ネタバレを漏れ聞く限り(悪魔くんとか)、これがゲ謎においての水木とキタ父子の別れの落としどころじゃないかな~ってのを形にしときました 鬼太郎を拾ったあとついてきた目玉おやじと3人で生活していた水木だったが……
pixivより転載

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【ゲ謎(幻覚)】定められていた別れ

 確かに、このところ身長が伸びないなとは思っていた。借家だが構わずつけていた柱の傷が、同じようなところについていた。

 体重も増えないなと思っていた。

 けれど幽霊族の子どもなのだから、こういうこともあるのだろう。そう思っていた。

 これは一種の逃避だったかも知れない。

 

「水木殿、話がある」

 それはある夜。帰って来た俺が「今日は肉じゃがだぞ」と言いながら夕食の支度にとりかかっていたときのことだ。目玉が、いつになく真剣な声音で語り掛けて来た。俺も思わず着かけたエプロンを握ったまま振り返る。目玉が乗ったちゃぶ台の傍には鬼太郎も真剣な顔で座っていた。この10年、真剣に育てて来た我が子だ。

 そう、我が子同然の――この存在の機会な目玉と共に育てて来た。

 目玉が言う。

「わしと鬼太郎は、妖怪の森に引っ越そうと思う」

「は?」

 鬼太郎は唇を引き結んでいる。エプロンを片手の俺は思わず呆けた。何を言い出すのだ、この目玉は。しかし目玉は言葉を継ぐ。

「引いては水木殿には挨拶をしておこうと」

「ま――待て!」

 慌ててエプロンを放り出し、ちゃぶ台に取りすがる。

「何の冗談だ、そりゃ確かにお前らは幽霊族だが、鬼太郎はまだ小学校――」

「水木殿、気付かなかったわけがないだろう」

 目玉は、諭すように言う。

「鬼太郎の成長は、ここまでは人間とほとんど一緒だった。しかし、もうこれからは緩やかになる。少なくとも向こう100年は、鬼太郎はこのままの姿だろう。……それがどういうことか、わかるな」

「――」

 愕然とする。俺は、鬼太郎をヒトの社会に馴染ませようとしていた。それは彼がヒトの中で生きていくだろうことを考えてのことだった。しかし、実際には的外れだった。――このことを、この父子はいつ相談していたのだろう。恐らく、俺に悪いと思いながら。

 そして、それは事実だった。

 目玉は頭を下げる。

「恩を仇で返して本当にすまん。じゃが、この子が人間に不審がられないうちに森に引っ越しておきたいんじゃ」

「――学校はどうするんだ。子どもがいきなり失踪したら、警察だって騒ぐぞ」

「それを相談したい」

 目玉は、恐らくごく真剣な顔をしていた。鬼太郎は、ずっと黙っている。親同士の話し合いだとわかっているのだろう。彼は被保護者なのだ。だから、俺は――無駄に回る頭で答えを弾き出した。無意識に胸ポケットの辺りを探る。あぁ、煙草は切れていたんだった――。

「……鬼太郎のことは、学校側に『友人の子』と知らせてる」

「そうか」

「だから、『友人の元に帰ることになったから転校する』ということにすれば、あとは俺がどうにでもする」

「――手間をかける」

「なに」

 俺は目を伏せた。

「これがお前らにしてやれる最後のことだろうからな」

「……すまんの、水木殿」

「あーあ、泣くんじゃねぇよ。泣き虫は治らねぇな」

 目玉から流れてくる透明な体液を見て、俺はポケットに入れっぱなしだったハンカチを取り出すのだった。

 

 ……諸々の準備が済んで。

 宵闇の中、俺は彼らを見送る。

 小さな肩に風呂敷を背負い、頭には目玉の父を載せた鬼太郎を。

 俺はその頭の方に言葉をかける。

「そう言えば、住む場所は決まってるのか」

「とっくに押さえておいたわ。さすがに幼い倅を夜露には晒しとうない」

「それはよかった。……元気でな」

「今生の別れだろうが、水木殿も達者でな」

「あぁ。……鬼太郎も」

 そこで、我が子へと目を向ける。

 鬼太郎は、生まれついての隻眼で俺を見上げた。

「今までお世話になりました」

 その目の色は、相変わらず読めなかったけれども――少しは自分との別れを惜しんでくれているのだろうか、と期待する。けれどそれを内心ですぐに否定する。

 巣立ちは、笑顔がいい。

 俺は、鬼太郎の頭を一撫でした。恐らく、彼の頭を撫でる人はこの先ほとんどいないだろうことを察したからだ。

「元気でやれよ」

 俺は、精いっぱい笑った。鬼太郎は、はにかんだ。

 そして、彼らは闇に消えた。

 

 自宅に戻って来る。

 真っ暗闇の中、電灯を点ける。部屋の中が光に満ちたのに、俺はそれに空虚さを覚える。

(この家、こんなに広かったっけ)

 鬼太郎を育てるために借りた家。だから鬼太郎がいなくなれば広く感じるのも当たり前だろう。そう頭ではわかっていたが、心が拒絶する。

 ――不意に、目につくランドセル。

 あぁ、これは処分しないとな、と思う。「友人の元に帰るために転校した」ことにしたのだから、ランドセルがあっては不審がられる。

 けれど、手は動かず。代わりに、靴を脱いだ俺は、畳に膝を突いた。

 畳に、水滴が落ちる。顔を手で押さえると、目から水が零れているのがわかった。

「ふ、ぅぅっ……!」

 畳に伏せる。そのまま、俺はしばらく動けなかった。ただ、嗚咽が響いた。

 

 俺は独りになった。

 

 

 

 

 


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