真・女神転生オタクくんサマナー 薄明記録あるいはキリギリス回想記   作:ほびー

7 / 8
英雄

 

 

 

 

 

聖華学園生徒 陸八魔アル

 

 あの時はなんかどーんって揺れてびっくりして、ラーメンをこぼしちゃったわ!

 熱かったわ。

 火炎無効でも食べ物が熱いとかはどうしょうもないのよね。

 ついに関東大地震が来たと思って慌てて避難しなきゃって財布と避難グッズとハザードマップもって、学園にまで避難しようと思ったんだけど余震もなくて気の所為かと思ってたわ。

 

 

 

 

聖華学園生徒 ハクジ・セイト

 

 

 いや、なんも感じなかったけどなあ?

 特にテレビも地震速報とかなかったしよ。

 

 

 

 

 ※脚注

 

 羽田空港での神霊級悪魔の出現。

 通称九頭竜事変と呼ばれたこの時だが、この影響を防げたものは多くなかった。

 まず聖華学園のように対策した結界を張られた内部。

 上の二人は学園の内外での差があった証明であり、事実、この九頭竜の出現での地震波は観測されていない。

 

 ただ揺れたように感じた人間が非常に多かっただけだ。

 

 空間自体を揺さぶるような感覚は、閉塞感に包まれていた人々に劇的な衝撃を与えた。

 羽田空港のある首都圏だけではなく、日本国内にも多数、同時期に海外でも幾つもの感受性の高い人間が地震のようなものを知覚し、世界中の芸術家、神秘家などが一時的な発狂を起こした。

 大規模な一斉精神暴走事件であるともニュースになったぐらいの異変であり、情けないことに私自身も当時勤めていた職場で体調を崩してしまった。

 

 立っていられないほどの激しい目眩と頭痛すら感じるような幻視現象。

 自分の立っている場所が崩れ去り、掌が血まみれに、友人たちが動かない死体になって視界のあちこちに転がっているそんな幻覚。

 これを何度も何度も、風景や状況が違うものとして明滅し続けていた。

 正気判定(SANチェック)とも、リアルバタンシンドローム*1

呼ぶこの体験に、情けないことだが初体験だった私は、その時たまたま職場に訪れていたアーノルド・ラスキン氏の手当を受けて正気を取り戻せた。

 危うく自分の喉を割れた陶器の破片で引き裂くところだったらしい。

 ゾッとする話だが、この時の私は非常に幸運なほうで、間に合わずに衝動的な自死を選んでしまったものたちが何人も出てしまっていた。

 日本国内だけでも数千人、表沙汰にならなかったものを含めればもっと数がいるだろう。

 万単位の死者が出ていてもおかしくはない。

 だが、誤解を畏れずに言えばこの犠牲者は極めて最小限に抑えられたといえるだろう。

 もしも九頭竜が半日、いや、数時間でも出現し続けていたら被害はこんなものじゃなかった。

 倍以上、いや、数十倍にきかない犠牲者と社会問題になっていたはずだ。

 あれはとてつもない幸運だったのだ。

 

 そう。

 

 あそこに英雄たちがいたことが、奇跡の始まりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

東京空港警察所属 機動隊金田雄一巡査部長

 

 あの時のことはある程度は憶えている。

 奴が現れた時、みるみる間に同僚たちがぶっ倒れていった。

 正直俺が倒れなかったのは偶然に過ぎねえ。

 周りがみんな倒れていて、俺の頭は全力で逃げろって叫び続けてた。助けるとかそんな事を考えてる余裕なかった。

 だけど手が、足が、顔も動かせなかった。

 

 でかかったんだ。

 

 本当にでかくて、見えるところ全部あいつの体、鱗の一つ一つも見えるぐらいに近くて、いや、遠かった。遠かったはずなんだが、距離がわからねえ、現実がばぐったみてえになって。

 俺はなんか叫んでたのか、いや、声も出せなかったのか。

 わからない、今思い出してもさっぱりなんだ。

 ただそこに誰かが、あー、悪魔ってやつか。ロボみてえな連中がつっこんでいって、特撮映画みたいな光景と、肩をバンって叩かれて、引きずられたんだ。

 空港に配備されてた666部隊の、デモニカスーツってやつらが、怒鳴りながら俺に後ろに走れっていったんだ。

 あいつらはすげえよ。

 空港を守るだけでゴツいスーツと銃器をぶらさげていて、顔も見えやしない。食事するところも別で、あちこち歩き回ってる。

 あの時までは鬱陶しいなと思ってたよ。

 テロだの、そういうのはこの国で起きるわけがない。起きても自分たち警察で取り締まれる、だからあんなのはいらないんじゃないかって。

 まるで戦時下みたいでムカムカしてたね。

 だけど、そいつは自分が平和ボケしてただけだと思い知らされたし、そんなもしかしたらを遥かに超える出来事があって目が覚めたよ。

 もう世界はやべえって、おしまいかもしれないなって。

 あいつらと英雄がいなかったらどうしょうもなかった。

 

 そんな呑気に言えてる今はまだ幸せなんだ。

 

 

 

 

 

 

 

自衛隊666所属隊員 匿名希望

 

 

 九頭竜が現れた時のことだな、憶えている。

 幾つかは機密に……世界が滅んだあとに機密もなにもないだろうが、無事に戻ったあとに秘密保持義務違反で退職金もすっ飛ばされるのは溜まったもんじゃないから勘弁してくれ。

 笑わないでくれ。いや、これは笑い事か?

 ともかくだ。

 機密漏洩になることは省いて説明するが了承してくれ。わからないことは世界が滅んだあとにでも再インタビューか、適当にデモニカのマニュアルでも入手してくれ。

 

 あれが出現した瞬間、未覚醒と覚醒者の区別なく大量の人間が心神喪失状態で行動不可能になった。

 

 自分たちデモニカスーツ*2を着用しているメンバーはメタボリズム・チェッカー*3にて即座に精神・神経系にダメージが入ったのを確認出来た。

 心臓が止まったなら電気ショック*4での再起動、自動投入された鎮静剤による神経系作用による活性化。

 メ・パトラを使える悪魔も何名か備えていたが、その悪魔の殆どが奴の出現と同時に失神、召喚を拒否した*5ため、その存在を超越級と認定、対精神神経戦闘(ミーム汚染)へのマニュアル通りに映像補正をかけてモザイク変換した。

 

 ――モザイク変換というのは?

 

 シュバルツバースで集積された戦闘データから構築された対悪魔戦闘マニュアルの一つだ。

 そこでは悪魔の情報を解析、理解しなければ悪魔の正体もわからず、強さも不明のまま戦うことになった。

 それが原因で初期段階で大量の死亡者が出たという。

 

 それを逆算し、目の前の悪魔の解析データはそのままに、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。一種のAR表示だ、随分な可愛らしい3Dドラゴンに見えてくれたよ。

 

 ――それは敵の強さもわからないまま戦うことで危険という意見も考えられますが。

 

 当然その質問もあった。

 だが考えて欲しい、いきなり目の前にレベル100オーバーの絶対勝てないと言われる悪魔が出てきたら戦うか? 無理だな、回避しようとする。

 戦うというのは勝算をデータ以上に心が納得しないと選べない選択肢だ。

 だが人間はそんなに強いやつばかりじゃない。

 絶対勝てないだろう相手に銃弾をぶちこみ、剣を振り上げて、立ち向かえと叫べるものばかりじゃない。

 だからこそ感じないようにデフォルメにする処置が心を守るためにいるんだ。

 ついでに悪魔は見えていなければ戦えないというオカルティズムもあるが、それは正しくない。

 シュバルツバースでの戦闘データにおいて、未確認の姿も形もわからない悪魔でも、戦闘後に再チェックした場合()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 わかるものはわかったほうがいいが、わからないものはわからないままでも動かし、戦い、殺すことは出来る。

 プレデターと同じだ。

 姿は見えないがそこにいるし、血が出れば殺せる。そして、自分たちは全員アラン・ダッチ・シェイファー少佐というわけだ。

 

 ――それで貴方たちはどのように戦ったのですか?

 

 あの九頭竜の奴はばかでかかったが、最初に狂乱して発砲した奴の銃弾は反射も、吸収も、ついでに停止させられることもなかったのが感知できた。

 最大火力である銃撃の連射をメインに、警官たちを叩いて、怒鳴りつけて、残りの連中をひきずらせたよ。

 外的ショックを与えないと死ぬまで立ってただろうからな、目的を与えないと多くが死んだのは間違いない。 

 

 参ったのはあのでかぶつが削るよりも早く巨大に膨れ上がっていったこと。

 シン・ゴジラみたいに、あー、今ならマイゴジといったほうが伝わりやすいか?

 まさにそんな感じで成長していった。タケノコの早回し映像のように大きく膨れ上がっていってな。

 そこからさらにあの<山津波>の連打だ。

 文字通り津波だ。

 空港を吹き飛ばして、滑走路ごと巻き上げるような土砂が、津波のように襲いかかってきた。

 万能相性の物理、それに俺たちは死にものぐるいで対処した。

 最初に惑わしの魔法*6かけた奴がいたんだろうな、おかげで気休め程度にマシになった。

 だがそれも気休めだ。

 怪獣に蹴飛ばされたように吹っ飛んだ戦友が、デモニカスーツごとおしゃかになり、死体が巻き上げられた土砂に潰れて死んだ。

 打ち込み続ける弾丸は膨張していく巨体に対してあまりにも水鉄砲だった。

 俺たちが打ち続けられたのはその場で前に出続けたデビルバスターたちがいたからだった。

 装備も外見もバラバラの、民間のバスターだったんだろうな。

 それが魔法を、悪魔を叩きつけて誘導、その場で動けた連中が誰も彼もなんとかしないといけないという気持ちで殴りつけていた。

 

 その中でもっとも前に出て、アイツを倒したのがあの英雄だった。

 

 ――英雄とは?

 

 鳴神悠。

 日本最強のペルソナ使い。

 あの当時は名前も顔も知らなかったが、彼がその場に現れて、九頭竜の頭の一本を殴りとばした。

 まるでコミックスのキャラクターのような光景だった。

 彼は誰よりも前に出て、繰り出される津波の嵐をものともせずに、躱し続けて、ペルソナと共にその攻撃を跳ね返していった。

 実際に目にしなければ信じられない光景だろうな。

 人間が、あの巨大な龍に挑んで撃ち倒す光景は。

 

 彼は跳び回り、俺たちから目線を逸らさせるように動いていた。

 

 九頭竜は躍起になって山津波を繰り返し続けていた。

 

 そうしているうちに奴も力を使いすぎたんだろうな、どんどん弱っていった。

 血反吐を吐いて、振るう首が一つ一つ切り裂かれ、俺たちの弾丸がやつの血肉を抉り、銀髪の魔法使いが繰り出した雷がその臓器を吹き飛ばした。

 間欠泉のように噴き出していた奴の背中から一際激しく血が噴いた。

 誰かが最初に奴の逆鱗を貫いた。

 俺たちはそれが致命傷になるまで削り続けていた。

 そういう風に聞いている。

 しかし、なあ。

 

(そうまでいって、彼は顎に手を当てて苦笑したように)

 

 英雄はたしかにいたが、なんていうか今思い出しても、いや、憧れてはいるんだが、不思議なもんだ。

 自分たちは頑張った、めっちゃ頑張った、苦労したなという記憶があっても。

 いつの間にか終わってたという気持ちがないんだ。

 

 俺たちでもなんとか排除できた、大変だったが、通じた。

 

 そんな気持ちで思い出せるんだ。

 

 

*1

 昭和仮面ライダーシリーズのコミカライズ、仮面ライダーSPIRITSに出てくる病名のこと。

 敵ボスJUDOが見せた竜のビジョンによって発生した精神的ショック状態であり、作品の中では日本人の七割が罹患、精神的なストレスの不調に伴い五感が狂いだし、精神的な自死を望みだす。

 これはフィクションのものだが、極めて状況として似ている描写であり、これも周回による無意識の警告の一つなのだろうか?

*2

 DEMOuntable Next Integrated Capability Armor(着脱拡張型次期能力総合兵装) 通称デモニカ

 日米合同で開発された次世代戦闘装備であり、2015年のシュバルツバース探索などに公式投入された。

 その時に使われたデータフィードバックされたマイナーチェンジが今対悪魔部隊などに正式採用されている。

 シュバルツバース内部における異常な戦闘力の悪魔、魔神や魔王、魔人すらも出没した環境においても9割以上が未覚醒者の隊員環境だったというにも関わらず生還したことからその性能の有効性は実証済みだが、その開発費だけで数10億ドル以上、世界の存亡をかけた国家事業故に許された開発費であり、現在はかなり簡略化と本来の用途である着用者に合わせて適応進化する特性を抑えたもの廉価型が民間PMCにも採用されている。

 いわゆるG3マイルドだな。

*3
戦術支援システムの一環として、装備者の体調を分析、警告を発するシステム。

対応センサーを装着しておけば付近の仲間の体調もチェック出来る。MAGなどの事前登録がいるため友好的な相手にしか使えない

*4
優れた魔術師、悪魔によるスキルであれば即死なども防げる除細動効果がある

*5
それに堪えて召喚され、回復に貢献した悪魔も少なからず存在した。精鋭である

*6
出現直後にスクンダを初めとした弱体化魔法にて被害を軽減したものが確認されている





 そんなのだから自慢は出来ても、美談というには難しいし。
 その次の戦いも自分たちは挑めたのだと思っている。
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