。
私のことを言いふらすようなことはせず匿い、街から様々な情報を仕入れてくる、隠れ蓑としてこれ以上ないと思った。
だから結婚をした。それが理由だ。それが理由なのは間違い無いのにこの違和感はいったい……
(……まあいいわ! そんなことよりもあいつに七崩賢の一人であるこの私の夫であるということを自覚させなくちゃ……でもどうやって? いや、確か人間は結婚をするときに何か儀式のようなものをするって聞いた記憶が……たしか結婚式、だったかしら)
以前人間の結婚について聞いた時のことを思い出す。
結婚とは互いを想い合った人間同士がするものだということ、結婚の提案をするときは指輪を渡すこと、そして結婚式をすること。
(でもあれってたしか女神に誓いを立てるとかそんなやつでしょ? そんなことするわけがないし、なら女神じゃなくて魔王様にするとか? いやでももう死んでるし、というかそもそも結婚式って何を……って私は何を考えてるのかしら)
思考と止めベッドから起き上がる。
こんなこと考えるだけ無駄だ、多少仲が悪くなったところであいつは私のことを周りに言いふらしたりはしない、なら無理に解決しようとする必要もないだろう。
そう自分に言い聞かせて魔法の研究に取り掛かる。
◇
「んっ……はぁ、だめね、ってもうこんな時間」
長時間同じ姿勢で固まっていた身体を伸ばすと、窓からもうすでに沈みかけている夕日が見えた。
どうやら昼食のことを忘れるほど没頭していたらしい。
その割に進捗は芳しくないが。
「夕飯、どうしようかしら」
魔族の身体は丈夫で、一日食事を抜いたところで特に悪影響はない。
だがここに来てからは、しっかりと一日三食を取り、夜に寝て朝に起きるという規則正しい生活を続けていたため、それが身に染み付いてしまっている。
身体自体に影響が無いとはいえ、習慣付いたものを無視するというのは集中力の低下などの影響が出る。おそらく研究があまり進まなかったもの昼食を抜いたことが原因だろう。
そのため夕食も抜くというのはあまりしたく無い。
だがそうするとあいつと顔を合わせることになる。
食事を摂るところがリビングである以上あいつと顔を合わせるのは避けられない。
食事だけ取りに行きこちらの部屋で食べるか?
いや、取りに行く段階で顔を合わせることになる。
それならあいつに食事をこっちまで持って来させるか?
それだとあいつに頼むときに顔を合わせる。
だったらあいつが寝てリビングからいなくなってから食べに行くか?
どれもなしだ。
そもそも、どれもこれもハントと顔を合わせないようにしてばっかりで、これではまるで私がハントのことを避けてるようでは無いか。
魔族である私が人間のあいつを避けるだって? ありえない。
そもそも多少関係が悪化したところで大きな問題にはならないと最初に言ったじゃないか。
それなら別にハントを顔を合わせて夕食を食べることになんら問題はない。
「……まあ、でもまだ少し早いかしらね」
暗くなってきているとはいえ外はまだ明るいのだから夕飯にはまだ少し早いだろうと結論付けたときだった。
「アウラさん、起きてますか?」
ドアを叩く音とともにハントの呼ぶ声が聞こえた。